新型コロナウイルス緊急事態宣言 (第3部)
19.世界の感染者数と死亡者数の考察

(1) さてここで、全世界の新型コロナウイルスの感染者数と死亡者数の統計(5月20日現在)を見てみよう。次の表は、ニューヨーク・タイムズのもので、流行期まで分かる。これによると、アメリカとヨーロッパ主要国が軒並み酷くやられている。中でもアメリカは、感染者が153万人、死亡者が9万人と、目も当てられない状況だ。その一方、最初の発生地である中国は武漢の都市封鎖で完全に制圧したかのように見える。世上、押さえ込みに成功したとの評判が高い韓国と台湾の死者が非常に少ない。韓国は263人、台湾に至っては(余りに少ないことからこの表には載らないが)、わずか7人だ。それにどういうわけか自粛要請が奏効した日本は韓国と台湾に近く、感染者数は1万7千人、死亡者数は778人だ。


世界の感染者数、ニューヨークタイムス5月20日


 人口10万人当たりの感染者数は、アメリカやスペインは500人弱、イギリスやイタリアは375人程度、ドイツやフランスは210人強である。これに対し、韓国は22人、日本では13人、中国ではたった6人と、大きな差がある。同じく人口10万人当たりの死亡者数は、アメリカでは28人、イギリス、スペイン、イタリアでは50人台、フランスでは42人、ドイツでは10人である。それに対して、日本、中国、韓国では1に満たない。

 概して、感染者数と死亡者数が欧米主要国ではとてつもなく多いのに、東アジア諸国の日本、中国、韓国ではそれほどでもない。これは一体なぜだろうという素朴な疑問が浮かぶ。特に日本の場合は、強制措置を伴う都市封鎖(ロックダウン)ではなく、外出自粛などの弱い措置だったのに、なぜ被害を最小にとどめたのか、外国メディアでは「不可解な謎」、「ラッキーなだけなのか、政策が優れていたからなのか」と表現する向きもある(注)。

(注)5月26日付けの朝日新聞は、次のように報じている。

 「 新型コロナウイルスを抑え込んだかに見える日本の状況を、海外メディアは驚きと共に伝えている。強制力のない外出自粛やPCR検査数の少なさにもかかわらず、日本で感染が広がらなかったことに注目し、「不可解な謎」「成功物語」などと報じている。

 米誌フォーリン・ポリシーは日本の新型コロナ対策について「何から何まで間違っているように思える」と指摘した上で、それでも現状は「不思議なことに、全てがいい方向に向かっているように見える」と伝えた。「日本がラッキーなだけなのか。それとも優れた政策の成果なのか、見極めるのは難しい」との見方も示した。

 「不可解な謎」と題した記事を配信したのは、オーストラリアの公共放送ABCだ。公共交通機関の混雑ぶりや高齢者人口の多さ、罰則を伴わない緊急事態宣言を「大惨事を招くためのレシピのようだった」と表現。「日本は次のイタリアかニューヨークとなる可能性があった」と指摘した。

 海外ではこれまで、英BBCが「ドイツや韓国と比べると、日本の検査件数はゼロを一つ付け忘れているように見える」と報じるなど、日本のPCR検査数の少なさを疑問視する報道が相次いでいた。米ブルームバーグ通信はこの点について、「第1波をかわしたのは本当に幸運」「(第2波が来る前に)検査を1日10万件できるように準備しなくてはならない」という専門家の話をまとめた。

 英ガーディアン紙は「大惨事目前の状況から成功物語へ」とのタイトルで、日本人の生活習慣が感染拡大を防いだとの見方を伝えた。マスクを着用する習慣▽あいさつで握手やハグよりお辞儀をする習慣▽高い衛生意識▽家に靴をぬいで入る習慣などが、「日本の感染者数の少なさの要因として挙げられる」と指摘している。」



 先ほどの「全世界の新型コロナウイルスの感染者数と死亡者数の統計」の表の話に戻りたい。もちろんこの統計は、いい加減なものである。まず、感染者数はPCR検査をどれだけ、またどんな方法で確認しているかで月とスッポンの差があるから、当てにならない。日本では、当初から5月7日まで「37.5度以上の熱が4日続くこと」などという現実離れした基準を作って意図的に検査をサボって多くの国民に迷惑をかけたほどだ。検査そのものも、日本の専門家に言わせれば検体を取るのに技術が要り、検査にも熟練が必要というから、もしそれが本当なら他の国はどうやってこの感染者数を出しているのか、疑問だらけである。

 他方、死亡者数はまだ信頼できる気がするが、それも、陽性をちゃんと確認した人たちから出た死者なのか、それとも陽性を確認しないまま医師が症状から判断した死者数を新型コロナウイルスによる死者数としているのか、その厳密さが国によって異なる。その他、イギリスなどは途中まで介護施設での死者数をカウントしていなかったほどだ。それに、日本では、町で行き倒れた死者にたまたまPCR検査をしたら陽性だったというケースも散見されたので、本当に新型コロナウイルスで死んだ人の数は、もっと多いはずだ。これを正確な数字とするために例年同時期のトレンドと比べて超過死亡者数がどれだけあるかと調べていくアプローチもあるが、もちろんそれも推計に過ぎない。

(2) そういうわけで、いい加減な統計に基づいてあれこれ考えをめぐらすのもどうかとは思うが、でもこれしかないのだから、仕方がない。まずこの表から思うのは、なぜ、欧米諸国では多くの人が死んでいるのに、日中韓の東アジア諸国では死者の数が桁違いに少ないのだろうかということである。遺伝学的な差異か、社会的な違いか、それとも環境が異なるからか、これからの科学的な解明が待たれる。でも、現段階で、これを説明するアプローチとして、人種的な差、政治体制の差、人口構成の差、医療機関の差、基礎疾患や体型の差、社会的習慣の差、BCG仮説、感染源対策と国民意識の差などがある。ただ、いずれもごく一部しか説明することができない。

人種的な差

 要は遺伝子レベルの差異で、調べようと思ったらこれはもう人種別にDNAを比較するほかない。そのうち緊急事態が去ってよほど暇になったらやればよいが、何もこの時期に取り組む課題ではないだろう。それよりも、新型コロナウイルスに取りつかれたときに、8割の人が無症状である一方、直前まで普通だったのに、突然に重症化し、あるいは死に至ることがあると報告されている。どういう遺伝子の違いがあると、そうなるのかということをDNAレベルで調べた方が良さそうだ。(注)

 その有力な候補として、ヒト白血球抗原(HLA)を調べるプロジェクトが発足したそうだ。これは、免疫反応をつかさどる司令塔の役割を果たす血液中の因子で、これを重症化した患者と無症状の患者とで比べて特有の遺伝子を見つけるというもので、同じ調査研究を諸外国で行って比較すれば、因子をあぶりだすことができる。これが上手くいけば、あらかじめ血液検査で重症化の危険性を把握して、感染した場合に備えることができるし、創薬にも役立てることが可能となる。

(注)5月28日、NHKは、次のように報じている。

 「アメリカの民間の調査団体によりますと、今月26日の時点で、全米の40州と首都ワシントンでは、人口10万人当たりの死者は、白人が22人、アジア系が24人、ヒスパニック系が24人であるのに対し、黒人が54人と、ほかの人種と比べて黒人の死亡率が2倍以上になっています。

 また、感染がもっとも深刻なニューヨーク市が発表した調査によりますと、人口10万人当たりの死者数は、アジア系が100人、白人が106人なのに対し、黒人は214人、ヒスパニック系は225人と黒人やヒスパニック系の死亡率が白人の2倍に上っています。」


 ということは、アジア系の死者数は白人とほぼ同じだ。つまり、欧米諸国の国民と東アジア諸国の国民との間には、新型コロナウイルスに対する免疫力の人種的な差はないことになる。イタリアやスペインなどで起こった医療崩壊は、日本でも容易に起こりうるということだ。そうすると、彼我の死亡率の差は、/夕鐡な差に求めることはできず、次の以下の理由に求めざるを得ないものと思われる。



政治体制の差

 これは、西側の自由主義国家と旧東側の一党独裁制国家の比較である。中国が感染者数8万9千人、死亡者数4千人台にとどまっているというのは、まさにそれだと思うが、「こんなに少ないわけがないだろう、正しい数字を隠している。」と言われている。その一方、ロシアが感染者数29万人とヨーロッパ主要国並みなのに死亡者数は2千8百人と、これら主要国の10分の1になっている。しかし、これは中国と同じで、政治的に介入された結果、統計が歪められたと思っている人が多い。

 逆にシンガポールの感染者数2万8千人に対して、死亡者数はわずか22人というのは、どう解釈すべきか。これは非常に少ないと思いがちだが、実はシンガポールは当初からその警察力を駆使して街灯のカメラを使ったり、スマートフォンのアプリを通じて濃厚接触者を追うなどして、感染の押さえ込みに成功したと考えられていた。事実、感染者の数はずーっと千人台に押さえられていた。ところが、つい最近になって居住環境が悪い外国人建築労働者の間で急速に蔓延するようになった。この人たちはまだ若いので、幸い今の段階では死亡するには至っていないからだと思われる。

人口構成の差

 ところで、人口構成の差は、死亡者の数を各国比較をする上で大事な要素である。4月17日の少し古い統計ではあるが、新型コロナウイルスに感染した日本人9027人のうち、死亡率は、全体で1.6%だが、30歳代0.2%、40歳代0.1%、50歳代0.4%、60歳代1.5%、70歳代5.6%、80歳以上11.19%と、高齢者になるほど死亡率が上がっている。ということは、国民の人口構成が若いほど死亡者の数が少ないことを意味する。これは、諸外国でも同じ傾向にある。2月17日の古い統計だが、中国では、30歳代までは0.2%、60歳代は3.6%、70歳代は8%、90歳代は15%となっていた。

 感染者数が5万9千人のサウジアラビアは、若い世代が多いから、死亡者数が329人と少ないのかもしれない。もっとも、別の見方をすれば、この国も外国人労働者が多いので、さきほどのシンガポールと同じタイプなのかもしれない。マレーシアも若者主体の人口構成であるし、医療もそれなりに整っているから、感染者数6千百人、死亡者数114人となっている。

 その割には、高齢化社会である日本が、感染者数1万7千人、死亡者数718人に抑えているというのは、なかなか頑張っている数字ではないかと思われる。これは、次に述べる医療機関の数や優秀さのおかげなのかもしれない。

医療機関の差

 未だ有効な薬やワクチンがない中で、これだけ猛威を振るう強烈な感染症に対抗するには、優秀な医療機関で適切な処置を受ける必要がある。ところが、そういう環境にない国や人々では、死につながりやすい。アメリカでは、所得が低くて簡単には医療を受けられない黒人などの死亡率が高いといわれている。

 また、ヨーロッパ主要国では、あまりに短期間で急速に流行したため、イタリア、スペイン、フランス、イギリスでは、患者が病院に次々に運び込まれた。ところが、ベッド数が足りないものだから廊下にそのまま放置され、そこで亡くなることも多々あったという。これが「医療崩壊」というもので、今回の流行の当初に中国湖北省武漢で起こった悪夢を再度見ているような気がした。その点、ドイツは、患者数は他の近隣主要国並みなのに、ICU(集中治療室)と人工呼吸器などの施設設備や治療看護体制を十分に用意したので、医療崩壊は起こらず、その結果、ドイツの死亡者数は8千人と、他のヨーロッパ主要国の3万人程度と比べて4分の1程度になっている(しかし、それでも日本の死亡者数778人の10倍だ!)。

基礎疾患や体型の差

 新型コロナウイルスでは、経験的にみて、糖尿病、心血管疾患、慢性肺疾患、喫煙による慢性閉塞性肺疾患、免疫抑制状態等の基礎疾患のある患者とともに、高齢者、肥満、喫煙者が重症化しやすいというのは、ほぼ定説となりつつある。こうした患者や高齢者や喫煙者は、危ないだろうなということは、薄々わかる。ところが、肥満体の人がなぜ重症化するのか、まだよく分からない。

 そう言えば、欧米主要国には、本当に肥満体が多い。それも、小錦レベルのもの凄い肥満体である。現地で地下鉄に乗ったり、レストランに入ったりしたときの実感では、4割近い人が肥満だ。しかも不自然に太っている。よくあれで歩けるなぁと思うほどだ。こういう人々は、東アジア諸国では、まず見かけない。

 だから、新型コロナウイルスがこのような肥満体の人に取り付いたら重症化しやすいというのなら、死亡者数の彼我の差は、ある程度、説明できそうだ。

社会的習慣の差

 ヨーロッパでは、特にイタリアで最初の感染爆発が起こった。イタリアでは、握手は言うに及ばず、さほど親しい間柄ではないと思われるのにハグしたりキスしたりと、人と人との接触が非常に密接である。かつて私の一家がイタリアに行った時、娘がまだ小さくて(それなりに)可愛かったせいか、あちこちでキスをされそうになり、娘は嫌がって逃げ回ったほどである。

 また、イタリアでは家族の間柄が非常に密接なので、週に一度は祖父母の家に集まって皆で食事をするという習慣があるが、実はこれが裏目に出て、新型コロナウイルスが一気に蔓延してしまった。それに対して、日本人は挨拶と言えばお辞儀だから、握手、キス、ハグのような肉体的接触を伴う挨拶はない。これも感染予防に大いに役立っているのかもしれない。

 それに、なんと言ってもマスクの効果は無視出来ない。水野康孝医師のおっしゃるように、マスクにはウイルスの侵入を防ぐ効果はないかもしれないが、自分が感染者の場合に周りの人にウイルスを感染させないためにはマスクが実に効果的である。ということで、日本にはマスクを着用する習慣があり、人々は自然にそれを受け入れている。それだけでなく、たまたま2月から4月にかけては花粉症の季節だったので、日本人の2割とも3割とも言われる花粉症の方は、ごく自然にマスクをしていた。だから、この新型コロナウイルスの話を聞いただけで、ほとんどの人がマスクを着用するようになった。

 これに対して、欧米では、新型コロナウイルスの流行前は、マスクをするのは(潔癖症などの)よほどの変人か、あるいは本当に具合の悪い病人かというのが常識だったので、マスク着用が遅れたものと考えられている。

BCG仮説

 このほか、結核を予防するBCGワクチンが新型コロナウイルスに有効だったのではないかという仮説がある。結核と新型コロナウイルスとは全く無関係だが、しかしBCGワクチンは一般に免疫作用を促進するので、新型コロナウイルスにも効くというのである。なぜそういう説が出てきたかというと、日本、中国、韓国はBCGワクチンの定期接種国であるのに対して、感染爆発が酷いアメリカやイタリアは、定期接種国ではないからではないかというのである。ただ、この説は検証されていない。それどころか、イスラエルでBCGワクチンを受けた群とそうでない群を比較してみたところ、有意な差はなかったという報告があるそうだ。

 なお、BCG仮説を検証するため、ドイツでは、遺伝子組み換え技術を利用した新型BCGワクチン「VPM1002」ならば効くのではないかと考えて、5月に入って、新型コロナウイルスに対する免疫反応を強化するかどうかの臨床試験が始まっている。

感染源対策と国民意識の差

 日本では、流行の当初から、保健所が「濃厚接触者の調査」をしっかりと行い、感染源の追跡を行ってきた。これは、中国、韓国、シンガポールなどで行っている最新のGPS、クレジットカード利用履歴、防犯カメラなどのハイテクによる追跡と比べて、アナログそのものである。しかし、流行の当初はかなり有効で、その拡大防止にとても役立ったと言われている。ただ、感染規模が大きくなると、とても追いつかなくなった。これからは、やはりハイテクによる追跡を導入せざるを得ないだろう。

 もうひとつは、いわゆる「三密(密閉、密集、密接)すなわち(〔閉空間(換気の悪い密閉空間である)、¬集場所(多くの人が密集している)、L接場面(互いに手を伸ばしたら届く距離での会話や発声が行われる))」という感染対策のスローガンで、今回の新型コロナウイルスのような特徴の感染症対策には、非常に有効であった。

 最後に、日本では2月初頭のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」で起こった集団感染事件で、新型コロナウイルスとはこれほどまでに恐ろしいものかという記憶が国民に刻まれた。だから、日本で流行が始まり、(罰則を伴う強制的な都市封鎖ではなく)色々と自粛が呼びかけられたときに、国民が進んで協力しようという意識が自然に生まれたのではないかと考えている。法律による緊急事態宣言は4月7日と出遅れたが、結果的には上手く押さえ込んだと思われる。ただし、これはあくまでも第1波に過ぎないから、手放しで喜ぶにはまだ早い。

(19の,らГ泙任錬儀遑横夏、┐錬横菊記)


20.閑話休題

(1)ナイトクラブの新型コロナ対策

 今回の緊急事態宣言は、旅行、観光、小売、レストラン、製造業などの幅広い業種に大きな影響を与えた。東京都は、5月25日に緊急事態宣言が解除されてもステップ3として、クラスターが発生したことがある「接待を伴う飲食店等、カラオケ、ライブハウス、スポーツジム」については引き続き自粛要請を継続する姿勢である。

 先日、NHKテレビを見ていたら、団体「日本水商売協会」というものがあって、妙齢の女性たちが記者会見を開いていた。それにしても、そのものズバリの単刀直入な名前だなぁと思って見ていたら、何とこれが一般社団法人なのだそうだ。ひと昔前だと、とても認可されなかったと思うので、これにはビックリした。これも、社団法人改革の「成果」なのだろう。この法人は、東京都内のナイトクラブやキャバクラ店で働く女性たちによって構成されているそうで、今回の自粛要請により生活が厳しいと訴えている。

 それには同情を禁じ得ないが、「経営が厳しく休業要請の解除を待たずに営業を再開する店もあるとみて、専門家の監修を受け、独自に感染対策のガイドラインを作成した。」というのは、いただけない・・・それはいわゆる自粛破りではないか・・・。それに、あまり早まって営業を再開して、先日の韓国のナイトクラブでの206人もの集団感染のように、万が一、クラスターが発生したら、誰も来なくなるのではないだろうか。

 ところでそのガイドラインを見たところ、例えば、.泪好着用。飲み物を飲む時以外は外さない。検温による入店規制体温計(非接触型が好ましいが、接触型の場合、人ごとにアルコール消毒)、4鏡拡大大国からの入国後14日以上経過していない方の入店規制、ぅ宗璽轡礇襯妊スタンス(キャストとお客様のペアごとに1卓分あけて着席)、イ任れば、接客のキャストはチェンジなしの固定(接触者をできるだけ減らす目的)などとある。

 いずれも、まあ常識的な内容だが、ナイトクラブで女性がマスク姿というのは、これで商売が成り立つのかという気がする。マスク姿でお相手ができるのか、せめて透明なフェイスシールドにすべきではないか・・・ちょっと余計なことかな・・・などと思っていたら、記者会見に出たキャバクラ店の経営に関わる女性が、このように話していた。「やむをえなく営業する場合でもマスクを外すわけにはいきません。いつかマスクを外して『こういう感じの女性だったのか』という日が来るのを楽しみにしてもらいたいです」と。なるほど、ものは言いようだ・・・夜目、遠目、傘の内、そしてマスクの中か・・・しかし、そう上手くいくだろうか。ともあれ、ポスト・コロナの時代には、夜の世界も容易には立ち直れないほどの打撃を被りそうだ。


(2)トランプ大統領が抗マラリア薬を摂取

 5月18日のトランプ大統領の記者会見をテレビで見ていて、驚いてしまった。トランプ大統領は、「(抗マラリア薬の)ヒドロキシクロロキンを2週間ほど前から飲んでいる。いろいろと良い効果があると聞いているから。問題ない。まだ、ここに、こうしている。」と述べたのである。

 確かに、新型コロナウイルスについては、治療薬を新規に開発する時間的余裕がないため、既存の薬で効果のあるものはないかと世界各国で探索が続いている。ヒドロキシクロロキンもその一つで、もしかすると効果があるかもしれないということが言われている段階に過ぎない。そんな海のものとも山のものともわからない段階のものを、事もあろうにアメリカ大統領たる者が、何の科学的検証もせずに飲むものか、これは常識というものだ。こんな人が、核大国として核爆弾の鍵を握っていて、大丈夫なものだろうかと思ってしまう。

 ちなみに、この報道があったその直後の23日、BBCによると、「英医学誌ランセットは、ヒドロキシクロロキンを新型コロナウイルスの患者に投与しても、治療効果は見られなかった」と報じている。それどころか、「投与された患者は入院中に死亡する確率が高く、心拍異常がみられた」という。世界保健機構(WHO)も、新型コロナウイルス治療にヒドロキシクロロキンの使用を推奨する臨床結果は一つもないと表明している。

(3)作りすぎた人工呼吸器の処分先

 笑い話のようだが、安倍首相がトランプ大統領と電話で連絡を取り合ったとき、大統領から「アメリカで作りすぎた人工呼吸器を引き取ってくれ」と頼まれたそうだ。アメリカでは、GMなどの異業種の企業に対し、戦時の法律を適用して「人工呼吸器を作れ」という大統領令を出して大いに作らせたのだが、感染の進行が一段落してそれが大きく余ってきたとのこと。日本側は、「足りているから・・・」と言ったのだけど、最終的には引き取ると約束したという。

(20(1)と(2)は5月25日、(3)は同31日記)



21.専門家による緊急事態対応の総括

(1)5月29日の専門家会議

 日本では、5月25日に緊急事態終了宣言が行われ、これで日本はとりあえず新型コロナウイルスの第1波を凌ぐことができたといってよいと考えられる。それでは、日本の専門家はこれについてどう考えているのか、5月29日の専門家会議の資料を読んでみた。これは、日本が講じてきた対策を総括するもので、そのさわりの部分は、次の通りである。

 (1−1) 現時点において、欧米の先進諸国などと比較して感染者数・死亡者数が低水準であることの主な理由として、

  々駝嘘保険制度による医療へのアクセスが良いこと、公私を問わず医療機関が充実し、地方においても医療レベルが高いこと等により、流行初期の頃から感染者を早く探知できたこと、
 ◆〜換颪棒鞍された保健所を中心とした地域の公衆衛生水準が高いこと
  市民の衛生意識の高さや元々の生活習慣の違い、及び、政府等からの行動変容の要請に対する協力の度合いが高かったこと
 ぁ.瀬ぅ筌皀鵐疋廛螢鵐札更罎悗梁弍の経験が活かされたこと
 ァゞ杁淹態宣言やその前からの自主的な取組の効果によって、新規感染の抑制がなされたことなどが挙げられる。

(注) 台湾は、2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)対応の際に、医療関係者を中心に数百人の感染者と70人以上の死者を出した反省と教訓があったほか、 _そEからの人々の移入の規模が台湾の方が少なかったこと 台湾の方がより早く水際対策による対応(2月6日に中国全土からの入国を禁止、3月19日からはすべての外国人の入国を禁止)を講じたこと。これに対し、日本では、2月1日に中国湖北省からの入国を禁止したが、イタリアの全域、ドイツ、フランス等欧州の大部分の入国を禁止したの は3月27日、米国や英国、中国全域等からの入国禁止は4月3日からであったことなどが要因として挙げられる。


 (1−2) これらに加えて、我が国が実行したクラスター対策の取組が感染拡大を抑える上で効果的であった。クラスター対策とは、積極的疫学調査を実施することで、クラスター感染(集団感染)発生の端緒(感染源等)を捉え、早急に対策を講ずることにより感染拡大を遅らせたり、最小化させたりするためのものである。我が国では、「効果的なクラスター対策」の実施によって、次のような効果が得られたと考えられる。

  .ラスターの連鎖による大規模感染拡大を未然に防止できた。
 ◆―藉の積極的疫学調査から多くのクラスターを見つけ、それに共通する「3密」の場や、歌うこと・大声で話すこと、といった特徴を指摘することができた。これにより、クラスター感染(集団感染)が生じやすい環境をできるだけ回避するための対応策を市民に訴えることができた。
  クラスターを中心とした感染者ごとのつながり(リンク)を追うことにより、地域ごとの流行状況をより正確に推計することができていた。つまり、リンクが追えない「孤発例」が増加することは地域で感染拡大を示すものと判断することができ、地域での早期の対応強化につながった。


 要は、国民皆保険制度による医療へのアクセスが良いこと、全国に整備された保健所による公衆衛生水準が高いこと、クラスター対策が功を奏したことなどを指摘している。いささか自画自賛的で、本当かという気がしないでもないが、一面は真実なのだろうと思う。それにしても、これだけITやAIが発達した世の中だというのに、クラスター対策のごとき100年前の古い手法がそのまま役に立つとは、何ともはや、面白いことである。

 ちなみに、この専門家会議は、次なる波に備えるため、以下のようなモニタリング体制の整備、医療提供体制の整備、保健所の強化などを提案している。感染の中休みのような今、こうした対策を着実に準備しておくことが大切である。


モニタリング体制の整備、医療提供体制の整備、保健所の強化などを提案

モニタリング体制の整備

各種検査方法の比較

医療提供体制の整備、

保健所の強化など

治療法の開発




(2)お隣の韓国は、携帯電話、クレジットカード、防犯カメラなどを通じて新型コロナウイルス感染者と濃厚接触者を徹底的に追跡することにより、感染拡大を4月中の早い段階で押さえ込んだとして、国際的に評判が高い。ところがそれでも、第1波の感染が沈静化して約1か月後の5月6日、ソウルの梨泰院(イテウォン)と江南(カンナム)にある複数の風俗店で集団感染が発生した。中でも、クラブ・キングという性的マイノリティが集うクラブでは、20歳代のたった1人の感染者(スーパー・スプレッダー)から290を超える人に感染が拡大し、7次感染と認められる例があったという。ところが、そういう場所であるために身元が知られないよう携帯電話の電源を切っていたりしたことから、韓国得意のITを活用した追跡が難しかったとのことだ。

 また、日本でも北九州市は約1ヶ月ほど感染者の発生はなかったが、突然、感染が確認されるようになり、5月31日現在、この9日間で91人がPCR検査で陽性となった。しかもそのうち、34人について、感染経路が不明である。これについて北九州市長は、「第2波の感染の真っ只中にある」と語っている。

 これはまだ一地方都市の出来事に過ぎないが、私は、遅くとも今年の秋にも、全国的に感染が再び拡がる第2波に襲われるという気がしてならない。よほどの幸運が重ならない限り、全世界の人々に打つワクチンの開発には少なくとも3年から4年はかかるだろうから、それまではロックダウンや外出自粛のような措置で対応するほかない。もちろん、来年の東京2020オリンピックも、かなり危ないと思っている。そうした中、一庶民としては、感染防止のための「新しい生活様式」に慣れ、何とか罹患しないようにやっていくしかない。




22.診療の手引き

 厚生労働省が、「新型コロナウイルス感染症 診療の手引き(第2版)」を公開したので、それでこの病気の特徴を勉強させてもらっている。

(1)伝播様式

 【感染経路】 飛沫感染が主体と考えられ、換気の悪い環境では、咳やくしゃみなどがなくても感染すると考えられる。また、接触感染もあると考えられる。有症者が感染伝播の主体であるが、無症状病原体保有者からの感染リスクもある。

 【潜伏期・感染可能期間】 潜伏期は1〜14日間であり,曝露から5日程度で発症することが多い(WHO)。発症時から感染性が高いことは市中感染の原因となっており、SARS や MERS と異なる特徴である。感染可能期間は、発症2日前から発症後7〜14日間程度(積極的疫学調査では隔離されるまで)と考えられる。SARS-CoV-2 は上気道と下気道で増殖していると考えられ、重症例ではウイルス量が多く、排泄期間も長い傾向にある。発症から3〜4週間、病原体遺伝子が検出されることはまれでない。なお、血液、尿、便から感染性のある SARS-CoV-2 を検出することはまれである。

(2)臨 床 像

 多くの症例で発熱、呼吸器症(咳嗽、咽頭痛、鼻汁、鼻閉など)、頭痛、倦怠感などがみられる。下痢や嘔吐などの消化器症状の頻度は多くの報告で10%未満であり、SARS や MERS よりも少ないと考えられる。初期症状はインフルエンザや感冒に似ており、この時期にこれらとCOVID-19を区別することは困難である。嗅覚障害、味覚障害を訴える患者さんが多いことも分かってきた。イタリアからの報告によると約3割の患者で嗅覚異常または味覚異常があり、特に若年者、女性に多い。中国では発症から医療機関受診までの期間は約5日、入院までの期間は約7日と報告されており、症例によっては発症から1週間程度で重症化してくるものと考えられる。さらに重症化する事例では10日目以降に集中治療室に入室という経過をたどる傾向がある。

 【重症化のリスク因子】 高齢者、基礎疾患(糖尿病・心不全・慢性呼吸器疾患・高血圧・がん)、喫煙歴のある患者では、致死率が高い。

 【合 併 症】 若年患者であっても脳梗塞を起こした事例が報告されており、血栓症を合併する可能性が指摘されている。また、軽症患者として経過観察中に突然死を起こすことがあり、これも血栓症との関連が示唆される。小児では、川崎病様の症状を呈する事例もあることが欧米から報告されている。


新型コロナウイルス感染症の経過

年齢別にみた新型コロナウイルス感染症の致死率


(21・22は、6月1日記)


23.東京アラート初の発令

 東京都は、新型コロナウイルスによる休業の自粛要請を緩めていく計画を予め「ロードマップ」として示し、その中で3段階で緩和することとし、その施設の種類を5月26日に公表していた。同日からの緊急事態宣言の解除を受け、まずステップ1として、博物館や図書館への自粛要請を解除した。感染状況が落ち着いてきたことから、当初の予定に沿って6月1日からステップ2に移行することを決定した。その中には、学習塾、スポーツジム、商業施設が含まれている(スポーツジムは、当初のステップ3から2になった。)。おかげで、私も今週から室内テニス場に通えることになり、本日3日から早速プレーをしに行ってみることにした。ところで、夜の歓楽街の接待を伴う飲食店やライブハウスは、ステップ3に位置づけられており、未だ解除されていない。

 そういうことで、やっと自粛要請が解除されたばかりだというのに、早くも6月2日には、感染者の数が1日で34人と、それまでの概ね1桁台から跳ね上がってしまった。このため「東京アラート」を初めて出すことを余儀なくされた。大阪府が解除した時に大阪のシンボルである通天閣をグリーンにライトアップしたのに向こうを張って、東京都では、新宿の東京都庁舎のみならず、お台場に繋がるレインボーブリッジを真っ赤に点灯した。

