AI三原則

モバイルルーム自動運転車「HANARE(ハナレ)」


 事の起こりは、東京モーターショーに行った時のこと、まず2017年秋のモーターショーでの不思議な記憶がある。確かドイツのメーカーだったと思うが、四角いバンの座席がスライド形式で横開きになっていて、中の空間にはソファーがあるだけ、他には何もない。運転席はもちろん、ハンドルやブレーキの類いすらない。「これは一体、何だ?」と思ったが、これが私が初めてAI自動運転車を見た衝撃的な場面である。しかしその時は、そういう「歴史的瞬間」だったとは露知らず、「まるでソファーのある部屋が動くようなものだな。」と思って、写真も撮らずにそのまま通り過ぎた。

 それからである。各国で行われている自動運転車の公道走行実験が知られるようになった。日本でも2019年5月に「道路交通法の一部を改正する法律」が成立して「自動運行装置を使用する運転者の義務や作動状態記録装置による記録に関する規定の整備等」が盛り込まれた。これにより、いわゆるレベル3の自動運転が可能となった。


自動運行装置を使用する運転者の義務や作動状態記録装置による記録に関する規定の整備等(警察庁ホームページより)


 その年の2019年10月の東京モーターショーでは、外国メーカーの出展はほとんどなかったものの、スズキのコーナーに、AI自動運転車らしき車があった。中に自転車が鎮座している。それが冒頭の写真である。その説明によると、

 誰もが自由に移動時間と、ほどよい空間を有効活用できるモバイルルーム自動運転車「HANARE(ハナレ)」
  。腺鼻▲蹈椒奪箸砲茲訥狂率化社会の中でも、「人のつながり」や「人のこだわり」など、人間らしい欲求を大切にし、クルマを所有する新たな喜びを提案する自動運転車。
 ◆_箸痢嵶イ譟廚里茲Δ覆曚匹茲ぢ腓さの室内空間が移動することで、運転以外の楽しさ、ワクワクを提案。
  ライフスタイルが更に多様化する未来において、様々な使い方や利用シーンに対応し、一人ひとりのワクワクにスイッチ。


 これは、良いなあ。レベル5だと、運転免許も要らないだろう。iPhoneのSiriに対して喋るように「名古屋の栄に行きたい」というと、東京の自宅から東名高速道路を通って連れて行ってくれる。何なら、「HANARE(ハナレ)」の中にベッドを持ち込むと、寝ているうちに着いてしまう。もっとも、途中で事故に巻き込まれてそのまま昇天するという可能性もないではないが、そうなったら仕方がない。蓼科に行って高山植物を撮りたいというときも、自分で運転する必要がなくて、これは便利だ。途中は寝て行って、目的地の高原で降りて写真を撮ることに集中することができる。あと10年後にはそうなるかもしれない。それまで、自動運転車を買えるくらいのお金を貯め、かつ健康でいよう。

 などと思っていたところに、その年の春に先輩から「今度、ウチの法律雑誌でAI特集をやるから、ちょっと巻頭言を書いてよ。あなた、その方面に明るいから。」と言われたことを思い出した。すっかり忘れていたが、もう秋になってしまったので、年明けには原稿を渡さないといけない。

 それにしても、その法律雑誌には、どういう内容の記事が掲載されるのかは、目次程度しかわからない。その中で巻頭言を書くというのも、なかなか辛いものがある。後に続く記事と全く無関係の頓珍漢なことを巻頭に書くのははばかられるし、さりとて、後に続く記事の内容と重複するのも、嘲笑の種になりかねない。法律の分野でAIは、大きく体系を変える可能性を秘めているけれど、現在のところはまだまだ各法分野別のちょっとした話題に留まっている。いや困ったな・・・ああ困った。はて、どうするかと考えあぐねて・・・そうだ。そういうときの取っておきの策は、近未来の世界を描くことだと思い付いた。というわけで、冒頭の自動運転車の話題から始めて、次の一文を一気に書き上げた。

 その雑誌が出来上がって、記念に何冊か送られてきた。私の巻頭言の後に続く記事を読んでみたが、幸いにも齟齬がなく、ひとまず安心した。しかし考えてみたら当然のことで、法律家は目前の、あるいは数年先の課題解決の理論を作るのが得意だけれども、数十年先の課題など眼中にあるはずがない。ところが、ことAIに限っては、数十年先、百年先のことまで念頭に置く必要があると思うのである・・・という前置きで、次の巻頭言をお読みいただければ幸いである。




          巻頭言 AI三原則


 私は、自動車と最新の技術に興味があるので、東京モーターショーがあるときには、カメラを抱えて必ず行くことにしている。会場のあちこちでは、自動車の最新モデルの脇に、可愛いお嬢さんがにっこりと微笑んで立つという風景が見られるのだけれど、2017年から普通の自動車に混じって、妙な「コンセプト・モデル」が展示されるようになってきた。

 それは、窓のついた長四角の箱で、四隅にタイヤはある。ところが箱の中には、ハンドルはおろか運転席もパネルもなく、ソファーがあるだけだ。そこであたかも居間にいるようにして家族と話し込んでいると、いつの間にか目的地に連れて行ってくれるという車だ。運転する必要がないから、これは楽だと思う反面、完全自動運転だからハンドルもブレーキも要らないというのはやり過ぎではないか、事故が起きそうになったらどうやって防ぐのかなどと思った記憶がある。

 ところが、その頃から、カリフォルニアでアップルやアルファベット傘下のウェイモなどが自動運転車の大々的な公道実験に乗り出し、膨大なデータを集め始めた。この自動運転には、最近急速に発展したAI(人工知能)の深層学習(ディープ・ラーニング)が使われている。この技術は日々急速に進歩しつつあって、今や自動運転はレベル3の段階(特定の場所でシステムが全て操作するが、緊急の場合には運転者が操作する)にあるが、レベル5の段階(全ての場所でシステムが操作する)に達する日も、ほど近いと言われている。

 刑法の責任主義の観点からすれば、事故が起こった時、レベル3の段階だと適切なハンドル操作をしなかった、緊急停止ボタンを押さなかったなどと運転者の責任を問うことになるから、今と同じ法体系でよい。ところが、レベル5の段階になったら、運転者の責任はもはや問えないことから、瑕疵のあるシステムを作ったとして自動運転開発者の責任を問うことになるのか・・・そうなるとそれは道路交通法の問題というよりは、民事上の不法行為責任の問題で対処するのかあるいは製造物責任法に刑事責任を新設する問題になるのかなど、法体系が大きく変わる可能性を秘めている。もっとも、自動車の場合には自動車損害賠償責任法の運行供用者責任があるから、問題はあまり顕在化しないかもしれないが、これがない鉄道、航空機、船舶などは同様の制度を考える必要があるだろう。

 弁護士や医師や会計士という専門職の仕事も、AIで抜本的に代わる可能性がある。弁護士なら貸金返還請求訴訟などの定型的訴訟から使いはじめて、交通事故、特許事件の先行文献調査などの補助業務なら結構使い出がある。そのうち良質なデータの蓄積があれば、あらゆる訴状や答弁書の原案を作成できるかもしれない。医師の仕事も同様で、エックス画像を見てガンがあるかどうかを判定する分野ではAIが専門医を上回る好成績を上げることも珍しくなくなったから、その種の業務からはじめて、やがては患者とやり取りをする診察までこなすAIが出てくるのは必然だろう。ただ、AIが専門職の補助的仕事をしている分には現在の法制度でよいが、近い将来それが一人前の仕事をするようになると、そもそも専門職制度はこのまま維持できるのかという問題に直面するのは避けられない気がする。

 かくして、AIの深層学習技術は、自動運転にとどまらず、有用な技術として社会のあらゆる分野で使われ始めている。先ほどの医療分野での病気の判定、街角を歩く人混みの中からの指名手配犯の発見、プロを打ち負かす囲碁や将棋、定型的な新聞や雑誌記事の執筆、俳句詠み等々である。まさに、万能の力を発揮している。それは良いことだと思う。

 ところが問題は、深層学習といっても、そもそもどういうアルゴリズムなのか、特にいかなる因果関係があってその結果が出ているのか、よく分からないのが現在のAIの特徴である。そうすると、出た結果を不審に思って検証しようとしても、それができないことが多い。例えば、犯罪発生地点の予測ならまだしも、特定の個人を犯罪者予備軍などと推測するのは、何の根拠でそう判定するのか、人権侵害も甚だしいということになる。また、AIに放り込んだデータが間違っていたり、質の悪いものだったりすると、出てくる結果もまた見当違いのものになるのは、言うまでもないことだろう。

 世の中は、AI元年が到来したといって大歓迎のムードであるが、私に言わせれば、コンピュータとソフトウェアである以上、検証不可能な結果をそのまま受け入れるのはどうかと思うし、元となるデータ自体がおかしなものであれば、一体どうするのだろうという疑念がぬぐいきれない。しかし、考えてみれば、どんな新技術も導入直後には色々と問題が生じるものである。そうした問題も、そのうちに何とか克服される。そしていったんその便利さに慣れてしまえば、これに異を唱えるのはあたかも風車に立ち向かうドン・キホーテのようなものかもしれない。

 AIも、その深層学習の度合いを深め、個人情報保護と適度な折り合いをつけて良いデータを常に供給してやれば、まさに日常の生活や健全な社会の構築に使える実用的なものになるだろうし、またそう願いたい。そうして赫赫たる成果が上がるにつれて、人々の頭に疑念が浮かんだとしてもいつの間にか駆逐されていき、AIが活躍する領域が徐々に増えていくというのが、これからの世界だろう。

