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徒然141.新型インフルエンザ
 ここ数年、鳥インフルエンザ(H5N1型)について、いつ大発生して日本にもその影響が及ぶかと常に身構えていたが、今年3月にこれに類する豚由来の新型インフルエンザ(H1N1型)がメキシコで発生した。これは、メキシコの田舎で豚の間で蔓延していたインフルエンザである。それが人へ感染する能力を獲得し、村人が何人か罹った。

 それからの感染の拡大はまさに悪夢のごとくで、メキシコ国内からあっという間にアメリカ国内へ飛び、そしてカナダ国内やスペイン国内でも見つかるなど、あれよあれよという間に拡がった。日本国内への感染の侵入も近いと思っていたところ、5月8日夕刻にカナダからアメリカのデトロイト経由で日本に飛来したノースウェスト航空25便の乗客のうち、大阪府寝屋川市の府立高校教師1人及び生徒計3人が、この新型インフルエンザに感染していることが判明した。

 この感染者については、検疫法の規定に基づき隔離措置がとられ、あわせてこれら感染者の近くにいて新型インフルエンザに感染したおそれのある者については、いわゆる濃厚接触者として、同法の規定に基づき停留措置がとられた。せきなどでウィルスは2メートルほど飛ぶ可能性があるということで、前後左右3列の席に坐っていた不運な人たちである。約1週間に及んだその隔離・停留措置が終わりに近づいていた頃、神戸市の高校生が新型インフルエンザに罹患していることが判明した。自ら外国旅行をしていないという意味で、初の国内感染者の発生である。同じ頃、この高校とバレーボール競技で交流のあった二つの高校でも数人が感染していることがわかった。

 それ以降は、神戸の銀行員、キオスクの店員などと次々に感染者が判明していき、それが神戸や大阪にとどまらず、滋賀県などにも波及していった。その結果、患者数はどんどん増えていって、5月21日午前1時現在で267人となった。これは、アメリカ(5710人)、メキシコ(3734人)、カナダ(496人)に次いで、堂々の世界4位となった。ちなみに欧州では、イギリス(109人)、スペイン(103人)となっている。もっとも、これらの数字は、我が国では感染の確認を神経質なくらいに行っているからであり、たとえば発生地のメキシコでの患者数は、4月の頃にはすでに2万人は超えていたと推計されている。

 幸い、この新型インフルエンザの毒性はさほど強いものではないもののようである。WHO(世界保健機構)のチャン事務局長は、4月段階での発言であるが、死亡率は約0.4%であり、普通の季節性インフルエンザの0.2%と比べて高いとはいえないが、それでも注意は怠るべきではないと発言していたように記憶している。

 そういうわけで、今のところは日本では関西地方で発生しているにとどまっているのであるが、それがいつ関東地方へ飛び火してくるかが、最近の私や周囲の人たちの大きな関心の的であった。万が一、自分が関東地方での国内感染者第1号の栄に浴してしまったとしたら、自宅やオフィスに記者やカメラマンたちが大勢押しかけてくるし、周囲の人たちには濃厚接触者として迷惑をかけるしで、まあ碌でもないことになるのは、目に見えているからである。

 そうしていたところ、今朝方の報道によると、首都圏で2人の初の感染者が見つかった。この2人は川崎市の洗足学園の高校生で、各国の学生が交流する「模擬国連」に出席するため、アメリカのニューヨークへ出かけて19日に帰国した。二人はホテルでも同室、帰国途中の機内でも隣の席だった。成田空港の段階で発熱が確認されたが、簡易検査の結果は陰性だったので、そのまま検疫を出て、別々にリムジンバスに乗り、多摩市と横浜市の駅で電車に乗り換えて、八王子と川崎の自宅へそれぞれ帰った。その途中では、ちゃんとマスクをしていたので周りにいた人たちに感染するおそれは低いし、学校の方針で帰国後10日間は登校しないようにといわれていたので学校を通じて感染が拡大するおそれもないという。しかしそれでも、洗足学園は、同じ敷地にある幼稚園から大学まである学校をすべて、休校としてしまった。この点、いかにも日本的な反応ではないか。

 どうも厚生労働省にしても地方自治体にしても、毒性の強い鳥インフルエンザが頭にあるせいか、この新型インフルエンザへの対応は、病気自体が弱毒性で、しかもタミフルやリレンザのような薬が効くにもかかわらず、そのように、時としてやりすぎではないかと思われる点が多々ある。関西では、2府5県で4826校が休校となっている。その生徒たちは何をしているかといえば、一部はすることがないので盛り場でふらふらと遊んでいるという。その対応に、生徒指導の先生たちが駆り出されている。保育園や幼稚園も休園になったので、共稼ぎの家庭では、奥さんが仕事を休んで子供の面倒をみなければいけないと、困り果てている。