 ところでこの「東京アラート」、これが出されたからといってまた自粛要請に直ちに繋がるものではない。その時点で都民に警戒を呼び掛けるものに過ぎないが、気になるのは、これが既に感染者が出ている病院のほか、新宿などの夜の歓楽街を中心に出ていることである。とりわけ夜の歓楽街は、韓国の例を見るまでもなく、感染者の追跡が難しい。6月2日までの1週間で判明した新規の陽性者数合計114人のうち、夜の繁華街が感染源とみられるのは32人で、その3割近くを占める。その他の指標は、週単位で比較した陽性者数で、これは前週の2倍強である。また、直近7日間平均での感染経路不明率は50%となっている。


(注)東京アラート (東京都のHPより)

   崚豕アラート」は、都内の感染状況を都民の皆様に的確にお知らせし、警戒を呼び掛けるものです。
 ◆‥毀韻粒様は、夜の繁華街など、3密のリスクが高い場所には十分ご注意ください。
  手洗いの徹底とマスクの着用、ソーシャルディスタンスの確保、「3つの密」を避けた行動など、「新しい日常」を徹底して実践してください。
 ぁ〇業者の皆様には、都や各業界団体が策定するガイドライン等を踏まえて、適切な感染拡大防止対策の更なる徹底をお願いいたします。また、出勤に当たっては、テレワークや時差通勤の活用をお願いいたします。


検査陽性者の状況、新規患者に関する報告件数の推移

モニタリング指標(1)新規陽性者数

(2)新規陽性者における接触歴等不明率、(3)週単位の陽性者増加比

(4)重症患者数、(5)入院患者数

(6)PCR検査の陽性率、(7)受診相談窓口における相談件数



(23は、6月3日記)


24.大村知事が東京と大阪が医療崩壊と酷評

 愛知県の大村秀章知事は、記者会見で、「東京と大阪では医療崩壊が起きている」と何回も指摘している。もう、酷評といってよい。とりわけ5月11日の記者会見では「病院に入れないということと、それから救急を断るという、この二つはやっぱり医療崩壊ですよ。それが東京と大阪で起きているわけですから、それはですね、よその国の話ではないんですね。ですから、私はそれはですね、絶対に起こしちゃいかんと。起こしたらやっぱり負けだと思いますよ、僕は。行政としては負けですよ、それは。何をうまいこと言い繕ってもね、結果ですから。」などと述べていた。また、緊急事態宣言が解除された26日には特に首都圏や大阪圏について、「病院で受け入れ困難だった感染者数や救急件数などの情報公開と検証が必要とし、ひと山越えて目出たしではない。検証しないとまた同じことになる。」とも述べた。

 他の県のことまで失礼なことを言うものだと思っていたところ、その一方で大村知事は、「愛知県は入院やクラスターの状況を日々情報公開しているが、こういう対応をしているのは私たちだけだ。予想される第2波に備え、既存の施設を活用した新型コロナ専門病院を計画し、増床準備をしている。」などと語っているから、東京と大阪の状況を引き合いに、愛知県の対策を自画自賛しているもののようだ。

 案の定、そこまで貶された大阪府の吉村洋文知事は黙っていない。翌27日、ツイッターで、「大阪で医療崩壊は起きていません。何を根拠に言っているのか全く不明です。一生懸命、患者を治療する為、受け入れてくれた大阪の医療関係者に対しても失礼な話です。東京もそうですが。根拠のない意見を披露する前に、県は名古屋市ともう少しうまく連携したら? と思います」と投稿した(注)。

(注)この最後の名古屋市との連携部分には、笑ってしまった。大村知事は、河村たかし名古屋市長との間で、昨年の「あいちトリエンナーレ2019」を巡る紛争その他諸々の事件を抱えているので、その状況を大きく皮肉ったからである。

 すると更に翌28日に大村知事は、「私は公表されている厚生労働省の公表データや報道された内容をデータを元にしている・・・病院に入れていない、救急を断るという状況を医療崩壊。間違いなく東京と大阪はそういう状況にあった。事実関係を検証し、二度とそういうことがないようにやっていただくことが必要と申し上げている。もし違うというなら、データを持って、言わなければいけない。もっともっと事実関係を公表した上で、ものを言われたほうがいい。そうでなければただ単に言い訳をしてるだけにすぎない。」と述べた。同格の知事に対して、まるで学校の先生が生徒を諭すような調子で、かなり上から目線だ。

 もちろん、吉村知事は黙っていない。その当日、記者に対して「感染症が広がったとき、医療状態が逼迫したのは事実です。これは東京、大阪に限らずです。医療崩壊が起きて、きちんと看なければいけない人を看ることができていない状況ではない。なぜ、そういうことをおっしゃったのか、理解不能ですので、あんまり相手せんとこ」とまで言う。「相手にせんとこ」という大阪弁がこれまた面白い。

 吉村知事と同じ「日本維新の会」の松井一郎大阪市長もこの論戦に参入し、「救急受け入れを止めた病院はあるが、一般の重症患者さんは他の医療機関を受診してもらっただけだ。(大村知事は)愛知全体の危機管理をやればいい」と語った。一方、東京都の小池百合子知事は「ほかの自治体の方がどうおっしゃるのかについて、一つ一つお答えする気はない。東京に集中したい」と、大人の対応をみせた。

 そうこうしているうちに、話はどんどん大きくなり、6月2日、地元の美容外科院長の高須克弥氏が大村秀章知事の解職請求(リコール)運動を始めると発表した。理由は、昨年のあいちトリエンナーレと今年の新型コロナウイルスへの対応だという。報道によると、吉村知事も賛成、河村市長も応援の立場だそうだ。

 なお、愛知県の新型コロナウイルス感染症に関する問題とは、5月5日の午前中の45分間、県のウェブページ上に、県内発生事例1例目から495例目までの患者に関する非公開情報を誤って掲載した事件である。その誤って掲載した内容は、「患者の氏名、入院先医療機関、入院日、転院先医療機関、転院日、退院日、発生届提出保健所、クラスターの名称及び分類」というが、原資料そのものを掲載したため、中には「恋人」「愛人?」などという機微な人間関係にまで言及していた例もあったというから、穏やかでない。個人情報の漏洩もここに極まれりだ。愛知県も、他県のことをとやかく言う前に、まずは自らの足元を固めることが先決ではないか。


愛知県の新型コロナウイルス感染症に関する情報漏洩のお詫び



(24は、6月4日記)


カテゴリ:エッセイ | 23:07 | - | - | - |
新型コロナウイルス緊急事態宣言 (第2部)
13.新型コロナウイルスの伝播経路

 ここで、今回の新型コロナウイルスの由来に関する興味深い報告があったので、記録しておきたい。国立感染症研究所は、日本人の新型コロナウイルス感染者560人、世界の感染者4500人について、ウイルスのDNAを解析した。

 そうすると、新型コロナウイルスは、次の図の真ん中の武漢から端を発し、ダイヤモンドプリンセス号や初期の日本に伝播した。そして、北米西海岸にも伝わった。ところが、このウイルスの株の流行は、そこで一旦は終息したらしい。代わって猛威をふるったのは武漢から欧州へ飛んだウイルスの株で、欧州各地で暴れまわった後、北米東海岸に飛んで、ニューヨークなどで大惨事を引き起こした。と同時にそのウイルスの株は日本に伝わって、最近の流行をもたらした。つまり、最近3月から4月にかけての日本での流行は、3月に欧州から帰国した者によってもたらされたというのである。



国立感染症研究所による新型コロナウイルス伝播DNA解析(漢字と矢印は、筆者の追加)



 ちなみに、日本国内におけるウイルスの遺伝子的な特徴を調べた研究によると、令和2年1月から2月にかけて、中国武漢から日本国内に侵入した新型コロナウイルスは3月末から4月中旬に封じ込められた(第1波)一方で、その後欧米経由で侵入した新型コロナウイルスが日本国内に拡散したものと考えられている(第2波)。(5月14日付け官邸対策本部資料10頁)


(13は、4月28日記、5月14日追記)


14.決死の覚悟で病院へ

 ところで、この外出自粛の期間中、家内がどうしても病院に行く必要が生じてしまった。普段の持病の薬は、虎ノ門病院に電話してかかりつけの医師と話をさせてもらい、そこで処方箋を作成の上、自宅に送付したもらって、近くの薬局で入手することができたので、それは問題がなかった。ところが、連休の半ばに、家内が発熱したのである。37.2度くらいだから、大したことではないが、一瞬、新型コロナウイルスではないかとの疑念が頭をよぎる。家内は、私より若いが高齢者であることには違いなく、かつ持病があるので、高リスクだ。でも、症状をよくよく観察すると、風邪の症状は出ていないし、代わりに若干の腹痛を伴うので、これは2年前のこの同じ季節に罹ったあの病気ではないかと思い当たった。その時の記録を引っ張り出して読んでみると、やはりそうに違いないと確信した。

 弱ったことに、そうだとすると、病院に足を運んで抗生物質を処方してもらわないといけない。明後日から連休の後半が始まるから、明日5月1日の金曜日は最後のチャンスだ。もし病院に行かないまま連休中に悪化して救急車で運ばれても、熱があるので新型コロナウイルスと間違われて診察を受けられないというのでは困る。昨日は、救急車が搬送先の病院を探すのに50ヶ所も電話した事例があったそうだ。そうした状況は避けたい。ただ、明日に病院に行くのには間違いなく大きな危険を伴う。まるで、新型コロナウイルスの真っ只中に行くようなものだからだ。どうしたものかと思いながら、虎ノ門病院のウェブサイトを見る。すると、普段は午前8時半からの開院だが、午前8時から、全ての来院者に問診と体温測定を行うとして、次のような掲示があった。

 「緊急事態宣言の発令に伴い、新型コロナウイルス感染症対策のため、当院では全ての来院者に問診と体温測定を行うことになりました。問診、体温測定を行ってない方は院内へ入ることはできません。また、体温測定の結果37.5℃以上の発熱が確認された方・鼻水・のどの痛み・咳などの症状がある方は、当院にて症状に応じた診療を行うことにいたしますので、ご協力お願いいたします。」

 なるほど、病院の方もそれなりに警戒しているようだから、待合室で伝染るということはあまりなさそうだ。それではと、行くことに決めた。文字通り、必死の覚悟である。午前7時半に自宅を出なければならない。ただ、通勤時間に地下鉄を使うと危ないので、タクシーにした。そういうことで、当日は二人でタクシーに乗り込み、窓を開けて空気が流れるようにした。午前8時に病院に着いた。すると乗ったまま地下2階の入口に連れていかれて、そこで体温計を渡されて測り、問診票に記入させられた。問診票の問はありきたりのものだったが、最後の問にはビックリした。それは、「最近、永寿総合病院、慶応大学病院、墨東病院に行ったことはありますか。」というものだったからである。いずれも、院内感染が問題になっている病院だとはいえ、いささか露骨過ぎはしないか。

 そのスクリーニングが終わって、2階の受付に上がって行ったら、人が少ないのには驚いた。普段は高齢者でごった返しているというのに、空いていてガラガラだ。実感として4分の1ほどだ。それは待合室でも同じ。だから、予約外でも直ぐに診てもらえた。医師の診断は、やはり、2年前と同じ病気であった。抗生物質の処方箋をもらって、一件落着した。帰りは地下鉄で帰ってきたが、車内はガラガラだった。二人とも、新型コロナウイルスに罹っていないことを願おう。


15.緊急事態宣言の延長直前の状況

 4月30日の時点で、PCR検査で陽性とされた世界の新型コロナウイルス患者数(うち、死亡者数)の累積をみると(ジョンズ・ホプキンス大学まとめ)、次のようになっている。

世界合計  3,156,136人(227,705人)

 アメリカ 1,040,488人(60,999人)
 スペイン   236,899人(24,275人)
 イタリア   203,591人(27,682人)
 フランス   166,543人(24,121人)
 イギリス   166,441人(26,166人)
 ドイツ    161,539人( 6,467人)
 トルコ    117,589人( 3,081人)
 ロシア     99,399人(   972人)
 イラン     93,657人( 5,957人)
 中 国     83,644人( 4,637人)
 ..............................................
 シンガポール  15,641人(    14人)
 オーストリア  15,402人(   580人)
 チ リ     15,135人(   216人)
 日 本     13,965人(   425人)
 ベラルーシ   13,181人(    84人)

 これを見ると、日本は患者数にして29番目の国となっている。もっとも、日本ではPCR検査を十分に行われていないので見かけの患者数が少ないという批判があるのはその通りであるから、あまり大きなことは言えない。いずれにせよ、医療崩壊が起こったアメリカ、スペイン、イタリア、フランス、イギリスの死者数の多さは目を覆うばかりである。これから日本がこの道を通るのかどうかは、まだ分からない。

 他方、日本においては、4月30日は、8日の緊急事態宣言から約3週間が経過した日になる。そこで、5月1日午前10時半現在の都道府県の患者数を見ると、次の通りである。(NHK調べ)


都道府県の患者数




 これによると、東京都の患者数が4,152人と、全体の3割を占めている。その東京都の日毎の患者数の推移を見ると、次のように、4月17日にピークに達した後、漸減傾向にある。やはり、外出自粛と施設使用制限の効果が現れていることは、明らかである。ただ、まだ46人という高水準である。仮にこれが、1日に1桁の数人というレベルにまで落ちれば、とりあえずは安心ということになるのだが、それが何時になるかは全く見通せない。いずれにせよ、当初の緊急事態宣言の期限である5月7日にはとても間に合いそうにないから、その延長は間違いないという状況になっている。

 3月31日  78人
 4月 5日 143人
 4月11日 197人
 4月17日 217人
 4月24日 161人
 4月28日 112人
 4月30日  46人


東京都の患者数




 ところで、緊急事態宣言が出てからの動きをいくつか記録しておきたい。政府の専門家会議の方針は、人出の8割削減を目標としている。東京都であれば大手町、丸の内、新宿、銀座、渋谷などの繁華街においては、確かにこの目標は、ほぼ達成できている。ところが、問題は、住宅地近くの商店街や公園については、かえって人通りが増えてしまっていることで、例えば、戸越銀座商店街、巣鴨商店街、駒沢公園、砧公園などだ。これは、在宅勤務の人達が飽きて繰り出したものと考えられる。次に、湘南や鎌倉、沖縄などに観光客が押し寄せることで、これも都会のウイルスを観光地に撒き散らすことになるので、各自治体の首長が「来ないでほしい」と呼び掛けている。常日頃とは全く反対なので、皮肉なものだ。

 パチンコ屋の営業も問題となっている。これは、もちろん施設の使用停止要請の対象として明示されているが、東京都では、これに応じずに引き続き営業をしていた店が10軒あった。これに対し、新型インフルエンザ対策特別措置法第45条第2項に基づいてもう一度要請をして、それでも応じてもらえない場合には、同条第3項に基づき指示を行うことが検討されたが、それに至るまでに営業を自粛したようだ。他方、茨城県、千葉県、神奈川県などでも営業をしているパチンコ屋があり、しかも駐車場には他の都県のナンバーが目立つというので、ますます問題になっている。こうした県では、店名公表まで踏み切った県もある。関東地方以外では、大阪府、京都府、兵庫県、愛知県なども店名を公表した。意外だったのは、店名を公表すると、パチンコ・ファンがそこが営業している店だと認識して押し掛けるという「逆効果」があったことだ。 なお、店名を公表しても、なお営業を継続している店があったことから、兵庫県、神奈川県などでは、5月1日、第45条第3項の指示を行った。

 この点につき、西村康稔担当相は、4月28日の予算委員会で「特別措置法について『強制力を持つ形で検討せざるを得ないということも考えている』と表明して罰則の適用を示唆し、内閣法制局とも相談する」という姿勢を見せた。仮にそうなると、本特別措置法の性格が大きく変貌することになる。

 5月1日の専門家会議がまとめた報告書の概念図は次のとおりで、この内容が緊急事態宣言の延長に際して考慮されるものと思われる。


専門家会議がまとめた報告書


専門家会議がまとめた報告書


(14と15は、5月1日記)


16.緊急事態宣言を5月末まで延長

(1)4月7日の緊急事態宣言の元となった「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」(3月28日)は、5月7日までを期限としていた。ところが、昨今の感染症とその対策の状況を踏まえ、緊急事態宣言を見直して、期限を5月末まで延長するとともに、その内容に一部変更を加えるために、基本的対処方針が5月4日に変更された。その変更された部分の骨子は、次の通りである(5月4日対策本部総理発言)。 政府や地方公共団体、医療関係者、専門家、事業者を含む国民の一丸となった取組により、全国の実効再生産数は1を下回っており、新規報告数は、オーバーシュートを免れ、減少傾向に転じるという一定の成果が現れはじめている。一方で、全国の新規報告数は未だ200人程度の水準となっており、引き続き医療提供体制がひっ迫している地域も見られることから、当面、新規感染者を減少させる取組を継続する必要があるほか、地域や全国で再度感染が拡大すれば、医療提供体制への更なる負荷が生じるおそれもある。このため、令和2年5月4日、法第32条第3項に基づき、引き続き全都道府県を緊急事態措置の対象とし、これらの区域において緊急事態措置を実施すべき期間を令和2年5月31日まで延長する。ただし、10日後の5月14日を目途に、専門家にその時点での状況を改めて評価をしてもらい、もはや緊急事態措置を実施する必要がなくなったと認められるときは、 期間内であっても速やかに緊急事態を解除する。


13の特定警戒都道府県とそれ以外の県の差(NHKニュースより)



東京都や大阪府など13の特定警戒都道府県では、引き続き、極力8割の接触削減に向けた、これまでと同様の取組をする必要がある。一方で、それ以外の県においては、感染拡大の防止と社会経済活動の維持との両立に配慮した取組に、段階的に移行する。例えば、これまでクラスターの発生が見られず、3つの密(密閉、密集、密接)を回避できる施設については、感染防止対策を徹底した上で、各県における休業要請の解除や緩和を検討する。なお、国民の皆様におかれては、まん延防止の観点から、引き続き、不要不急の帰省や旅行など、都道府県をまたいだ移動は極力避けるようにお願いする。

これからの1か月は緊急事態の収束のための1か月であり、次なるステップに向けた準備期間である。専門家からは、今後、この感染症が長丁場になることも見据え、感染拡大を予防する新たな生活様式の提案があった。様々な商店やレストランの営業、文化施設、比較的小規模なイベントの開催などは、この新しい生活様式を参考に、人と人との距離をとるなど、感染防止策を十分に講じながら実施して結構である。今後2週間をめどに、業態ごとに、専門家の協力を得ながら、事業活動を本格化させるための、より詳細な感染予防策のガイドラインを策定する。

 (参 考) 「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020年5月4日)

(2)専門家会議が提唱する新しい生活様式


○ 5月1日の提言では、感染の状況は地域において異なっているため、 感染の状況が厳しい地域では、新規感染者数が一定水準まで低減するまでは、医療 崩壊を防ぎ、市民の生命を守るため、引き続き、基本的には、「徹底した行動変容の要請」が必要となる。 一方で、新規感染者数が限定的となり、対策の強度を一定程度緩められるようになった地域(以下「新規感染者数が限定的となった地域」という。)であっても、再度感染が拡大する可能性があり、長丁場に備え、感染拡大を予防する新しい生活様式に移行していく必要がある、と指摘した。

○ これまでの提言でも、感染拡大を食い止めるために徹底した「行動変容」の重要性を訴え、手洗いや身体的距離確保といった基本的な感染対策の実施、「3つの密」を徹底的に避けること、「人との接触を8割減らす10のポイント」などの提案を重ねてきたところである。今回の提言では、5月1日の提言を踏まえ、新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」を具体的にイメージいただけるよう、今後、日常生活の中で取り入れていただきたい実践例を次のとおり、整理した。


新しい生活様式



○ 新型コロナウイルスの出現に伴い、飛沫感染や接触感染、さらには近距離での会話への対策をこれまで以上に取り入れた生活様式を実践していく必要がある。これは、 従来の生活では考慮しなかったような場においても感染予防のために行うものである。

〇 新型コロナウイルス感染症は、無症状や軽症の人であっても、他の人に感染を広げる例がある。新型コロナウイルス感染症対策には、自らを感染から守るだけでなく、自らが周囲に感染を拡大させないことが不可欠である。そのためには一人ひとりの心がけが何より重要である。具体的には、人と身体的距離をとることによる接触を減らすこと、マスクをすること、手洗いをすることが重要である。市民お一人おひとりが、日常生活の中で「新しい生活様式」を心がけていただくことで、新型コロナウイルス感染症をはじめとする各種の感染症の拡大を防ぐことができ、ご自身のみな らず、大事な家族や友人、隣人の命を守ることにつながるものと考える

(3)業種ごとの感染拡大予防ガイドラインに関する留意点


○ 今後、感染拡大の予防と社会経済活動の両立を図っていくに当たっては、特に事業者において提供するサービスの場面ごとに具体的な感染予防を検討し、実践することが必要になる。

○ 社会にはさまざまな業種等が存在し、感染リスクはそれぞれ異なることから、業界団体等が主体となり、また、同業種だけでなく他業種の好事例等の共有なども含め、 業種ごとに感染拡大を予防するガイドライン等を作成し、業界をあげてこれを普及し、現場において、試行錯誤をしながら、また創意工夫をしながら実践していただくことを強く求めたい。

○ ここでは、各業種のガイドライン等の作成に当たって求められる基本的な考え方 や留意点の例をまとめた。また、実際にガイドライン等を作成するに当たっては、適宜、感染管理にノウハウのある医療従事者などに監修を求めることにより、効果的な対策を行うことが期待される。


○ また、新型コロナウイルス感染症から回復した者が差別されるなどの人権侵害を 受けることのないよう、円滑な社会復帰のための十分な配慮が必要である。

(リスク評価とリスクに応じた対応)
○ 事業者においては、まずは提供しているサービスの内容に応じて、新型コロナウイルス感染症の主な感染経路である接触感染と飛沫感染のそれぞれについて、従業員 や顧客等の動線や接触等を考慮したリスク評価を行い、そのリスクに応じた対策を 検討する。

 ・ 接触感染のリスク評価としては、他者と共有する物品やドアノブなど手が触れる場所と頻度を特定する。高頻度接触部位(テーブル、椅子の背もたれ、ドアノブ、 電気のスイッチ、電話、キーボード、タブレット、タッチパネル、レジ、蛇口、手すり・つり革、エレベーターのボタンなど)には特に注意する。

 ・ 飛沫感染のリスク評価としては、換気の状況を考慮しつつ、人と人との距離がどの程度維持できるかや、施設内で大声などを出す場がどこにあるかなどを評価する。

(各業種に共通する留意点)
○ 基本的には、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく感染拡大防止策を徹底することが重要である。例えば、人との接触を避け、対人距離を確保(できるだけ 2mを目安に)することのほか、以下のものが挙げられる。

 ・ 感染防止のための入場者の整理(密にならないように対応。発熱またはその他の感冒様症状を呈している者の入場制限を含む)
 ・ 入口及び施設内の手指の消毒設備の設置
 ・ マスクの着用(従業員及び入場者に対する周知)
 ・ 施設の換気(2つの窓を同時に開けるなどの対応も考えられる)
 ・ 施設の消毒(症状のある方の入場制限)
 ・ 新型コロナウイルスに関しては、発症していない人からの感染もあると考えられるが、発熱や軽度であっても咳・咽頭痛などの症状がある人は入場しないように呼びかけることは、施設内などにおける感染対策としては最も優先すべき対策である。 また、状況によっては、発熱者を体温計などで特定し入場を制限することも考えら れる。  ・ なお、業種によっては、万が一感染が発生した場合に備え、個人情報の取扱に十 分注意しながら、入場者等の名簿を適正に管理することも考えられる。

(感染対策の例)
 ・ 他人と共用する物品や手が頻回に触れる箇所を工夫して最低限にする。
 ・ 複数の人の手が触れる場所を適宜消毒する。
 ・ 手や口が触れるようなもの(コップ、箸など)は、適切に洗浄消毒するなど特段の対応を図る。
 ・ 人と人が対面する場所は、アクリル板・透明ビニールカーテンなどで遮蔽する。
 ・ ユニフォームや衣服はこまめに洗濯する。
 ・ 手洗いや手指消毒の徹底を図る。
 ・ 美容院や理容、マッサージなどで顧客の体に触れる場合は、手洗いをよりこまめにするなどにより接触感染対策を行う。(手袋は医療機関でなければ特に必要はなく、こまめな手洗いを主とする。)


(トイレ)
 ・ トイレは、感染リスクが比較的高いと考えられるため留意する。便器内は、通常の清掃で良い。
 ・ 不特定多数が接触する場所は、清拭消毒を行う。
 ・ トイレの蓋を閉めて汚物を流すよう表示する。
 ・ ペーパータオルを設置するか、個人用にタオルを準備する。
 ・ ハンドドライヤーは止め、共通のタオルは禁止する。


(休憩スペース)
 ・ 休憩スペースは、感染リスクが比較的高いと考えられるため留意する。一度に休憩する人数を減らし、対面で食事や会話をしないようにする。 休憩スペースは、常時換気することに努める。共有する物品(テーブル、いす等)は、定期的に消毒する。従業員が使用する際は、入退室の前後に手洗いをする。


(ゴミの取扱い)
 ・ ゴミの廃棄で、鼻水、唾液などが付いたごみは、ビニール袋に入れて密閉して縛る。
 ・ ゴミを回収する人は、マスクや手袋を着用する。
 ・ マスクや手袋を脱いだ後は、必ず石鹸と流水で手を洗う。


(清掃・消毒)
 ・ 市販されている界面活性剤含有の洗浄剤や漂白剤を用いて清掃する。
 ・ 通常の清掃後に、不特定多数が触れる環境表面を、始業前、始業後に清拭消毒することが重要である。
 ・ 手が触れることがない床や壁は、通常の清掃で良い。


(その他)
 ・ 高齢者や持病のある方については、感染した場合の重症化リスクが高いことから、サービス提供側においても、より慎重で徹底した対応を検討する。
 ・ 地域の生活圏において、地域での感染拡大の可能性が報告された場合の対応について検討をしておく。感染拡大リスクが残る場合には、対応を強化することが必要となる可能性がある。
 ※ 業種ごとに対応を検討するに当たっては、これまでにクラスターが発生している 施設等においては、格段の留意が必要である。



(16は、5月5日記)


17.出口戦略をめぐる鞘当てと各国の状況

(1)4月7日に緊急事態宣言が発出されて、かれこれ1ヶ月が経過した。この間、全国ベースでは、次のように1日当たりの感染者数は4月11日の719人をピークに5月6日には105人となり、4月7日の260人よりは減って、3月25日の96人くらいの水準になってきた。外出自粛と施設の使用制限は、明らかに効果を上げている。


1日当たりの感染者数の推移(NHKニュースより)



 それは良いことだが、その反面、この間の経済的な打撃は相当なものである。とりわけ街中の飲食店、商店街などの小規模零細企業の皆さん、観光地の土産物屋さん、旅館やホテル、旅行代理店、派遣労働者、アルバイトで生計をたてていた学生さんなどは、お客さんや観光客が来てくれなくなった結果、仕事がなくなって収入源を絶たれた。やがてこれが、個人事業主のみならず中小企業から大企業にまで及ぶと、破産が続出してそれこそ経済が破綻しかねない。そういうことで、経済界からは一刻も早く解除してほしいという圧力が高まる。その一方でせっかく押さえ込みに成功しつつあるのに、その効果を確かめないままに安易に解除すると、元の木阿弥になるという心配が付きまとう。

 現に北海道では、札幌雪まつりなどに来た武漢からの観光客を感染源とする2月19日から3月16日にかけての第1波を、鈴木知事の「政治決断」としての緊急事態宣言で押さえ込み、4月6日にはいったん患者数がゼロとなった、ところが、4月9日頃からまた第2波の流行が始まった。これは、ちょうど転勤の季節で東京から転勤者がどっと流入したこと、東京で大学生活を送っている子供たちが、春休みと授業がないので北海道に帰省したことなどから、東京で流行している新型コロナウイルスが持ち込まれたというのが定説である。今回の国全体の緊急事態宣言もこのようなことになれば、1ヶ月以上に渡る努力も水の泡となる。


北海道の1日当たりの感染者数の推移(NHKニュースより)



 かくして、緊急事態宣言からいつどのように脱して経済、仕事、学校、日常生活をいかに正常な姿に戻すか・・・これを「出口戦略」と称するらしいが・・・これが問題となる。これについて、内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室長から各都道府県知事あてに「緊急事態措置の維持及び緩和等に関して」という事務連絡が5月4日に出されている。その内容は実に色々なことが書かれているが、簡単に言えば、次の図のようなものである。つまり、13特定警戒都道府県とそれ以外の県とに分ける。前者の13は、外出自粛などを引き続き行い、施設の類型に応じて若干の緩和を行う。後者のそれ以外は、各県知事の判断でかなりの緩和も認めるというものである。


施設の使用制限に関する今後の方針



 そして、前述の通り、「10日後の5月14日を目途に、専門家にその時点での状況を改めて評価をしてもらい、もはや緊急事態措置を実施する必要がなくなったと認められるときは、 期間内であっても速やかに緊急事態を解除する。」という。ところが、この点につき、吉村洋文大阪府知事が噛みついた。曰く「『具体的な基準を示さず、単に延長するのは無責任だ。困っているのは大阪だけじゃない。(政府は)具体的な指標を全国に示してもらいたい』と指摘。大阪府の基準は、(1)感染経路が不明な新規感染者が10人未満(2)検査を受けた人に占める陽性者の割合(陽性率)が7%未満(3)重症病床の使用率6割未満――の3点。これを「警戒信号の消灯基準」とした。(1)と(2)の数値は日々の変動が大きいため、過去7日間の平均(移動平均)をみる。」(5月6日付け朝日新聞朝刊)

 何やら、緊急事態宣言発出時の緊急事態措置を巡っての4月8日から10日かけての国(西村担当大臣)と小池百合子東京都知事とのやり取りを彷彿とさせるものである。その時は、小池知事に軍配が上がった。しかし、今回は明らかに吉村洋文大阪府知事の方が誤っている。新型インフルエンザ対策特別措置法には、具体的にどのような「まん延の防止に関する措置」を講ずるかは特定都道府県知事の裁量の範囲内であるから、それを国に一律に決めて欲しいというのは、法律を読んでいない証左である。仮にそれが緊急事態宣言そのものの解除宣言(同法32条5項)というのであれば、それは政府対策本部長(総理)の権限であるから、府知事からとやかく言われる事柄ではない。若さによる勇み足だろう。