 しかし、AIが人間の補助的業務にとどまっている分にはまだ良い。それが完成度を高め、そのうちあらゆる分野で人間の能力を超えるシンギュラリティー(技術的特異点)に到達するかもしれない。それでも更に膨張に膨張を遂げていき、やがてはジョージ・オーウェルの小説「1984」のビッグ・ブラザーのようなものが出てきて、気が付いたら人間がそれに支配されていたということにならないか、心の片隅で私は心配している。AIに対して「全知全能の存在はいるのでしょうか。」と聞き、「はい、あなたの目の前にいます。」という答えが返ってきたら、もう手遅れだ。

 この点、かつてSF作家のアイザック・アシモフが提唱したロボット三原則、すなわち(1)人間に危害を加えないこと、(2)人間の命令に服従すること、(3)これらに反しない限り自己を防衛することの、現代的意味を再検討する必要があると思う。かつてのロボットは、それ自体が単体で動いて周りに影響力を与える存在にすぎなかったから、この程度で済んでいた。

 ところが、やがてAIは、シンギュラリティーを越えるあたりから、社会全体を統率するほどの影響力を行使する存在になるのは、間違いない。そこで私は、今のうちから新たにAI三原則として、(1)人間を個人として尊重すること、(2)人間の自由と平等を保障すること、(3)人間の多様な価値観を前提とすることを提唱したい。これからのAIの開発者は、この三原則を常に念頭に置いていただきたいと思う。




(2020年 5月 1日記)


カテゴリ:エッセイ | 12:42 | - | - | - |
還付金詐欺

自動通話録音機


 ちょうど新型コロナウイルス騒ぎで、自宅でのんびりしていた平日のことである。午前8時半頃、固定電話が鳴った。「もしもし、〇〇さんですか。」と、私の名前を言う。「文京区役所健康保険課の橋本です。」と名乗る。私は、昨日、家内が文京区役所の人と電話で話していたことを思い出し、「ちょっと待ってください。」と、家内と代わった。横で聞いていると、こんなやり取りがあった。

橋本2月頃に緑の封筒が届いたはずですが、その中に、過去3年分の医療費(聴き取れず)についての還付金の送り先の書いたものがあって、その件なのですが。

家内そういう封筒をもらったかどうか、記憶がありません。

橋本あれ、そうですか。それでは、もう2ヶ月の締切り期限が過ぎていて、我々は厚生労働省に返送されて来た方々のリストを送ったのですが、三浦さんのように、こうやって未だ返送のない方に個別にお電話しております。期限は過ぎておりますが、銀行の方で手続をすれば、まだ間に合います。でも、急がないといけません。

家内「どこに電話しているのですか?」

橋本「ああ、すみません。〇〇さんでした。それで、手紙を探していただいて、もしなかったら、そういう場合の救済措置について銀行に対応させるので、みずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行、りそな銀行のどれが良いですか。

家内では、みずほが良いですね。

橋本それでは、みずほ銀行本店から電話させますので、そのとき、どの支店が良いか指示してください。そして、通帳、銀行印、キャッシュカード、身分証明書を用意して、お待ちください。連絡は、この電話でよいですか。

家内はい、結構です。」(電話を切る。)

 その直後、家内が私に、「この電話、怪しいわよ。相手の名前を間違えるなんて、有り得ないわよね。通帳、銀行印、キャッシュカードで還付金を用意するなんて、詐欺そのものよ。」と言う。

 私は、「まず間違いないなぁ。では、確認してみよう。」と言って、直ぐ文京区役所の組織を調べたら、そもそも「健康保険課」というものがなくて、代わりに「国保年金課」がある。そこへ電話してみた。すると、「橋本という者はおりません。」とのことで、還付金詐欺の疑いがまず間違いないとなった。だいたい、私が弁護士と知って詐欺の電話を架けてくるというのはよほどの間抜けだから、弁護士会の名簿から漏れたのではなさそうだ。


 それでは、「受け子」を捕まえるとするかと思って、その銀行本店からという電話を待った。自宅に招き入れるなんて、とんでもないから、みずほ銀行根津支店前で待ち合わせることにするにはどうすればよいかと頭の中で地図を描き、警察官には、あそことここで待っていてもらえばよいと考えた。すると、ちょうど1時間後の9時半に、電話が架かってきた。


糸山もしもし、こちらみずほ銀行本店営業部の糸山と申します。〇〇さんのお宅でよろしかったでしょうか。

「(『よろしかったでしょうか』なんて、典型的な若者言葉だなと思いつつ)、はい、そうです。」

糸山先ほど、文京区役所から依頼があった件ですが、お使いになる窓口の支店はどこがよろしいでしょうか。

「ああ、あの件ですか。では、根津支店が良いですね。」

糸山本日行くということで、よろしかったでしょうか?

「ああ、たまたま今日は忙しいので、行くのは、明日になりませんか。」

(すると、ここで突然、電話が切れてしまった。)


 いやまあ、残念だった。ちょっとこちらが主導権を取ろうとしたことで、相手が警戒したようだ。それでは、私に対する詐欺未遂に使われたこの電話番号を放置しておくと他に被害者が出かねないから、出来るだけ早く使えないようにする必要があると思って、所轄の本富士警察署防犯係に電話した。

 すると、担当の警察官で出てきて、ひと通り私の話を聴取して、パソコンに打ち込んだあと、この詐欺に使われた2つの電話番号を調べてくれた。いずれも、つい最近、詐欺に使われたので、停止の手続中とのことだった。


担当の警察官お宅の固定電話とお名前が詐欺グループに使われたとなると、電話番号とお名前が知られていて、また同じような電話が架かって来るかもしれません。そういうとき、詐欺を撃退するために、文京区から配ってくれるように言われている器械があるんです。無料ですから、付けてみませんか。電話が架かって来ると、発信者に対して自動で警告メッセージを流す、そして電話に出ると録音するだけの機能ですけどね、効果があると言うのです。

「そうですか。それでは、お願いします。」

担当の警察官いま確認したところ、たまたま担当の警察官が、お宅の近くで同じように個人宅を訪問中なので、すぐに向かわせます。ちゃんと警察手帳を提示させますから、確認してください。


(すると、1時間もしないうちに、婦人警察官がやって来て、「自動通話録音機」なるものを電話機に接続してくれた。)

 試しに私が携帯電話から自宅の固定電話に電話してみたところ、「この電話は、特殊詐欺防止のため、通話内容を録音させていただいております。」というメッセージが流れた。この固定電話に架けてくる人にはご迷惑だが、我慢してもらおう。私や家内の親類は、皆、それぞれの携帯電話に架けてくるから、まあ良いかと思った。

 この一連の出来事は、たった2時間半に起こったことで、本当に妙な一日だった。ちなみに、文京区役所HPによれば、次のようになっている。


 特殊詐欺防止のため「自動通話録音機」の無償貸し出しを行っています

 自動通話録音機とは、


 1.自動警告メッセージ
  設置電話機の呼出音が鳴る前に、発信者に対して自動で警告メッセージを流すため、 居住者が電話に気付く前に犯人へ警告を与えることが出来ます。

 2.自動録音機能
  受話器が応答したときから自動で録音を開始し、通信が遮断された時点で停止します。

 自動通話録音機は13センチX16センチ程度の箱に入る大きさで、取付けも簡単です。





 警察庁のホームページの「特殊詐欺」の項を見ると、次のように書かれている。私のところに架かってきた電話と、見事に全く同じである。


 還付金等詐欺とは、市区町村の職員等を装い、医療費の還付等に必要な手続を装って現金自動預払機(ATM)を操作させて口座間送金により振り込ませる手口による電子計算機使用詐欺です。

 【主な手口】医療費、税金、保険料の還付、年金の未払金等と、還付の手続のためATMに行くよう求めてきます!

 【 具体的な手口 】

  犯人は、「自治体(県や市区町村)」、「税務署」、「年金事務所」などの職員を名乗り、被害者に対して
「医療費の過払い金があり、還付の手続のため電話しました」
「年金が一部未払いとなっていたので、受け取る手続をしてください」 などと、被害者に対してお金を支払うという内容の電話をかけてきます。

  このとき、被害者を信用させるため
「以前、青色の封筒を送ったが、返信がないので電話しました」 などと、被害者が封筒を見落としているということや、突然電話をしたわけではないということを強調することもあります。

  被害者を信用させた上で、犯人は
「還付手続の期限は今日までなので、急いで手続をお願いします」
「すでに期限が切れていますが、本日中であればなんとか間に合います」 などと、急がなければ還付金が受け取れなくなることを強調し、被害者を焦らせた上で

「銀行窓口は混んでいるので、携帯電話を持って近くのATMに行ってください」
「ATMに着いたら、操作方法を説明するので、***-****-****まで電話してください」 などと、携帯電話を持ってATMに行くように指示してきます。

※ あらかじめ被害者の家の周辺のATMを調べ、ATM管理者などの注意が届きにくい無人ATMを指定して手続を行うよう指示することもあります。

 被害者がATMに到着すると、犯人は
「操作方法を説明しますので、私が言ったとおりにボタンを押してください」
「誤った操作や、押し間違い等があれば手続ができませんのでご注意ください」 などと、犯人の指示するとおりに操作をするよう強調した上

「『お振込』というボタンを押してください」
「○○さん(被害者)の個人番号である『 *,***,*** 』を入力してください」
「入力が終わったら、画面右下の『確認』ボタンを押してください」 などと言い、本来は相手方に振り込み送金することとなるにもかかわらず、被害者自身の口座に振り込み入金されるものと誤信させ、さらに「個人番号」や「取扱番号」などと偽って、犯人側に振り込む金額を入力させて、お金をだまし取るのです。

  中には
「還付手続のため、お手持ちの口座の種類や残高を教えてください」
「最初に『残高照会』というボタンを押し、表示された数字を右から読んでください」 などと言って、あらかじめ被害者の預貯金口座の残高を聞き出し、その被害者からだまし取れる限界の金額がいくらかを把握した上で、詐欺行為に及んでいることもあります。






(2020年 4月28日記)


