恐竜と天空の城

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1.福井県勝山市の恐竜博物館

(1)新型コロナウイルス禍の恐竜博物館

 入院した母を見舞いに北陸までやって来たが、急性期を過ぎてリハビリのために転院してからは面会禁止である。ここに居ても意味がないし、さりとてこのまま帰京するのも芸がないので、この際、近くを観光してくることにした。今年の2月中旬以来、新型コロナウイルスが猖獗を極めていたことから、全く旅行する気が起こらなかった。その点、今回は母の顔を見るためせっかく北陸まで来ていることから、少しくらいならまあ良いだろう。前回、福井県を訪ねたときは、永平寺と東尋坊への旅をしたので、今度は、永平寺の先の勝山市にある福井県立恐竜博物館と、更にその先の大野市の越前大野城を訪ねることにした。新型コロナウイルス禍だから、観光客はこんな所まで、まず来ないだろう。


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 最初に、福井県勝山市にある福井県立恐竜博物館に向かった。特急しらさぎで福井駅に着き、そこから「えちぜん鉄道」に乗る。よくこんなローカル鉄道が残っているものだと感心するほどだ。かつては木材と人絹織物を運んでいたトロッコ列車だったようだ。山間部を縫うように進んで、周囲の田園や山々という単調な風景にいささか飽きた頃、ようやく勝山駅に到着した。

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 何の変哲もない田舎の小さな駅だと思ったら、駅前のロータリーの芝生に親子の恐竜がいた。背景に日本家屋などがあるのは妙な気がしないでもないが、結構リアルな造型で、それを眺めているうちに、だんだん恐竜の里に来たという実感がしてきたから不思議である。そこからマイクロバスで川を越えて12分ほど乗ると、いよいよ博物館だ。遠くから銀色に光った卵状の半球ドームが見える。あれらしい。その直前の田圃の端に、大きなティラノサウルスの像がある。ただし、白いから妙な感じだ。これから、色を塗るのだろうか。

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 恐竜博物館に到着した。新型コロナウイルスのためか、入場に整理券を必要とするようになっていたが、この日は平日だったこともあって、ガラガラもいいところ。入口で入場料を払おうとしたところ、大人730円で、小中学生ですら260円だというのに、70歳以上は無料とのこと。わざわざ東京から来ているからというわけでもないが、これは有難い。遠路はるばるやって来た甲斐があったというものだ。もっとも、後述するように、ミュージアム・ショップで6710円も支払ったから、まあ借りは返したと思う。

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(2)動いて吠えるティラノサウルスは大迫力


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 ところで、この博物館の総工費は140億円、今年で20周年だそうだ。2018年の来場者は約93万人で、福井県の人口が約76万人だから、それ以上の人がやってきたことになる。まず、地上3階に当たる入口から長い長いエスカレーターにずーっと乗って、地下1階へ降りていくところから始まる。

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 降りたところにあるのは、ティラノサウルスのロボットだ。これは実に迫力があった。ウォー、ガオーとライオンのような遠吠えをしたかと思うと、頭や尻尾をそれらしく動かす。ロボットとはいえ、こんなものが時速60kmで襲ってきたら、人間など、ひとたまりもないと想像するだに恐ろしい。ちなみにこのロボット制作費は、2000万円という。案外、安いものだ。

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 この博物館には、44体の恐竜骨格の化石があり、そのうちカマラサウルス、アロサウルス、エドモントサウルス・アネクテンスなど10体が実物とのこと。例えばカマラサウルスは、1億5000万年前のジュラ紀後期に生息した草食竜である。この全長18mの全身骨格は、2億5000万円でアメリカの業者から購入したそうだ。また、日本で見つかっている恐竜の骨格8種のうち、1989年以降、福井県でフクイラプトル・キタダニエンシスなど5種で見つかっている。まさにこの建物にほど近い勝山市北谷の手取層群(てとりそうぐん)は、富山県、石川県、福井県、岐阜県にまたがる中生代ジュラ紀中期から白亜紀前期にかけての地層であり、恐竜や植物等の化石が多く発掘されることで有名である。


(3)恐竜の全身骨格の展示方法が変わる

 ところで、恐竜の全身骨格の展示方法は、最近の研究の成果で、昔とはかなり異なっている。例えば、上野の国立科学博物館のアロサウルス(1億5000万年前のジュラ紀後期に生息)は、かつて長い尻尾を引き摺る形で展示されていた。昔のゴジラのようなスタイルだ。ところが今では、重たい頭とバランスをとるために尻尾を地面とほぼ平行に展示するようになった。さらにティラノサウルス(6600万年前の白亜紀後期に北アメリカに生息)も、最近は鳩のように屈んだ形で展示されることがある。これは、コンピュータによる骨格の解析により、両脚と巨大な恥骨の3点で身体を支えることで、安定して座ることができたことがわかったからだという。例えば、獲物を待ち伏せたり、寝る時などは、この姿勢だったらしい。


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 ということで、色々と見物して、感心して出てきた。中には、私が興味を持っていた翼竜の化石が展示してあった。それは良いのだけれども、このなんの取り柄もない化石だけでは全然迫力がない。翼竜のロボットを作って、地上3階から吊るして飛ばしてみたらどうかと思う。南米大陸のコンドルのように優雅に飛んで、時々、翼を畳んで巣に戻り、そこには子供の翼竜が数羽待っているというのは、どうだろう。

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(4)栄螺の壷焼き

 その日は、勝山市内のホテルに泊まって、翌朝、タクシーで大野市に行くつもりだった。ところが、ホテルズ・ドットコムで予約しようとしたら、そのホテルはもう満室になっていた。この時期に満室になるなんて、一体どういうことだろう。不思議だ。まあ、それはともかく、勝山市からいったん福井駅に戻らなければならない。これは、駅前のホテルを直ぐに予約できた。

 午後6時過ぎにチェックインし、お腹が空いたのでその辺で食事することにした。カメラを持って出ると、まあこの福井駅前にも恐竜がいる。駅舎にトリケラトプスやティラノサウルスの絵が描いてあるが、それがとっても真に迫っている。また、駅前広場には、動いて吠えるカマラサウルスなどがいる。面白いと思う。

 せっかくだから海鮮料理が食べたくなり、居酒屋に入った。こんな時間だから、お客さんはほとんどいない。メニューを眺めて、いちおう「高級」と名打った海鮮丼と、それに栄螺(サザエ)を注文した。私がまだ小学生だった頃、一家でよく、三国や東尋坊の辺りの海岸線沿いにドライブし、冬はゆでたての越前蟹、夏は栄螺の壷焼きを食べたものだ。その時の美味しかった記憶があるから、メニューを見たとたん、栄螺を食べたくなったというわけだ。


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 目の前のコンロに栄螺を乗せて、自分で焼くそうだ。説明書きによると、(1) まず、栄螺のトンガリ帽子を上に、口を下に向けて、7分ほど焼く。(2) 濡れている表面が乾いてきたら、トングでひっくり返し、栄螺の口の蓋辺りに浜醤油を垂らす。(3) そのまま数分焼いて皿の上に持って来て、(4) 大きな爪楊枝様のもので蓋を外し、ぐるっと回しながら中身を引き出して食する、とある。その通りにやろうとしたら、そもそも蓋が外れない。とうとう、爪楊枝の先が折れてしまった。我ながら不器用極まりない。結局のところ、店員さんにやってもらった。身を口に入れる。すると、醤油の味が香ばしくて、美味しい。そうそう、まさにこの味だと、懐かしくなった。


2.大野市の佇まいと天空の城

(1)七間通りは江戸の雰囲気


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 翌朝、今度はJR越美北線の九頭龍湖行きに乗って、大野市に向かった。昔懐かしいディーゼル気動車だ。トイレがあるとは知らなかった。1時間に1本、1日に9本しかないので、乗り遅れると大変だ。2両あるが、後ろの車両は越前大野駅止まりで、そこで先頭車両を切り離して、九頭龍湖駅まで行くようだ。途中、朝倉氏遺跡が発掘された一乗谷を通り、山間部を駆け抜け、越前大野駅に着いた。勝山駅よりは大きい。でも、ガラガラと引っ張ってきていた小型スーツケースを預けようとすると、駅員が「ここにはロッカーがないので、あちらのバス待合所に行ってください」と言う。どうやら、公共交通機関で観光に来るのは、少数派らしい。「ロッカーが小さいと困るなぁ」と思いつつ行ってみたところ、案に相違して大型のスーツケースも入る大きさだった。


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 そこを出て、iPhoneのGoogleマップを見ながら、七間通りを目指す。朝市が開かれるという目抜き通りだ。左手に日吉神社がある。とても古い社だが、まずは中心部を目指そう。この通りは、六間通りというそうだ。かつて大火があり、その際、防火のために拡張された通りだという。龍光寺のところで右に曲がり、美登里旅館を過ぎると、目指す七間通りだ。そこに、弥生旅館という、黒い格子に囲まれた、ちょっと江戸の雰囲気のある建物があった。

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 左に曲がり、七間通りを歩き出すと、両脇の建物が、それと同じようなデザインだ。なるほど、統一した街並みにしたらしい。後ろから、ガタゴトと音を立てて車がくる。うるさいなと思って振り返ると、道路が花崗岩のブロックで、そこを車が通過するものだから、こんな音を立ててしまうらしい。ここまで江戸の雰囲気を残したいのなら、車の通行を制限すべきだろう。おやおや、この地方の有力銀行の北陸銀行も、いつもの赤と白の大きな看板が控え目となり、黒い格子に囲まれた江戸時代の大店(おおだな)のような建物になっていて、笑えてくる。その向かいの南部酒造は、スズメバチの丸い巣が掲げてあったりして、いかにも老舗という雰囲気だ。しっかり、卯建もある。

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 いただいたパンフレットによると、七間通りは、「400年以上も続く大野の名物『七間朝市』が開催される通り。江戸時代、越前と美濃を結ぶ『美濃街道』に当たり、多くの店が軒を連ねていました。現在も往時を偲ばせる老舗が立ち並ばます」とのこと。かつては、毎日、市が立っていたが、今では土日だけだという。

(2)自称「北陸の小京都」の十割蕎麦

 「越前おおの」は、「北陸の小京都」と言われるほど、歴史的な風情があるというのが地元の「自称」であるが、その後、一周した感じでは、それはちょっと褒め過ぎかもしれない。しかし、後述する幕末の藩政立て直しなど、小藩とはいえなかなかのものだと思う。人間、絶体絶命かと思いきや、知恵と工夫で何とでもなるという見本のようなものだ。それがこの山奥の小藩が成し遂げたというところが面白い。

 七間通りの右手に十割蕎麦屋があったので、開店直後に入ってみた。胡桃とおろしで2玉を食べるコースを選んだが、美味しい。どんどん食べられる。途中でもう1玉を頼んで、おろしで食べた。これが福井県の山間部の越前蕎麦の特徴で、たっぷりの大根おろしに薄く醤油を掛けたものに葱の輪切りと鰹節を用意して、蕎麦に一緒に掛けて食べるというものだ。素朴で実に美味だ。


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 その斜め向かいの店、朝日屋菓子舗に、名産「けんけら」という幟が立っていたので、何かと思って入ったら、大豆と水飴で捻ったように作ったお菓子で、きな粉で香ばしく味が付いている。確か、子供の頃に食べたことがある。懐かしくなって、少し買い求めた。色々な菓子類が氾濫している現代では、まず省みられない絶滅危惧種のお菓子の類だろう。

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 市内各所に、お清水(おしょうず)がある。清潔に管理されていて、そのまま飲めるそうだ。大野市は周囲を1000m級の山々に囲まれているので、その伏流水だという。まさに天然の恵みだ。

 なお、天正元年(1573)に、織田信長に負けてこの地に逃れてきた朝倉義景は、従兄弟の朝倉景鏡のすすめでこの地大野に逃れたが、その景鏡の裏切りにより義景はここで果てたという。その墓所があったが、いささか疲れたので、行くのは止めた。