 案の定、西村担当大臣はツィッターで、「緊急事態宣言からの『出口』ということなら、国が専門家の意見を聞いて考える話だ」と述べた。これに対して、吉村知事もツィッターで「「西村大臣、仰るとおり、休業要請の解除は知事権限です。休業要請の解除基準を国に示して欲しいという思いも意図もありません。ただ、緊急事態宣言(基本的対処方針含む)が全ての土台なので、延長するなら出口戦略も示して頂きたかったという思いです。今後は発信を気をつけます。ご迷惑おかけしました」とした。

(2)ところで、各国の状況をみると、次のようだ。

 ドイツは3月16日から隣国との国境管理を強化し、18日に緊急事態宣言を発出して外出や営業の制限を行ってきたが、感染の状況が好転してきたことから、4月20日に小規模商店の営業を認めるなど一部を緩和し、引き続いて5月6日に完全に撤廃した。ただし、1週間に10万人当たり50人を超える感染者が出た地区には、再び制限をかけるという。

 アメリカでは、トランプ大統領と共和党が経済に与える打撃を懸念して、都市封鎖の早期解除を各州に働きかけている。共和党の知事にはこれに呼応して緩和する動きがある。ところが全米で最大の感染者を出しているニューヨーク州のクオモ知事は慎重である。それというのも、新規感染者の数が5月5日には2239人、新たに入院した者が601人、3月下旬の水準まで減少してきているとはいえ、絶対数がまだまだ多い。日本ならびっくりするような数字だ。そういう意味で、経済活動を再開するには、感染者と入院患者の数を大幅に減らす必要があると考えているからだ。

 マレーシアは、3月18日に東南アジアで初めての活動制限令(MCO)を出してロックダウンに踏み切った。その活動制限令は3回にわたって延長され、最終の延長による期限は5月12日までとなっていた。ところが、5月1日に突如として活動制限令の大幅緩和が発表された。政府が定めた規制内容(SOP)を遵守するという条件付きながら大部分の企業、工場、商店、レストランの操業が認められようになった。その背景には、活動制限令が功を奏して新規感染者が激減していると同時に、その弊害として経済的損失が1日当たり24億リンギット(590億円)と見込まれているからだという。規制の導入も早かったが、規制の撤廃も早い。さて、この判断が吉と出るか凶と出るか、今後の推移に注目したい。



(17は、5月7日記)


18.日本の出口戦略と緊急事態宣言の解除

(1) 4月7日の緊急事態宣言時には、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、大阪府、兵庫県、福岡県の7都府県を対象にしていた。その後、4月16日に政府は「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」を見直して、これに北海道、茨城県、石川県、岐阜県、愛知県及び京都府の6道府県を加えて13都道府県とする一方、宣言の対象を全都道府県に拡大し、5月6日までとした。そしてゴールデンウィーク後半の5月4日、その13特定警戒都道府県では、外出自粛などを引き続き行いつつも、施設についてはその類型に応じて若干の緩和を行う。それ以外の県では、各県知事の判断でかなりの緩和を行うことを認めるようになった。

 その上でゴールデンウィーク明けの5月14日には、政府は再び「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」を見直して、「北海道、埼玉県、千葉県、 東京都、神奈川県、京都府、大阪府及び兵庫県については、直近1週間の 累積報告数が10万人あたり0.5人以上であることなどから、引き続き特定警戒都道府県として、特に重点的に感染拡大の防止に向けた取組を進めていく必要がある。上記以外の39県については、緊急事態措置を実施すべき区域としないこととなるが、これらの地域においても、基本的な感染防止策の徹底等を継続する必要があるとともに、感染の状況等を継続的に監視し、その変化に応じて、迅速かつ適切に感染拡大防止の取組を行う必要がある。」とした。

 つまり、特定警戒都道府県だった13のうち、茨城県、石川県、岐阜県、愛知県及び福岡県の5県を特定警戒都道府県から除外した。そして従来から特定警戒都道府県ではなかった34県とともに、合計39県について、「緊急事態措置を実施する必要がなくなった」として、速やかに当該措置が解除された。これにより、緊急事態措置を実施すべき区域は、「北海道、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、京都府、大阪府及び兵庫県」だけとなったのである。

(2) NHKニュースサイトで関連する次のデータを見ると、まず、日本全国の1日当たりの感染者数は、4月11日の720人が最大で、多少の揺り戻しはあるものの、全体としてはそれから漸減している。もはや最大の危機は去ったと思って良いだろう。感染者の累積グラフも、次第に平らかになりつつある。問題は、新型コロナウイルス対応のベッド数で、入院患者による占有率を見ると、北海道は71%とかなり高い。それに比べて、例えば、空港で旅行客、そして県境で県外ナンバーの車のドライバーの体温をチェックしていた山形県は、わずか7%ではないか・・・騒ぎすぎだ。それより、東京都のこの数字は何だ。126%ということは、入院待ちが26%もいるということか。こんなところで患者になったら一大事だ。石川県が61%だと?何故だ。吉村知事が活躍している大阪府は35%か。これなら、まあ大丈夫だろう。というわけで、問題は、東京都と北海道だということがわかった。


日本国内の感染者数(1日当たり)


日本国内の感染者数・重症者数、死亡者数


日本国内の感染者数(累計)


都道県別感染者数(累計)


新型コロナウイルス対応病床数・入院患者数・ベッド占有率・軽症者はホテル


全世界の感染者数(累計)


(3) 5月20日の報道によると、緊急事態宣言を継続している8都道府県につき、政府は21日に解除できるかどうかを決定することとしており、その際の目安は、ヾ鏡の状況、医療提供体制、PCR検査などの監視体制だという。特に,蓮直近1週間の新規感染者数の累計が人口10万人あたり0.5人程度以下とのことである。

(4) 5月21日、政府は、新型コロナウイルス感染症対策本部を開いて再び「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」を見直し、次のように決定した。「北海道、埼玉県、千葉県、東京都及び神奈川県の5都道県については、直近1週間の累積報告数が10万人あたり0.5人以上であることなどから、引き続き特定警戒都道府県とする。それ以外の42府県については、緊急事態措置を実施すべき区域とはしないこととするが、感染の状況等を継続的に監視し、その変化に応じて、迅速かつ適切に感染拡大防止の取組を行う。中でもオーバーシュートの予兆が見られる場合には迅速に対応し、直近の報告数や倍加時間、感染経路の不明な症例の割合等を踏まえて、総合的に判断する。」

 そして、安倍首相は、同日の記者会見で「関東の1都3県と北海道については、緊急事態が続くこととなりますが、新規の感染者は確実に減少しており、また、医療のひっ迫状況も改善傾向にあります。そのため、週明け早々、25日にも専門家の皆様に状況を評価していただき、今の状況が継続されれば、解除も可能となるのではないかと考えて」いると述べた。出口戦略が加速しているという印象を与えた。

(5) そういうことで、まだ緊急事態措置が続く東京都(小池百合子知事)は、「新型コロナウイルス感染症を乗り越えるためのロードマップ」を公表して、次のような説明をしている。これが、なかなか分かりやすいので感心した。すなわち、

  ゞ杁淹態宣言下においては、外出自粛等の徹底を通じて、感染を最大限抑え込む。(緊急事態宣言下では自粛要請を維持。STAY HOME ・ STAY in TOKYO)
 ◆‥切なモニタリング等を通じて、慎重にステップを踏み、都民生活や経済社会活動との両立を図る。(感染状況や医療提供体制などの観点から7つの指標を用いて常にモニタリング。2週間単位をベースに状況を評価し、段階的に自粛を緩和)
  状況の変化を的確に把握し、必要な場合には「東京アラート」を発動する。(感染拡大の兆候を把握した場合には、「東京アラート」を発動し、都民に警戒を呼び掛け、それでも再要請の目安を上回った場合などは、必要な外出自粛・休業を再要請し、感染拡大防止を徹底)
  今後、発生が予想される「第2波」に対応するため、万全の医療・検査体制を整備する。(迅速に検査を受けられる体制を充実 ・症状に応じた医療提供体制を整備するとともに、患者情報を的確に把握し、モニタリングを強化)
 ァ.Εぅ襯垢箸猟垢だ錣い鮓据え、暮らしや働く場での感染拡大を防止する習慣 =「新しい日常」が定着した社会を構築する。(都民や事業者に向けて「新しい日常」の考え方とそれを支える施策を提示)

 この東京都のロードマップを見ると、感染の第2波が必ず来るので、それに備えて万全の医療・検査体制を敷くことと、感染防止のための「新しい日常」に慣れることが強調されている。そして、当面は3段階に分けて徐々に緩和していくこととする。解除していない現在の状況をステップ0とすると、

 ステップ1は、博物館、美術館、図書館を再開し、飲食店等は、営業時間の一部緩和(夜8時までから、10時までへ)。50人までのイベントも認める。

 ステップ2は、劇場、映画館、展示場なども、 入場制限や座席間隔の留意を前提に再開し、100人までのイベントも認め、商業施設も再開する。

 ステップ3は、ネットカフェ、漫画喫茶のような遊興施設、パチンコのような遊戯施設も入場制限を前提に再開する。飲食店等は、営業時間を一部緩和し、夜10時までから12時までへ。ただし、クラスターが発生した施設、すなわち接待を伴う飲食店、ライブハウス、カラオケ、スポーツジムはまだ認めない。


東京のPCR検査陽性者

東京のロードマップ

東京のモニタリング指標

外出自粛、休業要請等の緩和措置の内容

施設別の休業要請の緩和ステップ

第2波に備えた検査・医療等の体調整備


医療提供体制の整備

暮らしや働き方の「新しい日常」


(6) 西の雄、大阪府(吉村洋文知事)は、この5月21日より緊急事態宣言の対象から外れたわけであるが、実は5月5日頃から「大阪モデル」と言われる独自の基準で感染拡大状況をモニタリングしてきた。それが、とても良く工夫されたもので、なかなか面白い。それによると、

  感染拡大状況を判断するため、府独自に指標を設定し、日々モニタリング・見える化した。また、各指標について、「感染爆発の兆候」と「感染の収束状況」を判断するための警戒基準を設定した。その上で、以下の 銑の警戒信号全てが点灯した場合、府民への自粛要請等の対策を段階的に実施する。以下の◆銑い侶找信号全てが原則7日間連続消灯すれば、自粛等を段階的に解除する(病床使用率以外の指標は7日間移動平均)。

 (1) 市中での感染拡大状況
   /卦陽性者における感染経路不明者の前週増加比
  ◆/卦陽性者におけるリンク不明者数が
 (2) 新規陽性患者の発生状況 検査体制の逼迫状況
   確定診断検査における陽性率
 (3) 病床のひっ迫状況
  ぁヾ擬埃入重症病床使用率

 これらの指標を追いかけていくと、大阪府が緊急事態宣言の対象から外れた5月21日の時点では、上記,らい泙任了愽犬、確かに緑に点灯していた。

 ところで、新型コロナウイルスに関する国、東京都、大阪府のそれぞれの対策本部のホームページを見ていて、面白いことに気が付いた。まず国は、そのほとんどが文章で、図表があるのはきわめて稀だ。東京都は、もちろん文章が多いが、それと同じくらいに図表がある。ところが大阪府は、文章はほとんどなくて、その大半が図表ばかりなのである。なんとまあ、対照的なのだろう。ひょっとして、大阪の人は、文章だと読む気にならず、図表だと読む気になるのかという仮説を立ててみたが、どうもよくわからない。どなたか、教えていただければ幸いである。


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(7) 緊急事態宣言の解除

 4月7日に行われた新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言は、その後、事態の改善によってもはや緊急事態措置を実施する必要がなくなったとして、約1ヶ月半後の5月25日、「緊急事態が終了した旨の宣言」が行われた。(基本的対処方針

緊急事態宣言の解除



 その時点での人口10万人当たりの新規感染者の数は、首都圏1都3県が0.32人、うち東京都は0.34人であったが、神奈川県が0.62人、北海道が0.80人と、目安の0.5人を上回っていた。この点、慎重な意見もあったと聞くが、いずれも感染源が追えているとして、同時に解除されることとなった。


人口10万人当たりの新規感染者の数(5月26日。NHK調べ)


 5月26日午前0時の日本国内の感染者数は、1万6,632人(前日より21人増)、死亡851人(同13人増)、退院1万3,612人となっている。軽症の人なら退院まで2週間程度、中等症の人で2〜3週間、重症の人なら4週間前後で退院するのが普通である。その点、4月7日の緊急事態宣言から既に1ヶ月半と、その頃の入院であればそれなりの日時が経過しているので、退院した人の数がこれだけ増えているのは、誠に慶賀の至りである。

 毎日の感染者の数を見たところ、感染者のピークは4月10日前後で、そこからすると緊急事態宣言が同月7日と、やや出遅れた感は拭えないが、それでも医療崩壊がギリギリのところで避けられたのは事実である。やはり、緊急事態宣言と緊急事態措置の効果は、確かにあったと認められる。


日本国内の感染者数・死者数(5月26日。NHK調べ)

日本国内の感染者数(5月26日。NHK調べ)

日本国内の感染者数累積(5月26日。NHK調べ)

都道府県別の感染者数累積(5月26日。NHK調べ)

東京都の感染者数の推移

北海道の感染者数の推移>

神奈川県の感染者数の推移


 また、感染が収まってきたことは、東京都におけるPCR検査の陽性率からしても、よくわかる。4月10日から15日にかけては、30%を超す日が多かった。ところが、24日には、それがわずか1.3%となっている。医療従事者の皆さんは、ほっと胸を撫で下ろしているだろう。

東京都のPCR検査の陽性率



 次の課題は、遅くとも今年の秋にも来ると思われる感染の第2波に、どう立ち向かうかである。しかもその頃には、冷え込む経済との両立が課題となるだろう。この新型コロナウイルスは、これに感染しても8割ほどの人が無症状で、それでいてウイルスを排出して周りの人に感染を拡げてしまうという困った性質がある。だから、発熱や咳のような症状が現れてどうやら感染したらしいと判明しても、感染を防止するにはもはや遅いのだ。

 ところで、スウェーデンは、公衆衛生庁の方針で、集団免疫戦略でもって対抗しようという戦略をとっている。人々に対しては、“熱や咳があれば自宅療養、他人とはソーシャルディスタンスをとる、できれば在宅勤務、ぃ沓虻舒幣紊和梢佑叛椰┐靴覆い覆匹髻嵳彑繊廚垢襪、その他は普段通りにしてよい。そのうちに気づかないで新型コロナウイルスに罹った人が人口の6割程度を占めれば、そこで感染は自然に収束するというのである。しかし、人命第一の観点からすると、その戦略が奏効しているかといえば、そうでもない。人口が1,023万人の国で、感染者数34,440人、4,120人もの死者を出した。人口が半分の北欧諸国でいずれも都市封鎖に踏み切ったデンマークがそれぞれ11,428人、563人、ノルウェーが8,383人、235人というデータを見れば、やはり失敗したのではないかと思われる。

 実は、イギリスも最初は集団免疫戦略の考え方だったが、感染があまりに急拡大するものだから、3月23日、遂に耐えきれなくて都市封鎖に踏み切った。それでも、5月25日現在の感染者数265,227人、死者37,048人となっている。イギリスの人口は6,665万人と、スウェーデンの6倍だから、その比でいくと、イギリスに相当する死者の数は約6,000人になる。それが現実には4,120人と3分の2になっているのだから、スウェーデンは、かなり抑え込んでいるのかもしれない。ただ、社会防衛という観点からはそれでよいかもしれないが、可能な限り死者の増加を防ぎかけがえのない人命を守るという観点からは、経済を多少犠牲にしてもまずは都市封鎖で感染を防止するという日本を初めとする主要国の新型コロナウイルス対策は、間違っていなかったと思う。

(18は、5月15日、20日、23日、26日記)



新型コロナウイルス緊急事態宣言(第3部に続く)



カテゴリ:エッセイ | 20:52 | - | - | - |
新型コロナウイルス緊急事態宣言 (第1部)

米国立アレルギー感染症研究所 ニュースリリース2月25日に掲載された新型コロナウイルス



1.2月から3月にかけての政府や知事の対応

 新型コロナウイルスの国内感染者数は、2020年2月15日から29日までは、1日当たり15人から25人の間で推移していた。3月に入って、7日頃から連日50人を越えるようになり、とうとう3月27日からは123人と、100人の大台を越した。4月になっててもその勢いは衰えず、4月3日には353人と、感染者が急増するようになった。

 この間の政府の対応を見ていると、危機管理の司令塔がいない感じがしてならない。東日本大震災のときは、枝野幸男官房長官(当時)が自ら、連日寝ないで記者会見をやり、普段は政府に批判的なネットの皆さんから、「枝野、寝ろ」という好意的なコールが起ったことは記憶に新しい。今回は加藤勝信厚生労働相がその任に付いているのかと思ったが、紙の棒読みにとどまり自ら積極的に国民と対話しようという雰囲気が感じられない。ただ、顔色が良くないので体調が悪かったのかもしれないが、それならそれで危機管理能力と発信力のある大臣に任せるべきだ。

 そういう意味では、小池百合子東京都知事は、ニュースキャスター出身であるだけあって、都民との対話ができているので、大したものだと思う。例えば、政府の専門家会議から聞いた大臣などが「換気ができていない密閉された空間には行かないように、そこで大勢の人と近付いて話したりしないこと」などとモタモタした説明をしているときに、「密閉、密接、密着の三密は避けるように」と、わかりやすいキャッチフレーズで話していたので、私は、これは都民と会話ができる人だと感じた。このような緊急事態になると、政治家としての説明能力が露わになる。

 国民がマスクが足りないと毎日イライラしていた。実は私も、2月の初めからマスクを求めて近くのドラッグストアやスーパーを何軒も何度も回ったが、それでも全く手に入らない。そういう時、2月中旬の頃だったか菅義偉官房長官が、「現在のマスク供給数は月間1億枚だが早急に6億枚まで引き上げるので、3月中には国民に行き渡る」と説明していた。私はこれで先に光明が見えたと思った。ところが、3月末になっても何も変わらず、市中では1枚も手に入らない。やはり官房長官のあの発言は、嘘でたらめの類いだったのかとガッカリした。その後、官房長官が表に出てくることはなくなった。新聞記事によると、「官房長官を傷つけてはいけないと、周りが押さえている」とのこと。国難ともいえる緊急事態なのに、そんなことをやっている場合かと言いたくなる。

 マスクといえば、4月に入って直ぐのこと、安倍晋三総理が国会で突然、「全世帯に布マスクを2枚ずつ再来週頃に郵便で配布する」と表明した。これも、新聞記事によれば、総理官邸の誰かが「国民がマスクがない、マスクがないと、ご不満のようなので、マスクを全世帯に配布すれば、そういう不満はパーっとなくなりますよ」と進言したという。本当だとしたら、あまりに短絡的な発想だ。この布マスクは30回ほど洗えるそうだが、専門家によると目が細かい不織布ではなくて、目の粗い布なのでウイルス防御という面では全く役に立たないそうだ。ただ、感染者がウイルスを撒き散らすのはある程度防げるそうなのだが、そのためにわざわざ5,300万世帯に単価200円のものを2枚ずつ、送料込みの合計で466億円もかけて配布するのかという気がする。それだけのお金があるなら、台湾がやっているように、不織布のマスクを配給制にして国民が確実に入手できるようにすべきだったと思う。ただこれも、マイナンバーカードの普及率がまだ15%にも満たないから、無理かもしれない。

 その後、新型インフルエンザ対策特別措置法の改正で新型コロナウイルスが法律の対象になると、同法の担当大臣が西村康稔経済財政再生相となった。ところが、全体をまだ掌握できていないのか、それとも経済担当が急に公衆衛生も担当することになって勝手が違うのか、こちらも情報発信が紙の棒読みに終わっていて、国民からすると「自分の言葉で語っていない」ので、誠に物足りない。素人の大臣ではなく、たとえば公衆衛生の専門家で、それなりの地位にある責任者が、毎日、患者数、その属性、マスクや消毒剤の流通、トイレットペーパーの生産と流通、諸外国の様子、ちょっとした公衆衛生の知識などを懇切丁寧に説明するだけで、かなり違うと思う。

 その点、台湾では、陳其邁行政院副院長(副首相)の下、中央感染症指揮センターの陳時中衛生福利部長(保健相)及びデジタル政策担当の唐鳳行政院政務委員(無任所大臣)が主導して、マスクの配給制などの誠に時宜に適した政策を展開し、また国民との対話を進めている。私はたまたま、2月8日から4日間、観光で台湾旅行に行ったが、その当時の台湾の感染者数が確か日本と同じくらいでまだほとんどいなかったのに、もうその時点で、ホテルに着けば体温をチェックされるし、レストランでは入口で消毒液を吹き付けられるしで、最大限の厳戒体制だった。蔡英文総統がかつてのSARS騒ぎのときの衛生担当部長だったという巡り合わせもあるのだろうが、ともかくやれることは何でもやるという姿勢で、信頼が持てた。その成果として、2月から4月にかけて世界各国の感染者数が飛躍的に伸びる中、台湾の感染者数は339人、うち死者5人と、非常に低く押さえ込まれている(4月4日現在。同時期の日本は感染者数3,139人、うち死者77人。アメリカはそれぞれ213,600人、4,793人と、まるで比較にならない。)。

 私が台湾旅行に行く直前の2月3日には、豪華客船ダイヤモンド・プリンセス号事件が専ら世間の耳目を集めていた。香港の感染者が一時乗船していたために、船内で新型コロナウイルスの感染が広がった事件である。公海上にあったが、急遽、横浜港に寄港して、その検疫をするということで、検疫官が乗り込んでいった。ところが、日本国内では、私も含めてどこか他人事のような感じだった。そういう中、私は台湾旅行から2月12日に日本に帰ってくると、台湾の厳戒体制と比べて日本では、テレビで手洗いが呼びかけられるくらいで、緊張感など全くなく、こんなことで良いものかと思ったものである。

 厚生労働省の方も、恐らくダイヤモンド・プリンセス号に人的資源と時間を取られて、とりわけPCR検査の能力を増やすとか、マスクや消毒薬や人工呼吸器を増産させるとか、感染症対応の病床を用意するとか等の日本全体の防御ということに目を配る余裕がなかったのではないかと考える。そのダイヤモンド・プリンセス号事件も、事件処理に当たった関係者はご苦労されたとは思うが、外から見ていると単なる検疫作業の延長という感覚でやっていて、肝心の船内の感染防止、乗客乗員の保護という観点が欠けていたのではないか、船をウイルス培養器にせずもっと早く乗客だけでも外に出せなかったのか、現場責任者は何をしていたのかなどと、徹底的に検証されるべきだと思う。この関係で検疫官などに10数人もの感染者を出したという点は、この検疫は失敗に終わったと言われても仕方がない。

 発生直後にこの船に乗り込んだ神戸大学の岩田健太郎教授が「ウイルスがいるかもしれない『レッドゾーン』と、安全な『グリーンゾーン』がグチャグチャに入り乱れていて、どこが危険なのかがわからない。なのに、船内で作業する医師や厚生労働省の職員らスタッフはマスクもしていなかったり、手袋だけ嵌めていたりでチグハグだ。心底怖かった」と表現した。これは、この結果を見れば真実を語っていたと思う。船内に、やや過剰といわれてもよいから、先々を見越して適切な手を打つという危機管理のセンスがある公衆衛生の指導者がいなかったのかと残念に思う。その点、自衛隊が確か2,000人ほど出動したと聞いている。それでいて、防疫という面では素人の自衛隊員からは1人の患者も出さなかったことは、誠に立派なことだと思う。素人だからこそ、「正しく恐れて、正しい防疫の手順を踏んだ」ものと思われる。

 その一方、2月の半ばを過ぎると、国内の感染がどんどん進んで、北海道では鈴木直道知事が札幌雪祭りを契機に全国で一番多い感染者を出したことから、警鐘を鳴らしていた。注目すべきは、地方では、和歌山の仁坂吉伸知事もそうなのだけど、最高責任者の知事自らが発表するという流れができて、危機管理がしっかり機能しているという印象を道民や県民に与えている。これこそ、地方分権を踏まえた危機管理のあり得べき姿だ。2月15日の記者会見で仁坂知事は、「メディアにお願いですが、新型コロナウイルスに感染した医師が誰でどこに住んでいるんだとか、そういうことは差別やいじめに繋がるので、社会正義に反していることはやめていただきたい」などと、誠に正論を語っていて、胸がすく思いがした。

 2月28日になって北海道の鈴木知事が、「政治決断」として小中学校の休校を打ち出し、引き続き週末の外出自粛を求める事実上の緊急事態宣言を出した。おそらく、これに刺激されたのだろうが、翌29日になると安倍首相が全国一斉休校を打ち出した。全く唐突で、それまで寝ていたものが急に起き出して、暴れ始めたようなものだ。多分このままではいけないと、突然、首相指導型を見せようとしたのだろうが、これこそ、過剰反応というものだ。これによって迷惑を被る共稼ぎ世帯も多かっただろう。政府部内で慎重に検討すれば、たとえば感染率や患者数が一定以上の都道府県に限るという手もあったはずだ。


2.特別措置法の成立

 一般に、緊急事態の内容は、その国民への危害の現実化とその恐れの程度に応じて決まることになっている。その最たるものは、武力攻撃事態における国民保護法制である(平成16年6月に成立し、同年9月から施行)。他国による日本への武力攻撃が起こると、国民の財産はもとより、国民の生命そのものが直接危険にさらされる。だから、それ相応の強い措置が法律で設けられている。避難計画と指示、買占め等防止で、これとともに別法で道路、空港、港湾を自衛隊が優先使用することになっている。その性格上、災害対策基本法が参考にされた。新型インフルエンザ対策特別措置法(平成24年法律第31号)は、これらの法律を参考としつつ、SARSの経験と急速に蔓延する伝染病の性質を踏まえて立案されたものである。

 今回の新型コロナウイルス対策には、一から法律を作っている時間的余裕がないため、既存の新型インフルエンザ対策特別措置法(平成24年法律第31号)の定義に新型コロナウイルス感染症を追加することにより、同法の枠組みをそのまま使ったものである。国会での審議は、わずか3日間で成立した。この法律に基づき、新型インフルエンザ等緊急事態宣言(2年未満の期間限定)を行うと、次の措置が可能となる。

(1)外出自粛要請、学校、興行場、催物等の制限等の要請・指示

 都道府県知事は、住民に対し外出の自粛を要請できる(第45条第1項)。多数の者が利用する施設(学校、社会福祉施設、建築物の床面積の合計が千平方メートルを超える劇場、映画館や体育館など)の使用制限・停止又は催物の開催の制限・停止を要請することができる(第45条第2項)。正当な理由がないのに要請に応じないときは、特に必要があると認めるときに限り、要請に係る措置を講ずべきことを指示できる。ただし、いずれも罰則はない。

(2)住民に対する予防接種の実施(第46条)

(3)医療提供体制の確保(第47条―第49条)

 臨時の医療施設を開設するため、土地や建物を強制使用することができる(第49条)

(4)緊急物資の運送の要請・指示(第54条)

(5)政令で定める特定物資の売渡しの要請・収用(第55条)

 都道府県知事等は、新型インフルエンザ等の対応に必要な物資の売り渡しを業者に要請することができ、不当に応じない場合は収用することも可能(第55条)。また、不当に売り渡しに応じなかった業者に対して、罰則がある(第76条)

(6)埋葬・火葬の特例(第56条)

(7)金銭債務の支払猶予等等(第58条)

(8)生活関連物資等の価格の安定(第59条)

 買い占め売り惜しみ防止法・国民生活安定緊急措置法等の的確な運用

(9)政府関係金融機関等による融資(第60条)



3.緊急事態宣言の前夜

 新型コロナウイルスの全国的な感染爆発(アウト・ブレイク)が起こり、医療機関が患者を受け入れる能力を超える事態(オーバー・シュート)となると、改正新型インフルエンザ対策特別措置法の緊急事態宣言が出されるかどうかの問題となる。4月3日現在、政府はまだその事態には至っていないと判断しているようだ。確かに、首都圏や関西圏では、感染者数が急拡大する予兆が見られるものの、未だ全国レベルに至っているとは言えない。

 新型コロナウイルスは、人と人との距離が近いときに伝染るということで、他の人から2メートルは距離を置くべしと言われる。これを「ソーシャル・ディスタンシング」と言うらしい。なるほど、言い得て妙だ。それから、中国政府が武漢でやったように、外出禁止令で街を一斉にシャット・ダウンすることを、「ロック・ダウン」と言うそうだ。専門家の試算によると、これを行って外出する人数を8割減らせば、感染者数を激減させられるそうだ。

 日本では、法律に基づく緊急事態宣言を行っても、先ほど述べたように罰則なしの要請・指示なので、外出する人数は、おそらく首都圏で6割減、関西圏で4割減程度だろう。そうすると、イタリアのように、アウト・ブレイクと医療機関のオーバー・シュートが起こるのは、もはや避けられない予感がする。ヨーロッパで最も早くアウト・ブレイクが起こったイタリアの4月4日現在の感染者数は、11万5242人、うち死者は1万3912人となっている。ちなみに日本は感染者数3139人、うち死者77人だ(ただし、ダイヤモンド・プリンセス号の712人の感染者は除外している)。


例年は花見客で盛り上がる上野公園も閉鎖


 毎年3月末から4月にかけては、私の大好きな桜の季節である。ところが、今年は桜の写真を撮りに行こうにも、東京都知事より3月28日からの週末の外出自粛が求められているので、どこにも行けない。新宿御苑、六義園などの桜が美しい公園も全て閉園している。例年は花見客で盛り上がる上野公園も閉鎖だ。私は、やむを得ない理由で自宅から上野に歩いて行ったとき、公園内の桜通りにはブロックが置かれ、人っ子一人いなかった。道の遥か先を見たら、二人の人影があったが、よく見ると警備員だった。

 本日は4月4日だが、直ぐにでも緊急事態宣言が出されていてもおかしくない状況になってきた。別荘を持っている友達は、自分の車で既に長野県に避難している。私は、かねてから公共交通機関派だったから、こういうときには車がないので不便だ。いや、たとえ車があったとしても、もし自分が感染者だったとしたらウイルスを地方に拡散するようなものだから、東京から出るべきではないだろう。仕方がないので、朝夕の散歩以外は何処にも行かずに家に籠っているつもりだ。事態がどんどん悪くなっていって、もうどうにもならなくなったら、家内とともに如何にして生き残るかを模索することになるかもしれない。父母の世代とは違って、私たちの世代には戦争というものがなくて良かったと思っていたが、代わりにこの未曾有の災難が降り掛かってきてしまった。(1から3までは、4月4日記)