カテゴリ:エッセイ | 05:45 | - | - | - |
我はマスク難民なり

内務省衛生局のポスター



1.新型コロナ対策のマスクを求めてさすらう

 昨年末、これから寒い中を散歩するのに、マスクがあると口元が暖かいだろうと思い、ドラッグストアで使い捨てのマスクを買った。不織布を使ったもので、1箱65枚入り、わずか508円である(1枚当たり8円弱)。なぜこんなに安いのかと思った記憶がある。家内は、もともと先々のことまで気が回る方なので、花粉シーズンを迎えるということで、昨年末にユニ・チャームの特別仕様のマスクを、3ヶ月分以上買い置いていた。

最初のマスク


 私は、そのマスク箱から毎日1枚ずつ出してチビチビと使い続けていた。ところが、今年の2月に入ってなくなりかけたので、もう一箱買おうと思った。しかし、既にその頃から新型コロナウイルスが世間を騒がすようになり、ドラッグストアやスーパーなど、どこを探してもマスクは売り切れである。毎日、同じ店を数回見て回っても、「在庫はありません。入荷は未定です。」とあるばかり。それが連日続くものだから、さすがの私も、だんだん腹立たしくなってきた。

 これは、私だけではないようで、ドラッグストアの店員さんのボヤキとして、「お客さんに『マスクがないか』と言われるのが辛い。『ありません』と答えると、『今、マスクをしているじゃないか。それを寄越せ。』などと無理難題を言われて困っています。いつ配送があるかどうかもわからないのに、お客さんに聞かれて『分かりません』というと、『嘘だ 。テレビでは増産すると言っているじゃないか。』と言われてしまう。」という趣旨の記事があったほどだ(日本経済新聞4月6日付け朝刊)。

 新型コロナウイルスは感染症だと聞くので、一庶民としては、マスクをしたら少なくとも防御効果はあると考えるのが普通である。特に混雑時の地下鉄では、乗車する間はそれこそ他人と密着して過ごすわけだから、せめてマスクくらいはしたい。それなのに、何軒も何度も回っても、どこにも売っていないとは、一体どういうことだと思う。一方で、自宅のマスクの在庫はもう尽きそうになるから、心はあせる。もはやこれは、「マスク難民」としか言いようがない。

 最後の手段として、通販のアマゾンを探した。すると、PM2.5対応のマスクしか残っていなかった。それも、1箱30枚入りで、値段はなんと、4,980円だ。一枚当たり166円と、先に買ったものの21倍もする。いくらPM2.5対応とはいえ、これは不当だと思ったが、他に入手の当てはない。仕方がないのでそれを購入し、ひと息ついた。2月8日のことだった。

アマゾンのマスク




2.月1億枚を6億枚にしても焼け石に水

 せっかく確保した30枚のマスクだったが、3月中旬にはまた底をつく。再びあの憂鬱なマスク探しをするのかと思うと、嫌になる。そういう時、家内が近くのスーパーから帰って来て、「面白いものがあったわよ。」と持ってきてくれた小さな箱がある。それは、「マスク用取り替えシート(50枚入り)」というもので、既存のマスクの内側に挟んで使うらしい。なるほど、これは小判ザメ商法の一種だが、目の付け所は悪くないアイデア商品だ。もっとも、効果のほどはよくわからない。しかし、この際、溺れる者藁をも掴むだ。それでは、今のマスクは使い捨てではあるが、もし在庫がなくなったときの非常手段としては、良いと思う。有難く頂くとしよう。(その後、3月下旬から4月初旬にかけて自宅のマスク在庫がなくなってきたので、いったん使ったものを洗って高温乾燥させ、散歩のときにこの取り替えシートを挟んで再利用した。それで数週間、凌ぐことができた。)

取り換えシート


 2月13日になって、菅義偉官房長官が、「現在のマスク供給数は月間1億枚だが早急に6億枚まで引き上げるので、3月中には国民に行き渡る」と説明していた。私はこれで先に光明が見えたと思った。ところが、3月末になっても、4月に入っても何も変わらず、市中では1枚も手に入らない。やはり官房長官のあの発言は、嘘でたらめの類いだったのかとガッカリした。その後、官房長官が表に出てくることはなくなった。新聞記事によると、「官房長官を傷つけてはいけないと、周りが押さえている」とのこと。国難ともいえる緊急事態なのに、そんなことをやっている場合かと言いたくなる。

 4月11日付けの報道によれば、「厚生労働省に聞くと、『月6億枚を供給しているのは確かで、国内メーカーは24時間態勢で通常の3倍の増産を継続している』(対策本部マスク班)と回答。

 そこで、国内メーカーが加盟する全国マスク工業会の上部団体にあたる社団法人『日本衛生材料工業連合会』に6億枚の内訳を尋ねると、『医療機関に行くのが生産量の3割ぐらい。残りが介護施設や食品業界、そして小売店などです。メーカーには例年の約4〜5倍の受注があり、いつ、“コロナ以前”の状況まで回復できるかはっきりしたことは言えない。ただ、小売店への納品回数は増え、店頭に並ぶ機会も増えています。30分〜1時間程度で売れてしまいますが』(担当者)

 同連合会の調べによると、2018年度の年間マスク量は、国内生産約11億1100万枚に対し、海外からの輸入は約44億2700万枚。菅官房長官は『平常時は輸入が7割、国産が3割。3月はその比率が逆転する見込み』と話しており、世界的感染拡大による中国などからの輸入減少が響いている。その分を国内メーカーがカバーしようと奮闘中だ。

 そもそも、『月6億枚』という数字に過度の期待をしてしまった感がある。実はコロナ以前の需要も『平均で月約3.6億枚』(前出のマスク班)と、そこそこあり、現在のマスク着用率をみると6億枚程度では足りなくなるのも当然だ。」
(「週刊女性PRIME」編集部)

 なるほど、そういうことか。大雑把に言うと、マスク国産と輸入の合計年間55億枚だから、国内需要を満たすために月平均4.5億枚も出ていたのか。しかも、1月から3月にかけては花粉症シーズンだから、需要が集中する時期だ。仮に月10億枚の需要があるとすると、輸入マスクは各国の取り合いでもはや期待出来ないだろうから、そんな時に国産マスクを月1億枚から6億枚に増やしても、焼け石に水というわけだ。官房長官がそれを知っていてあんな発言をしたとしたら、気休め程度を通り越して、やはり嘘八百だった。こういうことを繰り返すと、政府への信頼性をなくすばかりだ。


3.水野康孝医師の「防ぐ効果はありません」

 3月に入って、NHKテレビに感染症に詳しいと称する水野康孝という医師が出てきて、盛んに「マスクをしていても、新型コロナウイルスを防ぐ効果はありません。鼻の両側や側面から空気が入るからです。」と説明する。これを真に受けて、街を歩いていると、それまでは9割方の人がマスクをしていたのに、あれよあれよという間に7割くらいに減ってしまった。私がよく行く近所の喫茶店のマスターも、「マスクをしていても新型コロナを防ぐ効果はないようですよ。」などと言う。

 私は、「庶民がなるべく被害に遭わないように自分で出来る限りの涙ぐましい努力をしているのに、何を馬鹿なこと言っているのか。たとえそうだとしても、少なくとも唾や唾液を防ぐことはできるから、特に感染者は絶対にマスクをすべきだ。」と思った。ところが、水野医師が連日出演して同じことを繰り返すものだから、「これはマスクがないことを正当化する政府の回し者か、NHKがそれに加担するとは怪しからん」とまで思ったくらいだ。

 フランスでは、内務大臣が「マスクは必要ない」として配らなかったところ、警察官などの組合が業務用のマスクを配布しろという抗議のデモが行われたという。その頃、ニューヨーク市で外出を取り締まっている警官は、しっかりとマスクをしていた。その後、フランスでは、やはり警官や政府職員にマスクを配布することにしたそうだ。

 それから幸いなことに日本でも、NHKから水野医師が消えて、その代わりに「感染者がマスクをしてくしゃみをしたら、唾液の飛散を相当抑えられる」ことを実験で示し、要は「エチケットとして」マスクをするべきだと放送しはじめた。これ以降、街を歩いている人の概ね9割以上がマスクをするようになった。していないのは、若い人が多いので、近づかないことにしている。


4.諸外国のマスク争奪戦

 マスクは、国際政治にも大きな波紋を投げかけている。要は、各国で壮絶な取り合い合戦になっているのである。4月4日、アメリカのトランプ大統領は、高性能マスクの輸出を停止した。それどころか、上海からフランスに送られる予定だった医療用マスクの一部が、米系業者が3倍の価格を提示したことから、発送直前に輸出先がアメリカに変わったという事件まで起こった。もはやこれは、仁義なき戦いそのものだ。

 その反面、先に新型コロナウイルスの押さえ込みに成功した中国は、マスク、人工呼吸器、防護服などをここぞとばかりに120ヶ国に援助している。被害を最小限に押さえた台湾も、それに呼応するかのように、月1,500万枚という製造能力を生かして自国産マスクの対外援助を惜しまない。かくしてマスクは、人工呼吸器とともに、お金以上に国際政治を動かす手段のようになってしまった。


5.マスクの不満はパーっとなくなる?

