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徒然170.宇宙の誕生直後に迫る
 現在の宇宙は、その誕生から137億年が経っており、温度はマイナス270度と、絶対温度(マイナス273.15度)近くまで冷え切っている。我々の体も、地球も太陽も、そして銀河や他の星々もすべて、原子で出来ている。これが、「原子の時代」といわれるゆえんである。原子は、1000万分の1ミリという小ささであり、バリオンといわれる陽子と中性子から成る中心核と、その周囲で回る電子から成っている。

 現在の時点からから宇宙誕生の時点に向かって歴史を遡っていくと、現在はとてつもなく大きい宇宙の大きさは次第に小さくなっていき、その温度はどんどんと上昇していく。宇宙誕生まで38万年の時点に遡ると、温度は3000度になり、この頃に中心核の周りを電子が回るようになって、原子が生まれた。これにより、それまでは飛び回る電子によって進路が妨害されていた光子が自由に飛んでいくことができるようになったので、「宇宙が晴れ上がった」といわれる。したがってそれより前は、陽子と中性子が2個ずつ結びついているヘリウムの中心核と電子が、相互にバラバラの状態で存在していたとされる。これを称して「原子核の時代」という。それが、宇宙誕生後3分の頃まで続き、その時点の温度は10億度である。

 それより前の状態は、よくわかっていなかったが、最近のコンピューターのシミュレーションでは、陽子と中性子は、2兆度の温度で融け出すことがわかった。その時の時間は、宇宙誕生後5万分の1秒後に相当する。それでは、更にそれ以前はどうなっていたかというと、陽子と中性子は、それぞれ3個のクォークという素粒子から出来ているが、陽子と中性子がバラバラになってそのクォークに分解されるという時代があったはずである。これについて2000年からアメリカで実験が続けられた結果、宇宙誕生から25万分の1秒後に相当する4兆度の温度で、ついに陽子と中性子が融け、すべて混じり合うクォークとなった。それが驚いたことに、粘性が極めて低いサラサラの状態だったという。これが「クォークの時代」である。

 しかし、これはまだ序の口で、さらにこの時代とそれ以前の探求が続く。そうすることによって、宇宙の誕生の謎に、限りなく近づくことができるのである。そのステップとして、スイス・ジュネーブ郊外にCERNが建設した大型ハドロン衝突型加速器 (Large Hadron Collider、LHC) による実験の結果が待たれる。LHCは、2008年9月にの実験開始直後にヘリウムが漏れて故障し、ようやく2009年11月に再開にこぎつけたばかりである。その衝突エネルギーは先のアメリカの実験の28倍ということなので、これによる実験が成功すれば、宇宙誕生から1000万分の1秒後に相当する時のクォークの時代の様子を知ることができるらしい。

 その時のクォークの粘性がどうなるのか、おそらく粘性が上がってくるのではないかと思われているのだが、そうなると、さらにその前の宇宙の状態はいかなる姿なのか、クォークの実態は超ひも理論でいう「ひも」と解してよいのか、そうだとすると宇宙はいったいどのように誕生したのかなどという疑問にも、答えやそのヒントが得られるかもしれない。いやはや、とうとうそういう時代になったのかと、感慨深いものがある。良い時代に生まれたものだと思う。


(2010年1月20日記)


(注) 2010年1月19日付け朝日新聞記事「原始宇宙の火の玉再現」を参照した。




【後日談】 LHCが陽子の衝突に成功

 大型ハドロン衝突型加速器(LHC)は、1年半前にいったんは完成したもののすぐに故障し、2009年11月に再開にこぎつけたばかりであったが、ここに来てようやくその成果を出しつつあるようだ。 欧州合同原子核研究所(CERN)の発表を報じた2010年3月31日の新聞各紙によると、陽子どうしを衝突させて7兆電子ボルトのエネルギーを発生させる実験に成功したらしい。それも、最初の2回の実験が失敗に終わった後、3度目に3.5兆電子ボルトのエネルギーで周回する陽子ビームどうしが正面衝突したことを確認したそうだ。面白いことにこうした科学の世界でも、「三度目の正直」という諺が当てはまるようである。

 ちなみに今回の成果は、宇宙誕生の瞬間(ビックバン)から1兆分の1秒後の数百兆度の状態を再現したことになるという。今後、2013年には、このエネルギーを装置上限の14兆電子ボルトに上げる計画であるとのこと。これからは、その世界最大級の能力を生かして、素粒子の質量の根元をなす「ヒッグス粒子」の発見、あるいは宇宙空間の質量の約4分の3を占める未知の暗黒物質(ダーク・マター)の有力な候補といわれる「ニュートラリーノ」などの「超対称性粒子」の発見などの成果が得られるものと期待されている。



(2010年3月31日記)

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