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徒然110.生命の起源の解明
 高校時代、地理と生物でそれぞれひとつずつ、妙に気にかかっていた学説があった。地理では、ドイツの気象学者アルフレート・ウェゲナーが提唱した大陸移動説(ウィキペディアより)である。これに対する高校の先生の評価はさんざんで、「南アメリカの出っ張った東端と、アフリカの引っ込んだ西端とをみて、これが昔はひとつの大陸だったなんて、そんな馬鹿みたいなことをいう学説がありまして・・・」などと聞いたものである。でも、そういわれて世界地図をみたら、どの大陸も、互いにくっつけてみれば、なるほど昔はひとつだったのかもしれないと納得できる形をしている。素人目には、大いに共感できる説なのに、惜しいことだと思ったものである。

 ところが最新のプレートテクトニクス理論では、地球の表面は何枚かのプレート(固い岩板)で覆われており、このプレートが、地球内部で対流しているマントルの流れに乗って、動き回っていると説明されている。大雑把にいえば、まさに大陸移動説が正しいものとして認められているのである。

 これは正しい説が間違っていると誤解されていたのに、最新の理論によって、ようやくその正しさが証明された例である。ところがその反対に、高校の生物で大真面目に習って私が感心しきっていた説が、つい今朝方、あれは間違っていたとされてしまったのには、びっくりした。それは、生命の起源たる有機分子が、どこから来たのかという学説である。

 高校時代の生物の先生は、こう説明していた。1953年、アメリカにミラーという偉い先生がいて、当時の原始大気モデルに基づく実験を行った。大気の成分であるメタン、アンモニア、水を含む気体中に高電圧をかけて放電したのである。そうすると、いくつかのアミノ酸その他の生物を構成する有機分子が生成された。当時は、気象が不安定だったために、雷による放電が頻繁に起こったはずである。つまり地球の生命は、雷によって作られたのである!・・・と。教科書には、海に雷が放電する絵まで描かれていたから、私は迂闊にも、本当に信じ込んだのである。それ以来、雷に出会ったりすると、これが生命の母か、などと感慨深く思ったものである。

 ところが、あれあれっと思う間もなく、今朝の新聞に、こんな見出しが躍った。「『生命の起源』有機分子は隕石の海洋爆撃によって生成した! 〜 固体炭素・鉄・水・窒素ガスからの生物有機分子の生成を衝撃実験で証明 〜」 物質・材料研究機構と東北大学のグループが行った
この研究のプレス・リリースには、こんな説明がされていた。

物質・材料研究機構のプレス・リリースに掲げられた模式図


 1970年代から21世紀初頭にかけて急速に進歩した地球科学は、原始地球が低温ではなく、全地球が一旦溶融するほど高温になったことを明らかにした。原始地球におけるマグマの海(マグマオーシャン)の出現である。大気中に仮に、有機分子やメタンやアンモニアなど還元的な分子があったとしても、高温のマグマ(1200度以上)に接して分解し、軽い水素は宇宙空間に逃散するので、結局、原始大気は主として窒素と酸化炭素の酸化的大気になったと推定されている。従って、これまで広く信じられてきたミラーの実験のような有機分子の生成仮説はその前提が崩れ、有機分子の起源は再び謎となっていた。

 → 原始地球の大気の構成は、ミラーの当時考えられていたようなアンモニアやメタンが主成分ではなくて、むしろ二酸化炭素と窒素、水蒸気だったのではないかというのである。つまり、ミラーの実験は、その前提が崩れていて、すでに10年ほど前には、陳腐化していたのか・・・。それならそうと、早く知りたかった。

 生命の発生に必要な多種多量の有機分子が地球上で如何に準備されたか、地球史的に合理的な起源の解明は、生命の起源に迫る最初の問題である。2006年、20世紀末の地球観に基づく考察と予備的な実験結果を基に、「有機分子は初期地球に激しかった微惑星・隕石の海洋爆撃により多種多量に生成した」とする「有機分子ビッグバン説」を、本研究グループの1人(中沢弘基)が著書により提案した。日本発の、新しい有機分子起源のシナリオである。その前年、2005年に、原始大気、海洋、隕石の成分を代表する窒素、水、鉄に衝撃波を与えて、アミノ酸の前駆体であるアンモニアが多量に生成することを実証したことが、その根拠の一つとなっている。

