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徒然137.パパラッチの餌食
 朝、これから仕事に行こうとする慌ただしい中でも、食卓に座ってちゃんと朝御飯だけは食べている自分がいる。私の前には、テレビがあって、アナウンサーが真剣な顔をしてニュースを報じている。ところが、その内容といえば、やれ火事があっただの、誰かが殺されたのだのと、まったく碌でもないものばかりなのである。今朝のニュースも、それらに負けず劣らず、実に下らないものだった。

 人気グループSMAPのメンバーで、タレントの草 剛(くさなぎ つよし)が、東京ミッドタウンにほど近い赤坂の区立公園で全裸になったとして、公然わいせつ容疑で逮捕されたというのである。家内に、「なぜか大騒ぎしているけれど、SMAPって、何だ? クサナギツヨシって、知ってる?」と聞いても、やはり、「私も知りませんよ」という返事である。そもそも芸能関係の知識はゼロに近いという我々だから、まあ仕方がない。

 しかし、その下らないニュースで、街中がなぜか大騒ぎのようなのである。インタビューに出てきた若い女の子は「あのクサナギさんがぁー! まさか!もう嫌だわーっ」とか、我々とそう変わらない年配の女性までもが、「清潔そうな感じの人だったのに、まあ何ということでしょう」などと、口々に立派な感想を述べている。どうやら、我ながら自分たちの芸能オンチも、相当なものだという気がする。

 まあ、それはともかく、そのニュースたるや、こういう内容である。4月23日午前3時ごろ、草 剛容疑者(34歳)は、東京都港区赤坂檜町公園内で全裸になり、大声で喚いていた。このため、付近の住民が「酔っ払いが騒いでいる」と110番に通報した。赤坂署員3人が現場へ駆け付けたところ、泥酔していた草容疑者が、全裸で公園内の芝生にあぐらをかいて座り、意味不明の大声を上げていた。職務質問に対し、「裸だったら何が悪い」と叫び、手足をばたつかせるなどして暴れたため、保護用のシートでくるんで拘束し、公然わいせつ容疑で現行犯逮捕されたというのである。パトカーに乗せ、赤坂署に連行された後も、署員の指示に対して抵抗する素振りを見せた。逮捕から4〜5時間後に飲酒検査をしたところ、呼気1リットル中0.8ミリグラムもの高い濃度のアルコールが検出された。これは飲酒運転となる基準の数倍もの値である。同容疑者の身柄は、同日午後、同署から都内の留置施設へと移された。

 なーんだ、真夜中に酔っ払いが裸で騒いだだけではないか。酔っ払いの呼気からアルコールが検出されるのは、当たり前である。それに酔っ払い運転の基準を持ち出して比較すること自体、まったく意味がない。しかも、夜中の3時に裸になったといったって、誰も見ていないではないか。ちょっと保護して翌朝に酔いが覚める頃までトラ箱に入れておいて差しあげればよいものを・・・こんなことで公然わいせつ容疑で現行犯逮捕とは、いささかやりすぎのような気がする。草容疑者が気の毒である。

 どういうことだったのかは知る由もないが、推察するに、裸のままで服を着ないと暴れたのか、署員に対してその種の罵詈雑言を浴びせたのか、まあよほどのことがあったものと見える。後ほど聞いたところでは、警察は家宅捜索まで行ったというから、ひょっとして常習性や薬物が疑われたのかもしれない。幸い、所持品も含めて何も出なかったようなので、草くんは、身綺麗な人物であったようだ。要するに単なる酔っ払い・・・それもちょっと度を越している程度・・・が引き起こした騒ぎにすぎなかったようだ。

 私がこれまで見聞きしてきた経験では、一般に、酒が入ると、まずほとんどの人が声高にしゃべるようになって、そのうち5割の人は眠くなり、3割は暴力的となり、残る2割は泣き出したり愚痴ったりしてみっともなくなる。このうち、眠るタイプが一番、手がかからないが、泣き上戸や愚痴おじさんは相手をするのに非常に困る。それ以上にどうしようもないのは、暴力的になるタイプである。かなり前のことだが、酔っ払って店のショーウィンドーを叩き壊している知人を見たことがある。普段は、温厚でやさしそうな人なのだが、酒が入ると、こうなるらしい。こういう人に限って、酔いが覚めても、何も覚えていないというから、ますます始末が悪い。この草くんも、翌朝になってみたら前夜のことは何も記憶にないといって恐縮しているところを見ると、実はそんなタイプの人だったのかもしれない。


桜田門の警視庁。グーグルマップより


 いずれにせよ、そういう人には近寄らないことが一番だと思いつつ、そのまま車に乗って仕事に出かけた。そして、いつものように内堀通りを走り、大手町を過ぎて祝田橋を右折し、桜田門にさしかかった。いうまでもなく、幕末に安政の大獄を引き起こした井伊掃部頭直弼が水戸浪士に打ち取られた因縁の場所である。その桜田門の交差点を過ぎると、道の左手には、警視庁の大きな建物が聳えている。私の車がその警視庁の横を通り過ぎようとしたその瞬間、左前方の入口付近に、脚立を立てるなどしてカメラマンが大勢、カメラを構えているのが見えた。と、その時、フラッシュがバババッと連続してたくさん光った。車の後部座席にいた私はもちろん、運転手さんも、目がくらくらした。井伊掃部頭も、149年前にここで不遇の死を遂げたときは、あるいはその直前にこういう感じを受けたのかもしれないと思ったほどである。

 運転手さんは、「ひどいですね。いったい、どうしたんでしょう」と聞く。私には、わかっていた。パパラッチたちが草容疑者を移送する車の中を撮る練習のため、私たちを試し撮りしたのである。つまり私たちは、草くんのダミーになってしまったというわけだ。これで図らずも、我々は草全裸事件に巻き込まれてしまったことになる。まったく、酔っ払って下らない事件を引き起こすから、私たちもそのとばっちりを受けたではないか・・・。パパラッチが水戸浪士とすると、これでは井伊大老並みだという思いが一瞬、頭の中をよぎったが、いやいや私はあんな悪人?・・・いや傑物?・・・やっぱり悪人だろうなぁ・・・に相当することは何もしていないし、そもそも草くんとは何の関係もないと気を取り直した。こんなことになったのも、桜田門という異形の地が持つ時空を超えた不思議な力のせいか・・・そんな馬鹿な・・・いずれにせよ、きょうは朝から縁起が悪い・・・いや、運が悪い。こういう日は、何事も気をつけて、身を慎むことにしよう。

 ちなみに、草容疑者は赤坂署から原宿署に移送されてそこで留置されたままだったそうだ。つまり、この警視庁に張り込んでいたパパラッチたちの期待通りにはならず、草くんが警視庁に移送されることは、ついぞなかったのである。なお、草くんは、処分保留で翌日釈放された。ところがその釈放前、彼は気分が悪いと訴えたので、警察署から病院に搬送されたらしい。しかし、警察もさるもので、車の中の容疑者が見えないように、後部座席の両脇には黒いフィルムを貼り、前部とはカーテンで間仕切りをしていた。これを見て私は、パパラッチたちに対して、少しは溜飲が下がる思いがしたのである。



(2009年4月23日記)
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