4.諸外国の強権的措置

 4月7日、政府の緊急事態宣言が出された。一般の人々に対しては、外出の自粛をはじめ、学校や興行の自粛等が求められる。ところがこれは、あくまでも要請であり、従わなくとも罰則はない。この点、次のように欧米やアジア諸国で行われている「ロックダウン」つまり都市全体を封鎖し、罰則をもって人の移動を禁止する「外出制限令」に比べて、大甘で実効性が期待できないという論評がある。

(1)ニューヨークでは、3月30日から市長令で、公共の場で人との距離を保つことを徹底していない場合、最大500ドルの罰金。

(2)イタリアでは、3月12日から政令で、行き先と理由を記した証明書を携帯していない人には最大3,000ユーロ(約35万円)の罰金。施行後1週間でおよそ11万人以上が警告を受けた。

(3)フランスでは、3月17日からの外出禁止令で、テレワークできない仕事や必要不可欠な買い物など特定の目的(証明書の携帯が必要)以外の外出に135ユーロ(約16,000円)の罰金、これを15日以内に繰り返すと罰金200ユーロ、30日以内にさらに違反を重ねると禁錮6ヶ月以下が科される。発令から2週間の検挙数は359.000件に上ったという。

(4)イギリスでは、外出できるのは必需品の買い物、1日1回の運動、やむを得ない医療と通勤だけとし、3月25日に成立した法律により、公共の場で3人以上で集まった場合、最低30ポンド(約4,000円)の罰金。

(5)震源地である中国の武漢では、1月23日から都市封鎖が行われた。都市内や市境をまたぐ交通機関や高速道路を封鎖して出入りができないようにし、市民らに武漢を離れてはならないと通告した。居住区ごとに、厳格な監視が行われた。テレビ映像によると、家族内で麻雀の卓を囲んでいるときに公安(警察)が踏み込んで、卓を壊すようなことをしていた。人と人との間の密接な接触を防ぐためというが、家族内のことまで公権力が介入するのは明らかにやり過ぎだ。なお、この封鎖は、感染していない人に限って、4月6日に2ヶ月半ぶりに解除された。

(6)シンガポールでは、当初は、対外的には厳格な国境管理を行うものの、国内では厳しい移動や外出の制限措置を取らず、アプリで感染者の行動を追跡し、人と人との距離を空けさせる「社会的距離」を導入するなどして、それなりの成果を上げていた。ところが、追跡ができない事例が大幅に増えてきたことから、ついに4月7日から全面的な外出禁止令に踏み切った。違反者には、罰金10,000シンガポールドル(約25,000円)若しくは6ヶ月以内の禁錮刑又はその両方が科される。

(7)マレーシアでは、3月18日から、外出禁止令が出された。日用品の買物と通院のため車1台につき1人だけ外出が許されるが、それ以外は禁止される。違反者には、罰金100リンギット(約25,000円)若しくは6ヶ月以内の禁錮刑又はその両方が科される。当初は、違反者に口頭注意するのなど柔軟な対応を取っていたが、不要不急の外出など違反者が続出したことから、軍隊も動員して警察とともに検問やパトロールなどに当たるようになった。3月27日には、首都クアラルンプールの高級住宅街であるモントキアラ地区でジョギング中に警察官に呼び止められ、自宅に戻るよう促されたにもかかわらず無視して反抗的な態度を取った11人が逮捕された。その内訳は、日本人4、韓国人3、インド人2、英国人1、マレーシア人1とのこと。こんなことで逮捕される日本人がいるとは誠に情けないが、うち1人は日本の最大手電機メーカーの駐在員だという。これは特定の地区だけの数字だが、3月29日には全土で828人が逮捕されたとのこと(時事通信)。

(8)フィリピンでは、3月17日から、ルソン島全域で生活必需品を購入するための外出を除いて、市民が移動することを大幅に制限さている。ドゥルテ大統領は、4月4日、「市民が自宅待機などの措置を破った場合、警官らが射殺も辞さない事態が有り得る」と国民に警告した。麻薬取締りのときと同じく、めちゃくちゃだ。

(9)インドでは、3月22日から、全土に日中の(首都ニューデリでは全日の)外出禁止令が出された。ビデオ映像によると、違反者には、警察官が罰として、その場で腕立て伏せをさせたり、鞭で打ったり、頭にコロナの被り物を被せたりと、まるで前近代的な刑罰を科していて、心底驚いた。


 こうして見ると、どの国も、強権的な措置を講じている。それも、かなりのものだ。アメリカやヨーロッパの国々では、戦争や災害のようないわば緊急時への対応して行われていると考えられる。ところがアジア諸国では、元々強権的な体質の政府が多いことから、それなりの措置をとっている。それにしても、フィリピンやインドはやり過ぎだ。でも、お国柄が現われているから面白い。


5.微温的な日本の緊急事態宣言の理由

 それに比べて、日本の今度の改正新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言は、一般向けには外出の自粛、学校や興行場などの管理者には要請や指示ができるものとしているが、あくまでも要請ベースにとどまり、罰則をもって強制するものではない。感染防止のための集会禁止規定もない。ただ、一定の要件を満たせば、土地所有者の同意を得ないで土地等を使用できるとしているくらいだ。もちろん、これには補償がある。その他、罰則はといえば、特定物資の隠匿や損壊への懲役又は罰金と、立入検査の拒否や妨害への罰金しかない。

 それはなぜかというと、現行憲法の基本的人権の尊重の観点からは、それが限界だからだ。罰則をもって外出禁止を命令することは憲法22条の居住移転の自由に、同じく集会禁止命令は憲法21条の表現の自由に反する。先に述べたように土地所有者の同意を得ないで土地等を使用できるとする規定があるが、これも憲法29条上、問題なしとはしないところだが、財産権であるからこの程度は公共の福祉の観点からは許されると解されている。これが本法の限界である。たとえ武力攻撃事態であっても、考え方は同じである。

 どうしてこういう構造なのかといえば、突き詰めていうと、日本国憲法に緊急事態条項がないからだ。かつての大日本帝国憲法では、戒厳大権など4つの緊急事態条項があった。しかしこれによって基本的人権が大きく制約されたのは歴史的事実である。その反省から、日本国憲法では緊急事態条項が設けられなかったとされる。だから我々は、その制約の下で最大限、何ができるかを考えなければならない。 憲法に緊急事態条項がない中で、憲法の根本である基本的人権を一時停止するようにするには、憲法13条の「公共の福祉」を理由にするしかないが、そんなことは果たして可能だろうか。

 現在の日本の緊急事態宣言の要件は、次の通りである。

「新型インフルエンザ等(国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあるものとして、重篤である症例の発生頻度が相当程度高いものに限る。)が国内で発生しその全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし又はそのおそれがあるものとして、感染経路が特定できず、あるいは感染が拡大している事態が発生したと認めるとき」である。

 4月8日、世界の新型コロナウイルスの感染者は、1,317,130人、うち死亡は74,340人(死亡率は0.56%)である。これに対して日本の感染者は、4,472人、死亡は98人(死亡率は0.02%)となっている。死亡率が小さいが、これは感染者数が次のグラフ(出典:NHK)のように最近になって急増したことによるもので、あと2週間もすれば、残念ながらかなり増加するものと思われる。とはいえ、この今の状況で「重篤である症例の発生頻度が相当程度高い」といえるか、法律の規定の「当てはめ」としては、いささか疑問が残るところである。


NHK日本国内の感染者数


NHK日本国内の感染者数


 そういう状況では、罰則のない自粛要請が、ちょうど良い収まりではないかと思うのである。基本的人権を尊重するという意味でも、その方が望ましい。ところが、中国に次いで先進国中で最初に新型コロナウイルスの急速な蔓延で医療崩壊に陥ったイタリアでは、4月8日現在の感染者は、132,542人、死者は16,525人(死亡率は12.5%)である。医療現場は、患者が殺到して満足な治療もできず、遂にはトリアージの考えまで適用して、人工心肺機器を若い人に先に使うほどの混乱ぶりだった。

 では、現にこういう事態になったら、いや現にならなくともそういう事態になることが十分に想定される事態になったらどうか。それくらいに切迫した状況になってはじめて、外出禁止令を出して罰則をもって強制するべきではないかという議論をする土俵に上ることが出来るというものだ。その場合、国民の外出を一律に禁止することが、現下の疫病の急激な拡大とそれによる多くの国民の命を守る上で必要不可欠であることを立証した上で、現在の緊急事態宣言の要件に何を加えるかであるが、ひとつは死亡率の高さが有力な要件になると考えられる。憲法13条に規定する通り、人間の命は何よりにも増して尊重すべきであるから、憲法の基本原理である基本的人権も、緊急事態宣言が出ている僅かな期間と都道府県の区域に限って、一時制約を受けてもやむを得ないし、それこそが公共の福祉に適うものと説明するのが一案である。

 ただ、私は、繰り返しになるが今のような程度の事態では、基本的人権を一時棚上げしてまで、外出禁止を罰則をもって担保するようなことをすべきでないと思う。相手が業者ならば、現行法のように命令をして罰則を科すことはできるが、一般国民を相手に外出禁止令違反を罪に問うなら、他の法律の先例からすると、禁錮刑どころかせいぜい罰金10万円以下というのが相場だろう。そんな中途半端な罰金なら、守らない人が次々に出てくるし、それくらいであれば罰則など、ない方がよい。ただでさえ疫病騒ぎで人々が精神的に負担の多い日々を送っているのだから、そこに警官による外出の取締りがあっては、ますます世の中が暗いムードになりかねない。代わりに、特に興行や大型商業施設など企業に対する都道府県知事による中止の指示に反したような場合、その企業名は公表することにして、自ずと社会的制裁が下るようにしておけば良いのではないかと考える。(4と5は、4月6日記)


6.緊急事態宣言の発出と緊急事態措置

 4月7日、政府は、改正新型インフルエンザ対策特別措置法に基づき、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、大阪府、兵庫県、福岡県の7都府県を対象として、緊急事態宣言を発出した。

(1)まず不思議に思ったのは、「対象区域になぜ愛知県が入っていないのだろうか」ということだ。4月10日現在になるが、新型コロナウイルス患者数は、次のようになっている。

 東京都  1,519人
 大阪府    616人
 神奈川県   381人
 千葉県    354人
 埼玉県    285人
 兵庫県    287人
 福岡県    250人


 これに対して、愛知県は301人と、4番目の千葉県と5番目の埼玉県の中間の患者数なのに、なぜ指定されなかったのか、どうにも理解しかねる。政府の基本的対処方針等諮問委員会は、「当該都府県内の(1)累計の感染者数、(2)感染者が2倍になるまでの「倍加時間」、(3)1日あたりの感染者数に占める経路を追えない感染者数の割合」の3つを基準にしているというが(2020年4月10日付け日経新聞4面)、その具体的数字は明らかでない。

 朝日新聞によると、「各自治体にとって病床の確保が喫緊の課題となっている。軽症者も含めて感染者を全員入院させる現在の仕組みでは、破綻(はたん)は避けられない状況だ。・・・政府の専門家会議は1日、東京、神奈川、愛知、大阪、兵庫の各都府県について『医療提供体制が切迫している』と指摘。『今日明日にでも抜本的な対策を』と求めた。」としている。ここでは、ちゃんと愛知県を取り上げている。これに対して名指しされたほとんどの都府県はその方向で検討を進めているようだ。ところが、愛知県の大村秀章知事だけは「2日に臨時の会見を開き、『医療提供体制は十分確保している。迷惑千万だ』と専門家会議の指摘に反発した。感染状況も『どっと拡大しているわけではない』として、軽症でも感染者を入院させるという方針を変える必要はないとの考え」だそうだ(4月3日付け朝刊)。こういう、いわば「可愛くない」態度も、指定されなかった背景にあるのだろう。

(2)次に、この政府の緊急事態宣言を受けて、対象とされた都府県が緊急事態措置を行うのであるが、4月8日から10日かけて国と東京都が調整中という話が伝わってくるだけで、その措置がなかなか発出されないのである。私は、「どうしたのか、事は人間の生死にかかわるのに」と思っていたら、その様子がわかってきた。

 要は、国がまずは外出の自粛程度の「穏便な」措置を目指していたのに、東京都はそれだけでなく施設の使用制限という「強力な」措置を求めていて、その調整が長引いていたからである。他の府県は、東京都ほど感染が拡がっていないことから、内心は「穏便な措置でよいではないか、それ以上に休業などを求めると補償の問題が出てきて財政が持たない」と思いながら、その国対東京都のバトルの様子見をしていたからである。現に千葉県知事などは「我々は東京都ほど財政に余裕があるわけではない」と言い、神奈川県知事は「まずは自粛で、その効果を見てからでよいではないか」と言って、東京都を牽制していた。

(3)以上の国(西村康稔経済財政再生大臣)と東京都(小池百合子知事)の調整は、私の見るところ、東京都側の圧勝に終わった。まるで政治家としての役者が違って、国が東京都に押し切られたのである。パンデミックを目前に控えた東京都と、さほどではない他の府県や経済の先行きを気にする国との真剣さの違いが出たのだと思う。

 経済に対する打撃を懸念する国側は、東京都に対して、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」に書かれた通り、「まん延の防止に関する措置として、まずは法第45条第1項に基づく外出の自粛等について協力の要請を行うものとする。その上で、都道府県による法第24条第9項に基づく施設の使用制限の要請を行い、特定都道府県による法第45条第2項から第4項までに基づく施設の使用制限の要請、指示等を行うにあたっては、特定都道府県は、国に協議の上、必要に応じ専門家の意見も聞きつつ、外出の自粛等の協力の要請の 効果を見極めた上で行うものとする。」(10P)と求めたはずだ。


都道府県別の感染者数



 ところが東京都は、「とりあえず」外出自粛要請をして様子を見るということでは目前に迫っているパンデミックによる医療崩壊を避けられないと考えたのであろう。外出自粛の要請と施設使用制限の要請を「同時に」行い、かつ施設使用制限に応じた中小事業者に50万円(2事業所以上は100万円)の「感染拡大防止協力金」を支給することまで表明した。それに伴う予算措置は、1,000億円だという。他の府県は、とてもそのような余裕はないので、国に頼ることになるだろう。国は、地団駄を踏むことになる。

 国と東京都との溝が埋まらなかった部分は、もちろんこれだけではない。特別措置法第45条第1項に基づく東京都知事による緊急事態措置のほかに、東京都知事が特別措置法第24条第9項に基づく都道府県知事による協力の要請を幅広く発出するという主張をしたらしい。これは、本来は緊急事態宣言や措置等が出される前のいわば「つなぎ」として想定されていた条文だが、東京都は国との見解の相違を埋めるために持ち出したようだ。具体的には、居酒屋や理髪店や小規模ホームセンターも全面的な休業要請の対象に加えたいという都の考えに対して、これらは社会生活を維持する上で必要だからやり過ぎだと、国が消極的だったそうだ。

 調整の結果、居酒屋や理髪店や小規模ホームセンターについては休止要請まではせず、適切な感染防止策を講じた上での営業を認める。ただし、居酒屋は午後8時まで、酒類の提供は午後7時までとなった。しかしながら、東京都の発表を見てみると、結果的にこれは特別措置法に基づかない協力要請とされたようだ。この辺りの経緯と法的な理由は、明らかになっていない。話が誠に輻輳しているので、それを整理して並べると、次のようになる。

  ‘段盟蔀嵋,亡陲鼎政府の緊急事態宣言(法第32条第1項)から始まり、

 ◆‘段盟蔀嵋,亡陲鼎都道府県知事による緊急事態措置(法第2条第3号・45条)(違反者には特に罰則はないが、守らない者に対して都道府県知事は指示ができるし、その公表規定もある。)

 【 特別措置法に基づく都道府県知事による協力の要請(法第24条第9項)・・・東京都の発表には法的根拠がはっきりとは書かれていないので、よくわからない。おそらくこれらは、結果的に次のい箸覆辰燭里任呂覆いと思われるが、真偽不明。いずれにせよ要請ベースであることには変わりがない。】

 ぁ‘段盟蔀嵋,亡陲鼎ない都道府県知事による緊急事態宣言や自粛要請(行政指導)

 ちなみに、国との交渉を終えた小池百合子東京都知事は、その直後の記者会見で、次のようなやり取りがあったそうだ(日経新聞4月11日付け)

記者の問い「休業要請や協力金は都の財政基盤があるからこそできるとの意見もある。緊急事態宣言の対象の府県には、都のモデルを追随してほしいと考えているか。」

小池都知事「それぞれの地域の特性があり、だからこそ都道府県知事に権限を与えたと思う。ただ権限は代表取締役社長(知事)にあると思っていたら、天の声(= 国)が色々と聞こえまして、中間管理職になったような感じだ。やはりそれぞれで事情が違うので、まずは東京都としてなすべきことを知事としてやっていく。」

 これは、地方分権で都道府県知事に感染症対策のほとんどすべての権限を与えておきながら、この改正新型インフルエンザ対策特別措置法に限っては、基本的対処方針という中に書き込んだ「調整権限」で国が都道府県をコントロールしようとしている仕組みそのものに無理があると考えられる。二つの方向がある。そのひとつは、地域の事情を知り住民により近いところにいる都道府県知事に全て任せて国はバックアップに徹するか、あるいは地方分権前のかつての機関委任事務を復活させて国が統一的な感染症対策を作ってその手足として都道府県を使い、万が一にも国の指示に反する知事が出てきたら最終的には罷免するくらいの仕組みを作るかだ。そうでなければ、施策の統一的な実施はできるものではない。しかしながら、これだけ地方分権を進めた以上、もはや前者の道しかないように思える。

(4)東京都における緊急事態措置等(令和2年4月10日)

 都内全域を対象として、令和2年5月6日(水曜日)まで、新型コロナウイルス感染症のまん延防止に向け、以下の要請を実施

 (1) 都民向け:徹底した外出自粛の要請(令和2年4月7日から5月6日まで)
・新型インフルエンザ等対策特別措置法第45条第1項に基づき、医療機関への通院、食料の買い出し、 職場への出勤など、生活の維持に必要な場合を除き、原則として外出しないこと等を要請

 (2) 事業者向け:施設の使用停止及び催物の開催の停止要請(令和2年4月11日から5月6日まで)
・特措法第24条第9項に基づき、施設管理者もしくはイベント主催者に対し、施設の使用停止もしくは 催物の開催の停止を要請。これに当てはまらない施設についても、特措法によらない施設の使用停止の協力を依頼 ・屋内外を問わず、複数の者が参加し、密集状態等が発生する恐れのあるイベント、パーティ等の開催についても、自粛を要請


東京都の措置


東京都の措置


 この表の「2.対象施設一覧」のうち、「基本的に休止を要請する施設(特措法施行令第11条に該当するもの)」とは上記(3)△法◆崙蛋舎,砲茲蕕覆ざ力依頼を行う施設」とは上記(3)い法◆峪楡澆亮鑛未砲茲辰討狼拔箸鰺彑舛垢觧楡漾廚眈綉(3)い乏催するものと思われるが、定かではない。

(5)緊急経済対策

 緊急事態宣言と軌を一にして、「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策〜国民の命と生活を守り抜き、経済再生へ〜」が閣議決定され(4月7日付け)、その内容が明らかとなった。事業規模は約108兆円で、過去最大の経済対策となる。事業継続に困っている中小・小規模事業者に最大200万円、個人事業主に最大100万円を支援する。また生活に困っている世帯に30万円を現金で支給する。新型コロナへの治療効果が期待されている抗インフルエンザ薬「アビガン」の増産も支援する。20年度中に現在の最大3倍にあたる200万人分の備蓄を確保するなどである。


緊急経済対策




7.アジア諸国と欧米諸国の違い

 本日(4月11日)現在、東アジア諸国と欧米諸国について、新型コロナウイルス感染者数と死者数を比較してみると、次のようになっている。

欧米諸国 (感染者数) (死者数) (死亡率)

 アメリカ 425,889人  14,665人    3.4%
 イタリア 143,626人  18,281人    12.7%
 スペイン 152,446人  15,238人    10.0%
 フランス  85,351人  12,192人    14.3%
 イギリス  65,081人   7,978人    12.2%
 ドイツ  113,525人   2,373人     2.0%

東アジア諸国(感染者数)(死者数)(死亡率)

 中 国    82,008人   3,336人    4.1%
 韓 国    10,450人    208人    0.5%
 日 本    6,188人    120人    1.9%
 台 湾     363人     5人    1.4%


 この表をみると、欧米諸国のうち、イタリア、スペイン、フランス、イギリスの死亡率がいずれも10%を超えていることが目を引く。これは、流行の始まりが早かったことから死者数がそもそも多く、かつ蔓延が急速であったために医療崩壊が起こってそれに拍車を掛けたからだと思われる。ただし、ドイツだけは別格で、死亡率が低い(注)。

(注)ドイツの死亡率がなぜ低いかということだが、日経新聞とNHKによれば、次のように分析されている。

  (1) 元々、新聞や出版社といった業界を含めてほぼテレワークであり、しかもワークライフバランスの気風があることから、外出の制限にあまり抵抗感がない。
  (2) 特に北ドイツでは、高齢者は子供と同居しないというライフスタイルを貫いている。また、家が広いから、自宅隔離も容易である。(以上、日経新聞グローバルニュース2020年4月13日付け)
  (3) 現地ドイツ在住の上原医師によると「感染が広がる前に医療の設備が整っていたのが大きい。患者が増えても落ち着いて対応できた。」また、ドイツでは人口10万人当たりの集中治療のベッド数が、日本やイタリアなどと比べて多く、現在もおよそ1万床が空いている。(NHKニュース4月13日付け)


 しかし、それにしても日本、韓国、台湾の死亡率2%以下という数字と比べて、欧米諸国(ドイツを除く)とはあまりにも差が大きい。同じウイルスから生じている感染症とはとても思えないほどである。死亡率の高い高齢者の比率は、欧米諸国より東アジア諸国の方が高いはずなのに、これは一体なぜなのだろうか。その解明が進まないまま、上記4の通りの諸外国の強権的措置に比べて、5の通り日本では微温的な緊急事態宣言に基づき、この未曾有の事態に対応しようとしている。イタリア、スペイン、フランスはもとより、ニューヨークでも医療崩壊が起こって死者の数が2万人を超え、誠に悲惨な状況である。果たして日本はそのような道をたどるのか、それとも中国や韓国のように押さえ込みに成功するのだろうか。つまりは、強権的と微温的と、どちらの方が功を奏するのか、その答えは、早ければ2週間後、遅くとも1ヶ月後にわかる。(6と7は、4月12日記)


8.外出自粛要請下での同級生の生活

 閑話休題。新型コロナウイルスについて、東京都では3月28日に知事による週末の外出自粛要請が、4月7日にはインフルエンザ対策特別措置法に基づく政府の緊急事態宣言が、そして4月11日からはいよいよ同法に基づく東京都知事による緊急事態措置等が出された。その中で、「医療機関への通院、食料の買い出し、 職場への出勤など、生活の維持に必要な場合を除き、原則として外出しないこと等」が要請された。

 さてそれで、この外出自粛下での生活をどうしているか、大学の同級生のメーリングリストでのやり取りがある。皆さん、ほぼ現役生活を終えて引退しているとはいえ、それぞれの職業経験を踏まえて、なかなかの知的生活を送っているので感心するとともに、立派な同級生たちだと誇りに思えてきた。


《Aさん》

 新型コロナウィルスの影響でいつもの同級生の懇親会場のクラブが、5月の連休明けまで休業することになったとの連絡が来ました。開業以来初めての長期休業だそうです。

 スポーツクラブの休業に加えてゴルフ場まで行動制限が厳しくなり、月1回の東京本社での検診、薬の受け取りもバス、電車での感染予防のため、当面近くのクリニックで行うように会社から指導がありました。大切な時間が無駄に過ぎて行くのは本当に残念です。

 皆さんはどんな過ごし方をしているのか、良いアイデアがあれば是非教えていただきたいと思います。

 私からは月並みながら最近読んだものからお奨めを2点。

  ‘8驚せ法屮僖鵐妊潺奪を生きる指針」−歴史研究のアプローチ

 ・岩波新書HP「B面の岩波新書」に掲載されたもので、8Pの小論文ですが、著者の許諾を得て、自由に印刷・複製できます。著者は京大人文研の准教授。

 ◆+澄ー平「サリエルの命題」講談社 単行本

 ・新型ウィルスの感染を梃に、長寿化の問題を扱ったフィクションですが、現在指摘されている問題も取り上げられています。ただ、この小説では特効薬がある、感染地域が離島・過疎地域にとどまるなどとしていますが、今回のウィルスは、特効薬もワクチンも無く、都市部で拡がるなど、作者の想像を超えたもので、より深刻です。



《私(悠々人生)》

 私の法律事務所も閉鎖した上に所内でも所外でも対面は禁止というので、全く仕事になりません。海外旅行も、今年中に南欧、北欧、エジプトのナイル川クルーズを計画していたのですが、全てキャンセルしました。中でも今年初めにナイル川クルーズに行った日本人が感染して帰国して周りにうつしたと聞いて、かなり危なかったと感じました。

 このウイルスは、大多数の人が免疫を獲得するまで、何波にもわたって襲ってくるでしょうから、来年の東京オリンピックもどうなるかわかりませんね。それまで、特効薬とワクチンが出来ていて、かつ私も皆さんも罹らないでいることを願います。

 そういうことで、現在は安全が保証された「宇宙船」のような自宅にいて、時々「船外活動」と称して散歩や必需品の買い物に出掛けています。近くの根津神社は散歩コースですが、今年は「ツツジ祭り」が中止となりました。ところが、季節は巡って咲く時期となり、綺麗なツツジが派手に虚しく咲いています。

 雑誌にインタビューされたりしたので、それ以来、改正新型インフルエンザ対策特別措置法や政府と東京都の攻防をウォッチしていますが、なかなか興味深いです。とりあえず、次のようにとりまとめています。ただ、2本目は、まだ作成途上です。

    

新型コロナウイルス記事

    

新型コロナウイルス緊急事態宣言



 日本の感染者はまだ6千人台で死亡率は幸い2%弱ですが、イタリア、スペインは10数万人と12%ほどで、強権的な押さえ込みをしてもこれほど上がってしまいました。アメリカは全体では50万人を超えて死亡率は今のところ3%強ですが、既に医療崩壊が起こっているニューヨークなどは早晩ヨーロッパの道を歩むのは確実だろうと思います。

 それに対して日本は、微温的な緊急事態宣言を出したばかりですが、欧米諸国と同じになるのか、それともこの微温的な措置で押さえ込みに成功するのかですね。現に国と東京都は方法論を巡って大議論を行った。どちらが正しかったか、その答えは、早ければ2週間以内に分かるでしょう。もし成功すればさすが日本ということになるし、失敗すれば、こんな微温的なことで良いのか、他の国並みに強権的に対処すべきだとして、個人の権利を制限する方向が強まるでしょう。大袈裟に言うと、戦後日本が構築してきたものが問われている。


《Bさん》

 コロナウィルスの猛威は収まるどころか、このまま自粛が数か月続くと、心身ともにめげそうですね。

 蟄居閉門の沙汰があったと考え、自宅に抱え込んだ膨大な数のDVDと本棚にあふれかえって前をふさいで積み上がり。下段に何があるのかわからなくなっている蔵書の整理にかかっております。もうお読みになったかもしれませんが、まだの方には藤沢周平の長編「蝉しぐれ」か短編の「帰郷」(文春文庫・又蔵の火に収録)をお勧めします。時代小説もよいものですよ。

 携わっているボランティア、習い事のうち、博物館ボランティア2件と藍染は現在ストップ、電話相談(自殺防止です)のみ稼働中で、人生で最もヒマな時期となっております。読書は、今年初めからインド、中央アジア、西アジア、エジプトにわたる4千年の歴史をかじりまくっております。このエリアについての翻訳書はまことに少なく、私が法学部を選ばなかったら進んでいたはずのオリエント歴史学は楽しんで読めるものがほとんどありません。情けないことです。

 ボランティアの一つ、みんぱく(国立民族学博物館)では、設立者の梅棹忠夫生誕100年展などを計画していましたが、先送りとなりました。この機会に梅棹忠夫の著書を数点読みましたが、教科書で覚えのある「モゴール族探検記」、「知的生産の方法」などを読むと、改めてわれらの京都大・今西組の知的貪欲さとエネルギーに圧倒されました。入学早々に今西錦司氏(当時・岐阜大学長でした)の講演を聞いたこと、仕事でみんぱく館長時代の梅棹氏にインタビューした事を思い出し、俺たちは充実した知的経験をしてたんだな・・と妙に感心している次第です。

 わが蔵書は、文庫、ハードカバー取り混ぜて、ー匆餡奮悄⇔鮖坊蓮↓∧験愀蓮憤娚阿隼軆限燭掘法↓ミステリー、SF系(英米のホラーの翻訳はほとんど所有)ぜ然系、イ覆弔しの漫画やコミック・・に大別され、幅1m、8−9段の本棚24本におさまっているのですが、さらにその半分くらいの冊数が本棚の前や間に積み上がっております。冊数は3−4万くらいでしょう。これをあと2年(72歳のうちに)で積み上げを解消するのを目標にしております。

 DVDは、)画、⇒硫茵↓2良餞譴修梁招歿宗↓ぅラシック(主にオペラとバレエ)ナ塚歌劇、Ε▲縫甅和洋のテレビドラマ╂己、自然科学系、歴史や文化系に大別して、総計3万枚くらいです。只今重複を整理中ですが、こちらも72歳を期して増やさないつもりです。

 自分では、あと12年くらいまでにお迎えが来ると思っており、最後の数年は自選した書籍と映像に埋まって過ごしたいと考えております。

 皆さん、蟄居閉門を楽しむ方法を考えましょう。



9.各国首脳のリーダーシップに感動

(1) 新型コロナウイルスは、2月頃に中国の武漢や韓国の大邱で猛威をふるった後、3月中旬頃から舞台は欧州各国に移り、アウト・ブレイクする兆しをみせた。そうした中で、イタリア、フランス、ドイツ、イギリスなど欧州各国首脳は外出禁止令を出し、国民に対して耐乏生活を呼びかけた。それが、実に心に響くもので、私は感動してしまった。

