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第5回新司法試験の合格発表

法務省赤レンガ庁舎での合格発表


 平成22年9月9日午後4時に、法務省庁舎内で発表された第5回新司法試験の結果は、関係者の「悪い予感」が当たったといえる。というのは、最終合格者数が2074人と、前年の2043人と比べて大差なく、かつて喧伝されていた2010年に3000人程度という目標のたった3分の2だったからである。

 その背景としては、法科大学院が乱立して質の低下が顕著になってきたことに加え、法曹人口の拡大で特に地方の弁護士会を中心として過当競争を懸念する声に押されて日弁連の会長が拡大抑制派の宇都宮健児氏になったことも、何らかの影響を及ぼしたのではないかと思わないでもない。

 この夏のNHKのテレビ番組で、日比谷公園で寂しくおにぎりを食べる30歳の弁護士が登場し、「このようにせっかく弁護士になっても、とても食べていくどころではない」などという調子でナレーションが流されていた。その番組に出演した宇都宮会長は、「イソ弁」、「ノキ弁」、「タク弁」どころか、携帯電話一本のみが頼りの「ケータイ弁」も出てきているし、さらには事務所に属して先輩の仕事も見習うことも出来ずに即時開業せざるを得ない「ソク弁」まで登場していると語っていた。

 そのような厳しい情勢の下ではあるが、法科大学院卒の学生さんとしては、まずは目の前の試験という関門を突破することが第一の課題である。そういう意味で、私が教えた皆さんの首尾が気になるところであるが、幸いにして今年は、かなりの数の学生さんたちから合格を知らせる喜びのメールをいただいた。あの人なら、間違いなく合格するだろうという学生さんはすべて受かっていたのは、我ながら人を見る目があると自信になった。それに、こういっては何だが、あんな答案で大丈夫かなと思っていた人たちの中でも、ひとりだけだが受かっていた。あれから相当頑張ったのだろうと思う。よくやったと誉めて差し上げたい。この人からの合格メールが一番うれしかった。何しろ合格率が25.4%となってしまってからの合格だから、価値がある。

 それにしても、いただいたメールの内容には、ご本人の合格時の気分の高揚があるとはいえ、有り難いやら何やらで、こちらが気恥かしくなるようなものがある。たとえば、「先生には『法的文章とは何か』という基礎のところから丁寧に教えていただきました。試験本番でも教えていただいた点に留意しながら答案を作成したところ、結果を出すことができました。今の私の書く法的文章の核は、先生の授業において身についたものです。本当にありがとうございます。」などといわれると、穴があったら入りたくなる。

 それでまあ、このメールに対しては、私も比較的、押さえ気味ながら、こういう返事を書いたというわけである。

「 本当におめでとうございます。長い間、よく頑張って最高の成果を上げられましたね。心からお祝いを申し上げます。私の授業が、少しでもお役に立ったということでしたら、誠にうれしく思います。あなたの年のクラスで同学年の方としては、ほかにAさん、Bさん、Cさんとおられたのですが、あなたからのこのメールは、最初にいただいた朗報です。よかったですね。

 実は、昨日の午後4時頃に、法務省の前を通り過ぎたのですが、大勢の人だかりがしていました。インターネットでも掲示されるとはいえ、こうやって合格者名簿を現に見て、実際に自分の名前を確かめるというのは、やはり喜びも倍加することでしょう。しかしその反面、帰る途中の人の多くは、携帯を手にして『ああ、オレ。落ちちゃったよ』と言っているのを耳にして、資格試験の残酷さのようなものを垣間見た気がします。まあ、これが人生というものです。

 これからのあなたの前途には、洋々たるものがあると思います。しかしそのためには、一夜あけてさっそく今日から、所属する弁護士事務所を確定しなければなりませんので、そちらの方も、怠りなく、やっていかれては、いかがでしょうか。また、大学院の祝賀会などで、お会いしたいものですね。それでは、これからのご活躍を心からお祈りして、私からのお祝いの言とさせていただきます。」

 そうかと思うと、2年前に卒業して、今年が2回目の挑戦だった人もいる。私が大学院で教鞭をとる日の通学経路で、ときどき一緒になっていた人である。ともかく真面目で、何に対してもひたむきに取り組むというお人柄である。こういう人が弁護士になったら、依頼者からも信頼されるだろうなぁと思っていた。それ以来、かねてから、ときどきメールのやりとりをしていて、私はいつも「彼、どうしているかなぁ」と気に掛けていたのであるが、今年の合格発表の日から数日遅れで、次のようなメールが届いた。

「 突然のご連絡で失礼いたします。法科大学院においてご指導いただきました○○です。在学中は、懇切丁寧なご指導を賜り、また、学業を離れた相談にも応じて下さり、本当にありがとうございました。実は、昨年に続き本年5月に司法試験を受験したのですが、力不足ゆえ不合格となりました。先生に親身にご指導していただいたにもかかわらず、よいご報告をできず本当に申し訳ありません。

 幸いなことに来年度に改めて受験できることとなりましたので、本年度の結果を反省し、なぜ失敗したのかをよく考えて、これを踏まえた受験準備を行いたいと考えております。今後ともご指導ご鞭撻下さいますよう宜しくお願い申し上げます。」


 私も、思わず胸が詰まって、こんなメールを送った。

「 それは誠に残念なことでした。発表の当日、たまたま法務省前を通りかかり、発表を待っているたくさんの学生さんたちの列を見て、そういえば、あなたもこの中におられるかもしれない、うまくいけばよいがと念じていました。まあ、合格率が25%ということも、かなり影響したのではないかと思います。これに負けず、是非とも来年また頑張って受験されて、実力のほどを示していただきたいと考えております。

 長丁場ですが、健康に留意されて、これからのご健闘とご発展を切にお祈りいたします。」

 そうすると、すぐにこのような返信のメールをいただいた。

「大変お忙しいなか、ご返信をいただき恐縮いたしております。先生のご期待にお応えできるよう、また、教えていただいたことを無駄にすることのないよう一日、一日の学習に真剣に取り組んでいこうと思います。  今後ともご指導下さいますよう宜しくお願い申し上げます。」

 このように、たいへん真面目な方なのだ。こういう方に来年こそ、是非とも合格してもらいたものである。


(備 考) 合格者名簿は、また今年も地方誌の西日本新聞に掲載されていた。

 なお、法科大学院の制度と経緯について知りたい方は、こちらを参照されたい。



(2010年9月15日記)


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