(3)天空の城 越前大野城


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 東西に走る南北通りは、南北に走る本町通りに突き当たって終わる。そこで左に曲がって更に右折すると、「越前大野結ステーション」なる特産品販売所・レストラン・無料休憩所・駐車場がある。なるほど、ここが観光の拠点らしいが、新型コロナウイルス禍で、人がほとんどいない。駐車場には、木製灯篭があり、ちょっとそれらしき雰囲気を醸し出している。おお、そこから亀山(249m)の上にそびえる「越前大野城」が見えるではないか。惜しむらくは、思いのほか小さい上に、城の周りの木々が茂って全体が見えないことから、ますます小さく見えることだ。

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 写真家の間では、「天空の城 越前大野城」として有名である。ほど近い戌山(324m)に早朝登ると、10月から4月にかけて、市街地を覆う雲海の上にちょこんとその天守閣と天狗櫓が顔を出しているのが見え、その写真を撮ると、まさに「天空の城」になっているというのだ。ただ、自然現象なので、なかなか見られないそうだ。私はそこまで熱心でも暇でもないので、聞きおくだけだけれども、HPがあるので、それを見ていただきたい。それにしても、最初にこれを撮って紹介した写真家は、大したものだ。もっとも、途中はかなりの山道で、時として熊も出ると言うから、命懸けだ。

 越前大野城は、天正3年(1575)に織田信長の小姓衆・赤母衣衆であった金森長近により築城された。しかし安永4年(1775)の大火で焼失してしまった。寛政7年(1795)に再建されたものの、明治になって廃藩後、取り壊された。その後、旧士族の寄付によって、昭和43年(1968)に天守閣と天狗櫓が鉄筋コンクリート造りで復興された。いま我々は、それを見ている。


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 では、お城を間近に見るためにちょっと登ってみようと、亀山北登り口から歩き始めた。緑いっぱいの苔むした道を上がっていく。途中で小公園があり、子供の遊具があったりするが、誰がこんな所に子供を連れて遊びに来るのだろうと思う。この道では、それこそ熊が出でもおかしくない。よいしょ、コラしょと登り、初代城主「金森長親」の像のところに出た。なかなか威厳のある顔をしている。

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 そこを抜けて更に行くと、やっと越前大野城が目の前に現れた。あまりに近すぎて、なかなか全体像を撮りきれない。広角レンズを持ってくればよかった。やっと、左右の木々の間から、何とか全体像が撮れた。新型コロナウイルスの影響を受けたのだろうか、残念ながら城は閉まっていて、「越前大野城御朱印」を買い損ねた。

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 城の周囲を見渡そうとしたが、木々が育ち過ぎてあまり良く見えない。木立の間から何とか市街地がある東の方を見ると、美しい碁盤の目のように家々が並んでいる。次に西の方を見ると、田圃が山の際まで迫っていて、爽やかな風景だ。


(4)幕末の大野藩主「土井利忠」


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 文化8年(1811)、江戸に生まれ、わずか8歳で土井家7代目藩主となった土井利忠の像があった。そこにあった四阿の「幕末の大野藩の偉業」と題する顕彰の言葉を引用したい。

 「土井利忠は、文政元年、わずか8歳で大野藩主となった。当時の藩財政は苦しく、洪水、火事凶作など度重なる災害によって多額の借金をかかえていた。そこで、利忠による藩政改革は、天保13年(1842)、『更始の令』とあうかつてないほどの倹約令ではじめられ、まず、藩財政の建て直しと、有能な人材の登用及び養成を柱にしてすすめられた。


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 天保14年、藩校『明倫館』を開設し、内山隆佐ほか数人を世話役に抜擢した。藩の収入の百分の四を学費にあて、武士の子弟のみならず、庶民の子供たちも入学できるようにした。教科書には、朱子学を学ばせるため、四書五経が使われた。その他、武術、砲術などの訓練も含められていた。

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 また、藩が力を入れたものに蘭学の研究がある。安政3年(1856)には、藩校『洋学館』を開設し、緒方洪庵の適塾の塾頭伊藤愼蔵を教師に招いた。洋学の翻訳や出版された書物は多数にのぼり、さらに教えを受ける者は全国各地から集まった。

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 藩の財政を少しでもゆとりあるものにするため、内山七郎右衛門(良休)は、大野の産物を大阪やその他の都市へ売り出して利益をあげることを提案した、そこで、安政2年、大阪に『大野屋』を開店した。翌年には、北海道の函館、翌々年には、大野城下一番町に『大野屋本店』、さらに全国各地に店を出した。商品は煙草、生糸、麻、漆などの大野の物産、また面谷鉱山の銅、金銀を売り、藩の財政を助けた。

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 時同じくして安政2年、幕府より諸藩に対して、蝦夷地(北海道及び樺太)開拓を志願するものは申し出るようにというお触れが出された。そこで、幕府に伺いを立て、翌年、内山隆佐、早川弥五左衛門、吉田拙蔵らは、蝦夷地探検へ向かった。探検の結果を幕府に報告し、口蝦夷開拓許可願を申し出たが、許可は得られなかった。安政4年、再び蝦夷地の探検に向かい、奥蝦夷地(樺太)の西海岸での開拓を許され、早川は屯田司令となった。

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 このときに、早川らが最も不便を感じていたのは、藩に船がないことであった。そのため、内山隆佐は、利忠の許可を得て、江戸で長さ18間、幅4間、深さ3間の西洋型2本マストの帆船『大野丸』をつくらせた。そして、幕府の海軍所で操縦術を学んだ吉田拙蔵が船長となり、安政6年以後、敦賀〜函館を航行し、奥蝦夷地開拓に活躍し、奥蝦夷地が大野藩の準領地として幕府に認められるまでになった。

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 この頃、蝦夷地における大野藩の勢力を背景にして、大野屋の商売は先にも述べたように一段とのびていった。このほかに、他藩に先駆けて、福利厚生の面でも優れた治世ぶりで、安政元年に広く一般に種痘をすすめ、安政4年には『済生病院』を開設し、いろいろな治療にあたり、現在に通じる医療書を揃え、研究も怠らなかった。また、利忠は家臣のものに最新の高島流砲術を学ばせ、弘化3年(1846)に、領内で大砲を作らせた、そして、鉄砲も盛んに作られ、江戸にも数十挺が送られ幕府の警護にあてられた。

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 このように大野藩の洋式の軍備がよく整っていたことは広く知れ渡り、慶応4年(1868)には朝廷から函館戦争に参加するよう命じられ出陣するきっかけとなった。

 病を得た利忠は、函館に出兵した大野藩兵の無事を案じつつ、明治元年12月3日、大野に没した。享年58歳。」


(5)武家屋敷

 大野城下には、見学ができる武家屋敷が2軒ある。そのうち、まず幕末の大野藩家老として活躍した内山家の旧宅を訪れた。この二階建ての建物自体は明治15年に建てられたものだが、大野藩時代の武家屋敷の様子をよく遺しているという。

 藩主土井利忠に関する上記(4)に掲げた顕彰文にもあったように、「内山七郎右衛門(良休)とその弟の隆佐は、藩政改革に尽力し、殖産興業や人材育成など各種の事業で成果を上げました。七郎右衛門は特に、藩営商店の『大野屋』を開設、銅山経営など経済面で手腕を発揮し、多額の借財に苦しんでいた藩財政を立て直しました。万延元年(1860)、家老職に就きました。隆佐は蝦夷地開拓の推進、洋式帆船「大野丸」の建造、蘭学の振興、軍備の刷新等を行いました」大野市HP


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 床の間、仏間、台所などはごく普通の家だが、やはりお庭が立派である。この縁側に座って、全国三十数箇所に及んだ大野屋の経営や、蝦夷地や樺太の開拓に思いを馳せたのだろう。金勘定をするのはそろばん侍などと軽んじれた時代に、家老自らが藩の産品を全国に売りさばく一大チェーンを作り上げてこれを経営するなどというのは、普通の人にはできるものではない。内山良休の写真が残っているが、非常に意思の強そうな聡明な顔をしている。

 次に「旧田村家」を訪ねた。こちらは、大野藩家老だった田村又左衛門の屋敷で、文政10年(1827)の大野大火の後、近くの村から農家を移築して、これを武家住宅に改築したものである。庭園の築山が、実は大野城外堀の土塁であり、ここだけに残っている貴重な遺構だという。


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 元農家の建物だったと思わせるのは、囲炉裏の1mほど上に、竹を並べた棚のようなものがあり、棚として使っていたのかと思ったら、そうではなくて火の粉が飛ばないようにする防火設備だったようだ。色とりどりの風車が回っている。インスタ映えを狙っているのかもしれないが、いささか場違いだ。湯殿は、蒸気で身体を拭くものらしい。

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【後日談】恐竜のぬいぐるみ争奪戦

 息子のところには、孫娘ちゃん(小2)と直系くん(4歳)がいる。ご多分にもれず、この新型コロナウイルス騒ぎで、今年のお正月以来、直接会うのは控えている。週に1度、Skypeで顔を見ながら会話するくらいだ。二人とも、この夏は虫取りに熱中し、また最近は恐竜に凝っているとのこと。だから、福井県立恐竜博物館に行った時にそのことを思い出して、恐竜のぬいぐるみをお土産に買った。ティラノサウルス(茶と濃いピンクの2体)、トリケラトプス(緑)1体、海龍(薄いピンク)1体の合計4体である。ピンクは孫娘ちゃん、その他は直系くんのつもりだった。

 この4体のぬいぐるみを段ボール箱に入れ、恐竜博物館で撮った写真を何枚かと、私が平仮名で書いた手紙を添えて送った。息子の家にその段ボール箱が到着し、開いた時の様子を撮ったビデオが送られてきて、ビックリした。いやもう大騒ぎが起こっていたのである。

(段ボール箱から出てきた4体のぬいぐるみを前にして)

直系「このセットみーんな、ボクのものだ。」(おいおい、それは欲張りな)

孫娘「えぇーっ、ぜーんぶ? ちょっと、そーんな。いいから、わたしは、これとこれがいい。」

直系「だっめーっ。だめーっ。」

ママ「ほら、これは2人のだよー。おじいちゃんからのお手紙に、『きょうりゅうはくぶつかんに 行ってきました。ぬいぐるみを買ってきましたので、ふたりに送ります。なかよく分けてあそんでください』ってかいてあるわよ。」

ママ「ボクは、どれがいいの?4つあるから、2つずつね。」

孫娘「これとこれ(と、ティラノサウルスを指さし)、それともトリケラ?」

直系「うーん、ティラノとトリケラ」

孫娘「じゃあ、、、私はこのティラノと海龍」(と、どちらもビンクを選ぶ。予想通り。)

直系「そのティラノは、ぜんぜん強くないよ。」(と、妙な負け惜しみを言うので、笑ってしまう。)

(孫娘ちゃんは、さすがに歳上だけあって、ピンクの2つを確保して胸と膝の間に挟んだ後、『ちょっとこれ見せて』と、トリケラトプスのぬいぐるみを手に取ろうとすると)

直系「だめ、だめ、ギヤーーーーーーーー。」

 とまあ、、、凄い騒ぎになっていた。これが毎日だから、パパもママも大変だ。子育て、本当にご苦労様です。







 恐竜と天空の城( 写 真 )








(2020年 9月16日記、20日追記)


カテゴリ:エッセイ | 22:02 | - | - | - |
入院の母を見舞う

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(1)母が軽い脳梗塞を起こした

 私の母が脳梗塞を起こして病院に運ばれたと聞いたのが、2週間前のこと。幸い、妹がその数日前から泊まり込んで付き添っていたこともあり、命に関わる事態にはならなかった。送ってもらったレントゲン写真を見ると、脳の右側に大豆くらいの大きさの患部がある。規模は小さいが、運動神経が通っているところに近いので、手足が動かなくなると困るなぁと思った。妹によると、「話したり食べたりすることは大丈夫だけれど、やはり左脚がダラリとしてきた」という。