(2) ドイツのメルケル首相

 3月18日、ドイツのメルケル首相は、国民に対して「新型コロナウイルス感染症対策に関する演説」を行った。その一部を抜き出してみると、

「ドイツに広がるウイルスの感染速度を遅らせることです。そのためには、社会生活を極力縮小するという手段に賭けなければならない。・・・こうした制約は、渡航や移動の自由が苦難の末に勝ち取られた権利であるという経験をしてきた私のような人間にとり、絶対的な必要性がなければ正当化し得ないものなのです。民主主義においては、決して安易に決めてはならず、決めるのであればあくまでも一時的なものにとどめるべきです。しかし今は、命を救うためには避けられないことなのです。」

 周知の通り、メルケル首相は旧東ドイツの出身で、若い頃は基本的人権が非常に制約された生活を送っていた。そうした体験を踏まえて、このようなことを切々と語りかけると、国民は納得せざるを得ないと考える。実に良い演説だった。

メルケル首相コロナ演説



(3) フランスのマクロン大統領

 3月16日、フランスのマクロン大統領は、しっかりとテレビカメラを見据え、いかにも若くて元気のよい演説を行ったので、思わず見とれてしまった。

 曰く「明日正午から少なくとも15日間、われわれの移動は極めて大幅に限定されます。それはすなわち屋外での集まり、家族同士や友人同士の集まりが、もはや許されなくなるということです。公園や通りを散歩したり、友人と再会したりすることは、もはやできなくなります。家庭以外でのこうした接触を最大限に制限するということです。フランス全土の至る所で、本土でも海外領土でも、必要なルートのみ、規律を守り、最低1メートルの間隔を取りながら、あいさつの握手もキスもせず、買い物に行くために必要なルートのみにとどめなければなりません。治療を受けるために必要なルート、もちろん、在宅勤務ができないならば通勤するために必要なルート、軽く運動するために必要なルート、しかしここでも友人や近親者と会ってはなりません。

 すべての企業はテレワークしやすくするように態勢を整えなければなりません。それが不可能なら、ウイルス感染予防策を順守させるため、すなわち従業員を守るため、明日から組織を適応させなければなりません。フリーランスであれば、自分自身を守らなければなりません。政府は今夜、私の演説を受けて、これらの新しいルールの形態を明確化します。これらのルールに対する違反はすべて罰せられます。

 私は今夜、極めて厳粛な気持ちで申し上げます。医療従事者の言うことに耳を傾けようではありませんか。『私たちを助けたいのであれば、自宅にとどまり、接触を制限する必要があります』。これが最も重要なことです。当然のことながら、今夜、私は新しいルールを課し、われわれは禁止措置を課し、検問もあるでしょう。しかし最良のルールは、皆さんが市民として、ルールを自らに課すことです。私は改めて皆さんの責任感と連帯意識に訴えます。」


マクロン大統領コロナ演説



(4) ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事

 国の首脳ではないが、各国の知事も頑張っている。私が一番感心したのは、ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事である。これこそリーダーだと、男を上げている。毎日、定期的に記者会見を開き、データに基づいて科学的に冷静に説明する。その上で、テレビを見ていると、このような発言があり、いちいちそのたびに感激し、感動した。


アンドリュー・クオモ知事


「(州内の全労働者に自宅待機を義務づけたとき)、本件に関して、私が全ての責任をとる。誰かを非難するなら、私を非難してほしい。

「(人工呼吸器がない、ないと訴え)、人工呼吸器、人工呼吸器、人工呼吸器と3回繰り返す。(そして、とうとう自分で中国から1万3,000台を輸入して、それをトラックから降ろしてみせた。」

「(患者の7割が貧しい黒人層に偏っていることについて)公共交通機関の関係など、通勤をやむなくされているからだろうが、原因を究明する必要がある。

海軍の病院船をニューヨークに回航してくれとトランプ大統領に頼んだ(実現した。)」

「医療従事者が絶対的に足りないと全米に『もし、あなたのいる地域で医療崩壊が起きていないのなら、是非ニューヨークに来て助けてほしい。』と呼び掛けた。」


アンドリュー・クオモ知事


 まるで、西部劇の保安官のようなもので、誠に格好が良い。リーダーシップや正義感、マッチョの男に憧れるアメリカ人の心をしっかりと掴んでいる。

(5) 東京都の小池百合子知事

 そうかと思うと、日本では東京都の小池百合子知事が頑張っている。緊急事態宣言に基づく緊急事態措置の発表に当たり、国が経済への悪影響を懸念して「まずは外出自粛、2週間ほどその様子を見てから休業要請に踏みきるか決める」という腰が引けた態度だったのに対して、「同時にしなければオーバーシュート(爆発的に感染者が増える状況)に陥る。」として頑として譲らず、それを貫徹した。心から拍手を送りたい。

(8は、4月14日記。9は、4月20日記)


10.それに対して、我が宰相は

(1) 星野源というシンガーソングライターが「うちで踊ろう」という自作の曲を歌って,外出禁止を呼びかけている。有名人がこれに応じて演奏したりしていたが、驚いたことに、4月12日、安倍晋三首相がその公式ツィッターにこれを取り上げた。画面の左側で星野源がギター片手に歌っていて、その右側に安倍首相が自宅でペットを撫でたり珈琲を飲んだりと、実に優雅に寛いでいる様子が投稿された。そして曰く「友達と会えない。飲み会もできない。ただ、皆さんのこうした行動によって、多くの命が確実に救われています。そして、今この瞬間も、過酷を極める現場で奮闘して下さっている、医療従事者の皆さんの負担の軽減につながります。お一人お一人のご協力に、心より感謝申し上げます。」


星野源と安倍首相




 だれが見ても、これは国民の神経を逆撫でして、完全な逆効果であることは明らかだ。一庶民が寛いでいるのならともかく、首相は言うまでもなく国政の責任者である。しかも現下は緊急事態にあり、このたびの外出自粛や施設の使用制限によって多くの人が苦しんでいる。例えば、顧客を失ったレストランなどの小規模事業者、派遣切りにあった労働者、観光客が途絶えた旅館のオーナーなどだ。その人たちのことに思いを馳せず、まるで他人事のように、一人自宅で優雅にペットを撫でているときかと、国民は思ってしまう。そんな暇があるなら、メルケル首相やクオモ知事のように、蔓延防止のため一生懸命に仕事をしろと言いたくなる。取り巻きを含めて、そういう政治感覚が全然ないのだろうか。やることなすことが全くちぐはぐだ。これでは先行きが思いやられる。

(2) もう一つ驚いたことは、緊急経済対策を実現するための補正予算案に盛り込まれた「生活に困っている世帯に30万円を現金で支給する。」という施策が、公明党の申入れで、たった一夜で覆り、「国民一人当たりに10万円を現金で支給する。」に代わったことだ。そもそもこの30万円の支給案は、岸田文雄自民党政調会長との協議で決定したはずだ。その時、私はなぜ岸田会長が急に出てきたのか、後継者としてアピールするつもりなのかと訝しげに思っていたが、案の定、直ぐにひっくり返ってしまい、政治力のなさを天下に示してしまった。

 当初の30万円支給案が国民の2割程度しか行き渡らないし、月収が一定以上減収するなどの支給要件のチェックをする作業のために支給まで数ヶ月以上もかかるということが明らかになって、二階幹事長や与党の一角の公明党から、「もっとシンプルにした早く支給できる制度にした方がよい」という声が高まってきたからだ。もちろん、幹事長には政調会長へのさや当ての意図もある。その結果、4月16日に公明党山口那津男代表が首相に直接申し入れて、補正予算案の組み替えが決まった。こういうことは、前代未聞のことである。急がなければならないのに、このドタバタ劇で、補正予算の成立は1週間ほど遅れるだろう。
(10と11は、4月16日記)

我はマスク難民なり




11.緊急事態宣言の対象を全国に拡大

 2020年(令和2年)4月16日、総理大臣官邸で第29回新型コロナウイルス感染症対策本部を開催された。その議論を踏まえ、安倍首相は、次のように述べた。

 「本日、諮問委員会からも御賛同を頂き、4月7日に宣言した緊急事態措置を実施すべき区域を、7都府県から全都道府県に拡大することといたします。実施期間は、5月6日までに変更はありません。まず、北海道、茨城県、石川県、岐阜県、愛知県及び京都府の6道府県については、現在の対象区域である7都府県と同程度にまん延が進んでおり、これら以外の県においても、都市部からの人の移動等によりクラスターが各地で発生し、感染拡大の傾向が見られることから、地域の流行を抑制し、特に、ゴールデンウィークにおける人の移動を最小化する観点から、全都道府県を緊急事態措置の対象とすることといたしました。」

 つまり、緊急事態宣言の元々の対象だった7都府県に、愛知県及び京都府などの6道府県加えて合計13都道府県を「特定警戒都道府県」とし、それ以外の34全県を緊急事態措置の対象にしてしまった。ここで、「・・・しまった。」というのは、同特別措置法32条やその施行令6条の要件(注)からして、この全都道府県の指定は、この段階ではできなかったのではないかと考えられるからである。

(注) 改正新型インフルエンザ対策特別措置法特別措置法32条及び同施行令6条の要件

 (新型インフルエンザ等緊急事態宣言等)
特別措置法第三十二条
 政府対策本部長は、新型インフルエンザ等(国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあるものとして政令で定める要件に該当するものに限る。以下この章において同じ。)が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態(以下「新型インフルエンザ等緊急事態」という。)が発生したと認めるときは、新型インフルエンザ等緊急事態が発生した旨及び次に掲げる事項の公示(第五項及び第三十四条第一項において「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」という。)をし、並びにその旨及び当該事項を国会に報告するものとする。
 一 新型インフルエンザ等緊急事態措置を実施すべき期間
 二 新型インフルエンザ等緊急事態措置(第四十六条の規定による措置を除く。)を実施すべき区域
 三 新型インフルエンザ等緊急事態の概要
2 前項第一号に掲げる期間は、二年を超えてはならない。
3 政府対策本部長は、新型インフルエンザ等のまん延の状況並びに国民生活及び国民経済の状況を勘案して第一項第一号に掲げる期間を延長し、又は同項第二号に掲げる区域を変更することが必要であると認めるときは、当該期間を延長する旨又は当該区域を変更する旨の公示をし、及びこれを国会に報告するものとする。
4 前項の規定により延長する期間は、一年を超えてはならない。

 (新型インフルエンザ等緊急事態の要件)
施行令第六条
 法第三十二条第一項の新型インフルエンザ等についての政令で定める要件は、当該新型インフルエンザ等にかかった場合における肺炎、多臓器不全又は脳症その他厚生労働大臣が定める重篤である症例の発生頻度が、感染症法第六条第六項第一号に掲げるインフルエンザにかかった場合に比して相当程度高いと認められることとする。
2 法第三十二条第一項の新型インフルエンザ等緊急事態についての政令で定める要件は、次に掲げる場合のいずれかに該当することとする。
 一 感染症法第十五条第一項又は第二項の規定による質問又は調査の結果、新型インフルエンザ等感染症の患者(当該患者であった者を含む。)、感染症法第六条第十項に規定する疑似症患者若しくは同条第十一項に規定する無症状病原体保有者(当該無症状病原体保有者であった者を含む。)、同条第九項に規定する新感染症(全国的かつ急速なまん延のおそれのあるものに限る。)の所見がある者(当該所見があった者を含む。)、新型インフルエンザ等にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者(新型インフルエンザ等にかかっていたと疑うに足りる正当な理由のある者を含む。)又は新型インフルエンザ等により死亡した者(新型インフルエンザ等により死亡したと疑われる者を含む。)が新型インフルエンザ等に感染し、又は感染したおそれがある経路が特定できない場合
 二 前号に掲げる場合のほか、感染症法第十五条第一項又は第二項の規定による質問又は調査の結果、同号に規定する者が新型インフルエンザ等を公衆にまん延させるおそれがある行動をとっていた場合その他の新型インフルエンザ等の感染が拡大していると疑うに足りる正当な理由のある場合

 それにつけても思い出すのは、4月7日、政府が改正インフルエンザ対策特別措置法に基づき、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、大阪府、兵庫県、福岡県の7都府県を対象として緊急事態宣言を発出したときのことである。上記6.で述べたように、都道府県の指定は、「政府の基本的対処方針等諮問委員会は、『当該都府県内の(1)累計の感染者数、(2)感染者が2倍になるまでの「倍加時間」、(3)1日あたりの感染者数に占める経路を追えない感染者数の割合』の3つを基準にしている」とされていた。これは、同特別措置法32条やその施行令6条の要件を念頭に置いていることは明らかである。

 ところが今回、安倍首相によるこの全都道府県の指定の記者会見に際して、隣に諮問委員会の尾身茂会長がいたにもかかわらず、両者からこうした要件についての説明が全くなかったのには、驚いた。それどころか、なぜ決断したのかと記者に聞かれた安倍首相曰く「専門家によると、都市部からの人の移動でクラスターが各地で発生し、全国的な感染拡大の傾向が見られるとの見解だった。地方には重症化リスクの高い高齢者がたくさんいる。もし感染が広がれば医療提供体制に大きな負担になる。大型連休に旅行や帰省で多くの人が移動することが予想されるなか、人の移動を最小化するとの観点から全国を対象にした。」。それならそれで、法律の要件に書き込むべきだった。

 そして尾身会長も、「先行きについては、(宣言から)1カ月経ってみて『極力8割(の接触削減)』がどのぐらい達成されたのか、感染のカーブが当初に比べて平坦なのか、下がらないのか、我々が期待するような下がり方なのか、下がり方が緩やかなのか――といったことについて、5月6日ごろになると大体のことが言える。その評価を元に専門家として政府に提言したい。」(4月17日付け朝日新聞)などと、法律の要件とはまるで関係のないことを語っていた。

 ちなみに、前日16日午後8時半現在の感染者数( 括弧内は緊急事態宣言を発出した4月7日の感染者数)の多い都道府県と少ない県は、次のようになっている。(4月17日付け朝日新聞)

最初からの特定警戒都道府県
 東京都  2595人(1,519人)
 大阪府  1020人(  616人)
 神奈川県  674人(  381人)
 千葉県   596人(  354人)
 埼玉県   528人(  285人)
 兵庫県   454人(  287人)
 福岡県   461人(  250人)
......................................


今回加わった特定警戒都道府県
 愛知県   370人(  301人)
 北海道   332人
 京都府   225人
 石川県   146人
 岐阜県   130人
 茨城県   123人
......................................


感染者の少ない県
 秋田県    15人
 佐賀県    15人
 鹿児島県    4人
 徳島県     3人
 鳥取県     1人
 岩手県     0人


 ここでは省略したが、感染者数50人未満の県は30、中でも岩手県はゼロ、鳥取県は1人だった。こういう県は、この時点では法律の要件には当てはまらないことから区域として指定できなかったはずなので、とりあえずは様子を見るべきであったと思う。案の定、知事の中には全国を指定対象としたことについて、「非常に驚いている」(鳥取県平井知事)、「想定していなかった」(新潟県花角知事)、「朝令暮改という言葉が浮かぶ」(愛媛県中村知事)、「大阪府などと同じことをする必要はなく感染者数といった県内の実態に応じて措置をする」(和歌山県仁坂知事)という感想を述べる人もいた。このように、現行の法律の規定を無視して、強引に当てはめようとする政権の姿勢には、一抹の不安を覚えるものである。これが他の分野で起こったら、重大な結果を招きかねないからだ。

 もっとも、今回の特別措置法は、法律の建て方がそもそも要請ベースであることから、法定の要件に外れるようないい加減な運用をしてもさほど目立たない。ところが、仮にこれが欧米のように外出規制や施設使用制限命令違反に直罰をかける法律であったとしたら、とてもこのようないい加減な運用では耐えられない。起訴されても、裁判所で無罪とされる例が続出するだろうと思う。


12.ステイ・ホーム週間の過ごし方

 4月24日、東京都の小池百合子知事が、「来週から始まるゴールデン・ウィークは、新型コロナウイルス対策のため、外出しないでお家にいるステイ・ホーム週間にしましょう。企業の方は、4月27日と28日も休んで、12連休にしてください。皆で命を守りましょう。」と呼び掛けている。

 私の法律事務所も閉鎖になった上に所内でも所外でも対面は禁止というので、全く仕事にならない。知事がそうおっしゃるので、安全が保証された「宇宙船」のような自宅にいて、時々「船外活動」と称して散歩や必需品の買い物に出掛けることにしている。近くの根津神社は散歩コースだが、今年は「つつじ祭り」が中止となり、つつじ苑も閉鎖されてしまった。ところが、季節は巡って咲く時期となり、ほとんど人がいない中で色とりどりの綺麗なつつじが派手に虚しく咲いている。好きな写真も、旅行や外出をしなければ撮れないものだから、もうダメだ。さりとて、日がな一日、宇宙船内で映画を見るのも飽きる。


綺麗なつつじが派手に虚しく咲いている


綺麗なつつじが派手に虚しく咲いている



 そういうことで、起床 → 朝食 → 専門書 → 散歩 → 昼食 → この悠々人生の手入れ → 散歩 → 過去の資料の整理 → 夕食 → 散歩→ NHK → 風呂 → 読書 → 就寝 という規則正しい生活を送っている。会食など全くないので、非常に健康的だ。だから、アイウォッチの健康アプリの三要素(消費カロリー、エクササイズ、スタンダップ)は、いずれもクリヤーしている。これからのステイ・ホーム週間も、特に出掛けることなく、同じように過ごすつもりである。

 ところで、私の親しい友人が、「さだまさしの関白宣言の替え歌があるよ。新型コロナウイルスを歌っている。面白いよ。」と教えてくれた。これがまた、非常によく出来ているのである。政府の広報以上の出来で、感心してしまった。誰の作か調べてみたが、結局わからなかった。 

 いま一つは、バンコク高架鉄道(BTS)の新型コロナウイルス・ダンスである。タイ語は全く分からないが、リズミカルに踊りながら、手を洗おうとか、皿を取り分ける時に専用のスプーンを使おうとか、手すりを掃除しようなどとかを訴えているようだ。手造り感いっぱいで、元気そのもの。ともかく、面白かった。


バンコク高架鉄道(BTS)の新型コロナウイルス・ダンス


(11と12は、4月25日記)



新型コロナウイルス緊急事態宣言(第2部に続く)



カテゴリ:エッセイ | 23:09 | - | - | - |
須藤公園と金宝樹

須藤公園を見渡す


 新型コロナウイルス禍で外出自粛が続く中にあっても、散歩はしてよろしいということになっているので、朝な夕なに各1時間ほど歩き回っている。夕方は不忍池や御茶ノ水方面に行くことが多いが、朝は根津神社を通って千駄木の須藤公園に行くのが日課となっている。

根津神社の楼門


 根津神社は、毎年4月末には恒例のつつじ祭りで賑わうのだが、残念ながら今年は新型コロナウイルスのために早々にお祭りの中止が決定された。そういうことで、例年なら多くの見物人でごった返す境内も、今年は近所の人以外は訪れる人はほとんどなく、ガランとしている。つつじ園には入ることができないが、それを外から眺めることはできる。そうすると、つつじの花だけは、例年と同じく赤や白や紫、そして時には黄色と、まさに絢爛豪華に咲き誇っているというのに、それを見て愛でてくれる見物人がいないと思うと、いささか悲しくなる。

見物人のいない根津神社「つつじ園」


満開の金宝樹(きんぽうじゅ)の花


 さて、根津神社の裏手から道を渡り、日医大の病院の脇を通り過ぎて、薮下通り(注)を団子坂方面に向かう。もう少しで森鴎外記念館という所に、高さ2m程の木がある。普段は何の変哲もない木だからそのまま通り過ぎてしまうが、この季節にはあっと驚く花を咲かせる。一言でいえば、まるで赤いブラシそのもの、だから「ブラシの木」と呼ばれる。別名は金宝樹(きんぽうじゅ)と、なかなか立派な名前である。原産地はオーストラリアで、乾燥地を好み、旱魃や山火事があったりしたら、種を一気に四方八方に飛ばして、その地を独占するという戦略の木だという。それをじっくりと写真に撮った後、団子坂通りを渡る。

(注) 藪下通り
 道の途中にある文京区教育委員会の説明文によると「本郷台地の上を通る中山道と下の根津谷の道(不忍通り)の中間、つまり本郷台地の中腹に、根津神社裏門から駒込方面へ通ずる古くから自然に出来た脇道である。『藪下道』と呼ばれて親しまれている。むかしは道幅も狭く、両側は笹藪で雪の日には、その重みで垂れ下がった笹に道をふさがれて歩けなかったという。この道は森?外の散歩道で、小説の中にも登場してくる。また、多くの文人がこの道を通って森?外の観潮楼を訪れた。現在でも、ごく自然に開かれた道のおもかげを残している。」とされている。


半開きの金宝樹(きんぽうじゅ)の花


蕾の金宝樹(きんぽうじゅ)の花


 そこからわずかに数分の歩きで、道を右に折れると、その突き当たりが須藤公園の入口である。文京区のHPによれば、次のような説明がある。

 「須藤家から東京市に寄付された庭園を生かした公園で、高低差のある台地と低地を巧みに生かした公園斜面地には、クスノキなどの大木が豊かな緑をつくりだしています。またその緑を背景として、滝からの水が流れ込む池には藤棚が設けられています。斜面地はササを主体とした植栽となっていますが、野草も生育し、春には可憐な花を咲かせます。

 須藤公園は、江戸時代の加賀藩の支藩の大聖寺藩(十万石)の屋敷跡。その後、長州出身の政治家品川弥二郎の邸宅となり、明治22年(1889年)に実業家須藤吉左衛門が買い取りました。昭和8年(1933年)に須藤家が公園用地として東京市に寄付、昭和25年(1950年)に文京区に移管されました。

 滝(須藤の滝)は、深山幽谷を流れ下るような高さ約10メートルの滝で、水が落ちる滝音も聞かれ、暑い季節には涼を求めることができます。藤棚には、池の周囲にある藤の木が毎年4月末から5月上旬にかけて香り豊かに花開きます。」。


須藤公園の見取図


須藤公園のテラスからの眺め


須藤公園の天守閣からの眺め


 須藤公園の先程の入口から入ると、そこは崖の上なので、いきなり急な下り階段がある。降りていくと辺りは鬱蒼とした大木が茂り、都会の真ん中なのに、森に迷い込んだような気になっていく。少し降りたところにテラスのような高台があり、ブランコなどの遊具があって、子供たちが遊んでいる。そこから眼下に広がる池を見下ろすことができる。かつては、この位置に藩邸やお屋敷があったのだろうか。その端のところに、辺りを一望できる「あづまや」風の見晴台があり、そこに吹き抜けの屋根とベンチがあるので、先客がいないときには、必ずベンチに座って一服することにしている。私は勝手にこれを「天守閣」と名付けている。というのは、ここにいると領地全体を眺められて、殿様気分が味わえるからである。

須藤公園の眺め


須藤公園の池の真ん中には弁財天のお堂


須藤公園の池の睡蓮


  眼下の池の真ん中には弁財天のお堂があり、朱色が鮮やかである。そこには、やはり朱色の橋がかかっていて、それを通ってお参りができる。池には、睡蓮の花が咲いていて、その白さが目にしみる。さあ、いつまでも天守閣でのほほんとしているのはやめ、腰を上げて、あの池の周りに降りて行こう。さて、池に着いてみると、その周囲には幼稚園児たちがあちらこちらにいて、親子で池の中に糸を垂らしていると思ったら、ザリガニを釣っている。中には「釣れた、釣れた」と大喜びのお父さん、お母さんがいて、子供そっちのけで、親の方が童心に帰って楽しんでいる。

須藤公園の池でザリガニ釣りの親子


須藤公園の池で釣り上げられたザリガニ


須藤公園の池の睡蓮


 池の端の藤棚のところまで来た。すると、若い女性が1人、藤棚の脇の柵を使って柔軟体操をしている。それがまあ、半端なものではなくて、片足を柵に引っ掛けたまま、上半身を後ろに反り返らせて、両手が、地面に触れるほどに曲げる。かと思ったら、上半身を真横に曲げて、柵の上に乗せた片足に覆いかぶさるようにするなどと、その身体の柔らかいことといったらない。これは、バレリーナか体操選手か。池では、鳩が水浴びをしていたりして、平和な風景だ。

須藤公園の池の睡蓮


須藤公園の池の鳩


須藤公園の池で水浴びする鳩


 その脇を通り過ぎて、登り道にさしかかる。まるで、山の中にいて、トレッキングをしているような気分になる。いきなり、私の左をバタバタっと黒いものが飛んでいったと思ったら、カラスだ。目の前にとまって、こちらを見る。カメラを向けても、恐れる様子もない。これだから、カラスはやりにくい。そこから坂をどんどんと上がっていき、先程のあづまやに戻る。周りには、山吹の花、つつじの花、シャガの花が咲き乱れている。子供たちの歓声を聞きながら、我が家に向かって帰途についた。また本日も、無事に過ぎそうだ。新型コロナウイルスの外出自粛の解除まで、あと2週間だ・・・しかし、たとえ解除されたとしても、世の中は一変しているので、以前のようにどんどん人に会いに行って仕事をするというスタイルは、もはや通じないだろうな。





 須藤公園と金宝樹(写 真)






(2020年 5月17日記)


カテゴリ:エッセイ | 15:02 | - | - | - |
日本はPCR検査がなぜ進まないのか

初夏の花


1.PCR検査とは

 私は、この新型コロナウイルスの問題が起こった時から、PCR検査をどんどんやって感染者を把握し、その追跡を行って感染拡大をしっかりとコントロールすべきだと思っていた。敵がどこにいるのか見えないままだと、戦えるはずがない。まずは、あぶり出すのが先決だと考えたからである。

 PCR検査の「PCR」とは、「Polymerase Chain Reaction」(ポリメラーゼ連鎖反応)の略で、ウイルスの遺伝子を増幅して検出する方法をいう。医師が患者の痰や鼻の奥を拭って検体を取り、それに試薬を加えて検査装置にかけ、このウイルス特有の遺伝子配列があるかどうかを調べるというものだ。所要時間は6時間ほどで、検査には熟練を要するものの検査結果そのものは正確だ。ところが、患者から検体を取る場所やタイミングによっては、擬陽性や擬陰性が出る可能性があるから、感染してからまだ早い段階の陽性判定率は7割程度と言われている。しかし、全世界で標準的に採用されている判別法である。


2.厚生労働省はPCR検査を制限

 ところが、厚生労働省が集めた専門家たちの考えは、どうやら全く違うものだ。逆に、PCR検査を抑制しないと、保健所も追跡調査をしなければならないし、病床があふれて困るからという信じがたい理由で、PCR検査をできるだけしないという発想なのである。だから、保健所にはこの検査を受けるためのスクリーニングとして、「37.5度以上の熱が4日以上続くこと」などという現実離れした基準を指示した。しかも、保健所の「帰国者・接触者相談センター」を通さないと指定医療機関での受診をさせないようにしたのである。

 もう少し正確に言うと、2月17日に政府の専門家会議がまとめ、厚生労働省が都道府県などに通知した「保健所などの相談センターへの相談・受診の目安」は、「風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く方、あるいは強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある方」いうものであったが、現場の相談センターでは、後者の方は無視され、前者のみが受診を断る口実にされた。

 それでどうなったかというと、かかりつけ医が、PCR検査が必要と認めて医師自らが同センターへ電話しているのに、断られる例が続出した。また、このセンターへの電話が殺到してなかなか繋がらず、中には2日がかりでやっと繋がったものの、出てきた保健師に「37.5度以上の熱が4日以上続いていない」と冷たく断られる、そうこうしているうちに、突然息苦しくなる肺炎の症状を呈して救急車で運ばれる、中には埼玉県で検査を受けられないまま死亡し、その後の調べでやはり陽性だったという事例すらあった。

 私がこれはひどいと思ったのは、4月10日、さいたま市保健所長が記者団にふと漏らした言葉である。曰く「病院があふれるのが嫌だったので、少し厳しめに、本当に陽性になりそうな人だけを検査する方針があった」と言うのである。事実、そのときまでの2ヶ月間にさいたま市が実施したPCR検査の数は、わずかに170件だったという。市民の健康管理の責任者が、こういう体たらくでは、誠に遺憾としか言いようがない。

 日本医師会によると、「PCR検査が必要と判断されながらも保健所などの検査実施につながらなかった『不適切事例』が26都道府県の医師会から2月26日から3月13日までの2週間に290例も報告された」という。


3.アメリカからも嘲笑される

 このように、日本がPCR検査をちゃんとやっていないという事実は、国際的にも知れ渡って、嘲笑の的になっている。4月3日に東京のアメリカ大使館領事部が自国民に対して発出した健康への警告文には、このようにある。「米国市民が米国に戻ることを望む場合・・・米国への即時帰国を手配する必要があります。(中略)米国とヨーロッパの陽性例と入院の数と比較して、日本で報告されたCOVID-19の数は比較的低いままです。広くテストをしないという日本政府の決定は、COVID-19有病率を正確に評価することを困難にします。」

 つまり、「日本政府はPCR検査をちゃんとやっていないからその新型コロナウイルスの有症率の統計は低く押さえされているので、そんな国に留まっていては危ない。だから、直ちにアメリカへ帰国することを勧める」という趣旨の勧告だ。ちなみに、この勧告が出る直前の4月2日現在の感染者数と死亡者数は、日本がそれぞれ3495人と84人であるのに対して、アメリカは21万6,721人と5,137人であった。ところが、1ヶ月後の5月8日現在の感染者数と死亡者数は、日本がそれぞれ1万5,663人と607人であるのに対して、アメリカは128万3,929人と7万7,180人である。結果的にはアメリカに帰国した方が、かえって危なかったのではないか。だから、そんな国からどうこう言われたくなかったという気がする。


4.専門家会議の見解(PCR検査の対応に関する評価)

 ともあれ、なぜPCR検査をどんどん行う方にはいかないのか、その理由の一端が緊急事態宣言の延長の根拠となった5月4日の専門家会議の報告書の末尾にあった。ここでは、「補論 PCR検査の対応に関する評価」として、その分析が行われている。


人口10万人あたりの検査数


 まず、前提として各国、地域におけるPCR等検査数の比較を行っている。図1をみると、人口10万人あたりの検査数は、アメリカ全体で1,752件(ニューヨークだけだと4,484件)、イタリア3,159件、ドイツ3,043件、スペイン2,224件、シンガポール1,708件、韓国1,198件であるのに対し、日本は何と一桁違って187件である。異常な低さだ。

