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孔雀の舞う楽園

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 家内が「こんなのあるわよ。」と言って、「孔雀の舞う楽園」と題するパンフレットを持ってきた。上半分はタイ式の寺院、下半分はきらびやかな踊りである。「雲南省シーサンパンナの少数民族歌舞公演」とある。その裏には、このようなことが書かれている。

 「日中友好会館主催の『中国文化之日』は、中国各地の文化を日本に紹介することを目的とし、1990年より毎年秋に開催しています。29回目となる今年は雲南省シーサンパンナ(西双版納)タイ族自治州に暮らす少数民族の歌舞をご紹介します。

 雲南省最南端に位置するシーサンパンナには、中国唯一の熱帯雨林が広がり南国情緒が溢れています。楽園のようなこの地では、古くから多くの少数民族がそれぞれの文化を育み尊重し合いながら暮らしてきました。 本公演では、水のように柔らかいタイ族、炎のように情熱的なハニ族、お茶の栽培に長じるプーラン族等の歌舞を紹介します。煌々と輝くタイ族宮廷舞踊や無形文化遺産承継人による象脚鼓(象の脚の形をした太鼓)の演奏、華やかなファッション・ショー等、シーサンパンナの魅力がぎっしりと詰まった1時間をお楽しみください。」


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 私はたまたま、先月のチャイナ・フェスティバルで、中国北方の少数民族である黒竜江省同江市赫哲族の民族舞踊を見たばかりなものだから、今度は南方の少数民族かと思って興味がわき、俄然行く気になった。ただ、今回は「日中友好協会」と「雲南省シーサンパンナ・タイ族自治州文化と旅遊局」主催のちゃんとした舞台公演なので、気楽にカメラで写真を撮るというわけにはいかない。

 前売り券の価格はわずか千円で、インターネットを通じて購入し、セブンイレブンで券をもらった。比較的早く予約したから、席はB列と、2列目だった。雨のそぼ降る夕方だったが、金曜日の初回公演に日中友好会館に行ってみた。地下のホールである。椅子の上に置かれていたパンフレットを引用しながら、公演の様子を再現したい。

 まず、このパンフレットの表紙の写真を見ると、広がる青空に高く白い雲が散らばり、その下には長く伸びた椰子の木、タイ風の金ぴかの寺院があり、その前を日傘をさしたロングドレスの婦人たちがゆったりと歩いている。これはまさに、タイの風景である。

 プロローグは、ジノー族伝統楽器「奇科(キーカー)」。中国56番目の少数民族ジノー族の伝統楽器で、竹の半分以上を半割にして、そうした長さの違う竹を並べて木のバチで叩いて音を出す。もちろん素朴な音だが、昔は狩りに成功すると竹を叩いて村の仲間を呼び寄せて分け合った。そのときに獲物の大きさによって竹の音程を変えていたから、この楽器が生まれたという。

 最初は、「孔雀の舞」という女性群舞。いきなり、クライマックスを持ってきたようなもので、これは素晴らしい踊りだった。黄色い衣装を身に付けた女性の踊り手が、クルクルと舞いながら時々止まり、長いスカートの裾を持ち上げて片手を天に向けて指し伸ばしてポーズをとる。すると、実に優雅に見える。これを称して「孔雀はタイ族の幸福の象徴です。その美しい姿に誰もがシーサンパンナにあこがれを抱きます、高く舞い上がる孔雀はタイ族の向上心と情熱、よりよい生活を求める願いを表しています。」とある。ちなみに、これがインドであると衣装の色は間違いなく緑と青の孔雀色だが、そうしないで黄色にしたのは、いかにもタイ族らしいと思った。

 2番目の演目は、「鼓舞神(音偏に「均」の字の旁)」(グーウーシェンユン)という男性群舞。タイ族を象徴し、これなくしてタイ族の舞踊は成立しないとまで言われる「象脚鼓」(その形が象の脚に似ている)を駆使して、舞台狭しと叩いて踊り回る。その合間に蹴り飛ばす足、神経を使った指の動き、二本の剣のさばき方など、見どころが多い。こういうのを見ていると、タイ族は、南国の楽園でのんびりした民族というよりは、結構、剽悍な民だったのではないかと思う。また、そうでなければ東南アジアのタイからはるか離れて、こんな中国の一角にまで進出してくることはなかっただろうと思う。