 直ぐにお見舞いに行こうと思っていたら、新型コロナウイルスのせいで面会は厳禁だという。それでは、せっかく帰省しても仕方がない。そこで、2週間の急性期入院が終わってリハビリ病院に転院するこの機会をとらえて、顔を見に行くことにした。そもそも、今年の冬からこれまで、新型コロナウイルスが猛威をふるって緊急事態宣言が出たりしていたことから、帰省することがそもそもできなかった。だから、もう長い間、母の顔を直接見てはいないこともあって、どういう容体なのだろうかと、心配が先に立つ。

(2)あーら、お兄ちゃん

 前日から駅前のホテルに泊まって、翌朝、妹たちと病院に行った。転院先の病院へは、妹が介護タクシーを使うように手配してくれていた。その介護タクシーの運転手さんが、母を車椅子に乗せて出てきた。その瞬間、母の第一声が「あーら、お兄ちゃん、東京からわざわざ来てくれてありがとう」だった。私も既に古稀を迎えているのに「お兄ちゃん」とはないもんだとは思うが、そういえば、機嫌の良いときにはこう呼んでくれる。頭が呆けてなくて、良かった。目付きも普段と変わらず、大丈夫だ。身の回りの荷物を受け取り、看護師さんたちにお礼を言って、車椅子の母と介護タクシーに乗った。

 10分ほどして、転院先のリハビリ病院に着いた。介護タクシーから車椅子ごと降ろして、病院の建物に入る。そこで病院の車椅子に乗り換えないといけない。私が母の両脇に両手を差し入れて持ち上げている間に運転手さんが車椅子を差し替えるという手順だったが、いやもう、母の身体が重いこと、重いこと。しかも、下半身に力が入らないから身体がダラリと垂れ下がるようになるので、寝ている子供を抱いているようなものだ。持ち上げるのは一瞬のことだったからよかったものの、これが毎日続くとなると、間違いなくこちらの身体を痛めそうだ。妹たちにも「我々の年齢を考えれば、もし自力で動けなくなったら、自宅での介護はもう不可能に近いから、介護施設にお願いするしかないね」と言っておいた。

(3)ここはどこですか

 それからその新しい病院でも、体重測定、頭部のCT、脚のレントゲン、先生の問診などがあった。最近は患者が了解すれば、病院間で連携してデータやカルテのやり取りもされるようで、その同意書も出しておいた。ところで、その先生の問診は、病気の経緯から始まって、生活の状況、既往症、飲んでいる薬などの詳細に及んだ。簡単な認知症の検査も行われて、まあまあの点数だった。日付を多少間違えたが、2週間も脳梗塞で入院していたことを思えば、仕方がない。でも、「ここはどこですか」と聞かれて、正しい病院名をズバリと答えたので、先生もびっくりしていた。

 それから、入院手続きに入る。あれやこれやと同意書ばかりで、しかもいちいち印鑑がいるのでたまらない。新型コロナウイルスで印鑑は廃止しようと言っている時に、何と言うことだ。その間、母はベッドに乗せられてあっちへ運ばれたかと思うと、また別の部屋に運ばれたりと、忙しい。そういう調子で、やっと必要な手続きが終わった。

 ところで、こちらの病院でも、面会禁止なのだそうだ。オンラインで出来ないのかと聞くと、「ありますが、予約制です」という。しかも、この病院に来なくてはいけないらしい。「では予約したい」というと、「11月まで一杯です」とのこと。何を言っている。その頃には転院してしまうではないか。「母はスマホを持っているから、スカイプ、ライン、ワッツアップなどで会話できるのだけど、手助けしてくれるか」と聞くと、「上では検討しているかもしれませんが、まだ私どものところには下りて来ておりません」などと、取り付く島がなかった。この地方の一般の人のITリテラシーは本当に低い。デジタル庁でも何でもいいから、早く何とかしてもらいたい。


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(4)これからの住まい

 現在は、母が一人暮らしをしていて、近くに住んでいる妹たちが毎日代わりばんこに訪問して、おかずを持っていき、話し相手になっているという体制である。この一年ほどの間に、母は、めっきり足腰が弱ってきたために、近くのスーパーに買い物に行くということもせず、外出といえば妹たちが運転する車に乗っての病院通いくらいである。そこで、妹たちと話しをしているのだが、この病院でのリハビリにもかかわらず、仮に母の足が不自由になり、トイレにも行けなくなったとしたら、もう今の家での一人暮らしには戻れないのは明らかだ。東京であれば、有料老人ホームに入るかどうかという話になるのだけれど、母の地方では、そもそも有料老人ホームなるものが、ほとんどないというのが実情である。隣の県まで行けばないわけではないのだけれど、妹たちが母の顔を見に行くのが遠くなるので、実際上は無理だ。

 もちろん、これからのリハビリの具合にもよるが、リハビリが上手くいけば、また現在の家に帰って来られる。ところがそれが功を奏さずに現在の介護度2から介護度4ほどになったとしたら、県内に15か所ある特別養護老人ホームに入ることが可能のようだ。でも、介護認定にしばらく日時を要するというので、その間、どうしたものやらだ。母本人も大変だが、周りの我々も、それなりに苦労しそうだ。




(2020年 9月14日記)


カテゴリ:エッセイ | 20:31 | - | - | - |
アートアクアリウム 2020年

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 日本橋に、先月末にアートアクアリウム美術館が開業した。そういえば、かねてより日本橋界隈でアートアクアリウムと題する催しが開催されていて、私も2018年に行ったことがある。とりわけ今は、新型コロナウイルスで、おいそれとは遠出できない。でも日本橋なら自宅に近いので、気晴らしに行ってみようかという気になった。それでも、感染のリスクを出来るだけ低くするため、夏休み明けの平日のお昼過ぎの時間に行くことにした。

 このアートアクアリウム自体は、2007年に始められて、それ以来、東京を拠点に、京都、金沢、熊本、イタリアのミラノ、中国の上海など世界各地で14年間に1000万人が見物したそうだ。当初から「日本の美しい『和の心』を伝えたいと『ジャポニズム』にこだわる展示を続けた」という(木村秀智氏)。それで、「美しくどこか儚い金魚の舞 生身の演者が目の前で舞う躍動、 五日ごとに変わる季節に自然を感じ身を委ねる この場でしか感じることのできない生命のダイナミズムが、忘れかけていた日本の美意識を思い出させる」ということなのだそうだ。

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 さて、美術館に着き、入ってみる。思ったとおり、人の数は比較的少なく、感染防止のためのソーシャル・ディスタンスを保つことができる。最初の展示は、冒頭の写真のように、赤い金魚の尾を思わすガラスの置物の下に泳ぐ普通の金魚で、背景に木や葉があるし、照明も昼光色だからまあまあ安心して見られる。それから、いよいよ妙な形の水槽が現れた。色々な金魚が泳いでいる。次の赤と白の琉金は、かなり強い水流の中でなんとかそれに堪えていた。少し、水流が強すぎるのではないだろうか。

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 次は、「花魁」という水槽だと思うが、大型の金魚の水槽である。その頭飾りの低いところから水が流れ落ちている。これは派手だ。それは良いのだが、金魚の数が多すぎる。過密もいいところだ。それに、水流も強いので、金魚たちが流されないようにと、一生懸命に必死になってヨタヨタと泳いでいる。ついつい同情し、金魚が可哀想になる。大袈裟に言えば、一種の動物虐待の類いではないだろうか。それに、照明が赤、青、黄、緑などと極端に変わる。赤い金魚に青い照明が当たったら真っ黒になって、やや気持ちが悪い。昼光色になるのはほんの一瞬なので、その間に何とか写真を撮るしかない。この辺りは、「水端(みずはな)」という区画らしい。

 やはり、金魚は白い容器に入れて緑の金魚藻を配し、のんびりと泳がせて、それを上から眺めるのが一番だ。その点からすれば、この展示方法は全くの邪道であるが、この美術館の基本コンセプトだから、簡単には改められないだろう。もっとも、改めてしまったら、日本の旧来の金魚展と変わらなくなってしまうので、難しいところである。

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 さて、まるで江戸の花街の門のようなところをくぐると、そこは「浮世(うきよ)」という区画である。天井を見上げれば、それはかつての紀伊國屋文左衛門の屋敷を彷彿とさせるギヤマン張りの格子の天井で、もちろん中には赤い金魚がゆらりゆらりと泳いでいる。門を通り過ぎたところには、やはり花魁型の水槽がいっぱいで、刻々と色が変わる。でも、ここでも強い水流の中に詰め込まれている沢山の金魚が気の毒で、私の目はついついその先の普通の水槽中の金魚に向く。まあ、この美術館の鑑賞法としては正しくないかもしれない。

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 おや、水泡眼がいた。目の下に袋を持っていて、何ともユーモラスな金魚である。ただ、水泡眼の身体をよく見ると白い点々がある。これは、白点病に違いない。水槽に入れるまでに、メチレン・ブルーによる薬浴をさせていないのだろうか。コンセプトや展示・デザインばかりに気を取られて、肝心の金魚の飼育がおろそかになっていると思う。これでは金魚が気の毒だ。

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 更に行くと、今度は緋鯉のコーナーである。長さ80センチ程度の立派な緋鯉1匹と、20センチほどの若鯉が数匹、丸い平らな水槽に入っていて、それが数個ある。光が均等に当たっていないので、撮りにくいが、しばらく粘って、まあまあの写真が撮れた。それから、大きな球形の水槽があり、上から水が表面の球に沿って流れ落ちている。これは見応えがあるが、やはり沢山の緋鯉が詰め込まれているので、いささか同情したくなる。

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 最後は、人の背の高さくらいの円筒型の水槽が何本も立っている所に出た。もちろん、それらの中には琉金がいっぱい入れられており、それぞれの円筒には、赤、青、紫、黄、緑などが当てられていて、全体を見ると、実に美しい。もっとも、中の金魚には迷惑かもしれない。ああ、残念なことに、ここにも白点病の金魚がいた。この美術館には、デザイナーより獣医が必要だ。

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 まあ、そういうわけで、2年振りのアートアクアリウム見物は終わった。私のように写真を撮りに行くには、全然適さない所だし、金魚や鯉を飼育した経験からすると、魚があまりにも粗末に扱われている感があって、同情を禁じ得ない。総じて、愛情をもって魚を飼育しているという感じが全くせず、単にカラフルで、ひょこひょこ動いてくれるディスプレイの一つとしてしか扱っていないようだ。しかし、色付きのプラスチックの飾りではなく、生きている愛玩動物そのものなのだから、それ相応の扱いというものがあるだろうと私などは思うので、誠に残念だ。もっとも、そういうことを全然気にしない人には、涼しげで優雅な感じを味わうことができることから例えば都心の夏のデート場所としては、良いのかもしれない。ただ、私はもう二度と行かないつもりだ。





【後日談】展示中の金魚に病気の報道

 私が見に行ったのは9月2日だったが、8日のJ−CASTニュースその他のニュースサイトで、「来場者や金魚の愛好家から、生体管理への疑問の声が相次いでいる」として、「来場者から金魚の状態を心配する声がSNS上で複数投稿された・・・体表が白い斑点でおおわれ病気の疑いがあったり、水面に浮かんだまま動かなくなったりする生体の写真・動画も拡散し、管理体制を問題視する声が続出している。」と報道された。これに対して主催者は「お見苦しい瞬間をお見せしました・・・重度の病気の魚は、隔離水槽に移して別途対応しております」などと説明している。しかし、見苦しいなどという問題ではなく、私も含めた愛好家としては、単に「魚に愛情をもって接していただきたい」だけである。改善されるというが、それが本当であることを祈ろう。





アートアクアリウム(写 真)






(2020年 9月2日記、9日追加)


カテゴリ:エッセイ | 21:24 | - | - | - |
新型コロナウイルス緊急事態宣言 (第5部)
42.日本の感染者6万人、死者千百人超え

(1) 日本の新型コロナウイルスの新規感染者が毎日2000人弱増加していって、8月20日、遂に累計感染者が6万人を超え、累計死者は1160人となった。6月以降の感染者数は4万人と、4月から5月にかけての「第1波」のときの約1万5000人の2倍以上にのぼっている。しかも、6月以降のこの「第2波」は当初こそ東京が主な発生地だったが、その後全国的に感染が拡大していって、とうとう8月19日の1日当たりの感染者は大阪府が187人で東京都の186人を上回った。