日本の検査陽性率はイタ リア、シンガポール、アメリカ、スペイン、フランス、イギリスよりも十分に低くなっている


 もっとも、図2をみると、「検査陽性率はイタ リア、シンガポール、アメリカ、スペイン、フランス、イギリスよりも十分に低くなっている。したがって、これらの国々と比較して、潜在的な感染者をより捕捉できていないというわけではない」とし、また図3をみると、「新型コロナウイルス感染症による人口10万人あたりの死亡者数は、日本は欧米の10分の1以下となっている」とするが、なぜそうなっているのか、そもそも統計に信頼が置けるのかが不分明である。ともあれ、その上で曰く、

新型コロナウイルス感染症による人口10万人あたりの死亡者数


日本において PCR 等検査能力が早期に拡充されなかった理由

〇 PCR等検査がなぜ早期に拡充されなかったか、についても考察を行っておく。

〇 日本の感染症法対象疾患等の感染症に対する PCR等検査体制は、国立感染症研究所と地方衛生研究所が中心となって担ってきており、COVID-19 の国内発生に当たっても、既存の機材等を利用した新型コロナウイルス PCR検査法が導入された。また、国内において SARS や MERS、ジカ熱のなどの新興感染症の PCR等検査を用いた病原体 診断は可能となっているが、国内で多数の患者が発生するということはなく、地方衛生研究所の体制の拡充を求める声が起こらなかった。COVID-19 流行開始当初は、重症化の恐れがある方および濃厚接触者の診断のために検査を優先させざるを得ない状況にあったのは、こうした背景が影響した可能性がある。

〇 なお、韓国・シンガポールに関しては、SARS・MERSの経験等を踏まえ、従前から、 PCR等検査体制を拡充してきた。この差が、これまでの経過に影響している可能性が ある。

○ 加えて、地方衛生研究所では、麻疹やノロウイルス、結核など、感染症法で規定されている疾患の検査を主として実施している。しかし、今回のような新しい病原体について、大量に検査を実施することは想定されておらず、体制が十分に整備されていなかったことも影響していると考えられる。

〇 そのような背景を踏まえて、2月24日の専門家会議、第一回目の提言(見解)において、「PCR等検査は、現状では、新型コロナウイルスを検出できる唯一の検査法であり、必要とされる場合に適切に実施する必要がある」、「急激な感染拡大に備え、 限られた PCR等検査の資源を、重症化のおそれがある方の検査のために集中させる 必要がある」と述べた一方で、3 月初旬からは政府等に対し、COVID-19 に対する PCR等検査体制の拡充を求めてきた。

〇 この間、国も、2月20日以降、大学、医療機関、検査会社に対してもCOVID-19に対する PCR等検査に必要なノウハウと試薬等を提供し、精度の高い統一的な方法による検査の拡充に努めるとともに、民間市場の拡充の観点から 3 月 6 日には PCR等検査の保険適用を行うなどの取組を実施してきた。

〇 しかし、3月下旬以降、感染者数が急増した大都市部を中心に、検査待ちが多く報告されるようになった。PCR等検査件数がなかなか増加しなかった原因としては、
  帰国者・接触者相談センター機能を担っていた保健所の業務過多、
  入院先を確保するための仕組みが十分機能していない地域もあったこと、
  PCR等検査を行う地方衛生研究所は、限られたリソースのなかで通常の検査業務も並行して実施する必要があること、
  検体採取者及び検査実施者のマスクや防護服などの感染防護具等の圧倒的な不足、
  保険適用後、一般の医療機関は都道府県との契約がなければ PCR等検査を行うことができなかったこと、
  民間検査会社等に検体を運ぶための特殊な輸送器材が必要だったこと、またそれに代わることのできる輸送事業者の確保が困難だったこと、などが挙げられる。

国や都道府県においては、以下の対応が求められる。
  保健所及び地方衛生研究所の体制強化及び労務負担軽減
  都道府県調整本部の活性化(重点医療機関の設定や、患者搬送コーディネーターの配置など)
  地域外来・検査センターのさらなる設置
  感染防護具、検体採取キット、検査キットの確実な調達
  検体採取者のトレーニング及び新たに検査を実施する機関におけるPCR等検査の品質管理
  PCR等検査体制の把握、検査数や陽性率のモニターと公表


〇 さらに政府に対しては、PCR等検査を補完する迅速抗原診断キットの開発及び質の高い検査の実施体制の構築を早急に求めたい。」



5.総理の認識は「目詰まり」

 5月4日に、緊急事態宣言を1ヶ月延長することを発表した直後の総理記者会見で、PCR検査について、次のやり取りがあった。

(記者)NHKの松本と申します。よろしくお願いします。
 PCR検査についてお伺いします。政府の方は、能力拡充を図ってきているとしていますけれども、なかなか実施件数自体は伸びてこないという現状があります。こうした中、果たして感染の全体像がつかめているのかどうかとか、あるいは把握できない感染が広がっているという国民の不安もあるかと思います。

 この検査の運用は、医師が必要と判断した人が受けられるようにするといったことになっていますけれども、こうした運用の見直しを図りまして、また、より検査が受けられやすいようにしていくという、その改善点についてどのようにお考えかお伺いしたいと思います。


(安倍総理)PCR検査の数と実際の感染者数との関係においては、尾身先生からお話を頂きたいと思いますが、では、このPCRの検査の数が諸外国と比べて日本は少ないのではないかという御指摘もあります。また、私もずっと、医師が判断すればPCR検査を受けられるようにすると申し上げてきましたし、その能力を上げる努力をしてきました。

 ただ、8,000、1万、1万5,000と上げても、実際に行われているのは、7,000、8,000レベルでありまして、私も何度もそういう状況について、どこに目詰まりがあるのかということは申し上げてきているわけでありますが、本日の専門家会議の分析、提言では、東京などを中心とした大都市部を中心に検査待ちが多く報告をされまして、検査件数がなかなか増加しなかった要因として、各自治体における保健所の業務過多や、検体採取の体制などが挙げられています。

 現在は、こうした状況を踏まえまして、地域の医師会にも御協力を頂きながら、全国で20か所、主にやはり東京でそういうことが起こっておりますので、東京で12か所のPCRセンターが設置されまして、PCR検査体制の強化が図られてまいりました。東京などの大都市圏を中心に対策を徹底していきたいと思っています。


(尾身会長)今の、よく一般の方で、PCR検査が日本で比較的少ないので、感染の実態を十分つかんでいないのではないかということですが、実は、今日、私ども専門家会議がこれから記者会見をしますが、そのときに詳しく申し上げようと思っていますけれども、歴史的に見て、確かに日本はPCRのキャパシティーを上げるということが他の国に比べて遅れた。それは様々な理由があります。

 元々、衛生研究所とか国立衛生研究所は、感染法の中で、行政の検査をやるということで、1つがありますね。それから、日本の場合には幸いなことにSARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)がなかったために、少しやはりPCR体制というものを組むということが、そういう経過があって、なかったと思います。

 しかし、そういう中で、実は当初はPCR検査を、重症化を防ぐために限られたキャパシティーを集中せざるを得ないという、これは事実でございました。しかし、だんだんと感染者が増えて、死亡者も増えるという中で、2月の20日頃から、大学とか他の医療機関に試薬を送るとか、検査をする。それから、3月6日にはPCRの保険適用が、そういうことが様々にありましたけれども、実は、なかなかうまく思ったほどのスピードで上がらなかったのは事実で、その理由はいろいろありまして、大体6つぐらいありますが、保健所の業務の過多とか、それから入院先をしっかり示す仕組みがない、それからPCR検査を行う地方衛生研究所のリソースが極めて少ない。人員のカットなどもありますし、そういうことがあった。それから、検体採取及び実施体制のマスクや防護服、それから一般医療機関は都道府県との契約をしないとこういう検査ができないという今までの仕組みがあった。それから、検体を取ったら運ぶということに、これに様々な障害がありました。そういうことでありまして、なかなか他の国よりは確かに少なかった。

 しかし、それと同時に、死亡者という、重症化で、本当に肺炎で亡くなったような人については、もちろん最近、報道で、残念なことに路上で亡くなって、後でPCRで分かったという人がおりますけれども、基本的には、日本の医療体制というのは、肺炎を起こしたような、日本の場合には肺炎のサーベイランスをやってきましたから、肺炎を起こすような人はほとんどがCT検査とかをやられて、その多くはPCR検査をやられてきて、そういう意味では、死亡者のようなものは大体正しい件数がピックアップされていると思います。

 それで実は、今日の専門家会議でも、我々、その中に書いてあって、また今日の記者会見で申し上げますけれども、実は、他の国に比べたら件数が足りない、少ないことは確かですけれども、今の状況を見ますと、徐々にではありますけれども、検体数は増えているのです。その中で、PCRの陽性率というのは下がっています。そういうポジティブなところがありますが、しかし、実際にまだまだ、私自身あるいは専門家委員会としては、PCRのキャパシティーを、必要な人に、もう少し私はできるようにスピードアップする必要があると思います。

 そのためには、幾つか、これも6つぐらい課題があると思いますけれども、保健所の強化、それから都道府県調整本部の活性化、それから地域の外来、これは医師会なんかがやってきて、いろいろセンターをつくっていますけれども、これがまた始まったばかりです。これをもっとしっかりやる。それから感染防護具とか、そういうキットの、これが調達がまだ足りません。それから検査をするといってもそう簡単ではない。トレーニングも必要です。それから実は、特に都道府県においてはPCRの実態の把握と、それから問題点が、何をするということは、これは前から基本的対処方針でお願いしています。これは知事のリーダーシップで、一体のこういうことが、更に私はしっかりと必要な人にPCR検査が受けられる体制を示すためのチャレンジであると思います。」



5.遅きに失した厚生労働省の方針転換

(1) 要は、各地の保健所や衛生研究所などの現場レベルで、普段の業務に加え、新型コロナウイルス感染症の増加に伴う相談業務などにてんてこ舞いであり、加えてPCR検査で陽性が判明すれば感染経路の追跡調査までしなくてはならないことから、パンク状態にある、それだけでなく、保健所から厚労省への報告様式が相変わらず紙や電話に限られていてオンライン化されていないことも、現場の業務を煩雑にしているという。

 これにしびれを切らした東京都医師会などは、都内において自前でPCR検査を行う体制を整えたし、江戸川区では独自に「ドライブスルー方式PCR検査」の導入を行っている。慈恵医大では、即日1件700円のPCR検査をしている。これらは全て、遅遅として進まない官製検査へのアンチテーゼである。

(2) こうした批判の高まりを受け、ようやく厚生労働省は重い腰を上げ、5月8日に各都道府県に対して「新型コロナウイルスに関する相談・受診の目安について」を発出し、2月17日の通達の該当部分を次のように訂正して37.5度のような定量的な表現をなくした。

 少なくとも以下のいずれかに該当する場合には、すぐに御相談ください。(これらに該当しない場合の相談も可能です。)

 ☆ 息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱等の強い症状のいずれかがある場合

 ☆ 重症化しやすい方(※)で、発熱や咳などの比較的軽い風邪の症状がある場合   (※)高齢者、糖尿病、心不全、呼吸器疾患(COPD 等)等の基礎疾患がある方や透析を受けてい る方、免疫抑制剤や抗がん剤等を用いている方

 ☆ 上記以外の方で発熱や咳など比較的軽い風邪の症状が続く場合 (症状が4日以上続く場合は必ずご相談ください。症状には個人差がありますので、強い症状と思う 場合にはすぐに相談してください。解熱剤などを飲み続けなければならない方も同様です。)


 そもそも、2月時点で厚生労働省や専門家が想定していた感染経路の追跡によるクラスター対策などというものは、これだけ感染が増えるともはや不可能となってしまった。かくなる上は、全国民に対してPCR検査を行うつもりで徹底的に感染者をあぶり出して隔離対策を行う必要がある。

(3) この方針転換を余儀なくされた加藤勝信・厚生労働相は、5月8日の閣議後会見で、「目安が相談や受診の基準のようにとらえられていると指摘し、『我々から見れば誤解だ』と語った。自治体に『幾度となく通知を出し、相談や受診は弾力的に対応していただきたいと申し上げてきた』と強調した。」というが(2020年5月8日付け日本経済新聞)、今更取り繕うなと記者団の失笑をかっていた。

(4) また、必ずしもPCR検査だけでなく、抗原検査CT検査とを組み合わせる方式も有効だそうだ。このうち抗原検査とは、新型コロナウイルス特有のたんぱく質(抗原)を検出するもので、やはり鼻の奥の粘液などを綿棒で採取して検査する。問題は精度が低い点であるが、メリットは、結果が分かるまで、PCR検査は6時間程度にかかるのに対し、抗原検査はその場で数十分ほどですむという点である。他方、人口百万人当たりのCTの数は、日本は国際的にみて最も多く米国や韓国の3倍近くある。新型コロナウイルスによる肺炎は、肺に磨りガラスのような病巣が現れるのだが、これがPCR検査の前検査として、非常に有効だという。

 このほか、PCR検査そのものの効率化や迅速化も進展しつつある。富士フイルムは、「検体を装置にセットするだけで全自動で調べられるPCR検査用の試薬を開発した。検査時間も従来の4〜6時間から約75分に短縮できる」という。また、島津製作所が約1時間で済むキットを開発しているそうだ。(2020年5月8日付け日本経済新聞)

 これらとは別に、5月13日頃、みらかホールディングス子会社の富士レビオ(東京・新宿)の製品で、新型コロナウイルスの感染の有無を15分程度で簡易診断できる「抗原検査」キットが、薬事承認されるという。(2020年5月11日付け日本経済新聞)




(2020年5月10日記)


カテゴリ:エッセイ | 00:30 | - | - | - |
AI三原則

モバイルルーム自動運転車「HANARE(ハナレ)」


 事の起こりは、東京モーターショーに行った時のこと、まず2017年秋のモーターショーでの不思議な記憶がある。確かドイツのメーカーだったと思うが、四角いバンの座席がスライド形式で横開きになっていて、中の空間にはソファーがあるだけ、他には何もない。運転席はもちろん、ハンドルやブレーキの類いすらない。「これは一体、何だ?」と思ったが、これが私が初めてAI自動運転車を見た衝撃的な場面である。しかしその時は、そういう「歴史的瞬間」だったとは露知らず、「まるでソファーのある部屋が動くようなものだな。」と思って、写真も撮らずにそのまま通り過ぎた。

 それからである。各国で行われている自動運転車の公道走行実験が知られるようになった。日本でも2019年5月に「道路交通法の一部を改正する法律」が成立して「自動運行装置を使用する運転者の義務や作動状態記録装置による記録に関する規定の整備等」が盛り込まれた。これにより、いわゆるレベル3の自動運転が可能となった。


自動運行装置を使用する運転者の義務や作動状態記録装置による記録に関する規定の整備等(警察庁ホームページより)


 その年の2019年10月の東京モーターショーでは、外国メーカーの出展はほとんどなかったものの、スズキのコーナーに、AI自動運転車らしき車があった。中に自転車が鎮座している。それが冒頭の写真である。その説明によると、

 誰もが自由に移動時間と、ほどよい空間を有効活用できるモバイルルーム自動運転車「HANARE(ハナレ)」
  。腺鼻▲蹈椒奪箸砲茲訥狂率化社会の中でも、「人のつながり」や「人のこだわり」など、人間らしい欲求を大切にし、クルマを所有する新たな喜びを提案する自動運転車。
 ◆_箸痢嵶イ譟廚里茲Δ覆曚匹茲ぢ腓さの室内空間が移動することで、運転以外の楽しさ、ワクワクを提案。
  ライフスタイルが更に多様化する未来において、様々な使い方や利用シーンに対応し、一人ひとりのワクワクにスイッチ。


 これは、良いなあ。レベル5だと、運転免許も要らないだろう。iPhoneのSiriに対して喋るように「名古屋の栄に行きたい」というと、東京の自宅から東名高速道路を通って連れて行ってくれる。何なら、「HANARE(ハナレ)」の中にベッドを持ち込むと、寝ているうちに着いてしまう。もっとも、途中で事故に巻き込まれてそのまま昇天するという可能性もないではないが、そうなったら仕方がない。蓼科に行って高山植物を撮りたいというときも、自分で運転する必要がなくて、これは便利だ。途中は寝て行って、目的地の高原で降りて写真を撮ることに集中することができる。あと10年後にはそうなるかもしれない。それまで、自動運転車を買えるくらいのお金を貯め、かつ健康でいよう。

 などと思っていたところに、その年の春に先輩から「今度、ウチの法律雑誌でAI特集をやるから、ちょっと巻頭言を書いてよ。あなた、その方面に明るいから。」と言われたことを思い出した。すっかり忘れていたが、もう秋になってしまったので、年明けには原稿を渡さないといけない。

 それにしても、その法律雑誌には、どういう内容の記事が掲載されるのかは、目次程度しかわからない。その中で巻頭言を書くというのも、なかなか辛いものがある。後に続く記事と全く無関係の頓珍漢なことを巻頭に書くのははばかられるし、さりとて、後に続く記事の内容と重複するのも、嘲笑の種になりかねない。法律の分野でAIは、大きく体系を変える可能性を秘めているけれど、現在のところはまだまだ各法分野別のちょっとした話題に留まっている。いや困ったな・・・ああ困った。はて、どうするかと考えあぐねて・・・そうだ。そういうときの取っておきの策は、近未来の世界を描くことだと思い付いた。というわけで、冒頭の自動運転車の話題から始めて、次の一文を一気に書き上げた。

 その雑誌が出来上がって、記念に何冊か送られてきた。私の巻頭言の後に続く記事を読んでみたが、幸いにも齟齬がなく、ひとまず安心した。しかし考えてみたら当然のことで、法律家は目前の、あるいは数年先の課題解決の理論を作るのが得意だけれども、数十年先の課題など眼中にあるはずがない。ところが、ことAIに限っては、数十年先、百年先のことまで念頭に置く必要があると思うのである・・・という前置きで、次の巻頭言をお読みいただければ幸いである。




          巻頭言 AI三原則


 私は、自動車と最新の技術に興味があるので、東京モーターショーがあるときには、カメラを抱えて必ず行くことにしている。会場のあちこちでは、自動車の最新モデルの脇に、可愛いお嬢さんがにっこりと微笑んで立つという風景が見られるのだけれど、2017年から普通の自動車に混じって、妙な「コンセプト・モデル」が展示されるようになってきた。

 それは、窓のついた長四角の箱で、四隅にタイヤはある。ところが箱の中には、ハンドルはおろか運転席もパネルもなく、ソファーがあるだけだ。そこであたかも居間にいるようにして家族と話し込んでいると、いつの間にか目的地に連れて行ってくれるという車だ。運転する必要がないから、これは楽だと思う反面、完全自動運転だからハンドルもブレーキも要らないというのはやり過ぎではないか、事故が起きそうになったらどうやって防ぐのかなどと思った記憶がある。

 ところが、その頃から、カリフォルニアでアップルやアルファベット傘下のウェイモなどが自動運転車の大々的な公道実験に乗り出し、膨大なデータを集め始めた。この自動運転には、最近急速に発展したAI(人工知能)の深層学習(ディープ・ラーニング)が使われている。この技術は日々急速に進歩しつつあって、今や自動運転はレベル3の段階(特定の場所でシステムが全て操作するが、緊急の場合には運転者が操作する)にあるが、レベル5の段階(全ての場所でシステムが操作する)に達する日も、ほど近いと言われている。

 刑法の責任主義の観点からすれば、事故が起こった時、レベル3の段階だと適切なハンドル操作をしなかった、緊急停止ボタンを押さなかったなどと運転者の責任を問うことになるから、今と同じ法体系でよい。ところが、レベル5の段階になったら、運転者の責任はもはや問えないことから、瑕疵のあるシステムを作ったとして自動運転開発者の責任を問うことになるのか・・・そうなるとそれは道路交通法の問題というよりは、民事上の不法行為責任の問題で対処するのかあるいは製造物責任法に刑事責任を新設する問題になるのかなど、法体系が大きく変わる可能性を秘めている。もっとも、自動車の場合には自動車損害賠償責任法の運行供用者責任があるから、問題はあまり顕在化しないかもしれないが、これがない鉄道、航空機、船舶などは同様の制度を考える必要があるだろう。

 弁護士や医師や会計士という専門職の仕事も、AIで抜本的に代わる可能性がある。弁護士なら貸金返還請求訴訟などの定型的訴訟から使いはじめて、交通事故、特許事件の先行文献調査などの補助業務なら結構使い出がある。そのうち良質なデータの蓄積があれば、あらゆる訴状や答弁書の原案を作成できるかもしれない。医師の仕事も同様で、エックス画像を見てガンがあるかどうかを判定する分野ではAIが専門医を上回る好成績を上げることも珍しくなくなったから、その種の業務からはじめて、やがては患者とやり取りをする診察までこなすAIが出てくるのは必然だろう。ただ、AIが専門職の補助的仕事をしている分には現在の法制度でよいが、近い将来それが一人前の仕事をするようになると、そもそも専門職制度はこのまま維持できるのかという問題に直面するのは避けられない気がする。

 かくして、AIの深層学習技術は、自動運転にとどまらず、有用な技術として社会のあらゆる分野で使われ始めている。先ほどの医療分野での病気の判定、街角を歩く人混みの中からの指名手配犯の発見、プロを打ち負かす囲碁や将棋、定型的な新聞や雑誌記事の執筆、俳句詠み等々である。まさに、万能の力を発揮している。それは良いことだと思う。

 ところが問題は、深層学習といっても、そもそもどういうアルゴリズムなのか、特にいかなる因果関係があってその結果が出ているのか、よく分からないのが現在のAIの特徴である。そうすると、出た結果を不審に思って検証しようとしても、それができないことが多い。例えば、犯罪発生地点の予測ならまだしも、特定の個人を犯罪者予備軍などと推測するのは、何の根拠でそう判定するのか、人権侵害も甚だしいということになる。また、AIに放り込んだデータが間違っていたり、質の悪いものだったりすると、出てくる結果もまた見当違いのものになるのは、言うまでもないことだろう。

 世の中は、AI元年が到来したといって大歓迎のムードであるが、私に言わせれば、コンピュータとソフトウェアである以上、検証不可能な結果をそのまま受け入れるのはどうかと思うし、元となるデータ自体がおかしなものであれば、一体どうするのだろうという疑念がぬぐいきれない。しかし、考えてみれば、どんな新技術も導入直後には色々と問題が生じるものである。そうした問題も、そのうちに何とか克服される。そしていったんその便利さに慣れてしまえば、これに異を唱えるのはあたかも風車に立ち向かうドン・キホーテのようなものかもしれない。

 AIも、その深層学習の度合いを深め、個人情報保護と適度な折り合いをつけて良いデータを常に供給してやれば、まさに日常の生活や健全な社会の構築に使える実用的なものになるだろうし、またそう願いたい。そうして赫赫たる成果が上がるにつれて、人々の頭に疑念が浮かんだとしてもいつの間にか駆逐されていき、AIが活躍する領域が徐々に増えていくというのが、これからの世界だろう。

 しかし、AIが人間の補助的業務にとどまっている分にはまだ良い。それが完成度を高め、そのうちあらゆる分野で人間の能力を超えるシンギュラリティー(技術的特異点)に到達するかもしれない。それでも更に膨張に膨張を遂げていき、やがてはジョージ・オーウェルの小説「1984」のビッグ・ブラザーのようなものが出てきて、気が付いたら人間がそれに支配されていたということにならないか、心の片隅で私は心配している。AIに対して「全知全能の存在はいるのでしょうか。」と聞き、「はい、あなたの目の前にいます。」という答えが返ってきたら、もう手遅れだ。

 この点、かつてSF作家のアイザック・アシモフが提唱したロボット三原則、すなわち(1)人間に危害を加えないこと、(2)人間の命令に服従すること、(3)これらに反しない限り自己を防衛することの、現代的意味を再検討する必要があると思う。かつてのロボットは、それ自体が単体で動いて周りに影響力を与える存在にすぎなかったから、この程度で済んでいた。

 ところが、やがてAIは、シンギュラリティーを越えるあたりから、社会全体を統率するほどの影響力を行使する存在になるのは、間違いない。そこで私は、今のうちから新たにAI三原則として、(1)人間を個人として尊重すること、(2)人間の自由と平等を保障すること、(3)人間の多様な価値観を前提とすることを提唱したい。これからのAIの開発者は、この三原則を常に念頭に置いていただきたいと思う。




(2020年 5月 1日記)


カテゴリ:エッセイ | 12:42 | - | - | - |
還付金詐欺

自動通話録音機


 ちょうど新型コロナウイルス騒ぎで、自宅でのんびりしていた平日のことである。午前8時半頃、固定電話が鳴った。「もしもし、〇〇さんですか。」と、私の名前を言う。「文京区役所健康保険課の橋本です。」と名乗る。私は、昨日、家内が文京区役所の人と電話で話していたことを思い出し、「ちょっと待ってください。」と、家内と代わった。横で聞いていると、こんなやり取りがあった。

橋本2月頃に緑の封筒が届いたはずですが、その中に、過去3年分の医療費(聴き取れず)についての還付金の送り先の書いたものがあって、その件なのですが。

家内そういう封筒をもらったかどうか、記憶がありません。

橋本あれ、そうですか。それでは、もう2ヶ月の締切り期限が過ぎていて、我々は厚生労働省に返送されて来た方々のリストを送ったのですが、三浦さんのように、こうやって未だ返送のない方に個別にお電話しております。期限は過ぎておりますが、銀行の方で手続をすれば、まだ間に合います。でも、急がないといけません。

家内「どこに電話しているのですか?」

橋本「ああ、すみません。〇〇さんでした。それで、手紙を探していただいて、もしなかったら、そういう場合の救済措置について銀行に対応させるので、みずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行、りそな銀行のどれが良いですか。

家内では、みずほが良いですね。

橋本それでは、みずほ銀行本店から電話させますので、そのとき、どの支店が良いか指示してください。そして、通帳、銀行印、キャッシュカード、身分証明書を用意して、お待ちください。連絡は、この電話でよいですか。

家内はい、結構です。」(電話を切る。)

 その直後、家内が私に、「この電話、怪しいわよ。相手の名前を間違えるなんて、有り得ないわよね。通帳、銀行印、キャッシュカードで還付金を用意するなんて、詐欺そのものよ。」と言う。

 私は、「まず間違いないなぁ。では、確認してみよう。」と言って、直ぐ文京区役所の組織を調べたら、そもそも「健康保険課」というものがなくて、代わりに「国保年金課」がある。そこへ電話してみた。すると、「橋本という者はおりません。」とのことで、還付金詐欺の疑いがまず間違いないとなった。だいたい、私が弁護士と知って詐欺の電話を架けてくるというのはよほどの間抜けだから、弁護士会の名簿から漏れたのではなさそうだ。


 それでは、「受け子」を捕まえるとするかと思って、その銀行本店からという電話を待った。自宅に招き入れるなんて、とんでもないから、みずほ銀行根津支店前で待ち合わせることにするにはどうすればよいかと頭の中で地図を描き、警察官には、あそことここで待っていてもらえばよいと考えた。すると、ちょうど1時間後の9時半に、電話が架かってきた。


糸山もしもし、こちらみずほ銀行本店営業部の糸山と申します。〇〇さんのお宅でよろしかったでしょうか。

「(『よろしかったでしょうか』なんて、典型的な若者言葉だなと思いつつ)、はい、そうです。」

糸山先ほど、文京区役所から依頼があった件ですが、お使いになる窓口の支店はどこがよろしいでしょうか。

「ああ、あの件ですか。では、根津支店が良いですね。」

糸山本日行くということで、よろしかったでしょうか?

「ああ、たまたま今日は忙しいので、行くのは、明日になりませんか。」

(すると、ここで突然、電話が切れてしまった。)


 いやまあ、残念だった。ちょっとこちらが主導権を取ろうとしたことで、相手が警戒したようだ。それでは、私に対する詐欺未遂に使われたこの電話番号を放置しておくと他に被害者が出かねないから、出来るだけ早く使えないようにする必要があると思って、所轄の本富士警察署防犯係に電話した。

 すると、担当の警察官で出てきて、ひと通り私の話を聴取して、パソコンに打ち込んだあと、この詐欺に使われた2つの電話番号を調べてくれた。いずれも、つい最近、詐欺に使われたので、停止の手続中とのことだった。


担当の警察官お宅の固定電話とお名前が詐欺グループに使われたとなると、電話番号とお名前が知られていて、また同じような電話が架かって来るかもしれません。そういうとき、詐欺を撃退するために、文京区から配ってくれるように言われている器械があるんです。無料ですから、付けてみませんか。電話が架かって来ると、発信者に対して自動で警告メッセージを流す、そして電話に出ると録音するだけの機能ですけどね、効果があると言うのです。

「そうですか。それでは、お願いします。」

担当の警察官いま確認したところ、たまたま担当の警察官が、お宅の近くで同じように個人宅を訪問中なので、すぐに向かわせます。ちゃんと警察手帳を提示させますから、確認してください。


(すると、1時間もしないうちに、婦人警察官がやって来て、「自動通話録音機」なるものを電話機に接続してくれた。)

 試しに私が携帯電話から自宅の固定電話に電話してみたところ、「この電話は、特殊詐欺防止のため、通話内容を録音させていただいております。」というメッセージが流れた。この固定電話に架けてくる人にはご迷惑だが、我慢してもらおう。私や家内の親類は、皆、それぞれの携帯電話に架けてくるから、まあ良いかと思った。

 この一連の出来事は、たった2時間半に起こったことで、本当に妙な一日だった。ちなみに、文京区役所HPによれば、次のようになっている。


 特殊詐欺防止のため「自動通話録音機」の無償貸し出しを行っています

 自動通話録音機とは、


 1.自動警告メッセージ
  設置電話機の呼出音が鳴る前に、発信者に対して自動で警告メッセージを流すため、 居住者が電話に気付く前に犯人へ警告を与えることが出来ます。

 2.自動録音機能
  受話器が応答したときから自動で録音を開始し、通信が遮断された時点で停止します。

 自動通話録音機は13センチX16センチ程度の箱に入る大きさで、取付けも簡単です。





 警察庁のホームページの「特殊詐欺」の項を見ると、次のように書かれている。私のところに架かってきた電話と、見事に全く同じである。


 還付金等詐欺とは、市区町村の職員等を装い、医療費の還付等に必要な手続を装って現金自動預払機(ATM)を操作させて口座間送金により振り込ませる手口による電子計算機使用詐欺です。

 【主な手口】医療費、税金、保険料の還付、年金の未払金等と、還付の手続のためATMに行くよう求めてきます!