 4月1日のことだった。安倍晋三総理が、新型コロナウイルス対策本部で、「全世帯に布マスクを2枚ずつ、再来週頃に郵便で配布する」と突然表明した。これも、新聞や雑誌の記事によれば、総理官邸の誰かが「国民がマスクがない、マスクがないと、ご不満のようなので、マスクを全世帯に配布すれば、そういう不満はパーっと消えますよ」と進言したという。本当だとしたら、あまりに短絡的な発想だ。しかも、2人家族でも4人家族でも、たとえ6人家族であったとしても、一律たった2枚というお粗末さだ。これでは、少なすぎる。この布マスクは30回ほど洗えるそうだが、専門家によると目が細かい不織布ではなくて、目の粗い布なのでウイルス防御という面では全く役に立たないそうだ。そんな代物ではあまりにも中途半端だ。それに、なぜ4月の第三週からなんだ。私などは、2月の初めから探していて、もう2ヶ月間も毎日落胆していたのというのに、これでは、遅すぎる。

 ただ、感染者がウイルスを撒き散らすのはある程度防げるそうなのだが、そのためにわざわざ5,300万世帯に単価200円のものを2枚ずつ、合計で466億円余りもかけて配布するのかという気がする。それだけのお金と時間があるなら、医療機関向けの高度なマスクのN95を増産したり、あるいは台湾がやっているように、不織布のマスクを配給制にして国民が確実に入手できるようにすべきだったと思う(しかしこれも、マイナンバーカードの普及率がまだ15%にも満たないから、そもそも無理だったかもしれないが、こんな状況になるまでシステムの充実を放置しておくのが悪い。)。

 この『遅すぎ、少なすぎ、中途半端』の施策の典型のような政府が配布するマスクは、世上「アベノマスク」と言われるそうだ。言い得て妙だが、4月17日より患者数の多い東京都の世田谷区からまず配布されるという。


6.やっと一箱60枚入りを買えた

 4月7日、7都府県に対して5月6日までの緊急事態宣言が出された。その日、自宅にいると家内が買い物から息せき切って帰って来て、「いつものスーパーの店の前で、マスクを売っているわよ。一人1個、あなたのは買った。」と言う。「ありがとう。では、君のをもう一つ買ってくる。」と言って、あわてて出かけて行った。すると、確かにスーパーの前で1箱60枚入りの不織布マスクが売られていて、お客さんが列を作っている。私も並んで、家内用の小さ目のマスク1箱を買うことが出来、一息ついた。値段は、3,300円と、まあリーズナブルだ。それはもう、翌日には私の在庫のマスクがなくなるというギリギリのタイミングである。我ながら、いつも通り、綱渡り人生を歩んでいる。

スーパーのマスク




7.スペイン風邪

 1918年から21年にかけて、世界的に流行したパンデミックな疫病として、「スペイン風邪」がある。今では、A型インフルエンザウイルスの一種(H1N1型)だとわかっているが、当時は流行性感冒とされ、原因ウイルスを検査する技術や防疫体制などがなかったために世界的に大流行した。

 「防災情報新聞」によれば、スペイン風邪の患者数は世界人口の約3分の1の約5億人で、致死率は2.5%以上、死亡者数は5千万人とも1億人とも言われる。日本の内務省統計では、日本の患者数は約2,300万人、死亡者数は約38万人とされている。その特徴は、今回の新型コロナウイルスとは正反対で、死亡者の99%が65歳以下の年齢層だったという。その時も、「患者の隔離、接触者の行動制限、個人衛生、消毒と集会の延期といったありきたりの方法に頼るしかありませんでした。多くの人は人が集まる場所では、自発的にあるいは法律によりマスクを着用し、一部の国では、公共の場所で咳やくしゃみをした人は罰金刑になったり投獄されたりしましたし、学校を含む公共施設はしばしば閉鎖され、集会は禁止されました。」とのこと。

 表紙の写真(下の写真も同じ)は、大正9年(1922年)2月7日に内務省衛生局が各府県に配布した流行性感冒についての啓発ポスター(国立保健医療科学院。図書館所蔵。「防災情報新聞」のHP)であるが、今日もそのまま使えそうだ。

内務省衛生局のポスター


内務省衛生局のポスター


内務省衛生局のポスター


内務省衛生局のポスター





8.マスクを義務化したNYと大和市

(1) ニューヨーク州では、クオモ知事がマスクの着用を義務化した。朝日新聞によれば、「クオモ知事は4月15日、他人と距離を保てない公共の場所ではマスクの着用を義務づける知事令を出すと発表した。電車やバス、食料品店や人通りの多い道路などを想定しているという。周知期間を経て、17日から実施する。・・・マスクは品薄状態が続いているため、スカーフやバンダナで代用することもできる。現時点では、知事令を破っても罰則はない。(4月16日朝日新聞デジタル)」

 これまで、アメリカでは「マスクを着けているのは病人だ」というのが常識で、私は若い頃にアメリカ全土の20都市以上を回ったことがあるけれど、医療従事者を除いて、マスクをした人など一度も見たことがなかった。マスクをしていると、病気を人に伝染す人と思われていたからだ。それが、ここまで変わるとは思わなかった。でも、ニューヨークもマスク不足は深刻なので、顔にバンダナを巻いた人が増えるだろう。そうすると、防犯カメラには顔が映らないので、犯罪の抑制には悪影響があると思われる。

(2) ところで、ドイツでは、4月27日からほとんどの州で、公共交通機関や買い物の際にはマスクを着用するように義務付けられ、イタリアやベルギーでも同様になったそうである(NHK)。フランスでも、マスク配布を計画中ということだ。シンガポールでは、国民にマスクを配り出した。あの平均気温28度の常夏の国で、外出時までマスクをするというのは、かなり苦しいことだ。それでもマスクの配布に踏み切ったということは、余程のことだと思われる。

(3) 日本では、神奈川県大和市が「大和市おもいやりマスク着用条例」を制定した。そのHPによると、

「新型コロナウイルスをはじめとする感染症を拡大させないため、『大和市おもいやりマスク着用条例』を制定しました。大和市の調べによると、このような条例の制定は、全国初の取り組みとなります。

条例の趣旨 かぜやインフルエンザなどの患者がせきやくしゃみをすると、1回につき数万〜数百万以上のウイルスを含む飛まつが飛散すると言われています。マスクは、こうした飛散を予防することで、感染者が感染症を拡大させないために効果を発揮するものです。
 現在、世界中で猛威をふるっている新型コロナウイルスは、感染しても自覚症状が出ないという性質があります。こうした無症状の方が、無意識のうちに感染を拡大してしまうという問題があります。 日本では以前から、かぜをひいたときや冬の時期などに、マスクを着用することが多くの人の習慣として根付いています。これは、自身の予防のみならず、かぜなどをうつして人に迷惑をかけてはいけないという、日本人がこれまで培ってきた文化によって醸成された、他者を思いやる考えによるものです。
そこで大和市では、感染予防に寄与するとともに、こうした日本人の思いやりの心をいつまでも大切にするため、「大和市おもいやりマスク着用条例」を制定しました。

内 容 感染症等のまん延が予測される場合や、すでにまん延しているときなど、市民一人一人がマスクを着けることで、周囲の人のことを思いやる心を大切にしながら、感染予防に努めるものです。
※この条例は、感染拡大を防ぐために、市民の皆様にマスク着用の協力を求めるものであり、罰則などはございません。

対象となる感染症 感染経路が主に飛まつまたは接触によるもので、ウイルスが鼻、口等から侵入して感染する疾病。

マスク 鼻および口をおおう物で、紙、布、不織布等で作成されたもの。」



9.「アベノマスク」が郵便受けに

(1) さて、4月17日から「アベノマスク」の全世帯向け配布がいよいよ開始され、翌18日から各家庭の郵便受けに届けられ始めた。まずは世田谷区で、東京都の中で最もPCR検査で陽性の人が多いところだ。どんなものかと期待していた都民も多い。ところが、24日になっても、文京区の私の家までなかなか届かないなと思っていたところ、配布が遅れるような話になりつつある。

 というのは、当初、4月14日から、まず妊婦さん向けに配布し始めたところ、黄ばんでいたり、黒ずんでいたり、虫や髪の毛が混入していたりする不良品が80市町村で1,901個もあった。そればかりかその後の一般家庭向け配布分と合わせると、47万個の配布に対して、その1割に相当する4万7千個もの不良品が見つかったそうだ。 やれやれ、『遅すぎ、少なすぎ、中途半端』に加えて『不潔』という評判になるとは思いもしなかった。

 アベノマスクの不良品の続出で、政府は、遅まきながらその全品検査を行うことにした。5月14日の参議院厚生労働委員会で、厚生労働省は、「マスクの検品費用は総額で8億円・・・国が委託した専門業者が約550人態勢で検品しており、不良品が確認されれば取り除く」と説明した。その8億円は受注企業が負担するのか、それとも発注者である政府なのか判然としないし、そもそもそんなことで5月中とされる配布期限に間に合うのか、分からないことだらけである。やることなすこと、どうしてこうも杜撰なのか、全くもって信じがたい思いである。

 マスクの受注企業と受注額は、興和(大手医薬品メーカー。54.8億円)、伊藤忠商事(大手商社。28.5億円)、マツオカコーポレーション(総合アパレルメーカー。7.6億円)である。これらはいずれも中国などの海外拠点で製造しているものだという。マスクは言うまでもなく口に長時間当てるものだから、それだけに衛生的で清潔さが一番求められる(注)。それなのに、変色や異物混入がそれだけの件数に及ぶとは、何とまあ杜撰で無責任なことか。その後、興和と伊藤忠は、未配布のものを回収することとしたそうだ。(NHKニュース4月24日付け)ああ、またケチがついてしまった。

(注) 衛生用品としてのマスク製造の常識

 「複数の衛生用品メーカー社員によると、マスクなど衛生用品を新たに作る場合、試作品を高温・多湿の状況に置き、カビが生えないかなどを半年ほどかけて確認してから納品するという。今回は受託から納品までの期間が短く、『数カ月で安定した品質の衛生用品を作るのは、よほどノウハウがないと難しい』(同社員)という。」(2020年4月25日付け朝日新聞)

(2) その後、マスクの受注企業に、福島県に本社がある「ユースビオ」も含まれていることがわかった。ベトナムから輸入した布マスクだそうで、契約額は5.2億円、不良品は確認されていないという(NHKニュース4月27日付けでは4.7億円だったが、28日の下記予算委員会では厚生労働大臣は5.2億円と表明) 。妙なのは、マスク受注企業のうち大企業の3社は直ちに公表されたのに、この企業だけはどういうわけがあるのか、しばらく公表されずにいたことだ。しかも受注額も若干ズレている。