日本全国の感染者数等の合計 8月20日現在。NHKより

日本全国の日別感染者数 8月20日現在。NHKより


 こうした状況について、日本感染症学会の舘田一博理事長は、8月19日の同学会の学術講演会で「『第1波』は緊急事態宣言の後、なんとか乗り越えられたが、いままさに『第2波』のまっただ中にいる」と述べた。同理事長は、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の構成員である。

 ところが、こうした事態なのにどういうわけか、政府は「第2波」とは明言しないのである。8月19日の衆議院厚生労働委員会において加藤勝信厚生労働相は「必ずしも定義があるわけではない」 と言い、西村康稔経済再生相も記者会見で「『第2波』に定義があるわけではない。どう呼ぶかは別として大きな波であることは間違いない ・・・重症化するリスクの高い方々への感染が増えてきていることは警戒しないといけない」と語るにとどまる。緊急事態宣言を再び出して、経済を冷え込ませるのを懸念しているのだろう。しかし、これでは逆効果だ。政府は事態を直視せずに手をこまねいているのかと、いらぬ疑念を抱かせてしまう。いや、本当に成り行き任せで、打つ手もお金も、ついでに知恵もないのかもしれないと思えるから怖い話だ。

 それにしても、気になるのは重症者の数が漸増していることである。5月8日の287人には及ばないにしても、7月10日の31人を底に徐々に増えていって、8月17日には243人に達した。今回の第2波の当初は夜の街を中心に感染が拡大していったが、最近は家庭内感染が増えていき、それにつれて高齢者の年代にも拡がりつつあることから、これ以降、重症者がますます増えるのではないかと懸念される。


日本全国の死者数の合計 8月20日現在。NHKより




(2) なお、第1波と第2波の患者特性を比較した資料が、8月24日の政府の第7回分科会に提出された。それを見ると、死者数は第1波が900人、第2波が219人となっている。感染者数が第1波が16,784人、第2波がその倍以上の41,472人であることを考慮すれば、医療従事者がよく頑張ってくれていると思われる。もっとも、第2波の感染がまだまだ若い人中心の初期段階で、これから高齢者に感染の重心が移っていくのかもしれないので、まだ安心できる段階ではない。

第1波と第2波の患者特性を比較


(3) ところで、世界に眼をやると、次のように、もう惨憺たる状況である。アメリカではニューヨークを中心とした感染地域が下火になったかと思うと、経済の再開に伴って、カリフォルニア、フロリダに感染が広がり、1日の感染者数が4万7千人にもなる日が続いた。その一方、世界的な感染の流行地はブラジルなどの南アメリカから、インド、ロシア、南アフリカなどの新興国に広がりつつある。流行の終息の兆しは未だそのかけらすら見ることができない。

       感染者の数   死者の数
 世界全体 2,294万人  79万人
 アメリカ   557万人  17万人
 ブラジル   350万人  11万人
 イ ン ド   297万人   5万人
 ロ シ ア    94万人   1万人


世界全体の感染者と死者数の合計 8月20日現在。NHKより


(42(1)と(3)は8月21日、(2)は28日記)

43.ワクチン開発への期待と優先接種

(1) 新型コロナウイルス感染症に対する最終的な対策は、やはりなんといっても効果的で安全なワクチンをできるだけ早く開発し、多くの国民に接種をすることである。8月21日に開催された政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会(第6回)資料によると、新型コロナウイルスについて開発中のワクチンには5種類がある。

 このうち、 不活化ワクチンと 組換えタンパク・ ペプチドワクチンは、これまで開発の実績があり、最も免疫がつきやすいものの、開発に時間がかかるのが玉にキズである。これに対して、 DNAワクチン、 mRNAワクチン、 ウイルスベクターワクチンについては、いずれも実績が乏しい。ただ、最新技術を使うので、開発を早くできる、という特徴がある。


開発中のワクチンの種類


 それぞれのタイプのワクチンで、日本国内で5件、海外で約120件ほどが開発中である。このうち最も早く臨床試験が行われる予定なのが「KMバイオロジクス株式会社・東大医科研・感染研・基盤研の不活化ワクチン」で、臨床試験は最短で本年11月だという。

 海外では、いくつかの有力なワクチン開発が続いている。例えば、次の一覧表のほか、英製薬大手アストラゼネカは、米バンダービルト大学が発見した「AZD7442」を元に開発した抗体医薬について、8月25日、初期臨床試験(治験)を始めたと発表している。同じアストラゼネカとオックスフォード大学の組合せで開発中のワクチンもあり、これらが先頭を走っている有力なワクチンではないかと思われる。この他、ロシアではもうワクチンを開発して軍関係者に投与しているとか、中国でも開発に成功して医療従事者を相手に最終臨床試験に入ったという話もあるが、どちらも有効性や安全性について信ずる気になれない。ともあれ、各国では熾烈な開発競争が行われているので、そのうち、どれかが大きな効果をもたらして、この新型コロナウイルスのパンデミックを終わらせてくれるものと期待したい。


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(2)政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会(第6回)では、有効なワクチンが出来上がることを前提に、早々と、次のようにワクチン接種の優先接種が議論されている。なお、2009年の新型インフルエンザ(A/H1N1)の流行を控えて議論されたときの「高齢者」の定義は、65歳以上だそうだ。

(医療従事者)
 ・医療従事者は、新型コロナウイルス感染症患者や有症者に頻繁に接触する必要があり、直接医療を提供することから、感染リスクが高い。
 ・感染した場合には、新型コロナウイルス感染症対策等に必要な医療サービス提供にも影響が大きい。
 ・そのため、医療従事者については、医療提供機能の維持の観点から必要性が高い。
 ・同様の観点からは、新型コロナウイルス感染症患者や有症者に直接対応する救急隊員及び保健師についても、接種を優先する必要がある。

(高齢者・基礎疾患を有する者)
 ・高齢者や基礎疾患を有する者は重症化するリスクが高いことから、重症化を防ぎ、一人でも多くの命を守るという観点から考えた場合、接種を優先する必要性は高い。重症者を減らすことで医療の負荷を軽減することにもつながる。

(妊婦)
 ・妊婦の重症化リスクに関しては、今後、エビデンスを基にさらに検討する。

(高齢者及び基礎疾患を有する者が集団で居住する施設で従事する者)
 ・高齢者及び基礎疾患を有する者の重症化を防ぐ観点からは、高齢者及び基礎疾患を有する者への接種を優先した上で、業務の特性等を踏まえ、高齢者及び基礎疾患を有する者が集団で居住する施設に従事する者についての接種順位を検討する。


2009年の新型インフルエンザ(A/H1N1)の時の対応


(43は8月26日記)

44.スパコン富岳のシミュレーション

 8月24日に開催された分科会(第7回)において、「AI等シミュレーション開発事業」の進捗状況の報告があった。まだイメージ段階だということであるが、今年になって世界一となったスーパーコンピュータ「富岳」を使った「気流シミュレーション」がなかなか面白かったので、ここに記録しておくことにしたい。

(1) マスクとフェースシールドの効果

 最初は、街中で最近見かけるようになった透明なフェースシールドの効果について、マスクの効果と比較したシミュレーションである。それによると、フェースシールドには20ミクロン以下の飛沫に対する捕集効果は小さいので、マスクの代替としてフェースシールドを使うのであれば、換気等を併用しなければならないそうだ。

(2-1) 飲食店での飛沫等の拡散(パーティションなし)

 4人で2人ずつ向かい合って座っている状態でそのうちの1人が感染者でマスクなしで咳をしたとき、ー湘戮高い場合と、⊆湘戮低い場合とで大きな違いがある。 すなわち、ー湘戮高い場合、10ミクロン以上の飛沫は大半はテーブルの上に落下し、正面の人に到達するのは数ミクロン以下の小さなエアロゾルのみである。だから、まあ大丈夫だ。ところが、⊆湘戮低い場合は全く逆になり、飛沫は高速に蒸発することで微小化し、机に落下する数は大幅に減少する一方、空気中をエアロゾルとして拡散する数が増加する。だから、感染の危険が増す。

 ただし、いずれの場合も、感染者と並んで座っている人や、斜向かいに座っている人は、まず感染しないものと思われる。もっとも、感染者がたまたま真横や斜向かいに向いて咳をしたら、やはり危ないだろう。咳をするときは、マスクを着用するか、あるいは「咳エチケット」と言われているように、肘で口を覆ってするべきである。

(2-2) 飲食店での飛沫等の拡散(パーティションあり)

 次は同じく4人で座っているときに、そのテーブルに透明なパーティションがある場合で、やはりマスクなしという前提である。焦点はそのパーティションの高さであり、少なくとも1.4メートルあれば、大丈夫なようだ。ところが、1.2メートルでは30秒程度で正面に到達するエアロゾルが確認される、つまり正面の人が感染の危険にさらされるというわけだ。ただ、私の知っている限り、大抵の店のパーティションの高さは、せいぜい80センチ程度である。1.4メートル以上のパーティションなど、見たことがない。


マスクとフェースシールドの効果

(3) 通勤電車内での窓開け効果

 山手線を想定した通勤電車内では、エアコンによる機械式換気だけでなく、窓を開けることで換気速度が数倍になる、つまり感染の危険性を減らせることがわかった。まあ、当たり前と言えば当たり前だが、こうしてシミュレーションで目に見える結果が出れば、安心して電車に乗ることができるというものだ。それにしても、通勤電車はそれで良いとしても、窓が開かない電車やバスの場合は、一体どうしようかという気がする。


通勤電車内での窓開け効果

(44は8月28日記)


45.感染症対策の微修正

(1)8月28日、安倍晋三首相は体調不良のため辞任する意向を発表したが、まさにその日、新型コロナウイルス感染症対策本部(第42回)が開催され、新たな方針が決定された。

 その前提としての感染者と入院者の動向であるが、次の図の通り、新規感染者(陽性者:灰色の線)は3月下旬から5月上旬にかけての第1波の後、7月上旬から第2波が始まり、それが同月下旬から8月上旬にかけてピークを迎え、それからゆっくりと減少に転じて9月上旬に至っている。入院治療を要する者(青色の線)は、5月4日に11,535人、8月26日には10,306人となっている。とりあえず、第2波の山は越えたと考えられる。


新規感染者等の推移


 その上で、これまでの新型コロナウイルス感染症対策を微修正した。主に次の2本柱である。

  ヾ鏡症法における入院勧告等の権限の運用の見直し

 「今後は、新型コロナウイルス感染症の政令の位置付けを見直して、軽症者や無症状者について宿泊療養 (適切な者は自宅療養)での対応とし、保健所や医療機関の負担の軽減、病床の効率的な運用を図る。」

 つまり、これまではPCR検査で陽性者となれば、感染症対策法上はたとえ無症状でも原則として入院させなければならず、その手配を保健所が行って業務の繁忙を招き、同時にせっかく用意された新型コロナウイルス患者用ベッド逼迫という残念な結果となっていた。それでは本当に入院が必要な重症化した患者の入院治療まで十分に手が回らないこととなってしまうので、このようにしたものである。

 ◆仝〆座寮の抜本的な拡充

 「新型コロナウイルス感染症について、地域の医療機関で簡易迅速に検査が行えるよう、抗原簡易キッ トによる検査を大幅に拡充(1日平均20万件程度)するとともに、PCR検査や抗原定量検査の機器の整備を促進し、必要な検査体制を確保する。」

 つまり、「目詰まり」として、もう何度も指摘されながら少しも進まなかった検査体制を、ようやく拡充しようというものである。PCR検査数は、2月頃の1500件/日から、9月になってようやく検査能力は6万件/日と増えたが、実際の検査数は2万件/日にとどまっている。アメリカやイギリスでは、人口当たりでは日本の10倍から20倍の検査数をこなしている。このボトルネックを解消しようというものである。