 → 今回の実験は、ここで引用されている物質・材料研究機構の中沢弘基・名誉フェローの有機分子ビッグバン説を実証したものらしい。宇宙空間から地球に向けてビュンビュン飛んできた隕石が、地球の生命の元なんて、なかなか気宇壮大なアイデアではないか。ちなみに、何年か前に、その隕石そのものにも、有機物が含まれていて、それが地球に生命を運んできたという説があった。一見もっともらしいけれども、絶対零度近い宇宙空間で有機物が何億年も浮遊していると変性してしまうのではないかとか、あるいは地球に突入する段階の高温高圧下で、どうかなってしまうのではないかと思ったものである。それよりは、今回の研究のように、鉄などの無機物を含有する隕石が地球へ突入した結果、その際の衝撃で有機物が生成したと考える方が、より合理的だという気がする。

 本研究は、40億〜38億年前頃に頻繁であった隕石の海洋衝突を模擬し、窒素大気と海水に隕石が衝突する衝撃で生物有機分子が生成するか否かを確かめたものである。 当時の隕石衝突の痕跡は月にクレーターとして残り、その年代や規模などは米国のアポロ計画で得られた月の石の試料やその後の画像解析によって詳細が明らかにされている。一方、地球上で回収された隕石のほとんどは普通コンドライトで、20%程度の遷移金属(鉄属金属およびその硫化物)と1〜 0.1%の炭素(固体)を有している。初期地球の大陸は未発達で、海洋が広く覆っていたと推定されているので、多くの隕石は海洋に衝突し、衝突エネルギーで水と隕石の化学反応が生ずる。鉄は水を還元して水素を放出し、炭素は水素と反応して有機分子を生ずるであろう。地球の水は生命にとって、その最初の化学反応から不可欠であったと推定される。 本実験は、その化学反応を実験によって確かめたものである。

 実際の隕石衝突を実験室で再現することはもとより不可能であるが、実験室規模の衝撃実験で有機分子の生成が証明されれば、実際にはより多量で多種類の有機分子が生成したはずである。 隕石成分の鉄および固体炭素、地球側の水および窒素ガスをステンレスカプセルの空隙中に封入し、ステンレス板飛翔体を約km/秒の高速で衝突させ、カプセルを回収した。空隙内部は圧力GPa, 温度5000〜3000Kに達したと推定される。 カプセルに孔を開け、水溶性有機物を抽出して三分割し、アミノ酸、アミン、カルボン酸の分析を行った。試料が微少であるので、他の有機分子の分析は行っていない。

 その結果、グリシン(最も簡単なアミノ酸)、アルキル鎖の異なるカルボン酸(酢酸〜ペンタン酸)および同アミン(メチルアミン〜ブチルアミン)の生成を確認した。 衝撃実験で回収される試料は微量であるので、実験の炭素源に普通の固体炭素を用いたのでは、衝撃によって生成された有機分子と、分析の過程で汚染された有機分子との区別は極めて難しい。そのため本研究では、固体炭素の原料に炭素同位体13Cの固体を用いた。13Cであれば、自然界の13Cは12Cの100分の1程度しかないので、質量分析により汚染有機物との区別が明瞭にできるからである。回収試料をガスおよび液体クロマトグラフ・質量分析計で分析して、13C有機分子を検出することで、衝撃実験による生成物であることを確認した。


 → いろいろと専門的に難しく書いてあって、要旨がつかみにくいが、要するに、原始の地球の大気と海洋の成分である窒素や水を主体とするものに、鉄や炭素を含む隕石をぶつけたという想定で、ステンレスを使って高速で衝突させるという実験を行ったら、何千度という高温高圧になり、それによって生物を構成する材料となる有機分子が出現したというのである。

 この研究の成果は、40億〜38億年前頃、原始地球に海が形成された後も続いた隕石の海洋爆撃によって、生物有機分子が出現し、生命発生の準備をした可能性を強く示唆している。さらに詳細な衝撃実験とその生成物の分析によって、生物有機分子の起源が明らかされるとともに、それら有機分子のサバイバルと高分子化への示唆がえられるであろう。生命の起源の研究が地球史に根拠を置いて、大きく進展する契機となったと言える。

 →  そうすると、今後の展開としては、原始地球の原始の海において、このようないわば生物の材料となる多種多量の有機分子から、どのようにして実際に生物が生まれたかを研究するという段階が早晩くるだろう。しかしそれは、あたかも神のように、人間が生物を生み出すということになりはしないか。そして、そうやって生み出された人工生物が、たとえば疫病などの大災害をもたらさないとも限らないし・・・・とまあ、心配すればきりがない。いささか、SFのような世界ではあるが、満更あり得ないわけでもないシナリオなので、科学技術のコントロールを考えておく必要があるだろう。



(2008年12月8日記)
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