(2)アベノマスクを巡って、4月28日の予算委員会では、大串博志委員(立憲)と安倍首相との間において、緊迫したやりとりがあった。もっとも、次のようにどちらも意地の張り合いそのもので、あまり本質論とは関係のないところでもあり、国政の場としてはいささかどうかと思ったが、委員会室は総じて緊張感に包まれた。とりわけ大串委員は、マスク受注企業で最後まで明らかにされていなかった上記ユースビオが、急遽その定款を変えてマスクの輸出入を加えたり、社長が執行猶予中であったりするのになぜ随意契約の対象となったのか、あるいは事務所の一角に一部の与党のポスターを貼ってあったのは関係があるのかなどと追求したかったようだが、残念ながら不発に終わった。

 大串議員(最初はアベノマスクをしていたが、もっと大きな布製マスクに取り替えながら)「これは、私の地元にたくさんある縫製メーカーの製品で、(アベノマスクは)息苦しいから外した。」

 安倍首相「意図的に貶めるような発言はやめていただきたい。私はずっとしているが、全然苦しくない。」


(3) そうこうしているうちに、26日になって、やっとアベノマスクが、私の家の郵便ポストに入っていた。家内と私がそろってつぶやいた。「あれーっ、かなり小さい」。マスクに大中小とあるとすれば、これは「小」サイズだ。大人の女性が付けても、相当小さく見える。私のような大人の男性で日本人の平均の幅広な顔だちだと、顔の両脇が短かすぎるし、縦にも短くて鼻にかかるかどうかというぐらいの代物だ。顔が細長い安倍首相には適度な大きさかもしれないが、幅広の私のような顔では、顔をマスクで覆うどころか、顔の真ん中にマスクがちょこんと載っている感じで、どうにも具合が悪い。こんなに小さいと、ウイルスを含んだ飛沫を防御できるのだろうか? これでは、気休め程度にもならない。ガッカリした。非衛生的な製品かもしれないので、さっそく洗濯機で洗った。すると、ますます縮んでしまった。しかも、縫製が悪くて、端っこの縫い目がほつれている。もう、滅茶苦茶だ。これでは、子供サイズのマスクだ。試しに、いつも使っている不織布の使い捨てマスクと比べたが、縦も横も明らかに短い。こんなもののために、466億円もの国費を無駄遣いするとは、馬鹿馬鹿しい限りだ。それだけのお金があるなら、一般家庭向けのマスクを配給制にして安んじて買えるようにし、かつ医療従事者用のN95マスクを量産して病院や診療所へ確実に届けるのが先決だろう。


アベノマスク荷姿


アベノマスク(上)といつも使っている不織布の使い捨てマスク(下)とを比べ



(4) アベノマスクの現物にガッカリしていたところ、思いがけないニュースが飛び込んできた。福井県が大人用の不織布マスク約30万箱を確保したので、「最寄りのドラッグストア『ゲンキー』に購入券を持参すれば、50枚入り1箱(税込み2350円)を最大2箱購入できる。販売は4月24日開始予定で期間は5月10日まで。県によると、都道府県単位で県民にマスク購入をあっせんするのは全国初。県内の世帯数は約28万9千世帯(3月1日時点)。近く、郵便局を通して各世帯に購入券1枚を発送する。23日に届き始め、30日までには全世帯に配布される予定。」という(福井新聞社ニュース2020年4月19日付け)。素晴らしい。子供だましのちゃちな「アベノマスク」ではなく、こういうことを政府が全国ベースでやってくれたら、どれほど感謝され、また評価されたことか。


10.マスクを巡り狂騒は続く

(1) 4月20日、家電メーカーのシャープが、自社生産のマスクを一般向けに販売すると、突然公表した。そのHPを見ると、次のように書かれていた。

 シャープは、4月21日より、株式会社「SHARP COCORO LIFE」のECサイトにて、個人のお客様向けにマスクの販売を開始いたします。

 当社は、日本政府からの要請を受け、三重工場のクリーンルームにおけるマスクの生産を2月28日に決定。新型コロナウイルス感染症が拡大する中、日本におけるマスクの供給不足を少しでも早く緩和すべく短期間で準備を進め、3月31日より、まずは日本政府向けに出荷を開始いたしました。

 この度、個人のお客様への販売を開始する運びとなりましたので、お知らせいたします。

概 要
 1.商品名/形名: 不織布マスク/<MA-1050> ※ 1箱あたり50枚入り
 2.販売開始日:   2020年4月21日(火) 
 3.販売方法:   「SHARP COCORO LIFE」のECサイトにて販売いたします。
        購入方法や価格、商品仕様などの詳細は、こちらのURLをご確認ください。
        URL: https://cocorolife.jp.sharp/mask
 4.販売数量:    当初 3,000箱/日(15万枚/日)。今後の生産能力の増強に伴い、10,000箱/日(50万枚/日)の販売をめざしてまいります。
 5.備 考: より多くのお客様にご提供するため、在庫状況に応じて、一定期間にご購入いただける数量を、お一人様1箱(50枚入り)限りとさせていただきます。

 ウィルス飛沫や微粒子も 99%カット:立体三重構造で、花粉よりもさらに小さい生体ウイルスや微粒子からもしっかりガード。風邪などの際にも他の方への飛沫拡散を防ぐのに効果的です。VFE試験やPFE試験でも99%以上の結果を確認しています。


シャープ自社生産のマスク


 これは素晴らしい試みだ。自社のクリーンルームを使うなんて、目の付け所が良い。アベノマスクが配布され始めたところ、先に述べたように変色していたり、異物が混入していたりする不良品が、配布済み47万個中その1割に相当する4万7千個も見つかったというが、クリーンルームで生産されるのなら、そういう杜撰なことはないだろう。それにしても、JDI(株式会社ジャパンディスプレイ)など公的支援を受けている半導体製造企業がこの国難に際してもなんにもしてないのに、台湾企業に買われた企業がそんなことまでやってくれるとは、実に感心だ。とりわけ、「ウイルス飛沫を99%カット」というのが、気に入った。それが本当なら、あの水野康孝医師の説明は、やはり間違っていたことになる。では、早速注文しようと、翌日21日にシャープのサイトを開こうとしたら、アクセスが集中しているらしくて、ちっとも繋がらない。とうとう、サーバーダウンしてしまったようで、翌日に次のような表示が出た。もう、心底がっかりした。その後、27日に抽選で3万箱を販売するように改めたそうだ。

サーバーダウンのお詫び



シャープの公式ツイッター5月3日付け


 5月3日、シャープのホームページを見ていたら、その公式ツイッターが、こんなことをつぶやいていた。「家電メーカーのシャープ、107年の歴史で最大のヒット商品がマスクになってしまいそうな感じ、複雑な気持ち。」もう、笑ってしまうほかない。本当に面白い会社だ。サーバーダウンは、許してあげよう。


(2) 4月22日、NHKニュースによると、アイリスオーヤマが、新型コロナウイルス対策で、マスクを大増産するという。

 「仙台市に本社がある大手生活用品メーカーのアイリスオーヤマは、宮城県の工場でことし6月からマスクの生産を始めることにしていて、生産量を当初の計画の2.5倍にあたる月1億5000万枚に増やすと発表しました。

 アイリスオーヤマは、国内のマスク不足に応えようと、宮城県角田市にある工場でことし6月からマスクの生産を始めることにしています。会社では当初、月6000万枚を生産する予定でしたが、ドラッグストアなどから寄せられる注文に対応しきれないことから、工場の設備を増強し、2.5倍の月1億5000万枚に増やすことを決めました。さらに世界的な需要の高まりを背景に不織布などの原材料の価格が高騰していることから、こうした原材料も自社の工場で内製化し、安定的な生産につなげることにしています。

 会社では6月に月6000万枚を生産し始め、設備が整う7月から月1億5000万枚に増やすことにしています。これによってアイリスオーヤマでは、中国の自社工場で生産する分もあわせて月2億3000万枚のマスクを国内に供給できるようになるということで、主にドラッグストアなどの小売店で販売されるということです。」

 アイリスオーヤマという企業は、元々、「機を見るに敏」というところがあって、ニッチな市場で変わった製品を機動的に出すのが得意な会社だが、こういう時には、まさに出番だろう。大いに活躍してくれることを願いたいが、この騒ぎが収まった時に大量の遊休設備を抱えさせるのは忍びない。政府の方で、製造した物は備蓄用に確実に買い取ることを約束することで、安んじて設備投資をしてもらいたいものだ。

 ところで、私は昨日(21日)、散歩の途中、近くのプチ・スーパーの前を通りかかり、あまり客がいなかったので入ってみた。ふと奥の棚を見たら、たった2袋だが、7枚入りの「サージカルマスク」があるではないか。店員さんに聞くと、30分前にたまたま入荷したのだという。これは有難い。ひと袋購入した。たった248円だから、一枚当たり35円だ。それでいて、「花粉やウイルス飛沫等99%カットフイルター採用」とある。ますます有難い。その袋を裏返すと、これがなんと、アイリスオーヤマ株式会社の製品だったのである。


アイリスオーヤマ株式会社の7枚入り「サージカルマスク」"




(3) 偶然にマスクを発見

 4月24日にどうしても銀行に行かなければならない用事があり、上野御徒町まで歩いて行った。そしてその用事を手早く済ませて帰ろうとし、湯島に向けて歩く途中、とある雑貨屋の前を通った。すると、店の前の道にはみ出して置いてある机の上に、マスク、消毒ジェル、消毒スプレーを並べているのに気が付いた。マスクは、50枚入り1箱(税込み3980円)だから、1枚当たり80円だ。シャープのマスクが同じ50枚入りで税込み送料込み価格が3878円だから、まあ価格的に遜色はない。あとは、どこの製品かといえば、メイド・イン・チャイナだ・・・信頼できるかなぁ。ただし、表装は日本語で、販売会社はさいたま市にある。不織布で、99%カットという表示も同じだ。では、予備にしてもよいから、とりあえず買ってみるか・・・これで、6月末までは大丈夫だ。その頃には、マスクの流通と販売も、平時に戻っているだろうと期待したい。それにしても、マスクごときで、こんなに波瀾万丈のエピソードが続くとは思いもしなかった。


