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徒然155.証明写真の顔
20年前の写真とは、さしずめ、こんな感じである。


 証明写真を撮りに行った。私のような年齢になると、これがまた、どこに行こうかと迷うのである。というのは、街の写真屋だと、それなりに高いお金を支払っても、ロクに照明も当てずにそのままガシャンと撮ってハイおしまいとなるが、いざ出来上がった写真を見ると、「これが自分か・・・、毎朝鏡で見ている顔とはかなり違うな」ということがよくある。しかし、安く上げようとして地下鉄構内の証明写真機を選ぶと、まるで指名手配の犯人の顔と見まがうばかりになる。

 したがって、東京の名のあるデパートの写真室に行って撮るということになる。しかし、またこれも考えものなのである。前回は、日本橋の高島屋の写真室に行った。そして撮ってもらったのだが、出来上がった私の顔写真は、まるで20年前の私の顔ではないか・・・事前に見せてもらったモニターの画面上だと、こんな風ではなかったのに・・・と思ったものの、後の祭りである。「こんなので、厳密な顔の照合が必要となるパスポートに使えるのかなぁ・・・以前もあったことだけれど・・・」と思った記憶がある。

 いったい、なんでこんなことになっているのかというと、こういうデパートの写真室の証明写真は、就職などに使うために撮りに来る人が多いからである。こういう顧客の暗黙の要望に応じてか、言わなくともこうした写真屋は、顧客の顔をどんどん修正してしまう。しかもデジタル写真だから、ソフトウェアを使ってシミやシワをなくすなんてのはお茶の子さいさい、クリック一発で眼を大きくしたり、影を当てて鼻を高く見せるなんてことも簡単にできるそうだ。しかめっ面を、ニコニコしている顔にできるかもしれないって?・・・さすがにこれは嘘かもしれない

 そういう修正をされると、被写体が若い人だといいが、私くらいの年齢の者ともなれば、額にある何本かのシワを消しただけで、「おやまあ、こんなに若かったっけ?」と、自分でも首をかしげたくなるほどになる。そういうわけで、ともかく、昨年の高島屋の写真は、若くなりすぎて失敗した。これを見た私の父ですら「えらく、若いのう?」とつぶやいたほどなのだから・・・。

 したがって今年は、伊勢丹の新宿本店に行った。パークビル3階の写真室に行くと、どうやらこちらは10数万円もする家族写真やお見合い写真、卒業や成人式などの行事の写真を撮るのが主な仕事で、1万円にも満たない証明写真など、まるで鼻にもかけないような雰囲気なのである。しばし待たされた後、妙な照明器具がいっぱいある写真室に通されて、何枚か写真を撮られた。私が、「若い人の場合のような修正は要りませんからね。あるがままで」と注文を出した。すると、係りの方は、「承知しました。意図的な修正はいたしません」と言いつつ、モニター画面に映し出して、どの画像を選ぶかと聞いてきた。まあ、穏健な感じの写真を選んで、それをお願いしたというわけである。

 そのとき、「どの画像も、顔の半分に当たっているところに影があるけど、これは何ですか」と質問したら、「ああ、それは、鼻を高く見せるために、わざと影ができるように照明を当てているんです」と説明をしていた。それを聞いて私は、「ははぁ、インチキといえばいえなくもないが、ソフトウェアで一発修正というよりは、許される範囲かもしれない」と自問自答したのである。

 さて、それから数日後の日曜日、その写真をもらいに新宿へ出かけた。写真室についてみると、どういうわけかこの日は、ダークスーツを着た親子連れ・・・それも小学校へ入るか入らないかという年齢の子供ばかりが目立った。どうやら、秋の本格的お受験シーズン開幕に向けての写真らしい。子供たちは、よく訓練されているらしくて、皆さすがに大人しい子ばかりである。そんな中で待っている私は、何か場違いのような気がしたのであるが、それからしばらくして、写真を受け取った。さて、その出来具合であるが・・・10年前とはいわないが・・・5年ほど前の自分の顔がそこにあった。




(2009年9月4日記)


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