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徒然101.サイクリック宇宙論


 超ひも理論の次なる展開の可能性を示すものとして、サイクリック宇宙論なるものがあることを知った。しかも、その提唱者が日本人のグループで、京都大学の川合 光教授、福間将文准教授、そして京都大学基礎物理学研究所の二宮正夫教授というから、とても興味を引かれるところである。ただし、関係者の間では、大いに眉唾物と思われている節があるので、話半分に聞かれるとよい。このネタは、日経サイエンス2008年5月号に掲載された川合 光教授へのインタビュー記事と講談社現代新書の川合 光教授著「はじめての超ひも理論」、それにウィキペディアである。

 
欧州合同原子核研究機構(CERN)の世界最大の加速器LHCは、今年9月10日に運転を開始する見込みである。そして仮に、ゲージ理論に基づく標準モデルにおいて素粒子に質量を与えるボソンのヒッグズ粒子が発見され、それが170GeV程度の質量だったとすると、標準モデルが正しいと証明されたも同然になる。そうすると、時空の最小単位であるプランク長さ(注)まではすべて標準理論で説明される。ところが、標準理論はプランク長さより小さな世界は説明ができないので、プランク長さ以下は、すべてを「超ひも」として説明しなければならないことになる。・・・というわけで、これからの素粒子研究は、超ひも理論の独壇場になるというのである。

 これは単に素粒子の世界だけでなく、宇宙全体の世界でも同様である。著名なインフレーション理論という説があり、現在我々の居住する宇宙は、137億年前にただの一点からビッグバン宇宙つまりインフレーション的膨張を経て出来上がったものだという。標準理論は、そのビッグバン時の直前まで遡って電磁気力と弱い力、そして強い力までを統合できたが、そのビッグバン以前のこれらの3つの力と重力との統合については、説明ができない。ところが、超ひも理論は、プランク長さより小さな世界を説明できそうな唯一の理論であるばかりでなく、そのインフレーションの起源にまで遡ることができそうな理論であるという。

 そして、川合教授らは、温度の上限であるハゲドン温度と、ハッブル定数の上限、それにTデュアリティという超ひも理論の性質から、次のような仮説を提唱している。すなわち、「現在の宇宙は、ビックバン及びビッククランチといういわば輪廻転生を繰り返した(30回目ないし)50回目の宇宙である。」という。ビックバンとは大膨張で、プランク長さ以下の微少な世界から現在の宇宙のような広大な構造の世界へと繋がる。これに対してビッククランチとは大収縮で、そういう大規模に出来上がった世界が収縮して、再びプランク長さに戻っていく。こういうことをこれまで49回も反復し、その回数を重ねるごとに、なんと8倍づつも、それぞれの宇宙の寿命を延ばしたとされる。普通であれば、初期宇宙の大きさが極小のプランク長さ以下の時には、宇宙全体はブラックホールと同じ状態となってしまって、インフレーションを生じる可能性が極めて少なくなり、自己重力によって崩壊しまう。

 ところが、何回も繰り返したビックバンによって生じた膨大なエントロピーは保存され、蓄積されていくため、ビッククランチを起こした宇宙は再び、ビックバンを起こすだけのエネルギーを優に生じる。この時に生じたエントロピーが、次の超ひもの大きさを規定するというのである。ちなみに、ビッククランチを通じて宇宙の大きさが極小のプランク長さ以下になるときには、当然に物質を構成するハドロンはいったん超ひもに戻るので、物質はすべて消えてしまうが、その代わりエントロピーは、代々受け継がれる。

 サイクリック宇宙論が正しいとすれば、現在ビックバンから137億年が経過した我々のこの宇宙の最終的な寿命は、約240億年から約320億年となるそうである。ちなみに、我々の前の49回目の宇宙は、約30億年から約40億年でビッククランチとなったようなので、地球の寿命が46億年であることを考慮すれば、どうやら知的生命体が生まれる前に世界の終わりを迎えてしまったらしい。反対にこの計算を未来に向けてみると、我々の次の51回目の宇宙の最終的な寿命は、約1920億年から約2560億年になる。これほど時間があると、もの凄い文明が栄えるかもしれない。そしてその次は・・・と考えていくと、まったく想像もつかない永遠の彼方の世界である。

 もっとも、近年、観測事実としてWMAPなどで観測されているところによれば、現在の宇宙は、その物質密度による収縮効果が宇宙項による加速効果を若干下回っている。したがってこのまま推移すると、この50回目の宇宙は、おそらく膨張したまま収縮することなく、その終焉を迎えるものと推定されているので、これでおしまいというわけだ。まあしかし、過去に50回目も生まれて死んで・・・を繰り返してきたことからすれば、この観測結果も、そのうち反転するかもしれない。いや、そうでないと話は少しも面白くないので、今後も宇宙の生まれ変わりが続いていくものと考えよう。

 さて、未来とは逆方向に過去に向かって再び時間を遡っていこう。48回目の宇宙はというと、約4〜5億年の寿命、47回目の宇宙は5〜7千万年の寿命・・・ははぁ、これは短い、いや短すぎるではないか・・・。川合教授によれば、41回目の宇宙以降、宇宙が晴れ上がり、銀河が形成される。その少し前の36回目の宇宙では元素合成が始まり・・・、30回目の宇宙でクォークの閉じこめが始まり・・・その大本の1回目の宇宙というのは、プランクの長さより少しだけ大きいものということになる。これらを表すと、こんな図となる。





 これを眺めていると、まるで宇宙が、生物の発生過程のように思えてくる。発生過程は、進化の過程を表すものだとされている。つまり、生物たとえばヒトの胎児も、ひとつの受精卵が2つに、そして4つにと分裂していき、だんだん複雑な構造になっていくが、その過程では、最初は魚類のようにエラが出てくるがすぐにそれが消えるなど、人類の発生過程をなぞっているのではないかといわれている。宇宙も、これとまったく同じではないか。このように考えていくと、直前の49回目の宇宙ですら、地球がなかったのだから、現在の宇宙の地球に生まれたわれわれ人類は、よほど運が良かったばかりでなく、何か特殊な因果律の必然の結果ではないのかと思えてくる。そして、人類の将来も、宇宙の行く末次第というわけだ。

 以上のようなことをわかりやすく描写するとすれば、こういうことか。「宇宙は、時間も空間もない混沌としたところから突然に始まり、50回もの輪廻転生を経てこの世界が出来上がり、これから更に永遠の未来に向かって果てしなくつき進んでいく。その過程では、物体は滅びるものの、精神(正しくはエントロピー)は、絶えることなく永遠に、積み上がりそして受け継がれていく。」
・・・うーむ、我ながら、新興宗教の教祖になれそうだ。


(注) プランク長さ:lp=ルート(Gh/c3)〜10マイナス33乗cm


(関連エッセイ)

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(2008年8月25日記)
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