御徒町で発見したマスク



(4) 総理記者会見での不思議なやり取りの真相

 ところで、4月17日の総理記者会見で、不思議なやり取りがあった。

(記者) 朝日新聞の星野です。よろしくお願いいたします。

 総理、先ほど予算案の組替えについて、責任の方を取られると。取られるというか、責任の方をおわび申し上げるということでしたが、この間の会見でも一斉休校について、感染者の拡大を防げなかったというふうに述べられました。最近では布マスクや星野源さんの動画でも批判を浴びているのですが、この間の一連の新型コロナの対応について、御自身でどのように評価されていますでしょうか。よろしくお願いします。


(安倍総理) 全国の一斉休校は、私は判断として正しかったと思っています。あの後、多くの国々が一斉休校を行っていることからも明らかではないか、そう思います。

 そしてまた布マスクにつきましては、先ほど申し上げましたように、まずはサージカルマスク等を医療機関にしっかりと配付しながら、言わばサージカルマスクの受注について、この対応をしていく上においても、それ以外の、例えば介護施設等々については布マスクを配付させていただきました。今、御質問いただいた御社のネットでも、布マスク、3,300円で販売しておられたということを承知しておりますが、つまりそのようなこの需要も十分にある中において、我々もこの2枚の配付をさせていただいたと、こういうことでございます。


 何のことか、私にはさっぱり分からなかったが、どうやら次のような背景があったようだ。安倍首相は、朝日新聞の通販サイトが2枚で3300円の布マスクを売り出していたことを「ぼったくり」だと揶揄したかったようだ。しかしながら、このマスクはそれが定価だそうで、そもそも大阪府泉大津市の市長と商工会議所がマスク不足の解消を目指し、市内外の繊維メーカーに呼びかけ、手作りで製造・販売したものの一つで、老舗メーカー大津毛織のちゃんとした製品である。

 同商工会議所のHPによれば、「南出市長の“日本一の毛布のまちのマスクプロジェクト”に賛同した地元事業者が一つひとつ手作りでつくりました。“泉大津産マスク”は洗っても、また使えるマスクで、経済的、環境にも優しいマスクです。ぜひ、ご愛用ください。なお、泉大津商工会議所、テクスピア大阪事務局でも販売しています。1点1点手作りですので、数に限りがございます。予めお店にお問合せ頂き、売り切れの際はご容赦ください。」とのことで、まさに地方創生を地で行くきわめてまともな商品であり、揶揄の対象にはそもそもなり得ないではないか。

 4月22日には泉大津市長が官邸を訪問し、応対した木原稔首相補佐官に面会して品質の良さを説明し、実物を首相用に進呈したそうだ。ちなみに、このマスクは「アベノマスク」をもじって「アサヒノマスク」と言われているそうだ。笑ってしまう。


11.結果的に、結構楽しめた話題

 かくして、今回の新型コロナウイルス対策のマスクについては、実に色々なことがあった。

(1)2月から4月にかけて「ない、ない、ない。どの店を探してもない。」と腹ただしく思ったかと思うと、
(2)エイプリルフールの日に「アベノマスク」が出てきたものの「遅すぎ、少なすぎ、中途半端、不潔」にがっかりし、
(3)シャープのマスクに一瞬希望を持ったけれども抽選する段階にすら行くことができずに落胆したかと思うと「107年の歴史で最大のヒット商品」というのに笑い、
(4)4月終わりに街中でやっとマスク1箱を見つけて欣喜雀躍し、
(5)果ては「アサヒノマスク」なるものがあるということまで判明して首相と朝日新聞との間の鞘当てがあって笑いを誘うなど、


 後から振り返ってみれば、マスクについては、採り上げるべき面白い話題が次々と出てきて、外出自粛時の暇つぶしとしては、結構楽しむことができた。


12.マスクが街にあふれて値崩れ

(1)マスクの価格がたった3週間で4分の1に下落

 5月14日(木)、延長された緊急事態宣言が一部の県で緩和されようとするまさにその日、私は散歩で不忍池の畔を通り、上野御徒町方面に進んでいた。そして先日、4月24日にマスクを買った雑貨屋の前まできた。すると、以前は50枚入り1箱(税込み3,980円。1枚当たり80円)だった同じマスクが、2,200円(1枚当たり44円)に値下がりしていた。半額ではないか。新大久保駅周辺では、1,000円台のものまで急速に値が下がっているようだ。感染が収まった中国から、大量の余剰マスクが怒涛のように押し寄せてきているようだ。全くもって、損をしたのには違いがない。しかし、それよりも私は(負け惜しみかもしれないが)、この20日間マスクが手元にあるという安心感を買ったという気でいる。

 安倍首相は5月6日のテレビ番組で「(アベノマスクの)配布開始によって、流通するマスクの『価格が下がった』という成果もある。」と語った。ところが、何のことはない、アベノマスクの配布は東京都中心に始まったばかりで、まだ日本世帯数全体の4%にも達していないようだ。その程度で、不織布マスクの価格が半減するなどとは、考えがたい。

 念のため、通販のアマゾンで、マスクを調べてみた。50枚入りの最安値が、ちょうど1,000円だ。1枚当たり20円になる。質さえ問わなければ、これは安い。テレビを見ていると、国際線のお客さんがゼロで旅客機を遊ばせておくわけにもいかないので、客席にマスクが入った段ボール箱を大量に積んで成田空港に向かう飛行機を見た。なるほど、これは良いアイデアだが、マスクが値崩れするわけだ。

(2)そのほかマスク四方山話

  〆は5月の中旬だから、これから夏に向かう。先日などは最高29度の真夏日だ。こういう日にマスクを着けて外出すると、暑くてかなわない。嫌だなと思っていたところに、先日、テレビで面白いものを見た。街頭の自動販売機で、「冷たいマスク」なるものを売っていたのである。それは、縦長の透明な筒に、マスク(左右に内ポケットが付いている。)と保冷剤が4つ入っている。その保冷剤をマスクの内ポケットに入れて着けると、冷えているので涼しいという代物である。お値段は1,300円だ。ちょっと高いが、アイデア商品と言ってよい。

 ◆,修Δと思うと、マスクの上からペタッと貼り付ければ抗ウイルス効果があるという特殊なフィルターを「オルソリバース」が開発した。同社のHPによれば、「弊社の整形外科用綿形状人工骨(商品名:レボシス)の開発で培った技術・ノウハウが注ぎ込まれています。綿形状人工骨に使われているハイドロキシアパタイト(リン酸カルシウム)と、抗菌性人工骨の研究における銀イオン、そしてそれらを不織布に担持する技術をマスクフィルターに応用。マスクの外側から侵入してくるウイルスや細菌をハイドロキシアパタイトに吸着させ、吸着したウイルスや細菌を銀イオンの力で不活性化させるフィルター構造を目指しました。」とのこと。5月18日から発売されていて、医療従事者用だ。しかし、鼻の両脇や両頬の隙間から入ってきたウィルスには、効果が及ばないような気もするが、さてどうだろう。

  ところで、マスクといえば、中国から驚くようなニュースが舞い込んできた。中国では4月中旬以降に各地で高校や中学校が再開された。ところが湖南省で医療用の高性能マスクN95をして体育の授業を受け、千メートル競走をしていた中学3年生が、突然倒れてそのまま亡くなったという。マスクが高性能過ぎて酸欠状態になったらしい。ただでさえ、医療従事者用のN95が足りない中で、何とも言い難い不幸な事件である。


(令和2年4月21日著、22日、24日、28日、5月14日、15日追加)




カテゴリ:エッセイ | 22:10 | - | - | - |
iPad Pro 12.9へ機種変更

iPad Pro 12.9


 2020年3月25日、iPad Pro 12.9 の第四世代の新製品が発売された。実は、その前から現在保有中のiPad(第五世代)の容量がわずか32GBと、あまりにも小さいことから、特に容量がギリギリとなった最近は、その対応に悩まされていた。だから、不要な写真を削除したり、容量を食う日経新聞アプリを削除してすぐまたインストールしたりして、色々と節約に努めていたが、あらゆる対策がとうとう限界にきた。

 そこで、3月中頃に上野のau直営店に行って、容量を256GBにしたいと申し込んだ。すると、iPad(第七世代)を勧められたものの、現下の新型コロナウイルス騒ぎで中国からの入荷が遅れていて、入荷次第、連絡してくれることとなった。しばらくして、待望の連絡があった。ところが、3月25日から新しいiPadが発売されるので、現在の予約をそちらに乗り換えないかという。それでは、ということで、色々と調べて、一番大きな iPad Pro 12.9 (第四世代)にした。

 すると、25日のその当日午後、入荷したから4日以内に取りに来るべしという連絡があった。ところが、私は26日から27日にかけて名古屋に行く用事があり、その間には取りに行けない。ネットで日取りを変えてもらおうとやってみたが、途中のパスワード入力のときに分からなくなって断念。しかも遅い時間に帰京したので、翌日の土曜日が4日目になるというのに、auに電話も出来ない。困ったことに、その日は、新型コロナウイルスで東京都知事による不要不急の外出自粛要請が出ている。これは弱ったと思ったが、朝一番なら、あまり人がいないだろうと思い、地下鉄に乗らずに不忍池のほとりを歩いて行くことにした。

 現在所有のiPad(第五世代)を単に新しいiPadに取り替えるだけだから、直ぐに終わるだろうと思っていた。ところが、やれ通信プランが変わっただの、何だかんだの説明があって、何十分もかかってしまった。やっと家に持ち帰り、Fディレクトリのバックアップからデータをちゃんと回復できて、それ以来、順調に使っている。