 3番目は、「水の中のあなた」と題するタイ族の女性群舞。「タイ族は、古くから水と共に暮らし、綺麗好きな民族として有名です。また、水浴びを好み、『水のように柔らかい民族』や『水の民』などと言われています。穏やかで美しいタイ族女性の特徴が表れた舞踊です。」とあるが、女性たちが銀色の水の容器を持って、(表現はあまりよろしくないが、要は)くねくねと踊るものである。今、「くねくね」と表現したが、それが非常に優雅で、洗練されている。時々、観客に水を掛ける動作をする。そういえば、タイ歴で新年を迎える直前の毎年6月24日から、水掛け祭りが始まる。昔、悪魔を退治した時に水を使って穢れを取り除いたという言い伝えから、水を掛けたり浴びたりすると幸せになるそうだ。

 4番目は、タイ族の楽器「フルス」の独奏である。フルスは、雲南省に暮らす少数民族に伝わる楽器で、上は瓢箪そのもので、その下に2本の竹がぶら下がっていて、おそらくその効果で、音響が良くて、楽器の語源になっている通り、絹を震わすような繊細な音色が出ている。

 5番目は、「糸を紡ぐ娘たち」と題するハニ族の女性群舞。「ハニ族女性は、糸車などの機械を使わず手紡ぎで糸を作ります。糸車を使うと、糸紡ぎをする場所や時間が限定されるからです。彼女たちは、市場に行く途中などの時間を使い、歩きながらせっせと糸を紡ぎます。そんなハニ族の勤勉さや、明るく情熱的な民族性を表しています。」とのこと。だから、踊り手たちは、糸車を持って縦横無尽、かつ天衣無縫に踊っていた。また、ミニスカート姿だったが、これは、狭い棚田でも動ける機能的なスタイルらしい。

 6番目は、「水を汲む娘」と題するタイ族の女性独舞。「タイ族の人々は水に対して特別な思いを持っています。水はタイ族文化の源だからです。娘が一人、水辺で踊っています。そのたおやかで美しい姿は、母なる河の優しさを思い起こさせます。演者の王叫国は、2016年水掛け祭りの『美少女コンテスト』でグランプリを獲得しました。」とのこと。手脚の長い痩せ型の美しい女の子が、銀色の水の容器を持ち、まるでそれをボールのように使った新体操のごとく演じる。それに、タイ舞踊独特の手の繊細な動きが加わって、なかなか良かった。

 7番目は、「長甲舞(チャンジャーウー)」と題するタイ族の宮廷舞踊。「タイ族の信仰する上座部仏教(小乗仏教)では、古来より黄金の長い付け爪を装着した女性が、宮廷の祭典で舞踊を披露してきました。黄金に輝く艶やかな姿に美しい音の調べ。古来より今に伝わる悠久の文化です。」とある。1番目の「孔雀の舞」が優雅そのものであるのに対し、この「長甲舞」は、宮廷の舞らしく、まさに豪華絢爛という名にふさわしい。黄金色の衣装に冠を身に付け、黄金の長い付け爪が微妙に動いて、実に繊細な踊りである。これを見ただけでも、今日は来た甲斐があったというものだ。

 8番目は、タイ族伝統武術で、拳法、剣術、象脚鼓舞である。なかなか勇壮な踊りだった。しかも驚いたのは無形文化遺産承継人で、一見若々しいが、56歳とのことで、既に17歳の時から弟子をとって名人の道を歩んできたとのこと。

 9番目は、プーラン族の歌舞「祝福」で、「プーラン族は長い歴史を持つ少数民族です。独自の言葉、服装、歌や踊り、習慣を現在まで口承により伝えてきました。『歌で気持ちを伝える民族』と言われるプーラン族の明るく軽快な音楽をお楽しみください。」とのこと。惜しむらくは、少しでも、個々の歌詞の意味がわかればなと思った。

 10番目は、タイ族の演唱「章(口偏に合旁)」(ジャンハー)で、「ジャンハーという言葉には『歌手』又は『曲芸表現の一つ』という意味があり、タイ族の人々にとって欠かすことのできない娯楽の一つ」という。旋律があるというよりは、詩の読み上げのようである。


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 エピローグは、少数民族衣装ファッションショーで、シーサンパンナで暮らす13の少数民族のそれぞれの民族衣装の違いがよくわかった。要は、お互いに、全然違うのである。相互に影響を受けたという形跡もない。むしろ、独自性を更に強めた感がある。

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 さて、公演が終わり、会場出口で、出演者と観客が触れ合う場が設けられた。出演者の皆さんは、やはりその道のプロらしく、笑顔を絶やさず、サービスに努めてくれていた。





(2019年10月18日記)


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