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東京の桜 2012年(2) 愛宕神社

愛宕神社の池と緋鯉



 愛宕神社の桜と鯉(写 真)


(2) 愛宕神社の桜と鯉

 愛宕神社について私が一昨年の4月15日に書いたエッセイを読み返すと、我ながら非常に良く書けている。しかし、それからの2年間というもの、愛宕神社や桜についての私の知識が増えたというわけでもないので、今年はこれ以上のものを書くことは出来ない。そこで、新しく書き下ろすことは諦めて、その代わり、今年また桜の季節に行ったときに初めて気づいた「愛宕神社御由緒」なる表示板について、少し長くなるが、次に引用してみたい。




愛宕神社の出世の階段


 「当社は徳川家康公が江戸に幕府を開くにあたり江戸の防火・防災の守り神として将軍の命を受け創建されました。幕府の尊崇篤くご社殿を始め仁王門、坂下総門等を寄進され、祭礼等でもその都度下附金の拝領を得ておりました。・・・江戸大火災、関東大震災、東京大空襲の度に消失しましたが現在のご社殿は昭和35年に再建されました。寛永11年3代将軍家光公の御前にて、四国丸亀藩の曲垣平九郎盛澄が騎馬にて正面男坂(86段)を駆け上がり、お社に国家安泰の祈願をし、その後境内に咲き誇る源平の梅を手折り将軍に献上した事から日本一の馬術の名人として名を馳せ『出世の階段』の名も全国に広まりました。万延元年には水戸の浪士がご神前にて祈念の後、桜田門へ出向き大老井伊直弼を討ちその目的を果たした世にいう『桜田門外の変』の集合場所でもありました。海抜26メートルは都内随一の高さを誇り、桜と見晴しの名所として江戸庶民に愛され数多くの浮世絵にもその姿を残しています。明治元年には勝海舟が西郷隆盛を誘い山上で江戸市中を見回しながら会談し、江戸城無血開城へと導きました。鉄道唱歌にもその名が残り春は桜、夏の蝉しぐれ、秋の紅葉、そして冬景色と四季折々の顔を持つ風光明媚な愛宕山として大変貴重な存在となっております。・・・」



愛宕神社


 ははあ、よくわかる。私の文よりはるかにこなれていて、脱帽ものである。それにしても、この愛宕山は、日本の近世の歴史の縮図のようなものだ。この説明だけでも、徳川家康による創建、徳川家光と曲垣平九郎のエピソード、桜田門外の変を起こした水戸の浪士の集合場所、江戸城無血開城につながる勝海舟が西郷隆盛の会談の場所、江戸大火災、関東大震災、東京大空襲による消失、それに浮世絵と鉄道唱歌か・・・これから、お参りするたびに、思い出そう・・・そのように決めたとたん、いつになく、歴史が身近に感じてきた。そういえば、先ごろ東京写真美術館で開かれた漂泊の写真家フリーチェ・ベアトが明治期の初めにこの愛宕山から撮った江戸市中のパノラマ写真が目に浮かぶ。眼前には延々と広がる大名屋敷、はるか沖の方に目を転ずれば江戸湾とお台場が見え、文字通り江戸が一望できる。こんな雄大な景色を見て桜田門に出発したり、勝・西郷会談が行われたのかと、何か歴史が分かった気がしてしまう。まあ、そうしたこともあってのことかもしれないが、この神社は地域の人たちに大切にされてきているのは確かである。たとえば、2年ごとに行われる出世の石段祭、つまりあの男坂の急な階段をお神輿が下るお祭りを見てビデオに撮ったが、これには驚いた。ただでさえ転がり落ちそうなあんな急坂をお神輿かついで降りるなんて、それだけでもかなりの胆力が要ると思うが、町内の皆さんがそれを軽々とやってのけている。



愛宕神社の緋鯉


 池の方に行く。来た来たとばかりに、錦鯉たちがエサをもらえると勘違いして、いっぱい集まってきた。水面にいっせいに口を我先に出して、チュボ・チュボ・チュボという音を立てる。一瞬、阿鼻叫喚という言葉と、芥川龍之介の蜘蛛の糸の場面を思い起こす。しかし今の私は、その糸すら持っていないのである。「ああ、申し訳ないねぇ、今日は鯉のエサを持ってきてないんだよ」と心の中で言うと、あら不思議、「なーんだ、それなら早く言ってよ」とばかりに、鯉たちが一斉に去っていく。この鯉たち、テレパシー能力があって、私の考えることがわかるのか・・・まさか・・・と思ったら、対岸でエサをやり始めた人が現れたので、単にそちらへと向かって行っただけのことだった。



NHKの放送会館がある広場の桜と愛宕山ヒルズ


NHKの放送会館がある広場の桜と愛宕山ヒルズ


 NHKの放送会館がある広場に向かう。その周りでは、皆がのんびりとお弁当を食べている。中には、ベンチで寝ている人までいる。気持ち良さそうだ・・・その上を覆うように、染井吉野の花をいっぱいに付けた桜の木の枝が張り出している。白い桜の花が美しい。さらにその上には、あたかも空を突き刺すように、愛宕山ヒルズがすっくと立っている。ああ、これは良い構図になるとばかりに、そこでまた写真を数枚撮った。ところでNHKの放送会館の脇に2本、ピンク色の濃い桜の木があった。これも、なかなか美しい。とりわけ、青い空と白い雲、そしてこの桜のピンクは、実によくお互いを引き立てているではないか・・・ということでそれもカメラに収めた。この神社の来るたびに思うのであるが、今日は本当に、幸せな良い一日であった。



NHKの放送会館がある広場の桜と愛宕山ヒルズ


NHKの放送会館がある広場の桜と愛宕山ヒルズ





(2012年 4月 3日記)


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