 2年前に初めてiPad (第五世代)を買った。その時は、おまけのつもりで買ったはずなのだが、実は毎日これほど使うとは思わなかった。というのは、元々、iPhone 7 PlusからiPhone X への機種変更をしようとauに行ったのであるが、「あと、毎月1,000円を出していただければ、iPadを使えますよ。」という甘言に誘われて、ついで買いをしたものである。最初は、日本語入力キーボードがないので使いにくいと思ったが、それも、「simeji」というアプリを導入することで解決した。以来、文章の入力には、必ずiPadを使っている。パソコンを使えば良いではないかと思われそうだが、家の中で寝転びながら、のんびりと脱力しながら入力するには、これは最適である。iPhoneと同期しているから、それを見ながら入力できるのは、非常に便利だ。これで作成した文章をパソコンに送って仕事の文章としたり、「悠々人生」のエッセイとしている。だから、これがないと、私のパソコン・ライフは考えられない。

 さて、それでは、新しく購入したiPad Pro 12.9 (第四世代)の使い勝手はどうかというと、画面が、24cm X 17cmから、28cm X 21.5cmへと大きくなった。これは数字以上に大きく感じられて、実感では、iPad(第五世代)時代はちょうどB5の紙だったものが、いきなりA4の紙になったようなものである。これは素晴らしい。反応も早い。唯一の問題は、重量が643gと、以前の478gと比べてやや重たくなった。でも、何とか許容範囲だ。その他、カメラ機能が充実したようだが、まだ試していない。また、キーパッドが付いたカバーを買えば、もはやノートパソコンと変わらない。ということで、肝心のiPad Pro 12.9 (第四世代)の性能を十分に引き出すまでには至ってないが、これからの私の仕事や趣味の頼もしい相棒として、大いに期待している。

 以下に、主な契約内容を次に書き出していく。

1.プラン利用料
 (1)タブレットプランds(2年契約/L)1,000円(従前2.000円)
 (2)タブレットデータシェアプラン(2年契約/N)1,000円(従前1.000円)
2.Apple製品サービス →1月経過したら削除するつもり
 (1)AppleCareなど 648円(従前1,309円。ただ、iCloudサービス除外)
3.購入機器代金
 (1)4年契約 4,350円(1年目以降3,120円。従前は3年契約 4,420円) 4.機種変更手数料 2,000円



【合計金額】は、次の通り

 2ヶ月目から11ヶ月目まで 5,452円
 12ヶ月目から49ヶ月目まで 4,222円
 50ヶ月目から60ヶ月目まで 1,102円


【端末代金】149,760円(3年分割)12iPadP-256S





(2020年 4月 1日記)


カテゴリ:エッセイ | 17:44 | - | - | - |
新型コロナウイルスの記事

国立感染症研究所が分離に成功した新型コロナウイルス(2019-nCov)


1.雑誌のインタビューの打診

 数日前、私のところに、とある雑誌の編集長と記者がやって来られて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する法的措置について、インタビューをしていった。事前に連絡いただいたメールには、次のように書かれていた。

 「新型コロナ・ウイルスへの初期対応を振り返りつつ、まだ見ぬ感染症への対応策を提言する特集を組む中で、国と地方自治体のリーダーシップに関してもテーマにしたいと考えております。

 地方自治体が外出自粛等の要請ができる新型インフル等対策特措法が改正される前に、北海道や大阪は早期に外出自粛要請をするなど先手を打っています。特措法が施行されても、国は緊急事態宣言を出ないまま、自治体の自粛要請は継続されました。

 このような自治体の対応は感染症法をはじめとする法的な観点からいかに評価されるのでしょうか?自治体のリーダーシップは国の後ろ盾と法的根拠があってこそ如何なく発揮できるものであるとも考えられるので、今回の都道府県の判断はどう見るべきなのか、お話をお聞かせていただきたい。」



2.インタビューの当日のやりとり

 私「この問題は、『法律とは何か』、『基本的人権の尊重』、『地方分権』の三つに分けてお話しした方が分かりやすいと思う。

 まずは『法律とは何か』だが、権利義務を定めるものである。例えば国家賠償請求権という権利を与えたり、刑法199条の『人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。』は、殺人の禁止という義務を課すものである。このほか、国家の組織も国民の権利義務と密接な関係があるので、いわゆる組織法、例えば財務省設置法というのも、もちろん法律に含まれる。

 そういう観点からすると、新型コロナウイルス対策特別措置法をみて、皆さんはどうお思いか。私ども専門家は、まずどういう権利義務の規定があるのかを知るため、最後の罰則規定を見る。すると、立入検査妨害のほかは、知事などによる医薬品等の保管命令違反に対する罰則しかない。しかもこれは業者に対するもので、一般の人に対するものではない。ということは、権利義務を直接規定する法律とは必ずしも言えない。最初から読んでいくと、ほとんどの規定は、緊急事態宣言からはじまって、政府、都道府県、市町村の対策本部の相互関係などであるから、これは組織法として定められたことがわかる。

 とりわけ、住民の外出、学校の授業や興行の開催などについては自粛要請にとどまっている。これなどは事態が急速に悪化あるいは深刻化したような場合には罰則規定をつけてしかるべきと思われるかもしれない。でも、そうはしていない。感染防止のための集会禁止規定もない。一定の要件を満たせば、土地所有者の同意を得ないで土地等を使用できるとしているくらいだ。

 それはなぜかというと、現行憲法の基本的人権の尊重の観点からは、それが限界だからだ。罰則をもって外出禁止を命令することは憲法22条の居住移転の自由に、同じく集会禁止命令は憲法21条の表現の自由に反する。先に述べたように本法では医療施設設置のための土地の強制使用規定があるが、これも憲法29条上、問題なしとはしないところだが、財産権であるからこの程度は公共の福祉の観点からは許されると解されている。これが本法の限界である。たとえ武力攻撃事態であっても、考え方は同じである。

 どうしてこういう構造なのかといえば、突き詰めていうと、日本国憲法に緊急事態条項がないからだ。かつての大日本帝国憲法では、戒厳大権など4つの緊急事態条項があった。しかしこれによって基本的人権が大きく制約されたのは歴史的事実である。その反省から、日本国憲法では緊急事態条項が設けられなかったとされる。だから我々は、その制約の下で最大限、何ができるかを考えなければならない。

 もっとも、行政というのは生き物で、いついかなる深刻な緊急事態が生じるかもしれない。そういうときのため、比例原則という考え方がある。降ってわいた災難の程度が強ければ強いほど、必要最小限の範囲でこれに対しその深刻さの程度に応じた強い対応が許されるというものである。例えば、新型コロナウイルスが、今のように死亡率1%から2%などという生易しいものではなく、エボラ出血熱のように死亡率が50%を超えてしかも全国的に蔓延してなかなか止められないという文字通りの緊急事態となると、国民の外出や集会禁止命令を罰則付きで担保する必要が生じるかもしれない。それは憲法学では未踏の分野ではあるが、私は、現行日本国憲法の下でもおそらく許されるだろうと思う。ただ、私が担当していた時にはそういう立法事実はなく、従って今の新型インフルエンザ対策特別措置法が限界だと考えていた。

 次に、北海道や大阪の道府民に対する外出自粛要請が、国の緊急事態宣言に先走って出されたことの評価だが、これはまさに、地方分権の趣旨に沿った対応である。」

(と言うと、記者は訝しげな表情をみせた。特別措置法に基づく正式な手続を踏まずに勝手にやったと批判するのを期待していたものと見える。)

 私「この話の背景は、戦前の内務省にさかのぼる。内務省は、治安、衛生、労働、土木、地方行政を所管する最強の官庁だった。それが、敗戦後に解体されて、それぞれ警察、厚生省、労働省、建設省、自治庁となった。警察は都道府県警察となったが、これでは広域化する犯罪に対応出来ないので、本部長以下の幹部だけを国家公務員にして今に至っている。これで、国としての行政の一体性が確保できている。ところが、衛生は、現場の実務は都道府県に任せたままで、本省の健康局がこれらを束ねて指揮していくという体制であった。その裏付けとして、地方自治法に機関委任事務というものがあって、その事務に関しては地方公共団体の長を出先機関と位置づけて国が一元的に指揮監督するという仕組みがあり、それがあった時代はその仕組みで行政が回っていた。

 ところが、政治の潮目が変わり、「地方分権」が声高に叫ばれるようになった。これは、生活者の視点に立った「地方政府」(地方が自ら考えて判断し、国の縛りを受けずに実施することができる体制)をつくっていくことを目指し、地方の自由度の拡大、住民に身近な市町村の強化などを進める政策である。その一環として機関委任事務が廃止されて法定受託事務となった。だから、感染症防止法やこの新型コロナウイルス対策特別措置法を見ても、何らかの処分の主体が全て地方公共団体の長(都道府県知事)であるのには、そういう背景がある。現に今回の事態の対応に当たっても、北海道知事が法律に依らず自らの判断で緊急事態宣言をしたというのは、繰り返しになるが、それこそ地方分権の趣旨に沿った対応である。」

 記者「でも、地域によってバラバラの対応となった。国の緊急事態宣言がないままに勝手に各知事が内容が区々まちまちの宣言を出すのではなく、全国一律の対応が必要なのでは?」

 私「地方分権の議論が始まったとき、私も『全ての機関委任事務をなくすのはいかがなものか、特に感染症対策は全国的に一律の迅速な対応が求められるのに』という感想を持った。ところが、あの時はともかく『中央省庁の権限を地方に下ろせ、中央省庁と地方公共団体は同格なのだ』という政治思想が世の中を席巻して、反対する声がかき消されて結果的にそうなった。だから、良いも悪いも、日本国民がそういう選択をしたということだ。見ていると、北海道や大阪府のように若くて元気の良い知事は前向きにどんどん積極的な対策を打ち出し、多選の傾向にある知事はそうでもないなど、地方の特性というよりは、むしろ知事の特性や個性が如実に現れている。」