(2) それとともに、従来は発熱などの症状が出て新型コロナウイルスへの感染が疑われる場合、まずは保健所などが開設する「帰国者・接触者相談センター」に電話することとなっていた。ところが、37.5度以上の発熱が4日続いていないと検査を受けさせないとか、そもそもこのセンターに何回電話をしても繋がらないという問題が頻繁に起こり、結局のところ検査も治療も受けられずに肺炎で亡くなるという事例が見受けられ、国民の怒りは頂点に達したのは、既述の通りである。

 厚生労働省は、9月4日、新しい方針を発表し、「早ければ10月以降、(帰国者・接触者相談センターを通すことなく)、かかりつけ医などの身近な医療機関に電話で相談した上で受診する」ということにしたそうだ。前述のような診断までの「目詰まり」の解消とともに、これから冬を迎えてインフルエンザと同時流行する恐れが十分にあることから、より受診しやすくしたものと考えられる。それにしても、4月から始まった第1波どころか、もはや第2波も終わろうとしているこの9月までの間、既に半年も経っている。なぜこれほど長く時間がかかったのか、実に不可思議なことである。


9月4日の新しい方針




(9月6日記)

46.日本では感染が落ち着き世界では猛威

(1)前回の報告から約1ヶ月が経ち、この間、実に色々なことがあった。まず、安倍晋三首相が、8月28日に持病の悪化のため辞任を表明した。その後、自民党内での総裁選挙を経て、9月16日夕刻に国会で菅義偉首相が選出された。新内閣では、それまで厚生労働大臣だった加藤勝信氏が官房長官となり、ベテランの田村憲久氏が厚生労働大臣となったが、新型コロナウイルス対策担当はやはり西村康稔大臣が担うことになっているので、新型コロナウイルスへの政府の対応には変わりがない。

 肝心の日本の感染状況は、感染者数8万7,762人、死亡者数1,816人となっている。一日当たりの感染者数は8月7日の1,605人をピークに減少に転じて落ち着いてきたとはいえるものの、次のチャートで示される通り、ここしばらく一日当たりの感染者数は500人から600人ということで、下げ渋っているというのが実情である。

日本全国の感染者数の推移 10月8日現


日本国内の感染者数 8月7日現在



(2)GO TOキャンペーンに、10月1日から、東京発着を加えることになった。これまで、東京が対象となっていなかったために、しばしばテレビで東京の浅草寺近辺の商店街に閑古鳥が鳴く場面が放映されて、そのたびに同情を禁じえなかったものだ。ところが、最近では、まだ3割ほどではあるが、少し人出が戻って来た。もちろん、外国人観光客の姿は非常に稀である。

 その一方で、東京在住の人が、京都や奈良などの観光地に繰り出して、西陣や産寧坂をそぞろ歩きする姿も放映され、こちらも3割から4割ほど人出が戻ってきている。近隣のお土産物屋やレストランも、一息ついていると見られる。他方、GO TOトラベルは一泊最大2万円を補助するものなので、これを利用してこの際、高級ホテルに泊まりたいと思う人が増えているという。例えば一泊6万円のホテルに4万円で宿泊できるから、何も安ホテル(といったら失礼かもしれないが)に泊まることはないという発想である。だから東京都内の高級ホテルには宿泊客が8割方戻り、2万円以下のビジネスホテルは相変わらず閑古鳥という珍妙な現象が生まれている。

(3)驚いたことにアメリカのトランプ大統領が、大統領選挙まであと1ヶ月という10月2日になって、新型コロナウイルス陽性であることが判明し、近くの陸軍病院に入院した。大統領補佐官によれば、一時は血液中の酸素量が減少するなど深刻な病状であったが、三日後の5日にはもうホワイトハウスに帰ってきた。入院前には酸素吸入を受け、病院では未承認の抗体治療薬、レムデシベル、それにデキサメタゾンを投与されたそうである。後者2つは中等症や重症患者に投与されるものだから軽症者にはかえって有害だというので、大丈夫かと心配になる。

(4)世界の新型コロナウイルスの感染は、ますます拡大している。世界の感染者数は、3,600万人を超え、うち死亡数はとうとう100万人を超えた。これは、大戦争並みの死者の数である。中でも、次のアメリカ、インド、ブラジルの3ヶ国が飛び抜けている(10月8日18時現在。ジョンズ・ホプキンス大学調査)。ペストは、科学的知識のなかった中世の時代の疫病で、当時のヨーロッパの人口のおよそ3分の1が亡くなったといわれる。科学的知識が発達した現代でも、アメリカやブラジルは国のトップの対応が殊更に科学を無視する態度に出るので、その手痛いしっぺ返しを受けているような気がする。特にアメリカでは、感染症の世界的権威であるアンソニー・ファウチ博士(アメリカ国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)所長)がいるのに、その言うことをトランプ大統領は全く聞かず、かえってその発言を封じてしまうなど、末期的な症状が起こっている。インドも、世界一の人口を抱えている国であるが、その大半を占める貧困層が、まるで中世そのもののような暮らしぶりであるから、感染はとどまるところを知らず、これからも増加する一方であるものと考えられる。

                    感染者数              死亡者数

  全 世 界  36,156,226人  1,055.683人

  アメリカ    7.549,682人      211,801人
  イ ン ド    6,838,655人      105,526人
  ブラジル    5,000,694人      148,228人



世界の感染者数の国別推移 10月7日現在 外務省ホームページより


 ところで、デザイナーの高田賢三氏が、新型コロナウイルスに感染して、10月4日、パリ郊外の病院で亡くなった。81歳であった。外国在住の日本人が亡くなるという報道はあまりないので、つい注目してしまった。というのは、そもそも日本人の新型コロナウイルス感染症による死亡率が欧米と比べて桁違いに低いのは、「日本人がこの病気に強い遺伝的要因を持っているなどという理由ではなく、昨年末から今年の初めにかけて、中国人訪日観光客から弱毒性の2種類のコロナウイルスをうつされ、かえってそのために3月以降、本格的に強毒性の新型コロナウイルスが入ってきても、かなりの人が既に免疫を持っていたために罹患して死亡する人の数が少ない」のであるとの仮説を思い出したからである。高田賢三氏は永年、パリに住んでいたようなので、その弱毒性のコロナウイルスに罹ったことがないはずだから、免疫を持っていなかったのだろうと、ふと思ったからである。

(10月8日記)


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新型コロナウイルス緊急事態宣言 (第4部)


29.新型コロナウイルスによる後遺症など

(1) 6月14日の夜、NHKのドキュメンタリー番組で、職場で院内感染した40歳の男性医師の話が報じられていた。この医師は、1週間ほど意識がなく、ECMO(エクモ:体外式膜型人工肺)でようやく命をとりとめたそうだ。そして、PCR検査で陰性となって退院したものの、病気の後遺症で、歩いたり階段を上ったりすると息切れして、以前のような勤務はできないという。おそらく、肺が傷ついて肺細胞が繊維化してしまったものと思われる。そうだとすると、もう元には戻らないだろう。新型コロナウイルスからの回復者の中で、こうした何らかの後遺症を抱える人の割合は、日本では7%だという。やはり、新型コロナウイルス感染症は、ブラジルのボルソナロ大統領が言う「単なる風邪」どころか、相当恐ろしい病気だと考えざるを得ない。

(2) あるスペインの女性(35歳)の話では、新型コロナウイルス感染症の症状が出たものの、自宅療養で意外と簡単に症状は収まり、PCR検査でも陰性が確認された。ところがそれ以来、掃除や皿洗いでも息切れして続けられない。そのうち胸の傷みに襲われて、病院で調べてもらうと、心臓の膜が傷ついているとのこと。フランスでの調査によると、新型コロナウイルスから回復しても、10%ないし15%の人に何らかの後遺症が残る。しかも、後遺症を訴える患者の3分の2が女性である。免疫が過剰に働いて、自分の身体を攻撃しているのではないか。免疫異常の割合は、元々、女性に多いという。

(3) このように、第1波が去った後、この病気について色々と分かってきた。後遺症の話以外に、6月19日の朝日新聞夕刊にはこういう報道が載っていた。欧州の研究チームがスペインとイタリアの感染者のゲノム解析をしたところ、新型コロナウイルスに感染した人のうち、血液型がA型の人は重症化するリスクが5割ほど高くなり、反対にO型の人はそのリスクが5割ほど低く、B型とAB型では、有意な差はなかったという結果が出た。これは血液型ごとに異なる生まれつき持つ抗体が関係しているか、遺伝子の違いで生じる血液を固める因子の働きなどが影響している可能性があるという。

(4) 猛威を振るう新型コロナウイルス感染症は、国内では3月下旬から5月下旬にかけて第1波があり、その後直ぐに6月下旬から第2波が始まったが、8月下旬になるとその勢いがやや下火になってきた。ところが、南北アメリカやインド、南アフリカでは未だ感染が真っ盛りで、とても収まる気配は見られない。既に感染がいったんは終息したと思われたヨーロッパでも、スペインで再び感染が急拡大して第2波が到来していると言われるし、フランスでも同様になりつつあり、イタリアやイギリスでも徐々に再拡大する兆しを見せている。そうした中、これまでは新型コロナウイルス感染症の治療に追われていた医療研究機関が、次第に回復した事例にも目を向けるようになり、後遺症についても少しは研究成果が公表されるようになってきた。

 8月23日の日本経済新聞によると、「新型コロナウイルス感染症の症状が収まっても体の不調が続くとの報告が相次いでいる。ドイツの研究チームは回復した人の6割で心臓の炎症が続いていたと明らかにした。イタリアでは、退院患者の9割近くが発症から約2カ月が過ぎても体の不調を訴えていた。新型コロナウイルスはいまだ解明されていない性質が多い。専門家は退院後も健康状態を管理する仕組みが必要と指摘する。独フランクフルト大学病院の研究チームは、呼吸器症状が収まり検査で陰性になった元患者100人を調べた。磁気共鳴画像装置(MRI)で心臓を診ると6割の人で心筋炎が続いていた。感染確認から数カ月過ぎても4割弱に息切れや疲労感が残り、5%に心筋梗塞の疑いがあった。」ということである。もっとも、「国内では心筋炎の発生率は研究例がない」そうだ。その他、「イタリアのチームが退院患者143人を約2カ月後に調べたところ、『だるさ(53%)』『呼吸のしづらさ(43%)』などが続いていた。」とある。

 一方、上記(1)の「何らかの後遺症を抱える人の割合は、日本では7%」という話と比べれば、このドイツやイタリアの調査結果はその10倍以上で、随分と後遺症の比率が高いと思われる。その要因として、そもそも人種的な差があるのか、いやそれとも日本では既にコロナウイルスに対する免疫がある人が多かったので新型コロナウイルスにも免疫も持つ人の割合が多いという仮説が正しかったのか、どうもよく分からないところである。今後、国内外で更に詳細な調査が行われることを期待したい。

(20(1)は6月14日、(2)と(3)は同19日、(4)は8月23日記)



30.接触確認アプリ(COCOA)

(1)厚生労働省は、アップルやグーグルと提携して、6月19日に「新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)」(COVID-19 Contact Confirming Applicationの略)を公表し、国民にそのダウンロードを促すようになった。これは、新型コロナウイルス感染症の感染者と、「1メートル以内で15分以上」接触した可能性について、通知を受け取ることができるスマートフォンのアプリである。


接触確認アプリ(COCOA)


 同種のものはシンガポール政府も用意しているが、強権的で知られているかの国と違って、日本のこのアプリは、「アプリにより、利用者のデータを利用し、収集することはありません。利用者に氏名・電話番号などの個人情報を入力いただくこともありません。」というから、個人情報の保護の度合は、より一層高くなっている。ただ、どちらもスマホの近接通信機能(ブルートゥース)を利用して常時通信しているので、スマホの電池の消耗は激しいようだ。普及率は少なくとも6割にならないと実用的ではないというが、日本で最も普及しているあのLINEですら6割なので、COCOAがそれ並みになるというのは、あまり現実的ではないと思われる。

 Q&Aで「陽性者との接触の可能性が確認されたとの通知を受けたら、何をすればいいですか。」という質問に対する答えは、「アプリの画面に表示される手順に沿って、ご自身の症状などを選択いただくと、帰国者・接触者外来などの連絡先が表示され、検査の受診などをご案内します。」とある。

