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徒然179.春の園遊会

春の園遊会の会場


 4月15日の春の園遊会に参加した。お招きいただくだけでも、誠に名誉なことだと思っている。しかしそれにしても、今年の園遊会は寒かった。気温は、確か8度か9度だったと思う。その数日前までは暖かい日々が続いていて、摂氏18度だ20度だなどといっていたことからすると、三寒四温の時期とはいえ、この日は本当に異常なほど寒い日だった。

 園遊会のドレス・コードは、原則として、男性はモーニング、女性は色留袖である。もちろん、男性の普通のスーツや女性の洋装も許されるのだが、我々の世代には、こうした正式なスタイルをする人が多い。そこで、モーニングや色留で、この寒さにどう対処するかということが問題である。はやりのユニクロのヒートテックだったらどうかはともかくとして、いかに暖かい下着を身につけていても、コートがないと摂氏10度にも及ばない気温で屋外に数時間もいると、すぐに風邪を引きそうである。しかし、両陛下の前でコートというのは、どうもよろしくないと思うので、無理してモーニングのままで行くべきかと迷っていた。

 そのとき、隣の秘書部屋から助け舟があった。「ホカロンを持っていったらどうですか」・・・おやおや、あの携帯カイロねぇ・・・それは気が付かなかった。当日の朝、一階のコンビニに行ってみたところ、あるある、10個ほどあったので、そのうち5個を買い求めた。それを自分の部屋に持って帰り、やがてお昼になったので、モーニングに着替え始めた。吊りバンドなどは、日常ではほとんど使わないので、調整しなければならなかったが、いったん付けた後の着用感は良い。チョッキを着る段になって、ホカロンのことを思い出した。買ってきたものには、接着面という便利な仕組みがあって、それで衣類の内側に貼り付ければよいらしい。

 それは良いのだけれど、どこに貼り付けるべきか・・・そのとき突然思いついたのが、心臓の上である。暖かい血液が全身を巡ってくれるに違いない。うむ、これはいい考えだと思って、チョッキの左胸の内部に張った。それから、どうも私は、こういうときは下肢が寒くなることを思い出して、ズボンの内側で二つの太ももに当たるところにも貼った。残る二つは、とりあえず、両ポケットに入れておいた。寒くなったら、寒く感ずるところに当てればよいというわけである。

 さあこれでよいはずだと気が軽くなり、車に乗って赤坂御所の所定の入口へと向かった。中へと入り、車から降りた。ドアを開けて外に出ると、おお、これは寒い。その中で、ホカロンを当てたところだけは、確かに暖かい。運悪く、小雨が降り出した。用意の傘を差し、脇目も振らずに御所の真ん中に位置する庭園の会場を目指して歩いて行った。御所の庭園の中心には池があり、大まかにいえば三つの小さな池に分けられるが、両陛下はその内側の池の周りの砂利道をお通りになる。だから招待客は、その道に沿ってずらりと並び、お歩きになる両陛下ほか皇族の方々に親しく拝謁するというわけである。

 時間内ではあるが我々は比較的遅く行ったので、両陛下のお歩きになる道は、晴れ着を着た方々でもう一杯である。きょうは、1,900人が参加したと後から聞いたが、確かにそれくらいはいたと思う。仕方がないので、大回りでかなり歩いて、時計でいえば12時の位置から反時計まわりで5時の短針の位置まで行き、そこで列の中に入れてもらった。両陛下が会場にお着きになり、はるか右手の方で、ザワザワとした群衆の動きが見られる。その辺りには、カナダのオリンピックで活躍した浅田真央ちゃんなどがいたらしいが、見えるほどの距離ではとてもなかった。

 さて、それから待つことおよそ30分間、いやはや寒かった。その中で、ホカロン効果は確かにあったものの、寒さはホカロンを付けていないところから体に侵入してくる。たとえば、首筋と背中である。まさか首筋にはホカロンを貼り付けるわけにはいかないが、背中には貼ることが出来たのにと、悔むことしきりである。ところで、私の隣の男性は、普通のコートを着ているではないか。その隣の奥方は、いわゆる道行きのコートを羽織っている。両陛下があと10メートルというところにいらした時、二人ともやおらコートを脱いで、それを手提げ袋に入れた。なるほど、こういう工夫もあったのか・・・ホカロンよりマシかもしれない・・・もし次回同じようなことがあった場合に備えて、覚えておこう。

春の園遊会の会場


 さて、先導の方たちが我々の前を通過し、列を作っている人たちは、一斉に傘を下ろしてご挨拶に備える。天皇陛下が目の前をお通りになり、お言葉を発されて、こちらはただただ恐縮して頭を垂れるというわけである。続いて皇后陛下がお通りになり、私の隣の色留の女性に「どうぞ、傘をお差しになって」とやさしくお言葉を掛けられていた。この女性、感激して今晩は寝られないかもしれないと思ったほどである。次に、皇太子殿下がお通りになる。こちらは、特に話されるということはなく、ただ、にこやかなお顔でお通りになる。なるほど、これもひとつのスタイルである。ところで天皇陛下は、黒いシルクハットと手袋をお持ちだったが、皇太子殿下は、こげ茶色のシルクハットと手袋で、お二人ともその持ち方とシルクハットのシルエットがごく自然で、これも深く印象に残った。それから、秋篠宮両殿下がお通りになったが、妃殿下が私の左側にいた年配の方とお知り合いらしくて、その人が「今度、財団を作りました」と報告すると、「あら、そうですか。それで・・・」と気さくに応じられていた。それから常陸宮様をはじめとするほかの皇族方も同様に目の前を通られて、それで我々のところはおしまいとなった。

 私は、今年は還暦プラス1年となるが、この園遊会は、実に良い記念となった。皇族がお通りになった後、その通過されていた時には、まったく感じなかった寒さが急にぶり返し、体がぶるぶると震えるのがわかったので、早足でその場を離れたのである。しかし、皇族の方々は、特に両陛下や常陸宮両殿下におかれては、ご高齢にもかかわらず、このような小雨で寒空という悪天候の下で、約1時間にわたって粛々とそのお勤めを果たされていたが、これが皇室というものかと、そのお姿には、誠に頭が下がる思いがした。

 会場から退出してオフィスに戻り、それからしばらくしてから、友人とたまたま出会った。確かこの人も招待された組である。そこで私から「今日の園遊会、寒かったねぇ。君はどうしていた?」と聞いた。すると、彼はこういったものである。「いやなに、こういう日はガソリンを入れるに限ると思って、会場で日本酒を何杯かひっかけたら、むしろ暑かったよ。わははっ!」

 なるほど、昼間から会場で酒を飲むというのは、ホカロンやコート持参に続く第三の手というわけか・・・ひと昔前なら「陛下の御前で何たること・・・この不忠者!」といって成敗されそうな輩である。偉くなる人には色々なタイプがあるが、さしずめこの友人などは、つまりは「豪傑タイプ」として分類されそうである。私なぞは、理屈と技術で生きているようなところがあるから、こういうタイプには、とてもなれないと、改めて思い知った。



(2010年4月16日記)


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