 記者「元のように、中央集権に戻さないのか、アメリカにはCDC(疾病管理予防センター)があり、1万5千人ものスタッフを抱えている。そういうものを作れという声もある。」

 私「何か組織を作ったら、それで全て解決するというのは、失礼ながら行政機構というものをあまりご存知ないからだ。CDCの予算は莫大だ(その後、年間9千億円とわかる。ちなみに日本の環境省の予算は3千億円。)。人員も、国内外に1万5千人も配属している。しかも、CDCは一朝一夕にできたものではない。第二次世界大戦中にマラリアなどの疫病に悩まされた米軍の反省からだという。だから、軍事組織の一つとして見るとわかりやすい。

 日本で、それだけの予算と定員がある行政組織ができるとお思いか。ただでさえ、厳しい財政事情に鑑み、国や地方は財政改革のために国公立病院の独法化や統廃合、保健所の大幅な整理を進めている。そういった状況で十分な予算と人員が確保できるのか、私にははなはだ疑問である。またこれら既存の機関との調整をどうするのかという難しい問題がある。それらをうまく解決して設立したとしても、組織として世間から評価され、理想とする運用を果たすことができるようになるには、まあ、10年単位の月日が必要だろう。だから、今述べた数々の問題を克服して組織を設立し、優秀な人材をたくさん集めることができたとしても、組織をスムーズに動かし、職員を一人前にするための育成に時間がかかるから、急場の役には全く立たない。それに、緊急事態ではない普段は、何をしてもらうかという問題もある。日本の国立感染症研究所は、通常のR&Dのほか、ワクチンの品質管理も行っているようだが、定員が300人と、桁違いに少なすぎる。その辺りの充実が先決だろう。

 やや飛躍するかもしれないが、仮に日本版CDCを作るとして、いつ起こるかわからない事態に備えて普段から大規模な組織と人員と予算を抱えているという意味では、軍事組織と似ていると考え、ご迷惑かもしれないが、自衛隊の一部門として発足させるという手もないわけではない。現に今回、乗客乗員3,700人が新型コロナウイルスの脅威にさらされたダイヤモンド・プリンセス号の事態終始に当たって、自衛隊が確か2,000人ほど出動したと聞いている。しかも立派なことに、防疫のプロであるはずの厚生労働省の検疫官などが10数人も罹患したのに対して、防疫という面では素人の自衛隊員からは一人の患者も出さなかったということで、いざという時の頼もしい組織だと感心した。」

 記者「ところで、緊急事態宣言が出されて知事から興行や営業の自粛が求められた場合、責任関係があいまいな『要請』などというものではなく、法整備を講じて『命令』という形にし、イベントの中止や延期への補償が必要であるという声も出ているが、どう思いますか。」

 私「これは地震や台風などの天災のようなものだから、皆でその負担に耐えるのが基本である。たとえ法律を作り『命令』という形にしても、災害のときの市町村長の避難指示と同じで、現行法体系では罰則を付けられないから『要請』とさほど変わらない。以上のような性格のものに国や地方自治体が『補償』するというのは、いささか筋違いである。それでも、これは人道上又は社会政策上、放っておけないという事案が必ず出てくるので、そういう人々や零細企業に対しては、『救済』することを考えなくてはいけない。

 なお、私は、法律に罰則を付してその内容を強制するという手段は、この場合はさほど有効ではないと考える。なぜなら、軽い罰則しか付けられないし、その程度であればと守らない人も一定程度は出てくるからだ。従って、個人個人が運命共同体だと自覚して、その危機意識を高めていくしかないと思う。(注)微温的な日本の緊急事態宣言の理由

 記者「北海道や東京都知事の『外出自粛』について、新聞やテレビが『法的根拠はない』というようなことを言っていますが、厳密に言うと、これは誤りということなんですか?」

 私「今回の外出自粛につき、法律にはそのように知事が要請できる規定はないという意味では、間違ってはいません。ただ、先程申した知事の既存の権限に基づき、『行政指導』の一環としてやっていると理解すれば、行政府の長として当然に行い得ると思います。というのは、『法律に基づく行政』ということは当然の原理ですが、将来のことを見越して何でもかんでも全て法律に書くようなことは事実上できないので、現行法には直接の規定はないけれども、例えば事態の急速な展開に応じてすぐに対応する必要があるような場合には既存の権限をやや膨らませて解釈し、その範囲で『要請する』程度なら一種の行政指導として出来ると考えています。」


3.インタビュー記事の掲載

 というわけで、2時間近いインタビューは終わり、しばらくしてまずウェブ上に、次のような記事が載った。雑誌は、4月20日に発刊されるそうだ。




「日本の現行法体系では外出やイベント開催の禁止は困難」

 新型コロナウイルスの影響で国と埼玉県が自粛要請したにもかかわらず、格闘技イベント「K-1 WORLD GP」がさいたまスーパーアリーナで開催された。これはたとえ新型インフルエンザ等対策特別措置法による「緊急事態宣言」が出されたとしても、イベントを止めることはできなかった。「日本の現行法体系によって強制的に外出や集会を禁止することはできない」。内閣法制局長官や最高裁判所判事を務めてきた弁護士の山本庸幸氏は指摘する。

 新型インフルエンザ等対策特別措置法については、「緊急事態宣言」に関する「私権の制限」が話題となった。これに対し山本氏は「罰則の部分を見ても、『特定物資を隠匿し、損壊し、廃棄し、又は搬出した者は、六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金』と『立入検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は同項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をした者は、三十万円以下の罰金』のみ。ほとんどのことは要請しかできない」と指摘する。

 感染症拡大防止に向けての移動制限に対してヨーロッパや東南アジア諸国では罰金や禁錮といった罰則が設けられているのに対し、日本の特措法はそうした条項がない。諸外国と同様にすべきかどうかは議論が求められる。しかし、山本氏は「どのような罰則を付けても、守らない人は必ず出てくる。事実、道路交通法違反による反則金を払わない人が違反者の1割もいる」と現状を解説する。罰則で人は動くのか細かい検証が必要のようだ。


補償と合わせた「中止命令」は可能なのか

 強制力や罰則がないものの、再三の要請を受けても格闘技イベントを犇行開催瓩靴深膾甜埖Δ砲六餠盞りが苦しく運営を強いられている部分もあったという。こうした状況に対し、責任関係があいまいな「要請」ではなく、法整備を講じて「命令」という形にし、イベントの中止や延期への補償が必要であるという声も出ている。

 これに対し山本氏は「これは地震や台風などの天災のようなものだから、皆でその負担に耐えるのが基本である。それでもこれは放っておけないという事案が必ず出てくるので、国や地方自治体が『補償』するというよりは、『救済』することを考えなくてはいけない」と主張する。

 「現行憲法には『緊急事態条項』が設けられていないが、これは基本的人権の尊重と旧憲法時代の反省からである。したがって、公共の福祉の観点からどこまで個人の行動を制約するかということが問題となる。その点から、新型インフルエンザ等対策特別措置法による緊急事態宣言で危機を呼び掛けることは一つの施策だ。個人の危機意識を高めていくしかない」としている。もっとも、「今の程度の脅威であれば禁止はできないと思うが、更に事態が進んで致死率が高くなり急速かつ広範囲な蔓延となれば、公共の福祉の観点から、禁止ができないわけではない。ただ、これは憲法学の未踏の分野ではある」とも付け加える。


「地方分権」の下での公衆衛生行政

 新型コロナウイルスに対しては、北海道の鈴木直道知事が「緊急事態宣言」を出し、大阪府の吉村洋文知事が大阪と兵庫の往来自粛を呼びかけるといった国の要請に伴わない狷伴瓩糧獣任起きている。「これは公衆衛生の最終責任者を都道府県知事としている地方分権の本来の趣旨に沿った望ましい動き」と指摘する。

 「1993年に『地方分権の推進に関する決議』が衆参両院でなされ、これに基づいて地方分権改革一括法が成立した。それ以来、感染症への対応行政も、都道府県知事らが責任をもって行うことになった。国は技術的な指導はしているものの、基本的には地方公共団体の裁量の下で行われることになった」と解説する。

 事実、感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)では、感染症患者の就業制限や入院措置、建物への立ち入り制限、交通の遮断などは全て都道府県知事が実施主体となっている。

 ただ、今回の感染症の全世界的かつ急速な拡大といった緊急事態に対しては、国と地方が一体となった措置が必要となる。「公衆衛生の方向性をどのようにしていくかといった折り合いをつけていくのが国の仕事。組織の枠組みや、ガイドラインを作成するといったことが求められる」と強調する。


日本版「CDC」は機能するのか

 こうした感染症への危機対応への注目が高まる中で、議論が沸き起こっているのが、米国などで政府とは別組織として感染症対策の陣頭指揮をとる疾病対策センター(CDC)の狷本版瓩寮瀘だ。

 「現在の日本の政治状況や行政機構の常からすると、果たして実効性のある効率的な組織ができるか疑問」と指摘する。「国や地方は財政改革のために国公立病院の独法化や統廃合、保健所の整理を進めている。そういった状況で十分な予算と人員が確保できるのか、またこれら既存の機関との調整をどうするのか、難しい問題がある。それらをうまく解決して設立したとしても、組織として世間から評価され、理想とする運用を果たすことができるようになるには10年はかかるだろう」

 また、現在は感染症の拡大という危機に直面していることから、多くの国民が必要性を強く感じているものの、非常事態でない時の運用も課題だという。「優秀な人材を雇い続けるには、それなりの待遇も必要になる。国から予算を出し続けることが有用であるのか、という声は出てきてしまうだろう」。活用されない爛魯灰皀劉瓩砲覆蕕覆い茲Φい鯢佞韻覆てはならない。





(2020年 3月29日記)


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