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徒然115.外資系の首切り


 10年近くも好景気を続けてきたアメリカ経済は、昨年来のサブプライム・ローン問題でのつまづきをきっかけに、2008年半ば以降、一挙に落ち込んでしまった。その前触れとして、同年5月、投資銀行のベアー・スターンズ 社が倒産した。次いで9月、リーマン・ブラザーズが行き詰ってチャプター・イレブン(民事再生)を申請し、あっという間に破たんしてしまった。そればかりか巨大保険グループであるAIGも倒産寸前にまで追い詰められて危なかったものの、アメリカ政府によって土壇場で救済された。これらの事件をきっかけに、アメリカの金融界は、大揺れに揺れ始めた。この流れは直ちに欧州へと伝播し、イギリス、フランス、ドイツ、スイスなど各国政府は自国の金融機関に対して資本注入などの対策を講じつつある。とりわけアイルランドの金融機関は、国有化や預金封鎖で大騒ぎとなっている。

 そのつい数か月前まで、たとえばアメリカのゴールドマン・サックス、欧州のクレディ・スイスなどの投資銀行は、最先端の金融工学を利用して一世を風靡していたはずであった。しかしながら、今やこれら超一流と思われていた金融機関までもが、巨額な損失と株価の暴落で次々に資本増強などの対策に追われるようになった。同時に欧米では、急激な信用収縮が起こったために、たとえば自動車ローンが組めなくなって車がばったりと売れなくなった。アメリカ市場では、トヨタですら33%の売上げの減少、GMに至っては45%もの売上げの急落に見舞われ、さしものビッグ・スリーも、2008年の年越しができないのではないかと噂され、政府に緊急融資を求めるなど、倒産の危機に瀕している。バーナンキFBR議長によれば、100年に一度の危機、つまり1930年代の世界大恐慌を彷彿させるような経済の急激な落ち込みだという。

 まるで、1990年代の日本のバブル経済の崩壊と、その後の10年余りにわたる長期低迷を思い出させるような展開である。しかし、その日本といえば、幸か不幸か、最新の金融技術を駆使するという段階には至らないような、周回遅れの旧来の金融機関がほとんどであったために、このサブプライム・ショックに直接巻き込まれることはないと言われている。しかし、アメリカの金融機関が壊滅状態に陥ったため、そういう金融経済に依存する実体経済、つまり製造業等も多大な悪影響を受けることとなった。その結果、自動車産業や半導体、電気機器などの企業を中心に雇用調整の動きが広がり、国内では派遣労働者の首切りが頻発して、2008年度末までに、約3万人が職を失うといわれている。特に派遣労働者の方々は、職と住宅がセットになっている場合が多い。したがって、その救済は焦眉の急となっている。その問題はまた別の機会に考察することとして、ここでは、私の見聞きした外資系の首切りの実情を取り上げたい。私のテニス仲間に、欧州系金融機関の幹部がいる。以下は、テニスの合間の、その人との会話である。





 「最近、サブプライム・ショックで、首切りの嵐が吹き荒れているけど、お宅は、大丈夫なんですか?」

幹部「いやあ、本国から『何人、いつまでに切れ』という指示が来ていてね。大変なんですよ。」

 「それは、HR(Human Resorce:人事部)がまとめてやるんですか?」

幹部「いやいや、各事業部門がそれぞれ割り当てられて、やるんですよ。」

 「それって、出社した本人を突然呼び出して『あなたはクビだ』と通告し、そのまま段ボールに詰め込んだ私物を渡して、ハイさようならって、やるんですか? 週刊誌には、そう書いてあったけれど・・・。」

幹部「(苦笑しつつ)まあ、そんなところでしょうね。」

 「うわさ通りだな。それはまた、激しいやり方ですね。」

幹部「もともと、給料のベースが日本の会社の数倍から場合によっては数10倍ですからね。特殊な世界ってとこですから・・・。」

 「確かにねぇ、昨年、アメリカのある証券会社が、入ったばかりの子にボーナス込みで1800万円払ったと聞いて、それはやり過ぎではないかと思ったけれど、今回のようなクビ切りを想定していたとすれば、そんなものかもしれませんねぇ。ところで、どんな風に、その辞めてもらう人を選ぶんですか?」

幹部「そうですね。まずは社歴の短い人とか、はっきり言って役に立たない人とか・・・、それから何かというと煩い人とか・・・その辺になると、かなりポリティカルですけれどね。そうそう、ある部門が必要なくなったら、そのトップ以下をそっくり首を切ることがありますね。」