 【 具体的な手口 】

  犯人は、「自治体(県や市区町村)」、「税務署」、「年金事務所」などの職員を名乗り、被害者に対して
「医療費の過払い金があり、還付の手続のため電話しました」
「年金が一部未払いとなっていたので、受け取る手続をしてください」 などと、被害者に対してお金を支払うという内容の電話をかけてきます。

  このとき、被害者を信用させるため
「以前、青色の封筒を送ったが、返信がないので電話しました」 などと、被害者が封筒を見落としているということや、突然電話をしたわけではないということを強調することもあります。

  被害者を信用させた上で、犯人は
「還付手続の期限は今日までなので、急いで手続をお願いします」
「すでに期限が切れていますが、本日中であればなんとか間に合います」 などと、急がなければ還付金が受け取れなくなることを強調し、被害者を焦らせた上で

「銀行窓口は混んでいるので、携帯電話を持って近くのATMに行ってください」
「ATMに着いたら、操作方法を説明するので、***-****-****まで電話してください」 などと、携帯電話を持ってATMに行くように指示してきます。

※ あらかじめ被害者の家の周辺のATMを調べ、ATM管理者などの注意が届きにくい無人ATMを指定して手続を行うよう指示することもあります。

 被害者がATMに到着すると、犯人は
「操作方法を説明しますので、私が言ったとおりにボタンを押してください」
「誤った操作や、押し間違い等があれば手続ができませんのでご注意ください」 などと、犯人の指示するとおりに操作をするよう強調した上

「『お振込』というボタンを押してください」
「○○さん(被害者)の個人番号である『 *,***,*** 』を入力してください」
「入力が終わったら、画面右下の『確認』ボタンを押してください」 などと言い、本来は相手方に振り込み送金することとなるにもかかわらず、被害者自身の口座に振り込み入金されるものと誤信させ、さらに「個人番号」や「取扱番号」などと偽って、犯人側に振り込む金額を入力させて、お金をだまし取るのです。

  中には
「還付手続のため、お手持ちの口座の種類や残高を教えてください」
「最初に『残高照会』というボタンを押し、表示された数字を右から読んでください」 などと言って、あらかじめ被害者の預貯金口座の残高を聞き出し、その被害者からだまし取れる限界の金額がいくらかを把握した上で、詐欺行為に及んでいることもあります。






(2020年 4月28日記)


カテゴリ:エッセイ | 05:45 | - | - | - |
我はマスク難民なり

内務省衛生局のポスター



1.新型コロナ対策のマスクを求めてさすらう

 昨年末、これから寒い中を散歩するのに、マスクがあると口元が暖かいだろうと思い、ドラッグストアで使い捨てのマスクを買った。不織布を使ったもので、1箱65枚入り、わずか508円である(1枚当たり8円弱)。なぜこんなに安いのかと思った記憶がある。家内は、もともと先々のことまで気が回る方なので、花粉シーズンを迎えるということで、昨年末にユニ・チャームの特別仕様のマスクを、3ヶ月分以上買い置いていた。

最初のマスク


 私は、そのマスク箱から毎日1枚ずつ出してチビチビと使い続けていた。ところが、今年の2月に入ってなくなりかけたので、もう一箱買おうと思った。しかし、既にその頃から新型コロナウイルスが世間を騒がすようになり、ドラッグストアやスーパーなど、どこを探してもマスクは売り切れである。毎日、同じ店を数回見て回っても、「在庫はありません。入荷は未定です。」とあるばかり。それが連日続くものだから、さすがの私も、だんだん腹立たしくなってきた。

 これは、私だけではないようで、ドラッグストアの店員さんのボヤキとして、「お客さんに『マスクがないか』と言われるのが辛い。『ありません』と答えると、『今、マスクをしているじゃないか。それを寄越せ。』などと無理難題を言われて困っています。いつ配送があるかどうかもわからないのに、お客さんに聞かれて『分かりません』というと、『嘘だ 。テレビでは増産すると言っているじゃないか。』と言われてしまう。」という趣旨の記事があったほどだ(日本経済新聞4月6日付け朝刊)。

 新型コロナウイルスは感染症だと聞くので、一庶民としては、マスクをしたら少なくとも防御効果はあると考えるのが普通である。特に混雑時の地下鉄では、乗車する間はそれこそ他人と密着して過ごすわけだから、せめてマスクくらいはしたい。それなのに、何軒も何度も回っても、どこにも売っていないとは、一体どういうことだと思う。一方で、自宅のマスクの在庫はもう尽きそうになるから、心はあせる。もはやこれは、「マスク難民」としか言いようがない。

 最後の手段として、通販のアマゾンを探した。すると、PM2.5対応のマスクしか残っていなかった。それも、1箱30枚入りで、値段はなんと、4,980円だ。一枚当たり166円と、先に買ったものの21倍もする。いくらPM2.5対応とはいえ、これは不当だと思ったが、他に入手の当てはない。仕方がないのでそれを購入し、ひと息ついた。2月8日のことだった。

アマゾンのマスク




2.月1億枚を6億枚にしても焼け石に水

 せっかく確保した30枚のマスクだったが、3月中旬にはまた底をつく。再びあの憂鬱なマスク探しをするのかと思うと、嫌になる。そういう時、家内が近くのスーパーから帰って来て、「面白いものがあったわよ。」と持ってきてくれた小さな箱がある。それは、「マスク用取り替えシート(50枚入り)」というもので、既存のマスクの内側に挟んで使うらしい。なるほど、これは小判ザメ商法の一種だが、目の付け所は悪くないアイデア商品だ。もっとも、効果のほどはよくわからない。しかし、この際、溺れる者藁をも掴むだ。それでは、今のマスクは使い捨てではあるが、もし在庫がなくなったときの非常手段としては、良いと思う。有難く頂くとしよう。(その後、3月下旬から4月初旬にかけて自宅のマスク在庫がなくなってきたので、いったん使ったものを洗って高温乾燥させ、散歩のときにこの取り替えシートを挟んで再利用した。それで数週間、凌ぐことができた。)

取り換えシート


 2月13日になって、菅義偉官房長官が、「現在のマスク供給数は月間1億枚だが早急に6億枚まで引き上げるので、3月中には国民に行き渡る」と説明していた。私はこれで先に光明が見えたと思った。ところが、3月末になっても、4月に入っても何も変わらず、市中では1枚も手に入らない。やはり官房長官のあの発言は、嘘でたらめの類いだったのかとガッカリした。その後、官房長官が表に出てくることはなくなった。新聞記事によると、「官房長官を傷つけてはいけないと、周りが押さえている」とのこと。国難ともいえる緊急事態なのに、そんなことをやっている場合かと言いたくなる。

 4月11日付けの報道によれば、「厚生労働省に聞くと、『月6億枚を供給しているのは確かで、国内メーカーは24時間態勢で通常の3倍の増産を継続している』(対策本部マスク班)と回答。

 そこで、国内メーカーが加盟する全国マスク工業会の上部団体にあたる社団法人『日本衛生材料工業連合会』に6億枚の内訳を尋ねると、『医療機関に行くのが生産量の3割ぐらい。残りが介護施設や食品業界、そして小売店などです。メーカーには例年の約4〜5倍の受注があり、いつ、“コロナ以前”の状況まで回復できるかはっきりしたことは言えない。ただ、小売店への納品回数は増え、店頭に並ぶ機会も増えています。30分〜1時間程度で売れてしまいますが』(担当者)

 同連合会の調べによると、2018年度の年間マスク量は、国内生産約11億1100万枚に対し、海外からの輸入は約44億2700万枚。菅官房長官は『平常時は輸入が7割、国産が3割。3月はその比率が逆転する見込み』と話しており、世界的感染拡大による中国などからの輸入減少が響いている。その分を国内メーカーがカバーしようと奮闘中だ。

 そもそも、『月6億枚』という数字に過度の期待をしてしまった感がある。実はコロナ以前の需要も『平均で月約3.6億枚』(前出のマスク班)と、そこそこあり、現在のマスク着用率をみると6億枚程度では足りなくなるのも当然だ。」
(「週刊女性PRIME」編集部)

 なるほど、そういうことか。大雑把に言うと、マスク国産と輸入の合計年間55億枚だから、国内需要を満たすために月平均4.5億枚も出ていたのか。しかも、1月から3月にかけては花粉症シーズンだから、需要が集中する時期だ。仮に月10億枚の需要があるとすると、輸入マスクは各国の取り合いでもはや期待出来ないだろうから、そんな時に国産マスクを月1億枚から6億枚に増やしても、焼け石に水というわけだ。官房長官がそれを知っていてあんな発言をしたとしたら、気休め程度を通り越して、やはり嘘八百だった。こういうことを繰り返すと、政府への信頼性をなくすばかりだ。


3.水野康孝医師の「防ぐ効果はありません」

 3月に入って、NHKテレビに感染症に詳しいと称する水野康孝という医師が出てきて、盛んに「マスクをしていても、新型コロナウイルスを防ぐ効果はありません。鼻の両側や側面から空気が入るからです。」と説明する。これを真に受けて、街を歩いていると、それまでは9割方の人がマスクをしていたのに、あれよあれよという間に7割くらいに減ってしまった。私がよく行く近所の喫茶店のマスターも、「マスクをしていても新型コロナを防ぐ効果はないようですよ。」などと言う。

 私は、「庶民がなるべく被害に遭わないように自分で出来る限りの涙ぐましい努力をしているのに、何を馬鹿なこと言っているのか。たとえそうだとしても、少なくとも唾や唾液を防ぐことはできるから、特に感染者は絶対にマスクをすべきだ。」と思った。ところが、水野医師が連日出演して同じことを繰り返すものだから、「これはマスクがないことを正当化する政府の回し者か、NHKがそれに加担するとは怪しからん」とまで思ったくらいだ。

 フランスでは、内務大臣が「マスクは必要ない」として配らなかったところ、警察官などの組合が業務用のマスクを配布しろという抗議のデモが行われたという。その頃、ニューヨーク市で外出を取り締まっている警官は、しっかりとマスクをしていた。その後、フランスでは、やはり警官や政府職員にマスクを配布することにしたそうだ。

 それから幸いなことに日本でも、NHKから水野医師が消えて、その代わりに「感染者がマスクをしてくしゃみをしたら、唾液の飛散を相当抑えられる」ことを実験で示し、要は「エチケットとして」マスクをするべきだと放送しはじめた。これ以降、街を歩いている人の概ね9割以上がマスクをするようになった。していないのは、若い人が多いので、近づかないことにしている。


4.諸外国のマスク争奪戦

 マスクは、国際政治にも大きな波紋を投げかけている。要は、各国で壮絶な取り合い合戦になっているのである。4月4日、アメリカのトランプ大統領は、高性能マスクの輸出を停止した。それどころか、上海からフランスに送られる予定だった医療用マスクの一部が、米系業者が3倍の価格を提示したことから、発送直前に輸出先がアメリカに変わったという事件まで起こった。もはやこれは、仁義なき戦いそのものだ。

 その反面、先に新型コロナウイルスの押さえ込みに成功した中国は、マスク、人工呼吸器、防護服などをここぞとばかりに120ヶ国に援助している。被害を最小限に押さえた台湾も、それに呼応するかのように、月1,500万枚という製造能力を生かして自国産マスクの対外援助を惜しまない。かくしてマスクは、人工呼吸器とともに、お金以上に国際政治を動かす手段のようになってしまった。


5.マスクの不満はパーっとなくなる?

 4月1日のことだった。安倍晋三総理が、新型コロナウイルス対策本部で、「全世帯に布マスクを2枚ずつ、再来週頃に郵便で配布する」と突然表明した。これも、新聞や雑誌の記事によれば、総理官邸の誰かが「国民がマスクがない、マスクがないと、ご不満のようなので、マスクを全世帯に配布すれば、そういう不満はパーっと消えますよ」と進言したという。本当だとしたら、あまりに短絡的な発想だ。しかも、2人家族でも4人家族でも、たとえ6人家族であったとしても、一律たった2枚というお粗末さだ。これでは、少なすぎる。この布マスクは30回ほど洗えるそうだが、専門家によると目が細かい不織布ではなくて、目の粗い布なのでウイルス防御という面では全く役に立たないそうだ。そんな代物ではあまりにも中途半端だ。それに、なぜ4月の第三週からなんだ。私などは、2月の初めから探していて、もう2ヶ月間も毎日落胆していたのというのに、これでは、遅すぎる。

 ただ、感染者がウイルスを撒き散らすのはある程度防げるそうなのだが、そのためにわざわざ5,300万世帯に単価200円のものを2枚ずつ、合計で466億円余りもかけて配布するのかという気がする。それだけのお金と時間があるなら、医療機関向けの高度なマスクのN95を増産したり、あるいは台湾がやっているように、不織布のマスクを配給制にして国民が確実に入手できるようにすべきだったと思う(しかしこれも、マイナンバーカードの普及率がまだ15%にも満たないから、そもそも無理だったかもしれないが、こんな状況になるまでシステムの充実を放置しておくのが悪い。)。

 この『遅すぎ、少なすぎ、中途半端』の施策の典型のような政府が配布するマスクは、世上「アベノマスク」と言われるそうだ。言い得て妙だが、4月17日より患者数の多い東京都の世田谷区からまず配布されるという。


6.やっと一箱60枚入りを買えた

 4月7日、7都府県に対して5月6日までの緊急事態宣言が出された。その日、自宅にいると家内が買い物から息せき切って帰って来て、「いつものスーパーの店の前で、マスクを売っているわよ。一人1個、あなたのは買った。」と言う。「ありがとう。では、君のをもう一つ買ってくる。」と言って、あわてて出かけて行った。すると、確かにスーパーの前で1箱60枚入りの不織布マスクが売られていて、お客さんが列を作っている。私も並んで、家内用の小さ目のマスク1箱を買うことが出来、一息ついた。値段は、3,300円と、まあリーズナブルだ。それはもう、翌日には私の在庫のマスクがなくなるというギリギリのタイミングである。我ながら、いつも通り、綱渡り人生を歩んでいる。

スーパーのマスク




7.スペイン風邪

 1918年から21年にかけて、世界的に流行したパンデミックな疫病として、「スペイン風邪」がある。今では、A型インフルエンザウイルスの一種(H1N1型)だとわかっているが、当時は流行性感冒とされ、原因ウイルスを検査する技術や防疫体制などがなかったために世界的に大流行した。

 「防災情報新聞」によれば、スペイン風邪の患者数は世界人口の約3分の1の約5億人で、致死率は2.5%以上、死亡者数は5千万人とも1億人とも言われる。日本の内務省統計では、日本の患者数は約2,300万人、死亡者数は約38万人とされている。その特徴は、今回の新型コロナウイルスとは正反対で、死亡者の99%が65歳以下の年齢層だったという。その時も、「患者の隔離、接触者の行動制限、個人衛生、消毒と集会の延期といったありきたりの方法に頼るしかありませんでした。多くの人は人が集まる場所では、自発的にあるいは法律によりマスクを着用し、一部の国では、公共の場所で咳やくしゃみをした人は罰金刑になったり投獄されたりしましたし、学校を含む公共施設はしばしば閉鎖され、集会は禁止されました。」とのこと。

 表紙の写真(下の写真も同じ)は、大正9年(1922年)2月7日に内務省衛生局が各府県に配布した流行性感冒についての啓発ポスター(国立保健医療科学院。図書館所蔵。「防災情報新聞」のHP)であるが、今日もそのまま使えそうだ。

内務省衛生局のポスター


内務省衛生局のポスター


内務省衛生局のポスター


内務省衛生局のポスター





8.マスクを義務化したNYと大和市

(1) ニューヨーク州では、クオモ知事がマスクの着用を義務化した。朝日新聞によれば、「クオモ知事は4月15日、他人と距離を保てない公共の場所ではマスクの着用を義務づける知事令を出すと発表した。電車やバス、食料品店や人通りの多い道路などを想定しているという。周知期間を経て、17日から実施する。・・・マスクは品薄状態が続いているため、スカーフやバンダナで代用することもできる。現時点では、知事令を破っても罰則はない。(4月16日朝日新聞デジタル)」

 これまで、アメリカでは「マスクを着けているのは病人だ」というのが常識で、私は若い頃にアメリカ全土の20都市以上を回ったことがあるけれど、医療従事者を除いて、マスクをした人など一度も見たことがなかった。マスクをしていると、病気を人に伝染す人と思われていたからだ。それが、ここまで変わるとは思わなかった。でも、ニューヨークもマスク不足は深刻なので、顔にバンダナを巻いた人が増えるだろう。そうすると、防犯カメラには顔が映らないので、犯罪の抑制には悪影響があると思われる。

(2) ところで、ドイツでは、4月27日からほとんどの州で、公共交通機関や買い物の際にはマスクを着用するように義務付けられ、イタリアやベルギーでも同様になったそうである(NHK)。フランスでも、マスク配布を計画中ということだ。シンガポールでは、国民にマスクを配り出した。あの平均気温28度の常夏の国で、外出時までマスクをするというのは、かなり苦しいことだ。それでもマスクの配布に踏み切ったということは、余程のことだと思われる。

(3) 日本では、神奈川県大和市が「大和市おもいやりマスク着用条例」を制定した。そのHPによると、

「新型コロナウイルスをはじめとする感染症を拡大させないため、『大和市おもいやりマスク着用条例』を制定しました。大和市の調べによると、このような条例の制定は、全国初の取り組みとなります。

条例の趣旨 かぜやインフルエンザなどの患者がせきやくしゃみをすると、1回につき数万〜数百万以上のウイルスを含む飛まつが飛散すると言われています。マスクは、こうした飛散を予防することで、感染者が感染症を拡大させないために効果を発揮するものです。
 現在、世界中で猛威をふるっている新型コロナウイルスは、感染しても自覚症状が出ないという性質があります。こうした無症状の方が、無意識のうちに感染を拡大してしまうという問題があります。 日本では以前から、かぜをひいたときや冬の時期などに、マスクを着用することが多くの人の習慣として根付いています。これは、自身の予防のみならず、かぜなどをうつして人に迷惑をかけてはいけないという、日本人がこれまで培ってきた文化によって醸成された、他者を思いやる考えによるものです。
そこで大和市では、感染予防に寄与するとともに、こうした日本人の思いやりの心をいつまでも大切にするため、「大和市おもいやりマスク着用条例」を制定しました。

内 容 感染症等のまん延が予測される場合や、すでにまん延しているときなど、市民一人一人がマスクを着けることで、周囲の人のことを思いやる心を大切にしながら、感染予防に努めるものです。
※この条例は、感染拡大を防ぐために、市民の皆様にマスク着用の協力を求めるものであり、罰則などはございません。

対象となる感染症 感染経路が主に飛まつまたは接触によるもので、ウイルスが鼻、口等から侵入して感染する疾病。

マスク 鼻および口をおおう物で、紙、布、不織布等で作成されたもの。」



9.「アベノマスク」が郵便受けに

(1) さて、4月17日から「アベノマスク」の全世帯向け配布がいよいよ開始され、翌18日から各家庭の郵便受けに届けられ始めた。まずは世田谷区で、東京都の中で最もPCR検査で陽性の人が多いところだ。どんなものかと期待していた都民も多い。ところが、24日になっても、文京区の私の家までなかなか届かないなと思っていたところ、配布が遅れるような話になりつつある。

 というのは、当初、4月14日から、まず妊婦さん向けに配布し始めたところ、黄ばんでいたり、黒ずんでいたり、虫や髪の毛が混入していたりする不良品が80市町村で1,901個もあった。そればかりかその後の一般家庭向け配布分と合わせると、47万個の配布に対して、その1割に相当する4万7千個もの不良品が見つかったそうだ。 やれやれ、『遅すぎ、少なすぎ、中途半端』に加えて『不潔』という評判になるとは思いもしなかった。

 アベノマスクの不良品の続出で、政府は、遅まきながらその全品検査を行うことにした。5月14日の参議院厚生労働委員会で、厚生労働省は、「マスクの検品費用は総額で8億円・・・国が委託した専門業者が約550人態勢で検品しており、不良品が確認されれば取り除く」と説明した。その8億円は受注企業が負担するのか、それとも発注者である政府なのか判然としないし、そもそもそんなことで5月中とされる配布期限に間に合うのか、分からないことだらけである。やることなすこと、どうしてこうも杜撰なのか、全くもって信じがたい思いである。

 マスクの受注企業と受注額は、興和(大手医薬品メーカー。54.8億円)、伊藤忠商事(大手商社。28.5億円)、マツオカコーポレーション(総合アパレルメーカー。7.6億円)である。これらはいずれも中国などの海外拠点で製造しているものだという。マスクは言うまでもなく口に長時間当てるものだから、それだけに衛生的で清潔さが一番求められる(注)。それなのに、変色や異物混入がそれだけの件数に及ぶとは、何とまあ杜撰で無責任なことか。その後、興和と伊藤忠は、未配布のものを回収することとしたそうだ。(NHKニュース4月24日付け)ああ、またケチがついてしまった。

(注) 衛生用品としてのマスク製造の常識

 「複数の衛生用品メーカー社員によると、マスクなど衛生用品を新たに作る場合、試作品を高温・多湿の状況に置き、カビが生えないかなどを半年ほどかけて確認してから納品するという。今回は受託から納品までの期間が短く、『数カ月で安定した品質の衛生用品を作るのは、よほどノウハウがないと難しい』(同社員)という。」(2020年4月25日付け朝日新聞)

(2) その後、マスクの受注企業に、福島県に本社がある「ユースビオ」も含まれていることがわかった。ベトナムから輸入した布マスクだそうで、契約額は5.2億円、不良品は確認されていないという(NHKニュース4月27日付けでは4.7億円だったが、28日の下記予算委員会では厚生労働大臣は5.2億円と表明) 。妙なのは、マスク受注企業のうち大企業の3社は直ちに公表されたのに、この企業だけはどういうわけがあるのか、しばらく公表されずにいたことだ。しかも受注額も若干ズレている。

(2)アベノマスクを巡って、4月28日の予算委員会では、大串博志委員(立憲)と安倍首相との間において、緊迫したやりとりがあった。もっとも、次のようにどちらも意地の張り合いそのもので、あまり本質論とは関係のないところでもあり、国政の場としてはいささかどうかと思ったが、委員会室は総じて緊張感に包まれた。とりわけ大串委員は、マスク受注企業で最後まで明らかにされていなかった上記ユースビオが、急遽その定款を変えてマスクの輸出入を加えたり、社長が執行猶予中であったりするのになぜ随意契約の対象となったのか、あるいは事務所の一角に一部の与党のポスターを貼ってあったのは関係があるのかなどと追求したかったようだが、残念ながら不発に終わった。

 大串議員(最初はアベノマスクをしていたが、もっと大きな布製マスクに取り替えながら)「これは、私の地元にたくさんある縫製メーカーの製品で、(アベノマスクは)息苦しいから外した。」

 安倍首相「意図的に貶めるような発言はやめていただきたい。私はずっとしているが、全然苦しくない。」


(3) そうこうしているうちに、26日になって、やっとアベノマスクが、私の家の郵便ポストに入っていた。家内と私がそろってつぶやいた。「あれーっ、かなり小さい」。マスクに大中小とあるとすれば、これは「小」サイズだ。大人の女性が付けても、相当小さく見える。私のような大人の男性で日本人の平均の幅広な顔だちだと、顔の両脇が短かすぎるし、縦にも短くて鼻にかかるかどうかというぐらいの代物だ。顔が細長い安倍首相には適度な大きさかもしれないが、幅広の私のような顔では、顔をマスクで覆うどころか、顔の真ん中にマスクがちょこんと載っている感じで、どうにも具合が悪い。こんなに小さいと、ウイルスを含んだ飛沫を防御できるのだろうか? これでは、気休め程度にもならない。ガッカリした。非衛生的な製品かもしれないので、さっそく洗濯機で洗った。すると、ますます縮んでしまった。しかも、縫製が悪くて、端っこの縫い目がほつれている。もう、滅茶苦茶だ。これでは、子供サイズのマスクだ。試しに、いつも使っている不織布の使い捨てマスクと比べたが、縦も横も明らかに短い。こんなもののために、466億円もの国費を無駄遣いするとは、馬鹿馬鹿しい限りだ。それだけのお金があるなら、一般家庭向けのマスクを配給制にして安んじて買えるようにし、かつ医療従事者用のN95マスクを量産して病院や診療所へ確実に届けるのが先決だろう。


アベノマスク荷姿


アベノマスク(上)といつも使っている不織布の使い捨てマスク(下)とを比べ



(4) アベノマスクの現物にガッカリしていたところ、思いがけないニュースが飛び込んできた。福井県が大人用の不織布マスク約30万箱を確保したので、「最寄りのドラッグストア『ゲンキー』に購入券を持参すれば、50枚入り1箱(税込み2350円)を最大2箱購入できる。販売は4月24日開始予定で期間は5月10日まで。県によると、都道府県単位で県民にマスク購入をあっせんするのは全国初。県内の世帯数は約28万9千世帯(3月1日時点)。近く、郵便局を通して各世帯に購入券1枚を発送する。23日に届き始め、30日までには全世帯に配布される予定。」という(福井新聞社ニュース2020年4月19日付け)。素晴らしい。子供だましのちゃちな「アベノマスク」ではなく、こういうことを政府が全国ベースでやってくれたら、どれほど感謝され、また評価されたことか。


10.マスクを巡り狂騒は続く

(1) 4月20日、家電メーカーのシャープが、自社生産のマスクを一般向けに販売すると、突然公表した。そのHPを見ると、次のように書かれていた。

 シャープは、4月21日より、株式会社「SHARP COCORO LIFE」のECサイトにて、個人のお客様向けにマスクの販売を開始いたします。

 当社は、日本政府からの要請を受け、三重工場のクリーンルームにおけるマスクの生産を2月28日に決定。新型コロナウイルス感染症が拡大する中、日本におけるマスクの供給不足を少しでも早く緩和すべく短期間で準備を進め、3月31日より、まずは日本政府向けに出荷を開始いたしました。

 この度、個人のお客様への販売を開始する運びとなりましたので、お知らせいたします。

概 要
 1.商品名/形名: 不織布マスク/<MA-1050> ※ 1箱あたり50枚入り
 2.販売開始日:   2020年4月21日(火) 
 3.販売方法:   「SHARP COCORO LIFE」のECサイトにて販売いたします。
        購入方法や価格、商品仕様などの詳細は、こちらのURLをご確認ください。
        URL: https://cocorolife.jp.sharp/mask
 4.販売数量:    当初 3,000箱/日(15万枚/日)。今後の生産能力の増強に伴い、10,000箱/日(50万枚/日)の販売をめざしてまいります。
 5.備 考: より多くのお客様にご提供するため、在庫状況に応じて、一定期間にご購入いただける数量を、お一人様1箱(50枚入り)限りとさせていただきます。

 ウィルス飛沫や微粒子も 99%カット:立体三重構造で、花粉よりもさらに小さい生体ウイルスや微粒子からもしっかりガード。風邪などの際にも他の方への飛沫拡散を防ぐのに効果的です。VFE試験やPFE試験でも99%以上の結果を確認しています。


シャープ自社生産のマスク


 これは素晴らしい試みだ。自社のクリーンルームを使うなんて、目の付け所が良い。アベノマスクが配布され始めたところ、先に述べたように変色していたり、異物が混入していたりする不良品が、配布済み47万個中その1割に相当する4万7千個も見つかったというが、クリーンルームで生産されるのなら、そういう杜撰なことはないだろう。それにしても、JDI(株式会社ジャパンディスプレイ)など公的支援を受けている半導体製造企業がこの国難に際してもなんにもしてないのに、台湾企業に買われた企業がそんなことまでやってくれるとは、実に感心だ。とりわけ、「ウイルス飛沫を99%カット」というのが、気に入った。それが本当なら、あの水野康孝医師の説明は、やはり間違っていたことになる。では、早速注文しようと、翌日21日にシャープのサイトを開こうとしたら、アクセスが集中しているらしくて、ちっとも繋がらない。とうとう、サーバーダウンしてしまったようで、翌日に次のような表示が出た。もう、心底がっかりした。その後、27日に抽選で3万箱を販売するように改めたそうだ。

サーバーダウンのお詫び



シャープの公式ツイッター5月3日付け


 5月3日、シャープのホームページを見ていたら、その公式ツイッターが、こんなことをつぶやいていた。「家電メーカーのシャープ、107年の歴史で最大のヒット商品がマスクになってしまいそうな感じ、複雑な気持ち。」もう、笑ってしまうほかない。本当に面白い会社だ。サーバーダウンは、許してあげよう。


(2) 4月22日、NHKニュースによると、アイリスオーヤマが、新型コロナウイルス対策で、マスクを大増産するという。

 「仙台市に本社がある大手生活用品メーカーのアイリスオーヤマは、宮城県の工場でことし6月からマスクの生産を始めることにしていて、生産量を当初の計画の2.5倍にあたる月1億5000万枚に増やすと発表しました。

 アイリスオーヤマは、国内のマスク不足に応えようと、宮城県角田市にある工場でことし6月からマスクの生産を始めることにしています。会社では当初、月6000万枚を生産する予定でしたが、ドラッグストアなどから寄せられる注文に対応しきれないことから、工場の設備を増強し、2.5倍の月1億5000万枚に増やすことを決めました。さらに世界的な需要の高まりを背景に不織布などの原材料の価格が高騰していることから、こうした原材料も自社の工場で内製化し、安定的な生産につなげることにしています。

 会社では6月に月6000万枚を生産し始め、設備が整う7月から月1億5000万枚に増やすことにしています。これによってアイリスオーヤマでは、中国の自社工場で生産する分もあわせて月2億3000万枚のマスクを国内に供給できるようになるということで、主にドラッグストアなどの小売店で販売されるということです。」

 アイリスオーヤマという企業は、元々、「機を見るに敏」というところがあって、ニッチな市場で変わった製品を機動的に出すのが得意な会社だが、こういう時には、まさに出番だろう。大いに活躍してくれることを願いたいが、この騒ぎが収まった時に大量の遊休設備を抱えさせるのは忍びない。政府の方で、製造した物は備蓄用に確実に買い取ることを約束することで、安んじて設備投資をしてもらいたいものだ。

