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徒然181.iPadの衝撃

発売当初のiPad


 いよいよ日本でも、アップルの電子端末iPadが発売された。アメリカでは、発売後わずか1ヵ月で100万台を売り上げたそうだ。それもそのはずで、電子書籍を実現できるほとんどすべての要素が実現されている。フル・カラーであることはもちろん、美しいし、使いやすい。たとえば、タッチ・パネルで本の頁をめくる動作もできる。通信費さえ払えば、容量は無制限にダウン・ロードできるから、写真や動画とリンクさせた雑誌なども自由自在に配信できる。アメリカで購入した人にインタビューしている場面を見たが、8割の人が満足しているようだ。アメリカは、書籍の価格が高いし、英語という特性で、本が嵩張る。それを半分以下の値段で購入できるというのであるから、そういう意味でも大歓迎する人が多い。

 きょうも、大学での講義の後、学生の皆さんと食事をともにしながら話し合っていたが、皆さんは、大学院に持ってくる書籍が重たいし、数が多いし嵩張るのでかなわないという。それに、専門書ばかりであるから、値段が高いのも困るという。いや、まったくその通りである。我々教授の側からしても、ただでさえ学費が高い法科大学院なのに、それに加えて受ける授業ごとに高い書籍を買ってもらわなければならないというのは、誠に心苦しい。たとえば、私の書いたある書籍は、定価が5000円近くなのだが、法律事務所に買っていたただくのは構わないのだけれど、それを学生さんたちに買ってもらうわけにはいかないので、それを要約した形のものを電子データとして用意して、授業中に使っている。

 しかし、細かいところまで話をしたいと思うと、やはりその本自体を引用することになるが、それでは、出版社との関係でも問題が生じないわけでもない。そんなわけで、困ってしまうというのが正直なところである。こんなに気を使っている上に、その本を書くだけで半年以上すべての土日を犠牲にしている。それなのに、著者の手元に入るのは、定価のわずか10%ときている。もちろん、重版のときは15%ということになっているが、そんなことはあまりないと思ってよい。すると、一冊につきわずか500円の印税にすぎない。これは、教師の安い給料から考えて、誠に割に合わないこと、はなはだしい。ところが、iPadを使えばどうなるかと考えたら、世界が全く違ってくる。

 教師は、その授業に使う教科書を、電子データの形でiPadに提供する。アップル側は、それをたとえば700円で配信したとする。昨年に大騒ぎをしたグーグルの例にならうと、著者にはその70%が支払われ、アップルは30%を取る。そうすると、著者は紙の時代の500円の印税から、490円の印税(ロイヤリティー)と、ほぼ同じ水準の収入が確保できる。その一方で学生さんたちは、従来は5000円も払っていた書籍代が、その7分の1になるから大助かりという算段である。

 つまり、これまでは中間段階で搾取されていた紙と印刷の業界をすべて飛ばして、著者から読者へと、中抜きで書物を直送することができるのである。紙と印刷の業界といったが、それは、出版社(編集機能)、出版の取次ぎ(配送機能)、それに印刷会社(印刷機能)である。もともと、我々の書くものは、文字ばかりであるから、編集などほとんど必要がない。誤字脱字などはあるかもしれないが、見つけたとたん、その時点で直していけばよいから、読者には常に最新版を提供できる。それに、たとえば、書いたものに判例のリンクを張るのも極めて容易である。学習の能率を上げてくれるだろう。最新の判例が出れば、それを追加していけばよいから、時代遅れになるのを免れることができる。

 我々教師が書いた書物を、ちょうど、同じアップルが出したiPhoneのアプリのように、iPad向けのアプリの形で配信できるなら、今述べたように中抜きで、今すぐにでも、読者に買ってもらえる電子書籍ができそうである。テキストを書いただけで、法律の本らしく装丁してアプリの形で電子データを作ってくれるという、そんな便利なソフトを作ってそれをアプリとして提供してくれる人は、いないだろうか。いたら、間違いなく売れるに違いない。そうすると、我々著者のサイドも創作意欲が増すから、どんどん書くことになる。もちろん読者は、そうしてどんどん書かれた電子本を、何冊買っても、iPadひとつを持っているだけで、いつでもどこでも読むことができる。これは、ものすごい世界が待っている。グーテンベルク以来の紙中心の時代が終わり、iPad中心の電子本の時代が来るのである。

 ついでに、iPadはパソコンでもあるから、仕事もできるし、メールのやりとりはもちろん、暇だったらゲームもできる。普通の人なら、パソコンをメールにしか使っていないという人も多いだろうから、そういう人は、パソコンを捨てて、iPadに乗り換えるだろう。ちょうど去年あたりから、2代目の需要として小型パソコンが人気となり、ある程度の市場を形成しつつあるが、その人たちも、iPadに流れていくかもしれない。パソコン業界も、大きな影響を受けそうだ。

 考えてみると、これまではマス・メディアがひとり情報を握り、それで世界を牛耳ってきたわけであるが、このインターネット時代にあって、はじめて個々人が情報を発信することとなった。それは、社会の構造を抜本的に変えつつある。iPadの衝撃で、紙の世界は終わりを告げつつある。次に来るのは、大新聞と出版界などのマスコミの没落であろう。




(2010年4月28日記)


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