 こういうところの設計が、実に不十分だと思う。例えば、このアプリで陽性者との接触の可能性が確認されたとの通知を受け、心配しながら近くの保健所に行ったとする。そうしたら、まず何よりもPCR検査を優先的に受けられて、確定診断までどうすべきかのサジェスチョンをもらい、ついでに検査費用とそれに基づく診察を無料にするくらいのささやかな「特権」でも用意してさしあげないと、国民はあまりメリットを感じないからあまり普及しないのではなかろうか。また、陽性と判明した者には強制せずに任意の登録に任せるというのも、システムとして全く使い物にならないという気がする。

 なお、私の場合はiPhoneなので、COCOAをダウンロードしようとApple Storeを開いてみたが、直訳風の訳のわからない説明が出てきたので嫌になった。それでも、6月19日の配信開始から3日経った22日午後5時現在のCOCOAのダウンロード数は、326万だったというから、悪くはないと思う。こういうアプリは、作って配信して終わりというものではない。1ヶ月後には大幅に更新されるらしいから、それまでにもっと親切で使いやすいものに仕上げてほしい。私はそうして改良されてからインストールすることにしよう。要は、官と民の良いとこ取りを狙ったつもりが、「官製の使いにくさ、民製の無責任さ」にならないようにしてもらいたい。

(注1)COCOAアプリの提供を始めて4日目の23日午前9時には、ダウンロード数が371万に達したが、案の定というかやはりというか、アプリに決定的な欠陥が見つかった。感染を自己申告すると保健所から「処理番号」が届くのでそれを打ち込まないと登録されない仕組みのはずだった。ところが、どんな番号でも打ち込みさえすれば「完了しました」と表示されるという。そんなことなら、処理番号を発行する意味がない。成りすまして登録を乱発することも可能となる。早急に修正しているとのことである。

(注2)COCOAアプリは、6月23日の最初の不具合で番号の発行を一時停止してから修正版を配布し、ようやく7月3日に番号の発行を再開した。ところが、わずかその1週間後の7月10日に、再び別の不具合が生じた。今度は、修正版をアップデートした人の端末から番号を入力しようとすると、エラーメッセージが表示されるというものである。早急に修正するとのこと。なお、7月10日現在のCOCOAアプリのダウンロード数は、648万件である。


(2)接触確認アプリ(COCOA) の登場後、約1ヶ月半が経った。8月7日現在のダウンロード数は、1,200万、感染者が登録したのは165人となっている。濃厚接触者に通知した件数は、厚生労働省は明らかにしていないのでわからないが、ほとんどないのではなかろうか。これでは、せっかくCOCOAをダウンロードし、自分のスマートフォンの電源浪費をわざわざ容認して常時動かしている人が浮かばれない。

 それというのも、何といってもCOCOAが使いにくい上に、プライバシー保護を重視しすぎて利用者任せにしている設計思想自体に欠陥があるからだ。第一に、当局が利用者の連絡先を把握していない点だ。普通、民間のアプリを使う時にはメールをアドレスや電話番号をダウンロード求められる。ところが、COCOAはそうではないので、感染者とその濃厚接触者を把握しても、当局が連絡をとる手段がない。しかも、第二として、感染者が登録するかどうかは自由になっている点だ。つまり、登録してくれなければ、それまでである。これでは、COCOAは何の役にも立たない。

 プライバシー保護を十分に図りながら、COCOAの仕組みを保健所の感染者リストと感染経路追跡に連動させ、感染が判明すれば直ちに本人に連絡し、PCR検査や療養、入院の手筈を整えるようにすべきである。また、普及を図るという観点からは、できればアンドロイドやiOSのようなスマホのOSに直接搭載してしまうか、それがかなわなければ既存のアプリで日本で最も普及しているLINEなどにCOCOAの仕組みを載せるということも、緊急事態であるから試みるべきだろう。


(3)接触確認アプリ(COCOA)について、厚生労働省は、ようやく8月21日になって「これにより通知を受けた人は、症状の有無などにかかわらず自己負担のない行政検査の対象」として、都道府県などに通知した。2ヶ月も遅れて、やっと通知したかという気がする。

 ちなみに8月21日時点でのCOCOAダウンロード数は、約1,416万件、判定結果陽性の登録件数は、360件となっている。

(4) 笑い話のようであるが、8月23日から25日にかけて、敦賀市役所の職員59人に、COCOAから「感染者と接触した可能性」があるとの通知があったそうだ。接触したとされる日は、ほとんどが8月12日の出来事だったという。本庁の職員のみならず出先機関の職員も含まれるというが、たった1日でそれほど多くの職員に1人の感染者がそれぞれ15分以上も接触できるものなのだろうか。いやいや、まずあり得ないことだろう。現にPCR検査を行ってみたところ、とりあえず57人は陰性で、陽性と確認された人はまだいない由。

 厚生労働省に市が問い合わせると、「現状としては、誤作動ではない」とのこと。しかし、どう考えてもおかしい。ところが、COCOAの仕組みからして、調べることはできない。これは、深刻なバグではなかろうか。それにしても、色々と問題が起こるものだ。

(5)9月初めに私の持っているiPhoneのiOSがバージョンアップされて13.7となり、それによって接触確認機能が追加された。だだし、実際に接触確認の通知を受けるには、COCOAが必要とのこと。そのCOCOAもアップデートによってバージョン1.1.3となった。9月8日時点でのCOCOAダウンロード数は、約1,639万件、判定結果陽性の登録件数は、632件となっている。私も、ここに至ってようやくCOCOAをダウンロードして使っている。もちろん、通知が来ないことを願っている。


接触確認機能が追加されたiOS13.7


(30(1)本文は6月21日、注1は23日、注2は7月11日、(2)は8月7日、(3)は8月21日、(4)は8月26日、(5)は9月8日記)


31.上野動物園が再開された

 上野動物園は、新型コロナウイルスの影響で2月末から休園していたが、ようやく6月23日から4ヶ月ぶりに再開された。そこで、近いこともあり、行ってみる気になった。インターネットで整理券を取得しなければならないという。iPhoneを使って3回目に、ようやく午前10時45分からの番号をもらった。実は私の家から不忍口まで歩いて7分ほどなのだが、入るのは正門だけだというので、蒸し暑い中を上野桜木町方面へトコトコと歩いて行った。


順番待ちの列



 着いてみると、入園を待っている人がそれぞれ1mのソーシャルディスタンスをとっているので、延々と長い列を作っている。周りを見回すと、パンダの絵柄のあるポストがある。面白いことに、その口にマスクが付けてあった。誰か奇特な人がやっているのかと思ったら、朝日新聞によると、都内に住む40代の男性で、「子どもたちに着用を促しつつ少しでも癒やしになればと考え、4月下旬からパンダの口元に手作りでビーズを施したカラフルなマスクを数日おきに付け替えている。ポストが傷付かないよう磁石を使って取り付けている」(6月22日付け)という。

パンダの絵柄のあるポスト



 やっとのことで動物園の中に入ると、すぐにパンダ舎に通じる道を歩かされる。悲しいかな、混雑防止のため写真撮影は禁止とのこと。これでは、何のために一眼レフを持って行ったのか分からない。それでも、3歳になったばかりのシャンシャンが、こちらに寄って来てくれるなど元気に動いているのがとても良く見えたので、それなりに満足した。もう、体重が既に80キロもあるそうだ。竹ばかり食べて、よくそんなに重くなるものだ。

 爬虫類館などの室内展示施設は、三密を避けるために展示は中止。だから、楽しみにしていたミーアキャットには会えなかった。ほかは、ほぼ普段通りである。ただ、入園者の数が相当少ないと思ったら、一日当たり4,000人に制限しているそうだ。


スマトラ・タイガー


 次にスマトラ・タイガーを見ようと虎舎に行ったら、ちょうどよい具合に大きな石の上に雄のタイガーがちょこんと乗っていたので、それを撮ることにした。ところが、ガラスに私の背の高さまでフィルムが貼ってあって、それが白く曇っているので、そもそも焦点が合わないではないか。困ったなぁと思って、そのフィルムを避けるために両手を上げてカメラの位置を高くして試しに撮ってみた、すると、なんとか撮ることができた。ただ、後からパソコンで写真をよくよく見たところ、そのタイガーさん、眠そうで眠そうで、ほとんど目を閉じている。何十枚も連射して、やっと数枚、目が開いていて何とか使えそうな写真があった。野生動物を撮るのには根気がいるし、たくさん撮って「下手な鉄砲かずうちゃ当たる」を実践するしかない。

 ゴリラは、展示がお休み中だ。ヒトと近縁種だから入園者から新型コロナウイルスを伝染されてはたまらないということか。仕方がないので、猿山に行く。あれ、これもほとんどお猿さんが見当たらない。昼寝中かそれとも感染を恐れて数を絞っているのか、目の前にはわずか4匹しかいないではないか。写真を撮るどころではない。気のせいか、どのお猿さんも、どこか虚ろな目をしている。


象は撮りやすい


 猛禽類は興味深いが、ゲージの中なので檻の格子が写りこんでしまい、写真にならない。象のところに行く。ノッシノッシ、グルグルと歩いてくれるので、写真を撮りやすい。気のせいか、笑っているような表情を見せるので、面白い。ただ、撮影がガラス越しのときは、よく撮れたと思っても、家に帰ってパソコン画面でよくよく見ると、画面の一部に風景が映り込んで使い物にならなかった。

不忍池の方を見下ろすと、辺り一面の蓮の葉っぱ


 さて、イソップ橋を通って、西園の方に行く。このモノレールは、車両が老朽化したが高額の費用のために更新がかなわず、昨年10月から休止している。このままいくと、どうやら廃線になるらしい。初孫を連れて何回も乗ったのに、誠に残念なことだ。歩く途中、イソップ橋から不忍池の方を見下ろすと、蓮の葉っぱで辺り一面が覆われていて美しい。そろそろ、蓮の花の季節だ。また、あの池に朝早く撮りに行こう。

ハシビロコウ


 西園に降りてきたところで、まずはハシビロコウのところへ行く。この鳥は、丸一日でも立ったまま動かずに近寄ってきた魚を狙うという忍耐強いハンターだ。でも、あれ?今日は座り込んでいる。この環境に慣れて、だんだんズボラになってきたのかもしれない。これでは写真にならないので、フラミンゴのところに行く。

手前でフラミンゴ2羽が羽根を広げて追いかけっこ


奥の方にいるフラミンゴの群れ



 あれあれ、手前でフラミンゴ2羽が羽根を広げて追いかけっこをしている。それを撮ってみたのだが、鳥かごの手前の網が画面に写りこんでしまって、絵にならない。試しに、奥の方にいるフラミンゴの群れにレンズを向けると、幸いなことに手前の網は写らなかった。焦点が奥なので、網は画面上からは消えてしまう。光の屈折効果だ。これというのも、APS−Cサイズで300mmだからこそ、できる技だ(フルサイズで450mmに相当する)。キリン舎でも、キリンが奥の方にいるときは、同じように手前の檻の格子を消すことができた。

 そこから、不忍口から出て帰宅したが、ともかく暑くて湿気の高い日だった。パンダのシャンシャンが中国との取り決めで今年いっぱいで中国に帰るというので、それまでにまた何度か会いに来ようと、入園するときに年間パスポートを購入した。だけど、パンダの写真が撮れないとは、残念なことだ。ともあれ、緊急事態宣言で数ヶ月の蟄居生活の後なので、久しぶりにすっきりした。

 ところで、東京ディズニーランドとディズニーシーは、7月1日から営業を再開するそうだ。ただし、感染対策のために入場者の数を通常の2割に絞るとともに、パレードは中止、レストランも半分くらいは閉めるという。なお、感染の終息が早かった大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンは、既に6月8日から再開している。


(31は、6月23日記)