 そうかと思えば、神戸では、三菱UFJ銀行三宮支店で、ひとりの女子行員が新型インフルエンザに感染した。すると、行員60人をそっくり取り換えて営業をするなど、そこまでやるのかと思うくらいである。神戸の街中を移すテレビ画面をみると、私が一昨年に行ったときに比べても、人出は明らかに半減している。その結果、レストランや料理店などでは、人の入りが少なくなったと、経営者は憂鬱顔である。

 5月の連休後、神戸や大阪で、街中を行きかう人のほとんどがマスクをしていた。ところが、東京ではその頃、マスクをしている人なぞは、ほとんどいなかった。しかし、5月18日からの週になると、まず高校生や女性がマスクをし始めている。これが男性の間に拡がるのも、もはや時間の問題と思われる。ここに至って、まるで冗談のような本当の話がいろいろと出てきた。たとえば国会では、5月19日、参議院だけが、入構者のすべてにマスクの着用を義務付けた。持っていない人には、入り口でマスクを配布するほどである。14万枚も買いそろえたそうだ。ところが、衆議院ではそこまでの措置はとられておらず、先生方は、衆議院ではマスクをせず、参議院に向かうときにあわててマスクを付けるという。両議院協議会ではどうするんだ、参議院議員だけ全員がマスクをし、衆議院議員はひとりもしないというので良いのかと頭を抱えている由。

 当初、メキシコやアメリカでは、この新型インフルエンザ高校生など主として若い人の間に蔓延していて、患者の最高齢は51歳であった。これは、それ以上の年配の人は、ひょっとしてもう免疫を獲得している型なのではないかという専門家の説明がなされていた。私は単純にこれを信じて、それなら、私や家内が罹ることはないと楽観していたのであるが、日本で発生した患者の中に60歳以上の女性が出たという話を聞いて、これは安穏としておられないと思い始めた。

 ところで、この新型インフルエンザについて、厚生労働省の対策室がこのような指針を示しているが、中には思わず笑ってしまうほど妙なものもある。

[1] マスク・手洗いを励行 → これは納得
[2] 人込みには近づかない → これも納得
[3] 体調がおかしいと思ったら発熱相談センターに電話 → 行きつけの病院に行きたいのに・・・近くの医院や普通の病院に行くと他の患者にうつすおそれがあるということらしいが、発熱相談センターに連絡して受け入れてくれる病院に行っても、駐車場のテントで長時間待たされたという話を聞いた。
[4] 通勤は、自転車か徒歩で → そんな馬鹿な・・・東京のような大都市では、自転車か徒歩で通ったりすると、会社に着いた頃にはもう就業時間が終わっているということになりかねない。
[5] 十分な休息と睡眠をとる → これは当然

 私の家では、家内が買い物に出るときに、マスクをし始めた。私は、帰宅したときにはうがいと手洗いを念入りに行うことにした。平日は車で通勤なので、運転手さんが新型インフルエンザを持ち込まない限り、罹ることはまずないと思うが、問題は土曜日の大学での講義と、日曜日の定例のテニスである。現に連休明け、「発熱したので、休みたい」とメールを送ってきた学生さんがいた。「おおっ!いよいよ身近に来たか」と思いつつ、「水分をよく摂って、よく寝て体力を回復するように」などと返信したのであるが、大丈夫かとどうか心配していたところ、幸い新型ではなかったようで、次の週には元気に復帰してくれたので、ひとまず安心した。

 聞くところによると、1918年から19年にかけて世界的に大流行し、6億人が罹患し、5千万〜1億人も亡くなった(Source:The Economist May2-8 '09)といわれるスペイン風邪も、3回あった流行の波のうち、最初の波はやはり今の季節に現れ、しかも毒性はそう強くなかったという。ところが、人から人へと感染を繰り返しているうちに毒性が強くなり、その年の秋にあった2回目と、翌年早々にあった最後の3回目の流行時には、たくさんの患者が死亡したというのである。

 地震や疫病などの天災は、いつ起こるかどの程度のものか、事前にはなかなか測り難い。いずれにせよ現在は、皆、息をひそめて大流行に備えているという気がする。社会に緊張感がピーンと張り詰めているのがありありとわかるのである。まあ、すぐに梅雨も始まるし、このまま何事も起こらずに例年通りの暑い夏を迎えたいものだ。


(2009年5月21日記)



 病院  新型インフルエンザが流行る平成日本にて詠める  病院


 豚  世の中が 俄かに騒がし 豚のため
                              鳥より豚が来た!

 拍手  豚インフル 肘でボタンが うまくなり
                              エレベーター怖い

 メールブルー  さあ流行 買いに行ったが マスクなし
                              マツモトキヨシ派

 びっくり  高校生 新型インフルに 気に入られ
                              大倉・洗足学園生


(2009年5月22日記)

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