 ところで、私は昨日(21日)、散歩の途中、近くのプチ・スーパーの前を通りかかり、あまり客がいなかったので入ってみた。ふと奥の棚を見たら、たった2袋だが、7枚入りの「サージカルマスク」があるではないか。店員さんに聞くと、30分前にたまたま入荷したのだという。これは有難い。ひと袋購入した。たった248円だから、一枚当たり35円だ。それでいて、「花粉やウイルス飛沫等99%カットフイルター採用」とある。ますます有難い。その袋を裏返すと、これがなんと、アイリスオーヤマ株式会社の製品だったのである。


アイリスオーヤマ株式会社の7枚入り「サージカルマスク」"




(3) 偶然にマスクを発見

 4月24日にどうしても銀行に行かなければならない用事があり、上野御徒町まで歩いて行った。そしてその用事を手早く済ませて帰ろうとし、湯島に向けて歩く途中、とある雑貨屋の前を通った。すると、店の前の道にはみ出して置いてある机の上に、マスク、消毒ジェル、消毒スプレーを並べているのに気が付いた。マスクは、50枚入り1箱(税込み3980円)だから、1枚当たり80円だ。シャープのマスクが同じ50枚入りで税込み送料込み価格が3878円だから、まあ価格的に遜色はない。あとは、どこの製品かといえば、メイド・イン・チャイナだ・・・信頼できるかなぁ。ただし、表装は日本語で、販売会社はさいたま市にある。不織布で、99%カットという表示も同じだ。では、予備にしてもよいから、とりあえず買ってみるか・・・これで、6月末までは大丈夫だ。その頃には、マスクの流通と販売も、平時に戻っているだろうと期待したい。それにしても、マスクごときで、こんなに波瀾万丈のエピソードが続くとは思いもしなかった。


御徒町で発見したマスク



(4) 総理記者会見での不思議なやり取りの真相

 ところで、4月17日の総理記者会見で、不思議なやり取りがあった。

(記者) 朝日新聞の星野です。よろしくお願いいたします。

 総理、先ほど予算案の組替えについて、責任の方を取られると。取られるというか、責任の方をおわび申し上げるということでしたが、この間の会見でも一斉休校について、感染者の拡大を防げなかったというふうに述べられました。最近では布マスクや星野源さんの動画でも批判を浴びているのですが、この間の一連の新型コロナの対応について、御自身でどのように評価されていますでしょうか。よろしくお願いします。


(安倍総理) 全国の一斉休校は、私は判断として正しかったと思っています。あの後、多くの国々が一斉休校を行っていることからも明らかではないか、そう思います。

 そしてまた布マスクにつきましては、先ほど申し上げましたように、まずはサージカルマスク等を医療機関にしっかりと配付しながら、言わばサージカルマスクの受注について、この対応をしていく上においても、それ以外の、例えば介護施設等々については布マスクを配付させていただきました。今、御質問いただいた御社のネットでも、布マスク、3,300円で販売しておられたということを承知しておりますが、つまりそのようなこの需要も十分にある中において、我々もこの2枚の配付をさせていただいたと、こういうことでございます。


 何のことか、私にはさっぱり分からなかったが、どうやら次のような背景があったようだ。安倍首相は、朝日新聞の通販サイトが2枚で3300円の布マスクを売り出していたことを「ぼったくり」だと揶揄したかったようだ。しかしながら、このマスクはそれが定価だそうで、そもそも大阪府泉大津市の市長と商工会議所がマスク不足の解消を目指し、市内外の繊維メーカーに呼びかけ、手作りで製造・販売したものの一つで、老舗メーカー大津毛織のちゃんとした製品である。

 同商工会議所のHPによれば、「南出市長の“日本一の毛布のまちのマスクプロジェクト”に賛同した地元事業者が一つひとつ手作りでつくりました。“泉大津産マスク”は洗っても、また使えるマスクで、経済的、環境にも優しいマスクです。ぜひ、ご愛用ください。なお、泉大津商工会議所、テクスピア大阪事務局でも販売しています。1点1点手作りですので、数に限りがございます。予めお店にお問合せ頂き、売り切れの際はご容赦ください。」とのことで、まさに地方創生を地で行くきわめてまともな商品であり、揶揄の対象にはそもそもなり得ないではないか。

 4月22日には泉大津市長が官邸を訪問し、応対した木原稔首相補佐官に面会して品質の良さを説明し、実物を首相用に進呈したそうだ。ちなみに、このマスクは「アベノマスク」をもじって「アサヒノマスク」と言われているそうだ。笑ってしまう。


11.結果的に、結構楽しめた話題

 かくして、今回の新型コロナウイルス対策のマスクについては、実に色々なことがあった。

(1)2月から4月にかけて「ない、ない、ない。どの店を探してもない。」と腹ただしく思ったかと思うと、
(2)エイプリルフールの日に「アベノマスク」が出てきたものの「遅すぎ、少なすぎ、中途半端、不潔」にがっかりし、
(3)シャープのマスクに一瞬希望を持ったけれども抽選する段階にすら行くことができずに落胆したかと思うと「107年の歴史で最大のヒット商品」というのに笑い、
(4)4月終わりに街中でやっとマスク1箱を見つけて欣喜雀躍し、
(5)果ては「アサヒノマスク」なるものがあるということまで判明して首相と朝日新聞との間の鞘当てがあって笑いを誘うなど、


 後から振り返ってみれば、マスクについては、採り上げるべき面白い話題が次々と出てきて、外出自粛時の暇つぶしとしては、結構楽しむことができた。


12.マスクが街にあふれて値崩れ

(1)マスクの価格がたった3週間で4分の1に下落

 5月14日(木)、延長された緊急事態宣言が一部の県で緩和されようとするまさにその日、私は散歩で不忍池の畔を通り、上野御徒町方面に進んでいた。そして先日、4月24日にマスクを買った雑貨屋の前まできた。すると、以前は50枚入り1箱(税込み3,980円。1枚当たり80円)だった同じマスクが、2,200円(1枚当たり44円)に値下がりしていた。半額ではないか。新大久保駅周辺では、1,000円台のものまで急速に値が下がっているようだ。感染が収まった中国から、大量の余剰マスクが怒涛のように押し寄せてきているようだ。全くもって、損をしたのには違いがない。しかし、それよりも私は(負け惜しみかもしれないが)、この20日間マスクが手元にあるという安心感を買ったという気でいる。

 安倍首相は5月6日のテレビ番組で「(アベノマスクの)配布開始によって、流通するマスクの『価格が下がった』という成果もある。」と語った。ところが、何のことはない、アベノマスクの配布は東京都中心に始まったばかりで、まだ日本世帯数全体の4%にも達していないようだ。その程度で、不織布マスクの価格が半減するなどとは、考えがたい。

 念のため、通販のアマゾンで、マスクを調べてみた。50枚入りの最安値が、ちょうど1,000円だ。1枚当たり20円になる。質さえ問わなければ、これは安い。テレビを見ていると、国際線のお客さんがゼロで旅客機を遊ばせておくわけにもいかないので、客席にマスクが入った段ボール箱を大量に積んで成田空港に向かう飛行機を見た。なるほど、これは良いアイデアだが、マスクが値崩れするわけだ。

(2)そのほかマスク四方山話

  〆は5月の中旬だから、これから夏に向かう。先日などは最高29度の真夏日だ。こういう日にマスクを着けて外出すると、暑くてかなわない。嫌だなと思っていたところに、先日、テレビで面白いものを見た。街頭の自動販売機で、「冷たいマスク」なるものを売っていたのである。それは、縦長の透明な筒に、マスク(左右に内ポケットが付いている。)と保冷剤が4つ入っている。その保冷剤をマスクの内ポケットに入れて着けると、冷えているので涼しいという代物である。お値段は1,300円だ。ちょっと高いが、アイデア商品と言ってよい。

 ◆,修Δと思うと、マスクの上からペタッと貼り付ければ抗ウイルス効果があるという特殊なフィルターを「オルソリバース」が開発した。同社のHPによれば、「弊社の整形外科用綿形状人工骨(商品名:レボシス)の開発で培った技術・ノウハウが注ぎ込まれています。綿形状人工骨に使われているハイドロキシアパタイト(リン酸カルシウム)と、抗菌性人工骨の研究における銀イオン、そしてそれらを不織布に担持する技術をマスクフィルターに応用。マスクの外側から侵入してくるウイルスや細菌をハイドロキシアパタイトに吸着させ、吸着したウイルスや細菌を銀イオンの力で不活性化させるフィルター構造を目指しました。」とのこと。5月18日から発売されていて、医療従事者用だ。しかし、鼻の両脇や両頬の隙間から入ってきたウィルスには、効果が及ばないような気もするが、さてどうだろう。

  ところで、マスクといえば、中国から驚くようなニュースが舞い込んできた。中国では4月中旬以降に各地で高校や中学校が再開された。ところが湖南省で医療用の高性能マスクN95をして体育の授業を受け、千メートル競走をしていた中学3年生が、突然倒れてそのまま亡くなったという。マスクが高性能過ぎて酸欠状態になったらしい。ただでさえ、医療従事者用のN95が足りない中で、何とも言い難い不幸な事件である。


(令和2年4月21日著、22日、24日、28日、5月14日、15日追加)




カテゴリ:エッセイ | 22:10 | - | - | - |
iPad Pro 12.9へ機種変更

iPad Pro 12.9


 2020年3月25日、iPad Pro 12.9 の第四世代の新製品が発売された。実は、その前から現在保有中のiPad(第五世代)の容量がわずか32GBと、あまりにも小さいことから、特に容量がギリギリとなった最近は、その対応に悩まされていた。だから、不要な写真を削除したり、容量を食う日経新聞アプリを削除してすぐまたインストールしたりして、色々と節約に努めていたが、あらゆる対策がとうとう限界にきた。

 そこで、3月中頃に上野のau直営店に行って、容量を256GBにしたいと申し込んだ。すると、iPad(第七世代)を勧められたものの、現下の新型コロナウイルス騒ぎで中国からの入荷が遅れていて、入荷次第、連絡してくれることとなった。しばらくして、待望の連絡があった。ところが、3月25日から新しいiPadが発売されるので、現在の予約をそちらに乗り換えないかという。それでは、ということで、色々と調べて、一番大きな iPad Pro 12.9 (第四世代)にした。

 すると、25日のその当日午後、入荷したから4日以内に取りに来るべしという連絡があった。ところが、私は26日から27日にかけて名古屋に行く用事があり、その間には取りに行けない。ネットで日取りを変えてもらおうとやってみたが、途中のパスワード入力のときに分からなくなって断念。しかも遅い時間に帰京したので、翌日の土曜日が4日目になるというのに、auに電話も出来ない。困ったことに、その日は、新型コロナウイルスで東京都知事による不要不急の外出自粛要請が出ている。これは弱ったと思ったが、朝一番なら、あまり人がいないだろうと思い、地下鉄に乗らずに不忍池のほとりを歩いて行くことにした。

 現在所有のiPad(第五世代)を単に新しいiPadに取り替えるだけだから、直ぐに終わるだろうと思っていた。ところが、やれ通信プランが変わっただの、何だかんだの説明があって、何十分もかかってしまった。やっと家に持ち帰り、Fディレクトリのバックアップからデータをちゃんと回復できて、それ以来、順調に使っている。

 2年前に初めてiPad (第五世代)を買った。その時は、おまけのつもりで買ったはずなのだが、実は毎日これほど使うとは思わなかった。というのは、元々、iPhone 7 PlusからiPhone X への機種変更をしようとauに行ったのであるが、「あと、毎月1,000円を出していただければ、iPadを使えますよ。」という甘言に誘われて、ついで買いをしたものである。最初は、日本語入力キーボードがないので使いにくいと思ったが、それも、「simeji」というアプリを導入することで解決した。以来、文章の入力には、必ずiPadを使っている。パソコンを使えば良いではないかと思われそうだが、家の中で寝転びながら、のんびりと脱力しながら入力するには、これは最適である。iPhoneと同期しているから、それを見ながら入力できるのは、非常に便利だ。これで作成した文章をパソコンに送って仕事の文章としたり、「悠々人生」のエッセイとしている。だから、これがないと、私のパソコン・ライフは考えられない。

 さて、それでは、新しく購入したiPad Pro 12.9 (第四世代)の使い勝手はどうかというと、画面が、24cm X 17cmから、28cm X 21.5cmへと大きくなった。これは数字以上に大きく感じられて、実感では、iPad(第五世代)時代はちょうどB5の紙だったものが、いきなりA4の紙になったようなものである。これは素晴らしい。反応も早い。唯一の問題は、重量が643gと、以前の478gと比べてやや重たくなった。でも、何とか許容範囲だ。その他、カメラ機能が充実したようだが、まだ試していない。また、キーパッドが付いたカバーを買えば、もはやノートパソコンと変わらない。ということで、肝心のiPad Pro 12.9 (第四世代)の性能を十分に引き出すまでには至ってないが、これからの私の仕事や趣味の頼もしい相棒として、大いに期待している。

 以下に、主な契約内容を次に書き出していく。

1.プラン利用料
 (1)タブレットプランds(2年契約/L)1,000円(従前2.000円)
 (2)タブレットデータシェアプラン(2年契約/N)1,000円(従前1.000円)
2.Apple製品サービス →1月経過したら削除するつもり
 (1)AppleCareなど 648円(従前1,309円。ただ、iCloudサービス除外)
3.購入機器代金
 (1)4年契約 4,350円(1年目以降3,120円。従前は3年契約 4,420円) 4.機種変更手数料 2,000円



【合計金額】は、次の通り

 2ヶ月目から11ヶ月目まで 5,452円
 12ヶ月目から49ヶ月目まで 4,222円
 50ヶ月目から60ヶ月目まで 1,102円


【端末代金】149,760円(3年分割)12iPadP-256S





(2020年 4月 1日記)


カテゴリ:エッセイ | 17:44 | - | - | - |
新型コロナウイルスの記事

国立感染症研究所が分離に成功した新型コロナウイルス(2019-nCov)


1.雑誌のインタビューの打診

 数日前、私のところに、とある雑誌の編集長と記者がやって来られて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する法的措置について、インタビューをしていった。事前に連絡いただいたメールには、次のように書かれていた。

 「新型コロナ・ウイルスへの初期対応を振り返りつつ、まだ見ぬ感染症への対応策を提言する特集を組む中で、国と地方自治体のリーダーシップに関してもテーマにしたいと考えております。

 地方自治体が外出自粛等の要請ができる新型インフル等対策特措法が改正される前に、北海道や大阪は早期に外出自粛要請をするなど先手を打っています。特措法が施行されても、国は緊急事態宣言を出ないまま、自治体の自粛要請は継続されました。

 このような自治体の対応は感染症法をはじめとする法的な観点からいかに評価されるのでしょうか?自治体のリーダーシップは国の後ろ盾と法的根拠があってこそ如何なく発揮できるものであるとも考えられるので、今回の都道府県の判断はどう見るべきなのか、お話をお聞かせていただきたい。」



2.インタビューの当日のやりとり

 私「この問題は、『法律とは何か』、『基本的人権の尊重』、『地方分権』の三つに分けてお話しした方が分かりやすいと思う。

 まずは『法律とは何か』だが、権利義務を定めるものである。例えば国家賠償請求権という権利を与えたり、刑法199条の『人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。』は、殺人の禁止という義務を課すものである。このほか、国家の組織も国民の権利義務と密接な関係があるので、いわゆる組織法、例えば財務省設置法というのも、もちろん法律に含まれる。

 そういう観点からすると、新型コロナウイルス対策特別措置法をみて、皆さんはどうお思いか。私ども専門家は、まずどういう権利義務の規定があるのかを知るため、最後の罰則規定を見る。すると、立入検査妨害のほかは、知事などによる医薬品等の保管命令違反に対する罰則しかない。しかもこれは業者に対するもので、一般の人に対するものではない。ということは、権利義務を直接規定する法律とは必ずしも言えない。最初から読んでいくと、ほとんどの規定は、緊急事態宣言からはじまって、政府、都道府県、市町村の対策本部の相互関係などであるから、これは組織法として定められたことがわかる。

 とりわけ、住民の外出、学校の授業や興行の開催などについては自粛要請にとどまっている。これなどは事態が急速に悪化あるいは深刻化したような場合には罰則規定をつけてしかるべきと思われるかもしれない。でも、そうはしていない。感染防止のための集会禁止規定もない。一定の要件を満たせば、土地所有者の同意を得ないで土地等を使用できるとしているくらいだ。

 それはなぜかというと、現行憲法の基本的人権の尊重の観点からは、それが限界だからだ。罰則をもって外出禁止を命令することは憲法22条の居住移転の自由に、同じく集会禁止命令は憲法21条の表現の自由に反する。先に述べたように本法では医療施設設置のための土地の強制使用規定があるが、これも憲法29条上、問題なしとはしないところだが、財産権であるからこの程度は公共の福祉の観点からは許されると解されている。これが本法の限界である。たとえ武力攻撃事態であっても、考え方は同じである。

 どうしてこういう構造なのかといえば、突き詰めていうと、日本国憲法に緊急事態条項がないからだ。かつての大日本帝国憲法では、戒厳大権など4つの緊急事態条項があった。しかしこれによって基本的人権が大きく制約されたのは歴史的事実である。その反省から、日本国憲法では緊急事態条項が設けられなかったとされる。だから我々は、その制約の下で最大限、何ができるかを考えなければならない。

 もっとも、行政というのは生き物で、いついかなる深刻な緊急事態が生じるかもしれない。そういうときのため、比例原則という考え方がある。降ってわいた災難の程度が強ければ強いほど、必要最小限の範囲でこれに対しその深刻さの程度に応じた強い対応が許されるというものである。例えば、新型コロナウイルスが、今のように死亡率1%から2%などという生易しいものではなく、エボラ出血熱のように死亡率が50%を超えてしかも全国的に蔓延してなかなか止められないという文字通りの緊急事態となると、国民の外出や集会禁止命令を罰則付きで担保する必要が生じるかもしれない。それは憲法学では未踏の分野ではあるが、私は、現行日本国憲法の下でもおそらく許されるだろうと思う。ただ、私が担当していた時にはそういう立法事実はなく、従って今の新型インフルエンザ対策特別措置法が限界だと考えていた。

 次に、北海道や大阪の道府民に対する外出自粛要請が、国の緊急事態宣言に先走って出されたことの評価だが、これはまさに、地方分権の趣旨に沿った対応である。」

(と言うと、記者は訝しげな表情をみせた。特別措置法に基づく正式な手続を踏まずに勝手にやったと批判するのを期待していたものと見える。)

 私「この話の背景は、戦前の内務省にさかのぼる。内務省は、治安、衛生、労働、土木、地方行政を所管する最強の官庁だった。それが、敗戦後に解体されて、それぞれ警察、厚生省、労働省、建設省、自治庁となった。警察は都道府県警察となったが、これでは広域化する犯罪に対応出来ないので、本部長以下の幹部だけを国家公務員にして今に至っている。これで、国としての行政の一体性が確保できている。ところが、衛生は、現場の実務は都道府県に任せたままで、本省の健康局がこれらを束ねて指揮していくという体制であった。その裏付けとして、地方自治法に機関委任事務というものがあって、その事務に関しては地方公共団体の長を出先機関と位置づけて国が一元的に指揮監督するという仕組みがあり、それがあった時代はその仕組みで行政が回っていた。

 ところが、政治の潮目が変わり、「地方分権」が声高に叫ばれるようになった。これは、生活者の視点に立った「地方政府」(地方が自ら考えて判断し、国の縛りを受けずに実施することができる体制)をつくっていくことを目指し、地方の自由度の拡大、住民に身近な市町村の強化などを進める政策である。その一環として機関委任事務が廃止されて法定受託事務となった。だから、感染症防止法やこの新型コロナウイルス対策特別措置法を見ても、何らかの処分の主体が全て地方公共団体の長(都道府県知事)であるのには、そういう背景がある。現に今回の事態の対応に当たっても、北海道知事が法律に依らず自らの判断で緊急事態宣言をしたというのは、繰り返しになるが、それこそ地方分権の趣旨に沿った対応である。」

 記者「でも、地域によってバラバラの対応となった。国の緊急事態宣言がないままに勝手に各知事が内容が区々まちまちの宣言を出すのではなく、全国一律の対応が必要なのでは?」

 私「地方分権の議論が始まったとき、私も『全ての機関委任事務をなくすのはいかがなものか、特に感染症対策は全国的に一律の迅速な対応が求められるのに』という感想を持った。ところが、あの時はともかく『中央省庁の権限を地方に下ろせ、中央省庁と地方公共団体は同格なのだ』という政治思想が世の中を席巻して、反対する声がかき消されて結果的にそうなった。だから、良いも悪いも、日本国民がそういう選択をしたということだ。見ていると、北海道や大阪府のように若くて元気の良い知事は前向きにどんどん積極的な対策を打ち出し、多選の傾向にある知事はそうでもないなど、地方の特性というよりは、むしろ知事の特性や個性が如実に現れている。」

 記者「元のように、中央集権に戻さないのか、アメリカにはCDC(疾病管理予防センター)があり、1万5千人ものスタッフを抱えている。そういうものを作れという声もある。」

 私「何か組織を作ったら、それで全て解決するというのは、失礼ながら行政機構というものをあまりご存知ないからだ。CDCの予算は莫大だ(その後、年間9千億円とわかる。ちなみに日本の環境省の予算は3千億円。)。人員も、国内外に1万5千人も配属している。しかも、CDCは一朝一夕にできたものではない。第二次世界大戦中にマラリアなどの疫病に悩まされた米軍の反省からだという。だから、軍事組織の一つとして見るとわかりやすい。

 日本で、それだけの予算と定員がある行政組織ができるとお思いか。ただでさえ、厳しい財政事情に鑑み、国や地方は財政改革のために国公立病院の独法化や統廃合、保健所の大幅な整理を進めている。そういった状況で十分な予算と人員が確保できるのか、私にははなはだ疑問である。またこれら既存の機関との調整をどうするのかという難しい問題がある。それらをうまく解決して設立したとしても、組織として世間から評価され、理想とする運用を果たすことができるようになるには、まあ、10年単位の月日が必要だろう。だから、今述べた数々の問題を克服して組織を設立し、優秀な人材をたくさん集めることができたとしても、組織をスムーズに動かし、職員を一人前にするための育成に時間がかかるから、急場の役には全く立たない。それに、緊急事態ではない普段は、何をしてもらうかという問題もある。日本の国立感染症研究所は、通常のR&Dのほか、ワクチンの品質管理も行っているようだが、定員が300人と、桁違いに少なすぎる。その辺りの充実が先決だろう。

 やや飛躍するかもしれないが、仮に日本版CDCを作るとして、いつ起こるかわからない事態に備えて普段から大規模な組織と人員と予算を抱えているという意味では、軍事組織と似ていると考え、ご迷惑かもしれないが、自衛隊の一部門として発足させるという手もないわけではない。現に今回、乗客乗員3,700人が新型コロナウイルスの脅威にさらされたダイヤモンド・プリンセス号の事態終始に当たって、自衛隊が確か2,000人ほど出動したと聞いている。しかも立派なことに、防疫のプロであるはずの厚生労働省の検疫官などが10数人も罹患したのに対して、防疫という面では素人の自衛隊員からは一人の患者も出さなかったということで、いざという時の頼もしい組織だと感心した。」

 記者「ところで、緊急事態宣言が出されて知事から興行や営業の自粛が求められた場合、責任関係があいまいな『要請』などというものではなく、法整備を講じて『命令』という形にし、イベントの中止や延期への補償が必要であるという声も出ているが、どう思いますか。」

 私「これは地震や台風などの天災のようなものだから、皆でその負担に耐えるのが基本である。たとえ法律を作り『命令』という形にしても、災害のときの市町村長の避難指示と同じで、現行法体系では罰則を付けられないから『要請』とさほど変わらない。以上のような性格のものに国や地方自治体が『補償』するというのは、いささか筋違いである。それでも、これは人道上又は社会政策上、放っておけないという事案が必ず出てくるので、そういう人々や零細企業に対しては、『救済』することを考えなくてはいけない。

 なお、私は、法律に罰則を付してその内容を強制するという手段は、この場合はさほど有効ではないと考える。なぜなら、軽い罰則しか付けられないし、その程度であればと守らない人も一定程度は出てくるからだ。従って、個人個人が運命共同体だと自覚して、その危機意識を高めていくしかないと思う。(注)微温的な日本の緊急事態宣言の理由

 記者「北海道や東京都知事の『外出自粛』について、新聞やテレビが『法的根拠はない』というようなことを言っていますが、厳密に言うと、これは誤りということなんですか?」

 私「今回の外出自粛につき、法律にはそのように知事が要請できる規定はないという意味では、間違ってはいません。ただ、先程申した知事の既存の権限に基づき、『行政指導』の一環としてやっていると理解すれば、行政府の長として当然に行い得ると思います。というのは、『法律に基づく行政』ということは当然の原理ですが、将来のことを見越して何でもかんでも全て法律に書くようなことは事実上できないので、現行法には直接の規定はないけれども、例えば事態の急速な展開に応じてすぐに対応する必要があるような場合には既存の権限をやや膨らませて解釈し、その範囲で『要請する』程度なら一種の行政指導として出来ると考えています。」


3.インタビュー記事の掲載

 というわけで、2時間近いインタビューは終わり、しばらくしてまずウェブ上に、次のような記事が載った。雑誌は、4月20日に発刊されるそうだ。




「日本の現行法体系では外出やイベント開催の禁止は困難」

 新型コロナウイルスの影響で国と埼玉県が自粛要請したにもかかわらず、格闘技イベント「K-1 WORLD GP」がさいたまスーパーアリーナで開催された。これはたとえ新型インフルエンザ等対策特別措置法による「緊急事態宣言」が出されたとしても、イベントを止めることはできなかった。「日本の現行法体系によって強制的に外出や集会を禁止することはできない」。内閣法制局長官や最高裁判所判事を務めてきた弁護士の山本庸幸氏は指摘する。

 新型インフルエンザ等対策特別措置法については、「緊急事態宣言」に関する「私権の制限」が話題となった。これに対し山本氏は「罰則の部分を見ても、『特定物資を隠匿し、損壊し、廃棄し、又は搬出した者は、六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金』と『立入検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は同項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をした者は、三十万円以下の罰金』のみ。ほとんどのことは要請しかできない」と指摘する。

 感染症拡大防止に向けての移動制限に対してヨーロッパや東南アジア諸国では罰金や禁錮といった罰則が設けられているのに対し、日本の特措法はそうした条項がない。諸外国と同様にすべきかどうかは議論が求められる。しかし、山本氏は「どのような罰則を付けても、守らない人は必ず出てくる。事実、道路交通法違反による反則金を払わない人が違反者の1割もいる」と現状を解説する。罰則で人は動くのか細かい検証が必要のようだ。


補償と合わせた「中止命令」は可能なのか

 強制力や罰則がないものの、再三の要請を受けても格闘技イベントを犇行開催瓩靴深膾甜埖Δ砲六餠盞りが苦しく運営を強いられている部分もあったという。こうした状況に対し、責任関係があいまいな「要請」ではなく、法整備を講じて「命令」という形にし、イベントの中止や延期への補償が必要であるという声も出ている。

 これに対し山本氏は「これは地震や台風などの天災のようなものだから、皆でその負担に耐えるのが基本である。それでもこれは放っておけないという事案が必ず出てくるので、国や地方自治体が『補償』するというよりは、『救済』することを考えなくてはいけない」と主張する。

 「現行憲法には『緊急事態条項』が設けられていないが、これは基本的人権の尊重と旧憲法時代の反省からである。したがって、公共の福祉の観点からどこまで個人の行動を制約するかということが問題となる。その点から、新型インフルエンザ等対策特別措置法による緊急事態宣言で危機を呼び掛けることは一つの施策だ。個人の危機意識を高めていくしかない」としている。もっとも、「今の程度の脅威であれば禁止はできないと思うが、更に事態が進んで致死率が高くなり急速かつ広範囲な蔓延となれば、公共の福祉の観点から、禁止ができないわけではない。ただ、これは憲法学の未踏の分野ではある」とも付け加える。


「地方分権」の下での公衆衛生行政

 新型コロナウイルスに対しては、北海道の鈴木直道知事が「緊急事態宣言」を出し、大阪府の吉村洋文知事が大阪と兵庫の往来自粛を呼びかけるといった国の要請に伴わない狷伴瓩糧獣任起きている。「これは公衆衛生の最終責任者を都道府県知事としている地方分権の本来の趣旨に沿った望ましい動き」と指摘する。

 「1993年に『地方分権の推進に関する決議』が衆参両院でなされ、これに基づいて地方分権改革一括法が成立した。それ以来、感染症への対応行政も、都道府県知事らが責任をもって行うことになった。国は技術的な指導はしているものの、基本的には地方公共団体の裁量の下で行われることになった」と解説する。

 事実、感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)では、感染症患者の就業制限や入院措置、建物への立ち入り制限、交通の遮断などは全て都道府県知事が実施主体となっている。

 ただ、今回の感染症の全世界的かつ急速な拡大といった緊急事態に対しては、国と地方が一体となった措置が必要となる。「公衆衛生の方向性をどのようにしていくかといった折り合いをつけていくのが国の仕事。組織の枠組みや、ガイドラインを作成するといったことが求められる」と強調する。


日本版「CDC」は機能するのか

 こうした感染症への危機対応への注目が高まる中で、議論が沸き起こっているのが、米国などで政府とは別組織として感染症対策の陣頭指揮をとる疾病対策センター(CDC)の狷本版瓩寮瀘だ。

 「現在の日本の政治状況や行政機構の常からすると、果たして実効性のある効率的な組織ができるか疑問」と指摘する。「国や地方は財政改革のために国公立病院の独法化や統廃合、保健所の整理を進めている。そういった状況で十分な予算と人員が確保できるのか、またこれら既存の機関との調整をどうするのか、難しい問題がある。それらをうまく解決して設立したとしても、組織として世間から評価され、理想とする運用を果たすことができるようになるには10年はかかるだろう」

 また、現在は感染症の拡大という危機に直面していることから、多くの国民が必要性を強く感じているものの、非常事態でない時の運用も課題だという。「優秀な人材を雇い続けるには、それなりの待遇も必要になる。国から予算を出し続けることが有用であるのか、という声は出てきてしまうだろう」。活用されない爛魯灰皀劉瓩砲覆蕕覆い茲Φい鯢佞韻覆てはならない。





(2020年 3月29日記)


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