32.専門家会議が突然廃止される

(1)6月24日、西村康稔担当大臣は、新型コロナウイルス対策の専門家会議を廃止し、それに代わるものとして「新型コロナウイルス感染症対策分科会」を新たに設置することを表明した。従来の専門家会議は、新型コロナウイルス感染症対策本部の下に設置されていて、「厚労省のアドバイザリーボードのような位置付けの感染症の専門家の皆さんの会議」(西村大臣)だった。それに対して新しい分科会は、「改正新型インフルエンザ対策特別措置法に基づく有識者会議の下部組織として位置付け、感染症専門家のほか、地方自治体の代表や危機管理対応の専門家らの参加も求める。」という。

 これは関係者にとっては寝耳に水の発表で、現にその当日、たまたま日本記者クラブで記者会見を開いていた専門家会議の尾身茂副座長(地域医療機能推進機構理事長)らはこの件について記者に聞かれ、「今、大臣がそういう発表をされたんですか?」と困惑し、「私はそれは知りません」と語った。新型コロナウイルス感染症対策の中心となっていた専門家会議を廃止して大きく衣替えするというのに、その専門家の中心人物たちに何の事前連絡もなく勝手に決めてしまうというのは、大変失礼な話である。一体どういうことが起こったのだろうか。

(2)話は、5月のNHK報道番組を見ていたときに遡る。日比谷公園に面した中央合同庁舎5号館(厚生労働省と環境省が入っている)の11階と12階に、狭い会議室がそれぞれ1つずつあり、「厚生労働省クラスター対策班」のいわゆる「タコ部屋」となっていた。一方は東北大学大学院押谷仁教授がチーフとなる東北大学・新潟大学・長崎大学などのグループである。当初は、各県の保健所などから上がってくる報告を元に全国の感染状況を把握し、厚生労働省から各地へ「クラスター対策班」を派遣して鎮火に努めていた。ところが3月中旬以降、感染が急拡大してクラスター対策が追いつかなくなると、次の西浦グループの立てた戦略に基づいて、接触機会の8割削減という方針転換を主導していった。もうひとつのその西浦グループは、北海道大学大学院医学研究院西浦博教授をチーフとする数理モデルを駆使した理論疫学の北海道大学のグループである。

 その2つのグループが、日付が変わる頃まで、調べ、議論し、悩み、呻吟してクラスター対策や予測に没頭する様子をNHKが報道していた。私はこれを見て、ご苦労さまという気持ちとともに、大いなる違和感を感じた。それは何かというと、これは学者のやるアドバイザリーボードではなく、行政官の行う行政そのものではないかと。早い話、感染者数が激増してクラスターの追跡どころではなくなったら、一体どうするのか。緊急事態宣言の発出をしなければならないと考えるが、同時に宣言による政治経済への打撃が懸念されるから、各方面への調整が必要となる。そんなことまで、組織の一員でもないこうした学者が、できるはずがない。ところが、政治が手をこまねいていることもあって、こうした専門家会議が表面に押し出されてきた。

 緊急事態宣言は、結局4月7日に発出されるが、その前の2月24日、専門家会議は「今後1〜2週間が感染拡大のスピードを抑えられるかどうかの瀬戸際だ」という見解を示した。私は、この頃はまだ専門家と政治の棲み分けはできていたのではないかと思っている。ところが、これを契機として、次第に専門家が国民への説明の前面に立つようになった。そして、5月25日に緊急事態宣言が解除されるまでの間に、専門家会議は見解を3回、要望を1回、提言を7回も出し、その度に尾身茂副座長を中心に懇切丁寧で中身のある記者会見を開くものだから、国民の関心も高まり、自ずと新型コロナウイルスに関する政策が、あたかも専門家によって決定されているように思われるようになった。


専門家会議の活動



(3)そんなクラスター対策班の中にあって、ユニークな存在は西浦博教授である。数理モデルを駆使した理論疫学の専門家だという。接触機会の8割削減などを明瞭に主張し、そのユニークな容貌とキャラクターと相まって、専門家会議の記者会見ではかなり目立った。それだけでなく、大阪府の吉村知事に説明して隣県兵庫県との往来の自粛を語らせたかと思えば、東京都の小池知事には気に入られて記者会見に何回も同席するなど、活動も活発であった。私が驚いたのは、4月15日の「個人的な見解」と称する記者会見で、「接触を減らすなどの対策を全くとらなければ、国内で約85万人が重症化し、うち約42万人が死亡する恐れがある」という試算を公表したことである。

 6月25日現在でアメリカの感染者数は242万人、死者数は12万人であることからすれば、これらの数字は荒唐無稽なものではない。しかし、それにしても、どういう計算式といかなる根拠でそのように試算したのかくらい明らかにされていないと、いたずらに国民の不安を煽るだけの結果になりかねない。だから、普通の行政官であれば、簡単には公表しないはずなのに、どうなっているのかと思った記憶がある。

(4)そのような一連の流れからすると、今回の出来事は、さもありなんという気がする。専門家が舞台から引きずり降ろされ、今まで、日々急激に進行していくあまりに深刻な感染状況にオロオロしていた政治家と厚生労働省が、感染がいったん落ち着いたので、ここからようやく気を取り直すことができて本来の任務についたということだ。

 西村康稔担当大臣は、専門家会議をなぜ廃止したのかと問われて、「会議は法律に基づくものでなく、位置付けが不安定だった・・・今後はワクチン接種の優先順位なども課題になるから、・・・感染症の専門家だけでは決められない事柄も出てくる」と話した。でも、専門家会議が法律に基づくものでなかったのは、最初からだ。そういう宙ぶらりんの立場の専門家会議に、政府の新型コロナウイルス対策の司令塔のような役割を果たさせる一方、自分たちはその陰に隠れて、事態が落ち着くまで表にほとんど出て来なかったのは誰なのかと反省すべきである。

(32は、6月25日記)


33.各国の超過死亡数の比較

 日本で新型コロナウイルス感染症が猖獗を極めていた今年の春、4月7日から緊急事態宣言が発出された。それから約1ヶ月半で解除されたのであるが、感染が最も多かったのは4月初旬から中旬にかけてといわれる。そこで、特に4月の「超過死亡数」つまり例年と比べた死亡者数の増分が相当多いのではないかと思われていた。その背景として日本は、他国よりPCR検査の数が桁違いに少ないし、検査漏れで亡くなってしまう人が、「新型コロナウイルスによる死亡」ではなく「自然死」として扱われた例がかなり多いのではと考えられていたからである。

 BBCによると、各国の超過死亡数と考えられる数字は、次の通りである。

 アメリカでは、平年より16%高く、97,300人も多く死亡
   (2月16日〜5月2日)

 イギリスでは、平年より43%高く、64,500人も多く死亡
   (3月7日〜6月5日)

 フランスでは、平年より25%高く、28,400人も多く死亡
   (3月2日〜5月10日)

 イタリアでは、平年より40%高く、42,900人も多く死亡
   (2月24日〜4月26日)

 スペインでは、平年より50%高く、42,900人も多く死亡
   (3月2日〜5月14日)

 ドイツでは、 平年より 4%高く、 7,100人も多く死亡
   (3月9日〜5月10日)

 ところで、感染者数はPCR検査の対象を人為的に変えられることから、その統計数値は実態を表さないことが多いと思われる、その点、死亡者数は事情が異なり、これは人為的な操作はなかなかできないので誤魔化せるものではない。その死亡者数がこれほど平年より多くなっている要因は、おそらく新型コロナウイルス感染症によるものと考えて間違いない。もっとも、新型コロナウイルス患者で病床が逼迫して、そのため他の病気の患者が十分な治療を受けられなくて死亡したという事例もありそうだが、統計上で把握するのは困難である。

 といういわば「常識」を踏まえると、6月26日に日本の厚生労働省が発表した今年4月の人口動態統計速報には、知る人全てが本当に驚いたのではなかろうか。死亡が113,362人で、昨年4月が112,939人だから、わずかに423人しか増えていないのである。これくらいなら誤差の範囲内で、つまり新型コロナウイルスによる超過死亡は、ほとんどなかったのではないかと考えられる。また一つ、日本のミステリーが増えた。そういうことで、

 日 本 では、平年より0.4%高く、  423人が多く死亡
   (4月1日〜4月31日)

(33は、6月30日記)



34.ポピュリスト対女性リーダー

(1)ポピュリストの大統領たち

 7月6日現在の新型コロナウイルスの感染者数は、世界全体で1,145万247人(うち、死者は53万4,273人)である。感染者数(うち、死者数)を国別にみると、以下のように最も多いのがアメリカ、次いでブラジル、インド、ロシアと続く。

第1位 アメリカ  288万8,730人(12万9,947人)
第2位 ブラジル  160万3,055人( 6万4,867人)
第3位 イ ン ド   69万7,413人( 1万9,693人)

 このように、アメリカとブラジルだけで4割近くに及んでいる。それでは、この2国に共通するのは何かと言うと、科学を軽視し、専門家を信じず、単に大衆受けを狙うだけのポピュリストの大統領が率いる国だということである。


(2)トランプ大統領

 まずは、アメリカのドナルド・トランプ大統領をみてみよう。当初は、「単なる風邪だ」と言い、国民に対して、新型コロナウイルスは大した問題ではなく、コントロール可能という印象を与えようとした。例えば、

「中国から来た感染者は1人で、管理下に置いているから全く問題ない」(1月22日)

「少し暖かくなれば、4月までにはウイルスは奇跡的に消えてしまうそうだ。」(2月10日)

「感染者数はただいま15人。数日中にゼロになる。我々の対策が見事だからだ。」(2月26日)

 ところが、アメリカでの新型コロナウイルス感染者数と死者数は、3月に入ってうなぎ登りに増え、4月末にはどうにも止まらない奔流となって、あっという間に患者数が世界一になってしまった。それからの主役は、ニューヨーク州のクオモ知事であることは、既に述べた通りである。

 そういう中で、トランプ大統領の唯一の関心は自らの再選である。そこで、クオモ知事の向こうを張って、自らほとんど中身のない記者会見を延々とし始めた。ところが、4月23日の会見で、「新型ウイルス感染症の患者に光を当てたり、消毒液を注入したりするのはどうか」と述べて、世間を驚かせた。これに加えて、5月18日には、「(抗マラリア薬の)ヒドロキシクロロキンを2週間ほど前から飲んでいる。」と語って皆を唖然とさせた(その後、案の定、効果は否定された)。非科学的にもほどがある。

 このトランプ大統領の記者会見につられて実際に消毒液を飲んだ人もいたというから、恐ろしい話である。もっとも、これは都市伝説かもしれないが、今のアメリカの共和党トランプ支持者の非科学的な思考法をみると、然もありなんという気がするから怖い。

【後日談】
 アメリカのトランプ大統領は、側近のヒックス大統領顧問の新型コロナウイルスの検査が陽性と出たために、自らも検査を受けた。すると2020年10月2日未明、ツイッターで、自ら「陽性」だったと明らかにした。メラニア夫人も、陽性だったという。11月3日に大統領選挙を控えているという最も大事な時期なので、どのような影響があるのか注目されている。

 2日のNHKの報道によると、「これを受けてホワイトハウスのメドウズ大統領首席補佐官は、『軽い症状が出ているが大統領は元気にしている』としたうえで、『トランプ大統領はアメリカ国民のために一生懸命、仕事をしていく。けさの最初の質問は『経済はどうなっている』だった。大統領は執務を続ける予定ですぐに回復すると楽観している」と述べたという。

 同じく3日には、「首都ワシントン近郊の軍の病院に移りました。トランプ大統領はビデオメッセージで『体調はいいと思うが問題がないか確認してもらう』と述べ、ホワイトハウスは念のため今後、数日間、病院から執務を続ける」という。


(3)ボルソナロ大統領

 その点、ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領も、負けず劣らず酷い。トランプ大統領と同様に抗マラリア薬のヒドロキシクロロキンを飲んでいるというのはご愛嬌にしても、新型コロナウイルスについて聞かれて「あんなものは、ちょっとした風邪だ。」と同じことを言う。