 「その最初に言われた社歴の短い人といえば、私の親しい友人の息子さんも、今年の春に入ったばかりなのに、この12月1日に、もう首を言い渡されたようですよ。夏にせっかくニューヨークで研修を受けて張り切っていたというのに、ひどい話ですよね。しかも、冬のボーナスをもらう直前ときている。今から再就職先を探そうにも、来年度の就職はもう間に合いませんから、何ともならない。」

幹部「ほほう、それはひどいですね。私のところだと、入社して1〜2年目の人は、まだ実力がついていないから、先に切るということはあまりしないものなんですけれどね。その年齢とたったそれだけの経験で放り出されても、そりゃあ、困るでしょう。」

 「○○社ですわ。」

幹部「ああ、あそこねぇ。相当に悪いようだと聞いています。政府から資本注入を受けたようだし。」

 「それで、これまたひどい話なんだけれど、その子の同期生はひとりを除いてすべて首になったのですが、その首切りを免れた子というのは、某お偉いさんの息子さんなんですって。」

幹部「ははっ。それはねえ・・・何というか、露骨ですね。確かにあそこは、当局にいじめられていたから、外資でも、そういう感覚はあるのでしょう。」

 「ところで、その首を切られた人は、訴訟を起こしたりしないのですか。そんなやり方をしていると、労働法規には、明らかに抵触するでしょう。」

幹部「たとえば、事務職の女性で、そういうこともあると聞いていますが、いわゆるキャリア扱いの普通の社員だと、次の就職先のこともあるので、騒いだら損だということになって、会社が提訴されたというようなことは、あまり聞いたことがありませんねぇ。」

 「ははあ、そんなものですか。」

幹部「そうです。」

 「話が戻るようですが、その首になった息子さん、何とかならないですか。」

幹部「そうですねぇ・・・。まだ経験がたった7ヵ月というんじゃ、好況のときでも、採用する側としては、二の足を踏むところでしょうね。」

 「やはりね。その息子さんの父親、つまり私の友人は、弁護士に交渉させて労働審判なんかを考えているようなので、私はそれを聞いた瞬間、やめておいたらと言ったのですよ。だって、復職なんて、このような状況ではありえないし、審判の結果でわずかなお金をもらっても、次に就職するときに前職のことを聞かれて不利に働くおそれがあるじゃないですか。あなたがおっしゃったように。」

幹部「いや、まったく同感です。法的手段に訴えることは、よくよく考えた方がよろしいでしょうね。でも、このままではあまり先が開けないのも事実ですね。」

 「そうなんです。だから、次に彼に会ったときには、息子にポンと1千万円くらい渡して、『これでアメリカのMBAを取ってこい』とでも言ったらと、アドバイスしようかと思っているんですよ。彼は、そのくらいのお金は出せる人なんだから。」

幹部「ああ、それは良い考えですね。どうせこの金融危機、あと2〜3年は続くでしょうから、その間、アメリカの大学院に逃避しているのも、いいでしょう。ちょうど歴史的な円高ですしね。それに、いずれにせよMBAを持っていないと、この業界では上に行けないわけですから。」

 「やはりね。あなたに賛成してもらえるのは、心強い限りですねぇ。」

幹部「良いお考えです。しかし、なかなか物入りなことで。」

 「見方によれば、まるで学歴をお金で買うようなものかもしれませんが、世の中にはいくらお金があっても、子供の出来がいまひとつで、学歴どころではない場合があることを考えれば、幸せなことだと思うしかありませんな。」

幹部「そうです。一昔前なら、『そんなお金、自分で借りるか奨学金でも取ってこい』とでも言って突き放すところですが、アメリカの大学院の学費は、過去20年で3倍にもなって、アメリカ人でも多額の学費ローンを抱えて苦しんでいるわけですから、ましてや日本人の子がそんな境遇になって自分で用意できるわけがありません。無理しないでそれだけ出せるのなら、ここは、親父の出番ということでしょうなぁ。」

 「そうそう、いずれにせよ、私でなくて、よかった。とても出せませんから。(大笑い)」




(参 考)在日の外資系金融機関の人員削減数
        2008年12月23日現在

  リーマン・ブラザーズ   200人
  ゴールドマン・サックス  150人
  ドイツ証券          60人
 _________________________
  外資系金融機関(全体計)2000人


(2008年12月23日記)




 外資系めぐる、つい1年前の状況は、こちらから。


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