 そればかりか、ロックダウン(都市封鎖)の必要性を説く保健相を続けて2人も解任した。州知事らが全国的なロックダウン(都市封鎖)を求めるのに、それは大量監禁だと主張して必要ないと何週間も論争する。死者が5000人を超えたことにコメントを求められると、「だから何なんだ」と答える。新型コロナウイルスより、それにより経済がストップすることが良くないと考える。だから、国民に働いて経済を動かし続けるよう呼びかける。なぜなら、「私たちはみな、どうせ死ぬのだ。」とまでのたまう。

 いやもう、とんでもない大統領だが、熱心な支持者がいる。強気、アンチ・エリート、非科学的で凝り固まった存在だ。まるでトランプ大統領そのものだが、これをもっと極端にしたようなタイプだ。一時は、感染者と死者が続出するので保健省の統計の発表を差し止めたほどだが、さすがにこれは、連邦裁判所が開示を命じた。マスクの着用を義務付ける法案が議会を通過した。ところが、ボルソナロ大統領は学校や商業施設での着用や、貧困層への配布に反対し、一部の条文について拒否権を発動した。 (以上、BBCニュースより)

 朝日新聞によると、7月6日にボルソナロ大統領は、38度の発熱と倦怠感があったためにPCR検査を受けたところ、7月8日、陽性と判明した。そこでようやく人前ではマスクをしているようだ。ところで、「ブラジル国内の感染者は162万3284人、死者は6万5487人に上る。これは、NPO『ブラジル公安フォーラム』のまとめでは、2017年に起きた殺人事件の被害者(死者数)6万5602人とほぼ同じ」という。

 ファベーラという貧困地区がブラジルにはあるそうだが、狭いところに大勢の貧しい人々が住んでいて、新型コロナウイルスが蔓延すると見られている。しかし、政府には援助する気は全くなさそうで、代わりにその地を根城とするギャング団が水や食料を配り、外出禁止令まで出しているというから、驚いた(以上、BBCニュースより)


(4)ボリス・ジョンソン首相

 イギリスのボリス・ジョンソン首相も、トランプ大統領並みのポピュリストだと見られていて、実際に当初は、新型コロナウイルスの脅威を非常に軽く見る発言が多かった。そればかりか、3月3日の演説では、「先日、病院を訪れて新型コロナウイルス患者と握手して回った。」と話していた。ところが、そんなことをしていると、やはりというか案の定というか、首相本人が新型コロナウイルスに罹ってしまった。しかも、4月6日には集中治療室(ICU)に移ったほどの重症である。同じ頃にイギリスでは、チャールズ皇太子も新型コロナウイルスに罹ったから、その当時はこの感染症を軽く見る傾向が一般的だったのかもしない。ちなみにジョンソン首相は、4月27日にようやく公務に復帰した。

 しかしジョンソン首相が不在の間、イギリス政府の楽観的な見方は、これを危惧した政府科学顧問の進言で一変した。4月13日に「(このまま何もしないという現状を)方向転換しないと、国民健康サービス(NHS)が崩壊し、25万人が死ぬという大惨事をもたらす。」と警告したのである。そこで、イギリス政府は16日、新方針を発表し、不要不急の移動や他者との接触を避け、自宅で仕事をするように呼びかけた。ちなみに、その時のイギリスの死者の数は、わずかに55人だった。

 結果として、7月8日現在のイギリスの感染者数は世界第7位の285,768人、死者数は44,236人となっている。イギリスの特徴は、老人ホームでの死者の数が多いことである。これは、ただでさえ高齢者の死亡率が突出している中で、人材派遣会社から老人ホームに派遣された若い職員が、発症しないままに各地の複数の老人ホームで勤務したために、それだけ感染が拡大したと言われている。


(5)女性リーダーの国

 まずは、この感染者数(死者数)の統計を見ていただきたい。

第15位  ド イ ツ 197,523人 (9,023人)
第63位  デンマーク  12,832人 (  606人)
第69位  ノルウェー   8,930人 (  251人)
第77位  フィンランド  7,253人 (  329人)
第114位 アイスランド  1,863人 (   10人)
第123位 ニュージーランド1,534人 (   22人)
第125位 香  港     1,268人 (    7人)
第155位 台  湾       449人 (    7人)

 この8ヶ国は、次のように、いずれも女性リーダーの国である。

  ド イ ツ   (アンゲラ・メルケル首相)
  デンマーク   (メッテ・フレデリクセン首相)
  ノルウェー   (アーナ・ソールバルグ首相)
  フィンランド  (サンナ・マリン首相)
  アイスランド  (カトリーン・ヤコブスドッティル首相)
  ニュージーランド(ジャシンダ・アーダーン首相)
  香  港     (林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官)
  台  湾     (蔡英文総統)

 これを見ると、大国ドイツは、感染者数も死者数も絶対数は多いけれども、イギリス、フランス、イタリア、スペインなど他のヨーロッパ諸国と比べて死者数は3分の1から4分の1であり、なかなか健闘していると言えよう。

 デンマーク、ノルウェー、フィンランド等の北欧の国は、元々、人口が少ないが、それにしても死者数は低く押さえられている。隣国スウェーデン(男性首相)が、集団免疫の理論に固執して、感染者数71,419人、死者数5,420人を出していること(注)に比べれば、死者数が数百人にとどまっているのは、その徹底した感染対策が奏功したといえる。

 ニュージーランドに至っては、感染の初期に危険を察知して外国人の入国を早い段階でストップし、ロックダウンも行い、しかもアーダーン首相自らが自宅から国民に呼びかけて、安心感を与えた。そして先進国の中では最も早く経済の再開を行ったことが特記される。

 香港と台湾は、2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS:severe acute respiratory syndrome)のときの反省を生かして、今回はかなり早い段階で中国人の入国をストップして、被害を最小限に抑えている。

(注)スウェーデンの「ロックダウンせずに集団免疫がつくのを待つ」という独特の戦略は、あのトランプ大統領からも揶揄されている。

Despite reports to the contrary, Sweden is paying heavily for its decision not to lockdown. As of today, 2462 people have died there, a much higher number than the neighboring countries of Norway (207), Finland (206) or Denmark (443). The United States made the correct decision!
2020年4月30日20:45

(6)日本にもいた「コロナはただの風邪」

 7月5日は、東京都知事選挙の投票日である。その直前に街中を歩いていたところ、候補者のポスター掲示板があり、その中の一つのポスターに思わず目がとまった。それには、「コロナはただの風邪、コロナ騒動を作ったのはメディアと政府。マスク、ソーシャルディスタンス、3密を避ける、自粛は必要なし。新生活様式反対」とあった。

 ああやはり日本にも、トランプ大統領やボルソナロ大統領のような考え方をする人が実際にいるのかと驚いた。ただの風邪で、わずか5ヶ月の間に世界中で55万人も死ぬものか?

東京都知事選挙の候補者のポスター

(34は、7月5日記、8日追記。(2)【後日談】は10月3日追記。)


35.東京都で再び感染拡大、第2波か?

(1)東京都で第2波到来か?

 新型コロナウイルス緊急事態宣言は、4月7日に発出され、5月25日に解除された。東京都に限ってみると、感染者のピークは4月17日の206人で、その後漸減していって、5月23日には2人までになり、これで第1波は凌ぎきれたかに思えた。経済活動は次第に再開され、人出も徐々に戻ってきた。その一方、東京都の新宿や池袋等の「夜の繁華街」を中心に再び感染者が目立つようになり、7月2日から6日まで連続して100人を超すこととなった、そして、7月7日にはいったん75人となったものの、8日には224人、9日には243人と激増し、4月17日の以前のピークを軽く超えてしまった。こうなると、夜の街での限定感染というよりは、もはや市中感染が起こっているのではないかと危惧される。


東京都の感染者数推移



 このようにチャートで見ると、もはや感染の第2波が始まったように思えるが、政府と東京都の動きは鈍い。10日に西村大臣と東京都知事が会談して、PCR検査の強化と、繁華街のクラブなど接待を伴う飲食店での感染防止策を打ち出したくらいだ。理由は、「30代以下の感染者が7割を占めているほか、PCR検査は1日当たり3000件以上行われ、その陽性率も5%程度と、緊急事態宣言が出された4月に比べて大幅に低下している」という。

 しかし、これはどう見ても、対策を講じない理由を無理矢理ひねり出しているように思える。4月7日に緊急事態宣言を出した日の感染者数は87人で、今回はその時の3倍近いというのに、この危機感のなさは一体何なんだと思う。それどころか東京都は、6月30日に開いた対策本部会議で、従来の「東京アラート」という警告はやめて「新たにモニタリング項目を設けるが、それには都民に警戒を呼びかける基準となる数値は設けない。」ということにした。もはや全く諦めて放置体制に入ったかに見える。


東京都の新たなモニタリング項目



 勘ぐれば、これ以上の強い措置を打ち出せば、ただでさえ冷え込んでいる経済を更に冷え込ませて壊滅的な打撃を与えかねないことを危惧したのだと思われる。尾身茂分科会座長などは「自粛をこれ以上続けると経済活動が持たなくなり、国民が付いて来られない。」などど正直に述べている。加えて東京都などは、自粛要請に応じた事業者への協力金の支払いなどに財政調整基金の95%もの財源を使い果たして、もはやほとんど枯渇しているという状態に陥っているからだろう。しかも、当面の課題であった東京都知事選挙が終わって現職が再選されたことから、もはや都民に感染防止をアピールしたり、協力金を配って甘い顔をしたりする必要はさらさらない。これからは、対策を行っている「フリ」をして、積極的放置策をとるのではないかと思われる。

 アメリカ、ブラジル、インド、イランなどでは、一向に感染が収まっていないときに、冷え込む経済に耐えきれなくて外出や営業を再開し、以前にも増す感染の拡大を引き起こしている。日本も、同じ間違いをおかそうとしているのか、この数日間の状況に注目する必要がある。ただ幸いなことに感染爆発の兆候があるのは、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県といった首都圏に限られており、未だ全国的規模ではないことが唯一の救いだ。

(2)トルコの例から見た感染対策と経済の両立

 新型コロナウイルスの脅威の一方で、経済活動を如何に維持するかが世界共通の課題となっている。人命は地球より重しと言っても、毎日の暮らしが成り立たないのでは何ともならない。

 トルコについて、興味深い記事があった。「中東のトルコは当初からはっきりと経済を重視し、21歳から64歳までの生産年齢層を外出制限の対象から外し・・・外出禁止令の対象を65歳以上と20歳以下だけに限り・・・社会を支える働き盛りの世代に対しては、外出の自粛要請にとどめた。」(朝日新聞ポッドキャスト7月11日付け)

 それでどうなったかというと、トルコの新型コロナウイルス患者数は世界第15位の210,965人、死者数は5,323人である。患者数に占める死者数の割合は、わずか2.5%である。同時期の近隣国イギリス(患者数第8位)が15.5%、イタリア(患者数第13位)が14.3%であることに比べれば、はるかに低い。アメリカ(患者数第1位)の4.2%に比べても、半分にとどまる。その大きな要因は、生産年齢人口の新型コロナウイルスによる死亡率が低いことである。

 既に見た通り、日本での統計では、全体の死亡率が1.6%であるのに対し、29歳以下は0%、30〜59歳以下は0.1%からせいぜい0.4%と低くなっている。ところが60〜69歳は1.5%、70〜79歳は5.6%、80歳以上は11.9%と年齢が上がるにつれて死亡率も大きく上がっていく。トルコの年齢別死者数の統計はないが、もし日本と同じ傾向で生産年齢層の死者が非常に少ないのなら、この結果は納得できる。

 そうすると、日本ではこれから第2波が来るとして、とりわけ60歳以上の人には外出自粛を求め、それ以外の生産年齢の人には、これまでと変わらない経済活動を続けてもらうというのも、感染の脅威防止と経済活動の維持の両立を図るひとつの手かもしれないと思われる。

 もちろんその場合は、医療崩壊が起こらないように、患者数の増加と病院のキャパシティとの両にらみの微妙な調整が必要であるが、場合によっては軽症患者用の隔離施設の活用などを図りながら、何とか対応していけないわけでもないと考える。


(35は、7月11日記)
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